転生軍師の戦国記~お転婆姫と大うつけの天下統一記~   作:松平まこと

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空の自由、地上の鎖

 上空からは燈鷲湾東部……燈鷲・汐坂国境地帯が一望できた。

 

 遠くの山がくっきり見え、湾には帆を膨らませながら進む船が小さく見える。

 見渡すとはるか遠くの山のほうに細長い影が見えた気がした。別の天龍かもしれない。

 前世の展望台や飛行機の窓から見た光景よりも随分クリアに遠くまで見える気がする。

 もしかすると前世の大気汚染は思っていたより影響があったのかもしれない。

 

 

「いいな!これが龍の視座か!」

 感動している私の思いを清継の叫び声が断った。

 あと興奮して動かないで。揺れる。落ちそう。こわい。

 

 はしゃぐのを止めるために釘を刺す。

「わざわざ乗せてもらっている目的を忘れないで」

 声は震えなかったと思う。たぶん。

 

 詰まらん奴め……というぼやきを聞き流しながら、私自身も改めて軍事のための視点で視界に映るものを解釈しようとする。

 

 汐坂側、南の遠くには山が二つあり、その間を道が通っているようだ。

 その山から手前の国境まではちょっとした丘や山があるだけの平地が川で区切られている。

 燈鷲側(つまりほぼ真下)に目を向け(こわい)、川沿いに視線を走らせる。

 二つ、街道の台地の他と比べても高い場所と海沿いの台地に建物が見えた。

 あれが梶峯城と小野木瀬城なのだろう。

 そこからさらに燈鷲側を見ると、今さっきまで登っていた山を含めていくつかの台地がある。

 あっちにも防衛線を築けるかもしれない。

 古土の侵攻までに間に合うなら、だけど……。

 

 

 

 おそらくこの世界初の航空偵察を終えた私たちを、五十鈴は山の麓に降ろしてくれた。

 初めての空に大興奮の清継に対して、私はへろへろだった。

 あんな不安定な空の旅は二度とゴメンだ。

 エコノミーでもいいのでちゃんとした座席は欲しい……。

 遠くに、山に置き去りにしてしまっていた一行(パーティメンバー)が山を降りて来るのが見えた。

 

『では私はこれで。また逢えることを祈っていますよ』

 そう思惟を残すと、五十鈴はさっと飛び立ってしまった。

 大きく手を振る私たちに、最後に大きく身体を振るとあっという間に見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 その後私たちは、近くの町で一泊した後梶峯城に到着した。

 城代の成沢殿、そして小野木瀬城の城代である重山殿も梶峯城に来てもらい、防御計画と普請について話し合う。

 まぁ二人からはなんでいるのこいつって目で見られてはいたけど……。

 

 清継と相談していた防御計画に、成沢殿も重山殿も理解を示してくれた。

 どちらも40代の年季の入った清正様の信任厚い将だ。若輩者で大うつけと評判の清継の言葉にも(ついでに隣にいる私の言葉にも)耳を傾けてくれる。

 

 前線の二城での水際防御計画を基本方針とし、上から見つけたいくつかの候補地に小城を増築する。そして五十鈴と出会った山に、防御のためと言うより兵が集結できる拠点としての城を建造する。

 これによって水際で稼げる時間を増やし、その間に前線後方に兵力を集結。

 見晴らしのいい場所から状況を判断した指揮官(清行様か清継だろう)が、どう軍勢を投入するかを決定する。

 

 つまり、梶峯、小野木瀬(とこれから建造される支城群)は、後方に軍勢が集結するまで古土の軍勢を拘束(足止め)することが任務ということになる。

 

「で、若君。具体的に耐えなければならない時間は?」

「3~5日あれば、4000は揃えられるだろう。敵は多くても一万よりは少ないだろうから、それだけいればなにか手は打てる」

 成沢殿の質問に清継は答えた。

 

 この動員にかかる時間はかなり重要な要素になる。

 城の防御計画、即ち、食糧、矢などの消耗品などの備蓄量、指揮官の指揮の方針、兵の消耗、疲労をどれだけ抑えるかなどに影響してくる。

 つまり作戦方針を立てる上での大前提ということになる。

 

 付け加えるとこの3~5日で4000は、この時代では異常な早さの動員力だ。

 このあたりは普段から城に一定の軍勢を集めて半常備軍化している佐登家だからこそだったりする。

 他の家では、まだ土豪たちに陣触れ(招集命令)が届いて雑兵を集めだしたころだろう。

 

 

「ならば、あまり兵糧米は要りませんな。むしろその後ろの山に築く城に貯めておいたほうがいいでしょう」

 重山殿がそう感想を告げた。

 

「しかしそうなると我等は随分寡兵で古土と相まみえねばなりませんな?」

「そこは堪えてもらうしかない。お前たちが死んでも一族は取り立てることは約束する」

 その清継の言葉にガハハと笑う二人。

 正直なところあまり理解はできない死生観ではある。

 自分が命を失っても、家、一族が繁栄すれば良しとする倫理観はこの世界に生まれ変わって10年と半ばが経った今でも馴染めていない。

 

 そうして私たちは数日滞在し、細かい計画を打ち合わせた後、いくつかの村や町の様子を確認しながら清行様の居城のある江原へと戻った。

 

 

 

「あまりおもしろくない思案だな」

 清行様は私たちの案を聞いて渋い顔をした。

 

「少なくともある程度耐えられる戦力を常に貼り付けるよりは安上がりに済むと思いますが……」

「領内を戦で荒らされたほうが最終的には高くつく」

 

 青田刈り……収穫前の稲を刈られ、税収を減らされることや火付けなどの敵領内を荒らすのは実はどの時代でも行われていることだ。

 相手の民心が離れて士気が落ちればそれだけ有利になる。そしてなにより戦場が近づくと商人が近寄らなくなり、市からの収益も減ってしまう、それがおもしろくない、と清行様はまとめた。

 

「親父、国境で城に籠っても必ず負ける。勝つには敵が動いて隙を見せた時しかない」

「その娘の献策か?」

 実際のところ私だけで考えたことではなかった。

 梶峯に着くまでに清継をはじめとした皆で至った結論だった。

「俺もそれが正しいと思った」

 清継の言葉に清行様は少し考えこむと、「なら任す。必要な物を纏めろ」とだけ言った。

 

 

「まぁ、清継。また新しい遊びを思いついたそうね」

 部屋を出ると、女性が通りかかった。

 美人だけど、内面の勇ましさを感じさせる声が関わるのを躊躇わせそうな女性だ。

 清継の母親である綾の方だ。

 

 頭を下げる私をじろじろと見回すと、鼻を鳴らす。

「端女を連れて遊び回って、うつけぶりに磨きがかかっているという噂よ」

 

 端女とは、召使とか身分の低い女という意味だ。

 あまりにストレートな罵倒に私は鼻白んでしまった。

 もちろん私が直接言い返していい相手ではない。

 だけどそれ以上に、実の息子に対してであるのに、嘲りがたっぷり含まれた発音に言葉が出なかった。

 

「母上のお言葉、しかと胸に刻みます」

 いつもの騒がしい印象と打って変わって、清継は静かに答えた。

 

「あの」

 だからだろうか、私は思わず言葉を発していた。

「き、清継様は殿様から課せられたお役目を果たすために……その尽力されていて……」

 

「清継、連れまわすならまず躾けることね。これ以上、佐登の品格を下げるとわかっていますね」

「……はい、母上」

 清継の言葉に一瞥も与えず、綾の方は歩きさった。

 

「その……ごめん」

 私の謝罪に清継はいつもの豪快さを感じさせない笑みで笑った。

「そなたが気にすることではない。母上は気難しい人だからな」

 そういうと私の頭をくしゃくしゃと掻きまわした。

「さて、これから忙しくなるぞ。しっかり働いてもらうからな」

 私はしっかりと頷いた。

 

 

 実際、支城の建造のための資材、人夫などの手配、そしてそれらの監督などで目が回るような忙しさになった。

 だけど、自分たちが考えた計画が、動き出して形になっていくのを見るのは面白かった。

 

 

 

 国境線を固めようとする私たちの動きを見た古土家は、果断と言える手を打った。

 

 短時間で招集できる軍勢、その全力を投じた強襲。

 当主である古土元康自ら率いるその数、約1万。

 

 私たちがその報せを聞いた時には、もう国境に迫りつつあった。




古土側が黙って見ているわけがないというのは当然なのですが、同時に燈鷲と反対側の国境線でも揉めているので妨害は搦め手主体だと判断していたのが裏目に出てしまいました。
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