転生軍師の戦国記~お転婆姫と大うつけの天下統一記~   作:松平まこと

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正統の証

 吉家が率いた別動隊による石黒勢本陣への奇襲は()()()()の成功を納めた。

 こちらの損害は無しで、敵将の首は取れなかったけど十数騎の首を取ったからだ。

 どうも騎乗していた武者たちがちょうど馬から降りていたタイミングだったみたいで、彼らが主将を守ったみたい。

 

 ともかく目的は果たせた。

 敵は上から下まで大混乱。

 しばらくは立て直せないだろう。

 そう、数日は。

 足軽だけの混乱や逃散なら1日ぐらいで立て直せたかもしれないが、本陣強襲でいくらか名のある人まで欠けてしまったならもう少しかかる……はずだ。

 

 その間にこっちはさっさと逃げさせてもらいました。

 足止めの目的は果たしたし、次もあんなにうまく行くとは思えないしね。

 

 清継(本隊)との合流を目指して移動していると、急に空が暗くなった。

 疑問に思っていると、後ろの兵たちが騒ぎだし始めた。

 そちらを見ると、空を指さしている者がいる。

 思わず見上げる。

 

 そこには巨大な影があった。

 それが陽の光を遮ったのだ。

 翼のない細長い躰。短い手足。

 天龍だ。

 

 その龍が降下する動作を──頭を下げた。

 兵たちの騒ぎが大きくなった。

 彼らが逃げ出さしていないのは、常備兵という雇用形式による士気の高さと、逃げても帰る場所がない次男や三男……実家ではただの厄介者……という現実によるものだった。

 普通の足軽や雑兵だったら逃げ散っていただろう。

 なにせ、私を含めて彼らを監督すべき立場の武士たちも口をあんぐりと開けて呆然としていただけだったからだ。

 いや冷静に考えてね?

 この状況で急に天龍が降りてきて冷静な気分でいられるのなんてあの大うつけぐらいでしょ!?

 

『当方ニ敵意ナシ。当方ニ敵意ナシ』

 そう、導波が響き渡った。

 私には感じたことのある波だった。

 皆が隣にいる人の顔を見合わせている。全員困惑顔だった。

 思念波を受けるのは普通は経験はないので、龍族の『声』を聞いたら戸惑うのはわかる。

『そちらには琴平結衣殿がいると見受けられる。話がしたい。これからそちらに近づくが攻撃されないように留意されたし』

 その思念波を送ってからたっぷり三呼吸ほど経ってから天龍は降下した。

 

「五十鈴!」

 天龍は、あの山で出会った五十鈴だった。

『お久しぶりです、結衣』

 そう五十鈴は笑った。

 

「どうしてここに?」

 私が聞くと五十鈴はにやりと笑い、

『あなたの恋人に会いに』

 と得意げな波を私にだけ飛ばしてきた。

「いないんだけどそんなやつ」

『えっ……』

 いやなんでガチで戸惑ってる感じに……?

『……あー、佐登清継殿に面会したくて。貴女たちは?』

「なら私たちも合流しに向かっている途中です」

『では同行しても?』

「貴女は飛んで行った方が速いのでは……?」

『構いません。それほど急いでいるわけではないので』

 

 才蔵や足軽たちがドン引きしてるので、ちょっと遠慮してほしいなぁと思いつつも断る理由もないので頷いた。

 吉家だけは笑っていたが。

 

 

 その後は特に何事もなく清継本隊と合流できた。

「おお、五十鈴殿」

 本陣に向かった私と五十鈴を清継が迎えた。

 ……私にはなにもなしか?

 

『お久しぶりです佐登殿。私のことはあとで構いません』

「忝い」

 そういうと清継は私に向き直ると、ひどく素直な笑みを浮かべた。

「お転婆、よくやった」

「……ッ」

 私はなぜか頬が熱くなるのを感じた。

 こいつずるいなぁ、となんとなく思う。

 

 咳払いをして、気を取り直してから報告する。

「敵は数日は動けなくしました。そちらは?」

「蹴散らしたが叔父上には江原城に逃げ込まれたな」

 守護がいる江原城に逃げ込まれてしまうと手が出せない。

 守護に弓引いたことに……本当に謀反を起こしていることになり、政治的な正当性がなくなってしまう。

 

 この政治的な正当性、充分な後ろ盾と戦力があれば無視してしまえなくもないんだけど、そのどちらも清継にはない。

 今無視してしまうと、少なくとも燈鷲内で味方はいなくなるだろう。

 

「どうするの?」

「守護殿か叔父上、どちらかに城から出てもらうしかない」

 要は仲違いさせるということだろう。

「難しくない?」

 私がそう言うと清継は私を小突いた。

「それを考えるのがお前の仕事だ」

 

「お待たせした、五十鈴殿」

 五十鈴のほうに向き直ると、蜷局を巻きながら尾をゆらゆらと動かしていた。

『お気になさらず』

「それでどのような御用件で御出でなさったのでしょうか」

『ここでは以前のような振舞をなさらないのですね?』

「今は佐登の棟梁ですので」

 それだけ言うと清継は視線で五十鈴を促した。

『我等との約定に関してです』

「約定?」

『ええ、燈鷲の国との約定です。以前は清正殿とお話させていただいていました』

「ああ……農作物の奉納の?」

 一部の農村に雨を適度に降らせ、収穫量の底上げに協力してもらう。

 私たちが領内見回りで……五十鈴と出会った時に見た時のことだろう。

 

 五十鈴は頷いた。そして波を発した。

『我々は、()()殿()()()()()()()()()()()()()()。よろしいですか?』

 

「つまり、()()()()()()()()()()()()()()()と判断しておられると?」

『まさに』

 私たちは顔を見合わせた。

 これは大きなことだった。

 清継の最も弱体なところであり、兼清方が名分としている、清継は正当な守護代=佐登家の後継者なのか、と言った点を天龍が保証すると言っているに等しい。

 

 彼らは戦に直接参加しないことを帝との約定で定めているから、軍事的な影響力は皆無だが、政治的、より正確に言うと宗教的にはまったく事情が異なる。

 この国の2大宗教、龍神を神として崇める天教、同じく龍神を悟りの境地と考える中道、そのどちらも天龍は龍神と関わりが深い(昔は龍神=天龍だったらしいけど)としており、その天龍からのお墨付きは、特に一般の町民や農民層への影響が大きいし、有力層も無視できるものではない。

 

 結論としては、清継の正当性はかなり強化される、ということだった。

 

「有難いことですが、なぜ?」

 清継はあまりにもうまい儲け話を持ち込まれた商人のような顔をしていた。

 内乱が落ち着いてから、勝ったほうに保障を与えるほうが、龍族の権威が傷つけられるリスクはないはずだった。

 

『いえ、なに。貴方たちが勝った方がこの国の世情も落ち着きそうだ、と判断しただけです』

 五十鈴はひどく楽しそうな波を発した。

 

『我等が望むのは安定した日常ですから』

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