転生軍師の戦国記~お転婆姫と大うつけの天下統一記~ 作:松平まこと
~前回のあらすじ~
戦力見積もりが間違っていて、敵の数が想定の1.5倍、こちらの3倍以上でした。
こっちの数が多いんなら増えてもなんとかなるけどさぁ!
元々でもこっちのほうが半分くらいなんですけどぉ!?
倍はなんとかなる可能性あるけど3倍はもう対抗不可能なんですけどぉ!?
一般則(根拠はよくわからない)の攻者3倍を満たしてるんですけどぉ!?
皆がパニックになりかけたとき、清継はさっと腕を上げた。
それだけで広間は静かになった。
皆が清継に注目する。
「俺は寝る。準備を進めておけ。予定通りにな」
それだけ言うと立ち上がり部屋の外に向かって行ってしまった。
一瞬間、広間は静まり返り、
そのあとは先ほどよりも増して騒然とした。
私は立林様と平井様が皆をなだめる声を背中で聞きながら、清継の後を追いかける。
廊下で清継に追いついた私はその肩を掴んだ。
「ちょっと、清継何を考えてるの!」
振り向いた清継は黙ったまま、口をへの字に曲げていた。
私がなにか言おうと口を開こうとする前に、彼は私の腕を掴んで近くにあった部屋に引っ張りこんだ。
このうつけはなにを……と思ったところでふと気づく。
こいつは寝るつもりだってさっき言っていた。
つまり連れ込まれるって……そういう!?
急に頬が熱くなる。
こ、このうつけはこんなときになにを考えて……!
「なに変な顔をしているたわけ」
「だ、だって急で……」
「あんなところでは誰に見られるかわからんからな」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……」
清継はどっかと畳に腰を下ろした。
「なにか策は思いつくか?」
そう私を見上げながらそう聞いてくる。
「へ?」
「俺はどうすればいいかわからん」
そうどこか拗ねた子供のような声で言った。
あー……なるほど。
私は早とちりにまた顔が熱くなるのを感じて、頬を掻きながら答える。
「私も正直、わからない」
清継が、肩を落とすのがやや暗い部屋でもはっきり分かった。
「だから一緒に考えよう?」
私の言葉に清継ははっとしたように私の顔を見上げ、
「そうか……そうだな」
とだけ言った。
私は持ち歩いている地図を広げる。
国境の梶峯城付近から、最終防衛ラインである、上牧・江原付近の川までの縦深約25kmが今回の
「まず貴方は現時点で降伏する気はない、ってことでいいよね?」
清継は頷いた。
これでこちらの方針は決まった。
敵侵攻勢力の撃退だ。
いまさら何を、と思われるかもしれないけどこれは重要だ。
司令官の方針を叶えるなら、防御に戦力を集中するのは意味がない。
つまり当初の予定と同じく攻撃しかない。
問題はなにを攻撃するかだった。
選択肢は三つ。
1.計画通り、敵後方を攻撃し、兵站と包囲されるという面から敵の意志を挫く。
2.敵先鋒を攻撃し、壊乱させ、敵にこちらの戦力が多いと誤認させ、意志を挫く。
3.敵中央を攻撃し、総大将である古土元康を撃破し、指揮系統・士気を崩壊させ撤退させる。
どれも問題がある。
なによりも戦力が足りない、という前提があるからだった。
1はそもそも攻撃が成功する公算があまり高くない。
攻撃を成功させるだけの戦力を引き抜けば、防衛線が敵先鋒の攻撃を受け止められない可能性が高くなる。
そもそも5千近い戦力が迂回している最中に敵に気付かれてしまうかもしれない。
2は敵先鋒に戦力を集中させるわけだから、数の不利も小さくなるから先鋒
問題はそれで敵が諦めずに中備……つまり元康直率の主力(だろう)が攻撃してきた時、こちらが消耗しきっている可能性が高い。
3にも問題がある。1と同じ問題が生じるうえ、敵の後方より戦力は当然大きいだろうから成功の公算は1よりも小さくなる。
うーん、八方塞がりだ。
やはり無理では?
私の説明を聞いた清継は少しの間考え込むと口を開いた。
「敵の塊一つのすべてを相手するのは無理だな」
私は頷いた。前衛、中衛、後衛、すべてがこちらの集中できる戦力より大きいのだからまさにそうだった。
「……なら、その塊の中から目標を絞るのはどうだ?」
つまり三つのどれかを撃破するのではなく、その中からさらに目標を絞り込もうと言いたいらしい。
「前のように小荷駄だけ狙う……?」
清継は首を振った。
「一度の襲撃ではおそらく影響はない。となると襲い続けないと意味がない」
それでもいいんじゃ……と思ったけど、ダメだ。
敵はそれを止めるだけの戦力を派遣してくるだろう。
多少、防衛線への圧力は減るかもしれないけどそれだけだ。
そうなると選択肢は一つだけ。
清継は私の目を見ながら言った。
「元康を殺る」
古土元康は、包囲されている梶峯城を横目に見ながら行軍していた。
元康はこの城を1000程度で囲むだけで放置するようにと命じていた。
攻撃、侵略と言ったものはとにかく速度が要だ。
敵が混乱している……何か手を打つまでにできるだけ地歩を稼ぎ、有利な状況を整えなければならない。
しかし、先鋒の進軍が遅れがちという報せが入っていた。
敵は小城に小勢をばら撒いており、それらを攻略するのに時間がかかっているらしい。
できるだけ無視して進ませているが、敵も無視できない場所に城を用意している以上、なかなか難しい。
どうやら敵は時間を稼ぎたいらしい。
そして城という時間がかかるものが築かれていることから、事前に想定していたわけだ。
その事実から敵の……佐登清継の行動をいくつか予測しながら馬を歩ませていると、近くにいた岡上信元が話しかけてきた。
「殿よろしかったのですか?」
元康はどこかのんびりとした声……まるで散歩をしているような調子で答えた。
「なにがだい?」
「武士隊の割り当てです。中備より後備に多くするのは……」
元康は軍勢を前衛、中衛、後衛それぞれ一万ずつに均等にわけつつ、武士だけは中衛、つまり自分の直接指揮部隊から後衛に半数を回していた。
元康自身の護衛部隊の武士も当初予定の2千から千に減っている。信元はこの点に一言あるらしい。
「いいのさ」
「しかし……」
「清継くんは賢しいところがある」
「はぁ……」
主君の突然の言葉に信元は戸惑った。
「前と同じように小荷駄を狙ってくるんじゃないかな。そのためには武士が多い方がいいよ」
それでもなにか言いたげな信元を安心させるために元康は言葉を重ねた。
「もし、敵がここを直接狙ってくる動きが見えたら、呼び戻せばいいだけさ」
武士の脚は早いからそれで間に合うということらしい。
確かにそれも道理ではあった。信元は引き下がった。
元康は溜息を吐きたい気分を抱えながら、これから進む先を見つめた。
細長い影が横切った。
「……?」
天龍だろうか。距離がありすぎてよくわからなかった。
先ほどよりも空には雲が広がっているように見えた。