転生軍師の戦国記~お転婆姫と大うつけの天下統一記~   作:松平まこと

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第一次燈鷲侵攻

 天神山脈中腹の平屋の屋敷。

 そこに由衣と清継に五十鈴と名乗った天龍、明乃はいた。

 

 天龍が過ごしやすいようにだろう、屋敷の広間は人の常識では異様と言っていいほど広く、また柱の間隔はかなり開けられていた。

 

『燈鷲に古土の軍勢が向かっているのですか』

 

 一辺が1mを超える巨大な座布団の上で蜷局を巻く父に明乃はそう思惟を返した。

 

『ああ、古土もよくやるよ。東で清皐(せいこう)や古賀とやりあったばかリだってのに』

 父、裕司(ひろし)はうんざりしたような思惟で答えた。

 

『……川瀬は防げるでしょうか』

『なんだ、気になるのか?俗世が』

 明乃が漏らした思惟に裕司はおもしろそうと思っていることを隠さない思惟で答えた。

 

『この間、人を背に乗せて飛んでいたそうじゃないか』

『ええ。迷惑をかけたので、礼にと』

 その答えに裕司は呆れたような思惟を発した。

『もう少し素直になってもいいんじゃないか、お前は。親しくした人が気になっているんだろ?佐登のうつけと連れの娘だったか』

『別に親しくなったわけではありません。ほんの一時です』

『仲が深まるのに時間の長さは関係ないさ。人龍関わらずにな』

 ま、会いに行くのは落ち着いてからにしろよと裕司は尾を振りながら思惟を放った。

 

 明乃は広間の外に目を向けた。

 そこから見える空は、あの日の空のようにどこまでも広かった。

 

 

 

 

 燈鷲国境を超えた古土勢1万は、800の兵が籠る小野木瀬城を約2千で包囲。

 そのまま主力8千で燈鷲国内に侵入。

 燈鷲津に向けて侵攻を開始した。

 

 それに前後して、佐登清正は江原で軍議を開いた。

「兄上は参陣できぬと?」

「はい。藤野家に妙な動きがあるので備えなければならないと」

 清正は兄である佐登兼清が兵を出さないことに内心舌打ちをした。

 

 兼清が参陣していれば2千は頭数が増えていた。

 それだけいれば古土に伍する数となっていただろう。

 いや参陣しない影響は数が減るだけではない。それどころか……。

 

江原(ここ)にもいくらか兵を残した方がよいかと」

 重臣である馬瀬(ませ)久英(ひさひで)の言葉に清正は頷いた。

「親父、戦場(いくさば)で寝返られるよりはマシだったと思おう」

 清継の率直すぎる意見に苦笑しながら清正は告げた。

 

「お前は上牧から動くな」

「何故だ、父上!一兵でも多いほうがいいはずだ!」

 

「千ここに残すが、兄上の動き次第では後詰(増援)が必要になるかもしれん。それに儂が勝っても負けても無傷の軍勢は必要だ」

 つまり清継勢は、現在の言葉でいうところの戦略的な総予備、なにかあった際自由に使える戦力というわけだった。

 

 そう言われては清正の本音が、跡継ぎと自分が共倒れになるリスクを避けようとしていることが想像できる清継も黙るしかなかった。

 総予備もある意味で過酷な任務であるからだ。

 仮に主力が敗北した場合、勢いに乗る古土勢相手に悪戦をしなければならないし、勝っても追撃戦を命じられるかもしれない。

 

「わかったら備えておけ、うつけ」

 

 そういって清継の背中を叩くと清正は約4千の軍勢を率いて出陣した。

 

 

 

「親父め!なにが後詰だ!なにが備えだ!負けてはただの遊軍ではないか!」

 

 軍議から戻ってきた清継は大変不機嫌そうだった。

 私たち側近を集めておきながら、上牧城の部屋を速足でぐるぐるとうろついている。

 

「つまり俺たちは留守番を命じられたってことか」

 吉家がぼんやりとつまらなさそうな声で独り言のようにまとめた。

 

 私は清継をなだめようと声をかけた。

「いい所に目を向けましょう?少なくとも編成の時間は取れたわけだし」

 

 編成。

 陣触れで集まった兵は、あの村から5名、あの町から12名と言ったばらばらの状態だ。そこから曲がりなりにも集団戦闘を行うには、ある程度数を揃えた軍勢にする必要がある。

 それが意外と手間がかかる。

 町や村同士のいざこざにも配慮しないといけないし、一人だけ別の隊にしたりした時の配慮だったりと本当に面倒くさい。

 

 とはいえ清継勢ではこの手の問題はまだ小さいほうだ。

 頭数が少ないし、その半数が常備扱いの清継子飼いの部下500名なので編成の手間はない。

 とはいえそれでも面倒なものは面倒だし、編成をしたあと多少は歩調合せたりなどの訓練がいる。

 この期間は長い方が当然ありがたい。

 

「だがこのままだと親父は負ける。兼清叔父の軍勢は無傷で、川瀬(主家)は言いなりだ。佐登は敗戦の責を問われる」

「え、かなりヤバいんじゃねぇの?頭追放される?」

 吉家の言葉にそれまで黙っていた、初老の男性が口を開いた。

 

「まだ負けと決まったわけではありますまい。御父君は、燈鷲の虎とまで言われた戦上手ですから」

 清継の傅役(もりやく)(教育役)である平井政信だった。なんでも元々は外交担当で非常に教養がある人らしい。なんで清継の傅役なんかやらされてるんだろう。左遷なんだろうか。

 

「爺、相手は天域一とも謳われる元康だぞ。それに数は相手の方が倍はいるのだ」

「若、貴方が動揺していては部下も揺らぎます。落ち着かれては……」

「お前たちの前だけだ!」

 

 清継たちの言い合いを余所に私は地図をじっと眺めていた。

 そこには物見が報告してきた互いの軍勢の予測位置が記されている。

 予想される激突する位置……決戦場も示されている。

 

 松下坂。

 

 名前の通り松林が両側にある坂道だ。

 けっこう燈鷲内部に入り込んでいる……。

 これならあの策がいけるかもしれない。

 

 

「清継。一つ策があるんだけど」

 




結衣が考案した防衛戦略は既に崩壊してしまいました。
清正は、東でのいざこざを抱えている古土が素早く反応できるはずがない、という予測の元で許可していたのですが、そこを読み間違えた結果となります。

主家である川瀬家は、戦は佐登(清正)の仕事だろ、と丸投げです。
厭ですよね、こういう上司。フリーハンドあるだけましかもしれませんけど助けてもくれません。
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