転生軍師の戦国記~お転婆姫と大うつけの天下統一記~   作:松平まこと

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雲下の機動

 私たち佐登勢の方針は明確だ。

 

 戦力を迂回させて敵の本陣を奇襲し、敵総指揮官である古土元康を撃破する。

 可能なら、彼の側近たちも纏めて。

 そしてその後何とか逃げ出す。

 

 もちろん、これは言うは易く行うは難しの典型的な例だ。

 なぜなら彼は一万もの軍勢と共に行動している。

 一万がすべて一塊なわけではないけど、互いに連携……何かあった際に助け合える位置にいることには変わらない。

 

「作戦は3段階に別れます」

 

 私は軍議の場でそう言った。

 

 第一段階、散らばって砦に配置していた戦力の最終防衛線である城への集結。

 これにより、妨害していた戦力がいなくなり、敵先手勢を一気に前進させ、中衛から引き離す。

 先手勢は罠を警戒するかもしれないが、押し進んで来るはずだ。

 先手勢の任務とは、進むことだからだ。

 

「でも、久山や尾谷が受け止められますか?」

 与一殿が最終防衛線に集結したとしても古土の先手勢の猛攻に耐えられるのか、という質問をした。

 

 清継が控えていた小姓に合図する。

 小姓は布がかけられた物干し竿のようなものを持って来る。

 

 小姓はその長物を皆の前に置いて、清継の顔を見た。

 清継が頷くと布を取りさる。

 

 出てきたのはかなり長い銃身を持つ鉄砲だ。

 普通の鉄砲の1.5倍以上はある。

 試作品として作らせていたもので、50丁近くある。

 

「殿…これは?」

「長銃だ。これで城攻めを率いている者を撃つ」

 

 長銃、前世だと狭間筒とも呼ばれていた長銃身鉄砲を足軽から選出した鉄砲上手に持たせて、組頭や小頭などの小勢の指揮官を撃たせる。

 それで統率を乱そうという策だった。

 さらに川宮一成に武士の中での鉄砲上手を率いらせて、侍大将などの数千単位の軍勢を率いているものを狙撃させる。

 

 どこまで上手くいくかはわからないけど、敵の突撃が乱れるのは間違いないだろう。

 

「あとは守明。なんとか守り切れ」

 立林様が平伏するのを見て、私は説明を再開した。

 

「第二段階は、東側の道から2千程度の軍勢を迂回させて敵の後方に向かわせます」

 敵の後衛よりもさらに後ろ、汐坂に乗り込むような動きをさせる。

「敵は小荷駄などを守るために後衛に対処させるでしょう」

 敵は前衛・後衛両方が機動しつつ対応することになる。

 これで中衛は、前後それぞれに一万の軍勢がいながら孤立することになる。

 

「上手くいけば、中衛から前衛や後衛に増援を送るかもしれません」

 そうなればさらに手薄になる。

「この軍勢は久英、お前が率いろ」

 清継の言葉に馬瀬様は緊張した面持ちで頷いた。

 

「第三段階。殿自らが率いる馬廻衆500で敵本陣に奇襲をかけます」

 ここからは無責任かもしれないけど、部隊指揮官としての清継の腕前次第になるところだ。

 敵の本陣をなんとか特定して、上手いこと敵の警戒線や護衛の軍勢を躱して、元康を討たなければならない。

 尤も後者には策を考えているけど……。

 

「そのあとはどうすんだよ」

 吉家が口を挟んだ。

「船を近づけますからこれで海上を通じて、脱出します」

「船かぁ」

 ぼやく吉家を揶揄うように清継が口を挟んだ。

「なんだ、吉家。船は苦手か?」

「やっぱ俺は走れる方が好みだよ頭」

 今回は我慢しろ、と清継は笑った。

 

 そして皆を見回した。

「わかったか?なら出陣の支度をせよ」

 そう清継が言って軍議は終わった。

 

 

 それが半日前。

 

 私たちは曇り空の下、山上城に辿り着いていた。

 正行君の居城として与えられていたこの城は、敵の侵攻ルートからちょっと離れた場所にあるおかげで今回の戦では、誰からも忘れられていたような状態だった。だけどこの城はこのあたりで最も標高がある場所だったから、敵の軍勢の配置を見るのにちょうどよかった。

 物資もいくらか残ったままだったから休憩にもちょうどよかったし。

 

 視力を強化して、敵中衛の配置を眺める。

 

 3千程度の敵勢が北に向かっているのが見えた。

 おそらく前衛である先手勢への増援だろう。

 

 1500程度の軍勢がこちらに……東に向かっている。

 とはいっても見つかったわけではないようだった。

 そこまで緊張した様子がないからすぐに戦闘を行うつもりではなさそうだ。

 おそらく迂回している馬瀬勢に気付いて、その背後を遮断しようとしているのだろう。

 

 さらに一隊、2千くらい?の軍勢が南に向かっている。

 これは後衛への増援か、あるいは既に移動し始めている後衛の代わりの警戒配置だろうか。

 

 前世で読んだ本に書いてあった通りの動きだった。

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 こちらが迂回のために戦力を分散させた結果、敵はその対応のためにこうやって慌ただしく動かし始めた。

 

「動いていないのが本陣かな?」

 私は隣に来た清継に振り向きながら言った。

「ああ、そうだろうな」

 

 残っている敵は小高い丘の上に1500ぐらい。

 その麓に500前後の小勢が4つ展開して守っている。

 

「あそこをすり抜けて丘を登れる?」

 清継は鼻を鳴らした。

「お前の策がうまく働くなら、やってみせる」

 心強い言葉だった。清継らしい、自信にあふれた。ここに来ても正行君のことで心が乱されるといったことはなかったみたい。

 

 問題は丘を登れたとしても、敵は3倍近いわけだけど。

 ただすべてが武士ではないはず。多くても半分程度が武士だろうから、実際の戦力比としては倍程度に収まるはずだ。

 あれやこれや策を弄して、多くの人を巻き込んで、それでやっと3倍から2倍に減らした程度。

 

 これが策の限界、なのだろう。

 だけど私は天才でもなんでもない。ただちょっとばっかし、より進んだ時代の世界から来ただけの頭でっかちの子供にすぎない。これだけやれれば、よくやったと言っていいのかもしれない。

 

 

 その時、頭上を天龍が通り過ぎ、雫が一粒、空から降ってきた。

 それはすぐに数を増し、視力を強化していても敵が見えなくなるくらいに激しくなった。

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