転生軍師の戦国記~お転婆姫と大うつけの天下統一記~   作:松平まこと

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継承

 理由も告げられずに上牧城の広間に集められた清正・清継の主だった家臣たちは、親しいものを見つけると不安そうに囁き合っていた。

 彼らからすれば、古土家相手に大敗し、主君である清正は負傷したらしい、との噂が聞こえてくるだけ。

 自分たちの将来を考えると不安は深くなるばかりだ。

 

 そこに彼らの主君の入室を入口に控えていた小姓が告げた。

 彼らは一斉に平伏した。

 

「苦労!」

 壇上に登った青年が、覇気のある声で告げた。

 

 顔をあげた彼らの視界に入った青年……清継は、髪をしっかり結った褐色の長袴姿であった。

 その姿を見た一同は混乱した。

 彼らが普段見ている清継は、茶筅髷に着崩した湯帷子(ゆかたびら)姿の()()()でしかなかったからだ。

 

 立林守明、平井政信、そして一人の少女を後ろに控えさせた清継は口を開いた。

「先ほど父、清正が隠居することを告げた。若輩の身ながら、恐れ多くも俺、清継が佐登の長となる」

 それだけを告げると清継は沈黙した。

 清継の様子と、告げた内容に衝撃を受けていた一同は、その沈黙の意味に気付き慌てて再度平伏した。

 

 その様を眺めた清継は皮肉気に口を歪めた。

 今平伏している者たちには普段、彼をうつけと侮っていた者が多く含まれている。

 

「俺が家督を継いだとしても、佐登家は変わらず燈鷲守護であられる川瀬義景(よしかげ)様をお支えしていくことは変わらない」

 その言葉に家臣たちの多くは安堵の息を漏らした。

 清継が、少なくとも清正の掲げていた名目を、つまり方針を引き継ぐことを明確にしたからだ。

 

「川瀬様、そして佐登家に対する変わらぬ忠節と働きを期待する。状況が状況だ。今後の詳細は追って伝える」

 

 それだけを言うと清継は、踵を返し退出した。

 

 

 

 

「お疲れ様でした若殿、あ、いえ殿」

 いつも通りの格好に戻ってしまった清継に平井様が声をかけた。

 清継はそれに気にするなというように手を振ると、どっかと腰を下ろした。

 

 あのあと、清継は本当に重要な部下だけを別室に集めた。

 といってもその中には、清継子飼いの部下はほぼいない。

 吉家たちはまだ帰還していないからだ。

 

 清継子飼いでは私以外には、宇都山与一という青年が一人いるだけだ。

 彼は、私と清継が出会った鷹狩にも同行していたメンバーの一人だ。

 馬廻りという清継の近衛のような隊の一人で、弓と算術に強く、勘定方……前世で言う会計が得意だそうだ。

 清継はどちらかと言うと弓より会計の能力を重用しているらしい。

 

 その与一殿が他の重臣たちの間で落ち着かないようにそわそわしながら口を開いた。

「それでかし……あー殿。私らまでなにかお役目を?」

「お前は金に明るい。意見はなくとも聞き、把握しておけ」

 清継の言葉に与一殿はこくこくと頷いた。

 私は?と視線で訴えかけたけどスルーされた。ぐぬぬ。

 

 清継は地図を広げた。

 そこには燈鷲が描かれている。

 燈鷲の地形で、転生前の世界で近いものは愛知県だろうか。

 あの特徴的な下に突き出た二つの半島の左側までしかない感じ。

 そしてそこにはいくつかの境界線が描かれている。

 

「今更だが、燈鷲は上下それぞれ4つ、合計8つの郡に別れている」

 郡は、村や町が集まった行政単位だ。

「この内、東側の下2つと上1つを親父が、残りの下2つを叔父上(兼清)が、他を親父派と叔父上派でそれぞれ一つずつ抑え、残りが日和見だった」

 つまり清正様の勢力が4郡、兼清様が3郡というわけで、清正様が最大勢力だったということだ。もちろん郡それぞれで人口や街道から近いかや特産物があるか、税収等々価値は違うからあくまでざっくりとした比較でしかないけど。

 

「親父が敗けたおかげでこの勢力図は……守明、どうなる?」

 話を振られた立林守明様は少し顎に手を当てて考え込んだ。

「おそらく1郡は、没収され兼清様に移るでしょうな。あとは(清正様派の)再従兄(はとこ)様である清純(きよずみ)様がどうでるか……」

 

 清継は頷いた。

「再従兄殿はよくて中立だろうな。つまり我等は国内の支持を失いつつあり、最大派閥となる叔父上からは恨まれている。そして守護様は若い俺より叔父上を頼るだろう」

 皆は黙ってしまった。

 一言でまとめると『お先真っ暗です』ということがわかったからだ。

 もちろん、外患としての古土家の存在がますます闇を深くしている。

 

「お転婆、何か言え」

 はい、来ましたよ無茶ぶり。

 この場で私に発言権なんかあるわけないじゃん。

 空気を変えたいのはわかるけどさ。

 

 まったく……と思っているとみんながじっと私を見ていた。

 考えたらそうだ。主君から期待が込められた指示である。皆もその相手の発言と主君の反応次第で口に出すことを決めないといけない。

 私は視線に耐えかねてあーもーとりあえずなんでもいいからしゃべらないととやけっぱちな気持ちで口を開いた。

 

「つまり、政治(まつりごと)では勝ち目がないわけですよね?ならそれ以外で勝てばいいのでは?」

 

 息を呑んだ気配に、慌てて見回すと皆呆気にとられた顔をしていた。

 え?そんな変なこと言った?

 

「おい、結衣。それ以外とは何だ」

「? それはもちろん軍事(いくさ)でしょう?」

 

 それを聞いた清継は肩を震わせて、終いには笑いだした。

「そうだな!叔父上は戦上手ではない!そちらなら負けはせんな!」

 大爆笑である。

 なにがそんなに面白いのか。

 

 与一殿が呆れた声でつぶやいた。

「結衣殿、()()()()()()()()()()()()()って言ったんですよ……?」

 ……たしかに。そうとも言えるかもしれない。そうとしか言えないかもしれない。

 

「もちろんあっちから仕掛けてもらおう」

 笑いを納めた清継はそう言った。

「あちらにしても早く片付けたいはずだ。勝てると踏んだら乱暴な手でもこちらを除こうとするだろう」

 

「我等がまとまっていないと見せるのがよいでしょうな」

 平井様がそう言った。

「御父上に仕えていた家臣と不和である、殿のうつけ振りはますます盛んである、といったうわさを流しましょう」

「では俺は()()()らしく振舞っておこう」

 その言葉に皆が厭そうな顔をしたのを見た清継はまた笑った。

 

 ともかく行動方針は決まった。

 私たちはどうにかして、先にあちらから手を出させた後に勝ってみせなければならない。

 

 

 

 その夜、守明と政信は、清継の様子と今後の方針を床に臥せたままの清正に報告した。

 忠心である彼らは、主君の御心を安心させるためだけにそれを行っていた。

 

 しかし、彼らが去った後に、清正は人を呼んだ。

 足音も立てずに現れた男に清正は小声で何か指示をし、男は癖なのか、目立たないほど密かに小さく頷いた。

 

 

 佐登清正が、暗殺されたのはそれから10日ほど後だった。

 下手人は、佐登兼清が召し抱えていた素破だった。




次回から内乱編本格始動です。
ご期待ください!
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