昔からよく言われることだ。
助けられる人間には限りがある、と。
人が手を伸ばせる範囲など、ほんの僅かに過ぎない。
傘が雨を防げるのは、差し広げた円の内側だけ。
人は、すべてを救うことは出来ない。
復讐者は復讐によって、過去の人間を救おうとする。
合理主義者は知恵によって、未来の人間を救おうとする。
――ならば。
今この瞬間、苦しんでいる人間は、一体誰が救ってくれるのだろう。
*
「構造、変遷。イチイバル!」
イチイバルの鎧が禍々しく歪み、クリスの手に握られた干将・莫耶を呑み込んでいく。
銃口の先に干将・莫耶の切っ先が突き出て光を宿し、その姿は黒く染まっていた。
それは銃剣。
第二次世界大戦期まで使われながら、銃火器の進歩とともに廃れていった、形ばかりの時代遅れの遺物。
だが雪音クリスは、それを誇らしげに装備する。
無論――普通の人間ならば、使いこなせるはずもない。
「強化、付与!」
「ッ!?」
呪文を言葉にした瞬間、クリスが消えた。
いや、違う。正確には――目で追えない速度でクリスは響の背後に回り込んだのだ。
その動きは、先程までとは明らかに異なる。
先程までの中距離から近距離まで対応できるオールラウンドな戦闘法ではない。
今のクリスは――ただ一点、近接特化。
「オラッ! オラッ! オラァァァア!!」
乱撃。
刃と銃口が交互に火花を散らす。
至近距離で繰り返される剣戟と銃撃。
それは先程までの万能性を捨て去り、近距離のみに研ぎ澄まされた猛攻。
銃声が途切れた瞬間、クリスは銃口を振り下ろす。
それは引き金を引くためではなく、刃として響を斬り裂くためだ。
「らぁぁぁぁッ!!」
金属音が弾ける。
響の拳と、銃剣の刃が正面からぶつかり合った。
一歩でも押されれば、刃が肉を裂くか、拳が骨を砕くか。
「くっ……!」
響は拳を滑らせて銃剣を外すが、その刹那。
クリスの左手の銃口が、至近距離から火を噴いた。
「このおおぉぉぉ!!!」
爆炎をまともに浴びつつも、響は踏み込み、右拳で銃剣を弾き飛ばす。
だがクリスも体勢を崩さず、銃剣を逆手に握り返し、刃を響の頬へ走らせる。
髪を掠める閃光。
間合いはほとんどゼロ。
至近距離で、拳と銃剣が交錯し続けた。
「ッ!? あっ!」
浴びせられた斬撃、十と三。叩き込まれた銃弾、二十と七。
殺到する圧力に耐え、拳を突き出す。
だが、その拳はあっさりと空を切った。
くるりと空中で体制を翻し、蹴りを叩き込みながら反対側に着地したクリスは更に攻撃を苛烈に変化させる。
「もう油断しねえ! 真名解放に一度目はやられたが、二度はねえ! 全力で叩き潰す!」
圧力が襲い、身体が吹き飛ぶ。だが、叫びは断ち切れない。
空中で、響の指先はクリスの銃剣を捉えた。血がじんわりと手を濡らす。痛みはあったが、足りない。この一撃に想いを
「クリスちゃん!! 私は貴女と話したいの! 誰かに裏切られたとか、分かり合えないとか――それを私が完全に理解できるとは言えない。でも、お願い。話してほしい。ずっと一人で耐えることが、貴女の望みなの?」
「うるせぇんだよ、テメェは!」
クリスの声は怒号。だが、その奥に揺らぎがある。
響はその震えを見た。拳に残る灼けた熱を確かめる。だが、もう止めるつもりはない。ここで――この手で、決着をつける。
もう一度、先ほどのように思いを伝える。
「そうかッ! そうかぁぁぁあああ!!」
響の決意を映した瞳に、クリスはこれ以上ないほどの笑みを浮かべた。
いい加減、この茶番も終わりだ。
――ここで完膚なきまでに叩き潰す。
二度と「話し合い」なんて甘っちょろい幻想を口にできぬように。
「――血潮は鉄、心は慟哭。
絶望を束ね、慟哭を射抜く。
我が矢は、憎悪と共に世界を穿つ。」
「スーーーー………」
そして
その呼吸は、次の——互いの
「飛べ!! 魔弓・
「ーーー
瞬間、時間が凍りついた。
空気が張り詰め、塵ひとつすら宙で止まったように思える。
二つの光が交錯する、その刹那を迎えるために。
そして――衝突。
轟、と世界が悲鳴を上げた。
光と力がぶつかり合い、周囲の塵は一斉に吹き飛ぶ。
爆ぜる衝撃波が床を抉り、壁を軋ませ、音という音をかき消した。
パン――。
遅れて、ガラスが割れる鋭い音が耳を裂く。
飛散した破片は閃光の残滓を反射し、宙を舞う無数の煌めきとなった。
それはまるで、勝者をまだ告げぬ星屑の雨のように。
*
「ガアッ!!」
「ぐっ……!」
雪音クリスが吹き飛び、立花響は血に濡れた腕を抱え、その場にへたり込んだ。
激突の中で、先に血を噴き上げたのは響だった。
そも、二人の全力は、威力そのものではほぼ互角だった。
だが――響の拳に対し、クリスの弾丸は「貫く」ことに特化していた。
無論、殴り方、経験によってはそれを回避することも出来たやもしれないが、それは仮定の話。響は経験が浅く、咄嗟にその判断に移すことも、技術も無かった。
その差が、決定的な痛みをもたらした。
衝突の結果、弾丸は響の手を抉り裂き、肉を食い破り、異物が体内を削る感覚が骨まで突き抜ける。
「ーーーッ!!」
筆舌に尽くし難い痛み。常人ならその瞬間に意識を手放すだろう。
だが――立花響は耐えた。
痛みに耐え、貫かれたその手で、なお拳を握りしめ。
「うああぁぁあああああ!!!」
穴の開いた拳を、そのまま振り抜いて――クリスを殴り飛ばした。
結果。
響は血に濡れた腕を抱えて蹲り、クリスは壁を突き破って吹き飛ばされた。
状況は痛み分け――
(いや、チャンスだ。今、手を怪我しているアイツと違って、アタシは間違いなくアイツよりもこの状況で先に動ける。
距離も体力も足りねえ。なら――全弾、容赦なくぶっ放すだけだ!)
クリスは即座に判断し、全身からありとあらゆる銃火器を顕現させた。
腰部からはミサイル。脚部からは大砲。手には、より巨大なサブマシンガン。
「オラァあああああああ!!!」
両手の銃を乱射し、牽制の弾幕を張りながら、腰部の小型ミサイル十数発を発射。
飛翔するミサイルの閃光に紛れ、両手の拳銃をクロスボウガンへと変形させる。
切り替えの隙は、先行したミサイルの爆炎で覆い隠す。
続けざまにクロスボウガンを一斉掃射。
さらにその連射の衝撃を繋ぎに、両肩上部に大型ミサイル二発を形成――即発射。
小型ミサイル十数発。クロスボウガンの一斉掃射。大型ミサイル二発。
それらを寸分の隙もなく繋ぎ合わせ、雪音クリスは圧倒的な弾幕の絨毯を敷き詰めた。
戦闘センスは、まさに流動。休符を許さぬ攻撃の連鎖で、面制圧を成し遂げてみせる。
「――――――――――――――――――――ッ、ハッ、ハッ……ハァ、ア……」
弾薬を撃ち尽くし、クリスは身を折って大きく息を荒げていた。
それは肉体的疲労というよりも、精神の摩耗だった。
イチイバルの力を無理やり行使したことか。あるいは、そのために歌を吐き出し続けたことか。
どちらにせよ、それは自分でトラウマをぐちゃぐちゃに抉り返すような行為。心の奥底を血まみれにする作業に他ならなかった。
巻き起こる熱風が、頬を軽く引き攫うようにしてピリピリと刺す。
下ろした視線の先には、己の足元さえ隠すほどの粉塵が立ち込めている。
――これが晴れる頃には。
そこには、自分が撒き散らした相手の肉片が転がっているかもしれない。
そう思った瞬間、クリスは自嘲を含んだ笑みを浮かべた。
それは勝利の笑みではなく、自らの業を認めざるを得ない、歪んだ笑みだった。
そのまま前へ進もうとする。だが――次の瞬間。
「……⁉︎」
少女ははっと目を見開き、即座に立ち止まる。
目の前。捕獲対象との間に、何かが聳え立っていた。
最初に目に映ったのは、赤い装甲を纏った己自身の姿。
だが、それは鏡に映った虚像ではない。
磨き上げられた金属の壁――否、その正体は。
「………これは、盾?」
「否。―――剣だッ!!!」
応じた声は轟き、空気を震わせる。
見上げれば、巨大な刀身の根元――あたかも己の体そのものを柄にしているかのように、蒼い影が立っていた。
その姿を。
凛としたその在り様を。
遅ればせながら身を起こした響は目の当たりにして、その表情を喜色満面に染めていく。
そこにいたのは――
「翼さん!!!」
剣を纏う防人。
アメノハバキリの装者。
欠けていたツヴァイウィングの片翼。
風鳴 翼、満を持して戦場へ帰還す。
*
「ッア!!」
瞬間。立っていた大剣を霧散させ、翼は疾風のごとく踏み込む。
その切っ先は、一直線に白髪の少女へと向けられていた。
「翼さん! その子は……!」
響が懇願の声を投げる。
「分かっている」
短く返す声は鋭い。
だがクリスは舌打ちし、吐き捨てた。
「チッ! テメェもか! まるでタチの悪い伝染病だなッ!」
次の瞬間、蒼い刃が白銀の銃剣を叩きつける。
衝突は鋭い金属音を撒き散らし、戦いは至近距離での剣戟へと雪崩れ込んだ。
「随分、戦い方が変わったな。……なるほど、立花には手こずらされたらしいな」
「ハッ! んなわけあるか! テメェも、アイツも、全員まとめてぶっ潰す! オール・デストロイだ、馬鹿野郎!」
互いに軽口という名の挑発をぶつけ合いながら、剣と銃火器が激突する。
翼が剣を突き出せば、クリスは銃剣で受け止め、火花の隙間から銃弾を撃ち込む。
その弾丸を、翼は瞬時に顕現させた剣で受け流し、盾代わりに打ち砕く。
――思い返せば、最初の戦いは翼の敗北だった。
ただ、あの時はクリスはある程度、翼の情報を知っていたが、翼にとっては完全な初見。
その差が敗因となった。
だが今は違う。
少女の身に宿るのはネフシュタンではなく、イチイバル。
そして、風鳴翼の心は、あの時のままではない。
互いの刃が交差する。
銃火と剣閃が拮抗する。
――戦況は、完全なる互角だった。
「オラァ!」
荒々しい声と共に、クリスは翼を合気道の要領で地に叩き落とした。
鎧の隙間に銃口を潜り込ませ、至近距離から弾丸を撃ち込む。
シンフォギアの装者は全身をバリアコーティングで覆っている。
完全には通らない。それでも――ゼロではない。
「――ッ!」
その証拠に、翼の表情がわずかに強張る。
だが。
「舐めるなっ!」
風鳴翼は、そんな状況に沈む存在ではない。
背後に剣を顕現。その生成した刃が地面に突き刺さる反動で身体を跳ね起こし、銃剣の側面へと刃を叩き込もうとする。
古来より、剣は正面の撃ち合いを想定して作られたもの。
ならば側面から衝撃を加えれば、破壊も容易――そう判断したのだ。
「ッ……士郎!!」
だがクリスはそれを素手で受け止める。
虚を突かれ、翼が一瞬固まる。
その隙を逃さず、クリスは傷ついた手を何も無い虚空へと振り抜き、翼の目にめがけて血を飛ばした。
「何ッ!?」
反射的に目を閉じる翼。
そこへ銃剣の先端が閃き、銃弾が腹を抉る。
「ぐっ!」
痛みが走る。だが、翼はまだ倒れない。
むしろ今この相手が攻めに集中仕切っている瞬間こそ――攻め返す好機。
「ハアッ!」
掛け声と共に、視界を奪われたまま、記憶だけを頼りに剣を投げ放つ。
「ガアッ!」
手応え――確かに命中した。
翼はシィッと鋭く息を吐き、再び構えを取る。
その手に握られた刃は、構造も質量も無視するかのように肥大化し、巨大な姿へと展開していく。
一瞬、時が止まったように見えた。
かくして反動を貯めてから、解き放つように繰り出されるのは横薙ぎの一太刀。
蒼い輝きが刀身に宿り、眩い閃光を描いた。
「ハァ―――ッ!!!」
――――蒼ノ一閃。
虚空を裂いた軌跡はそのまま光の翼と化し、蒼い剣閃となって一直線に翔ける。
羽撃く光刃が狙うは、雪音クリス。
「させるかッ!!」
クリスは即座に両手の銃を乱射。
銃弾の嵐が巨大剣を撃ち砕き、閃光を空に散らす。
デカブツなど、ただの的だと嘲笑うかのように。
「好機!」
だが、それは翼の布石だった。
上空の光刃に気を奪われている隙に、彼女自身が超高速で接近する。
「甘えんだよッ!」
クリスは即座に後方へ跳躍。
バックステップで軽やかに躱すと、牽制のマシンガンを浴びせる。
翼はたまらず後退を余儀なくされる。
(アイツ……アタシと戦った時と違う)
キレが違う。
速さが違う。
鋭さが違う。
あれが本当に、己が打ち倒した相手と同じ存在なのか?
ジリジリと円を描くように、クリスと翼が互いの距離を測る。
どちらかが一歩でも踏み込めば、その瞬間に追撃か迎撃か――この膠着は崩れる。
「……。」
無言のまま、クリスは銃口を翼へと向けた。
外しはしない。
その自信が目から溢れる。
それに対して、翼もまた、剣を展開して迎撃の体制を取る。
膠着は、今まさにクリスが引き金を引くと同時に崩れようとしていた。
だが、その砲口が火を噴くことはなかった。
――不意に、空から影が落ちてきたのだ。
「なッ!?」
一同が見上げる。
そこにはノイズ。
どうやら最初から潜んでいた最後の一体らしい。
狙われたのは、無防備となっていたクリス。
唐突な襲撃に、彼女は反応が遅れる。
だが――攻撃を受けていない翼なら、斬り捨てることができた。
その刹那。
飛び出したのは翼ではなく、響だった。
「クリスちゃん!!」
響は身を挺し、ノイズの攻撃を防いだ。
「立花ッ!?」
「お前、なにやってんだよ!?」
「ごめん……クリスちゃんに当たりそうだったから、つい」
「クソッ!」
苛立ちを噛み殺しながら、クリスは残りのノイズに銃弾を乱射する。
放たれた弾丸は一発も外れることなく命中し、ノイズは悲鳴をあげる間もなく塵へと還った。
「コイツら、まさか……」
クリスが呟いたその瞬間。
「ええ――その通りよ」
応じる声と同時、銀の閃光が走る。
気づけば、クリスの腹を一本の杖が貫いていた。
「ぐっ……!」
鈍い痛みに呻き声を上げ、崩れ落ちそうになるクリス。
それを見た翼は即座に駆け寄ろうとするが――
「その杖、完全聖遺物の……ッ!」
「悪いけど、少し遊んでいてもらうわよ」
「ぐっ……」
迫るよりも早く、ノイズの群れが立ちはだかる。
壁のように出現したそれらが行く手を遮り、翼は一歩も進めない。
「フィーネ……! テメェ……!」
怒りを露わにするクリス。
その視線の先、銀の杖を握る女が悠然と姿を現した。
「私にあれほど大見得を切っておいて……実に哀れで、滑稽ね。クリス」
フィーネ。
――終わりを意味するその名を持つ女は、呆れたように、それでいて愉悦を含む瞳でクリスを見下ろしていた。
恐ろしい女だ。
腹を貫かれているというのに、クリスの眼光はなお強い。
ほんの一瞬でも油断すれば――喉笛を食い破られそうなほどに。
「クリスちゃん!!」
ノイズに阻まれ、近づけない響が焦燥を滲ませて手を伸ばす。
「悲しいことね、クリス。
あれほどまでに他者を憎み、恨み続けた貴女を――
その娘は必死に心配している。
それこそが、貴女の根本的な間違いよ」
フィーネの声音は、まるで母が子を諭すように冷ややかだった。
「人間の力には限界がある。
たとえそれが英雄と呼ばれようと、勇者と称えられようと――
すべてを一人で救うことなど出来はしない。
もし、それを成せる者がいるとすれば……
その瞬間、その存在はもう人間ではなく――神と呼ばれるでしょう」
黒衣の女は、あからさまに小さな溜息をつき――ゆるやかに右手を掲げた。
次の瞬間、その掌が眩い光を放つ。
「……っ」
ただの光ではない。
まるで誘蛾灯に群がる蛾のように、無数の淡い光粒がその手へと吸い寄せられていく。
やがて光は奔流となり、螺旋を描いて渦を巻いた。
「これって……」
「ネフシュタン……まさか、回収してるのか!?」
そう。
その一粒一粒は、粉々に砕け、粒子化したネフシュタンの装甲片。
フィーネという女は――如何なる理を以ってか――散逸した聖遺物の断片を完全に分解・支配し、自らの手元へと呼び戻していたのだ。
渦はやがて、風が凪ぐようにふっと消え去る。
手の光も収まり……鎧の全ては、女の掌に帰したのだろう。
「……っ」
静まり返った空気を破ることもなく、フィーネはゆっくりと踵を返す。
その背は、あたかも舞台の幕を自ら閉じる役者のように――悠然と歩み去ろうとしていた。
「待ちやがれぇぇええ!! フィーネぇぇえええ!!」
幕引きには似つかわしくない、必死の咆哮と共に銃声が轟く。
「……本当に愚かね。所詮は、底の知れた人間。仕方のないことだけど」
冷笑を返した次の瞬間――
閃光が、唐突に世界を裂いた。
「デュランダル……!? まさか――!」
「――ガアッ!!」
気づけば、その剣はフィーネの手中にあった。
いつ奪ったのかすら分からない。気づいた時には、女の掌に握られていたのだ。
そうして放たれた光は、クリスを容赦なく呑み込む。
紅の装甲は軋みを上げ、瞬く間に砕け散っていく。
纏っていたシンフォギアが、強制的に剥ぎ取られていくのだ。
「……っ、あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
それは命綱を断たれるに等しい。
ノイズと戦うための鎧――生存そのものを保証する力が消え失せる。
悲鳴は、無防備へと突き落とされる絶望の証だった。
まるで奈落に蠢く蟲の群れのように、ノイズがクリスの右腕へと絡みつく。
――ノイズに触れた人間は、塵になる。
それは、この世界における絶対の摂理。
抗う術など、本来は存在しない。
「ああぁああああッ!!
死んで、たまるかあああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
絶叫と共に、クリスは抗った。
この身を呑み込もうとする“運命”に――牙を剥いた。
ノイズが這いずる右腕を。
取り返しのつかない消失が全身へと広がるよりも早く――
彼女は、その手で、自らの右腕を断ち切った。
「……滑稽ね。その腕で、いったい何が出来るというのかしら?」
フィーネの嘲りに、クリスは無言のまま――
次の瞬間。
「――これは!?」
「閃光弾……ッ!」
轟音と共に、世界を焼くほどの閃光が炸裂する。
目を灼かれるような白光に、その場の全員が反射的に瞼を閉じた。
「……っ」
視界を取り戻した時には――もう遅い。
そこにいたはずの二人の姿は、影すら残さず掻き消えていた。
雪音クリスも。
そして、フィーネも。
残ったのは、血の匂いと砕けた瓦礫だけだった。
「クリスちゃん……」
響の声は震えを帯び、空虚へと零れる。
だが隣の翼は、その肩を押さえるように言葉を落とした。
「立花……気持ちは分かる。だが――今は、戻ろう」
その言葉に、響はただ頷くしかなかった。
胸の奥に残るのは、燃えるような悔しさだけだった。
とりあえず、これで現代編の前半部分は終わり。情報を出し切って後は後半に至ると言う感じです。
そう言う意味での終幕。