雪音クリスは衛宮士郎に拾われる   作:バースデー

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今までとこれから

「ガハッ……」

 

 刹那、翼の口から鮮血が噴き出した。

 その血が、夜の空気を裂くように床へと滴り落ちていく。

 

「甘かったな」

 

 銀髪の少女はもう一本の短剣を静かに引き抜く。

 粘りつくような音とともに血が刃を濡らし、その赤を袖で乱暴に拭った。

 

「干将・莫耶――その性質は互いを引き寄せ合う、夫婦剣。

干将は最初から、あたしの手の中。だからあとは……アンタを“莫耶の待つ場所”へ誘えばよかったってだけの話さ」

 

 その声に、感傷も後悔もなかった。ただ、淡々と。冷たく。

 剣戟に彩られた舞台に幕を引くように、彼女はゆっくりと背を向けた。

 

 靴音が乾いたリズムで地を叩くたび、死の気配が遠ざかっていく。

 けれどその背中に、殺意はなおも残っていた。

 

「翼さんッ!!」

 

 響が叫ぶ。

 体を締め上げるノイズの触手が、苛立たしげに揺れた。

 それでも、必死に手足をばたつかせる。

 

「くっ……この……!」

 

 身体は動かない。力も届かない。

 なのに、心だけが焼けるように叫び続けている。

 

 ──そのときだった。

 

 遠くで、タイヤが路面を滑る音がした。

 見上げれば、黒塗りの車が鋭く止まり、風鳴弦十郎と櫻井了子が飛び出してくる。

 

「──チッ、時間切れか。……お預け、ってわけだ」

 

 少女は吐き捨てるように呟き、響の肩を鋭く裂いた。

 

「きゃあッ!!」

 

 ノイズは霧散し、少女の姿は闇へと溶ける。

 

「彼女は……」

「どうしたの? 弦十郎君?」

「……いや、なんでもない」

 

 弦十郎は答えながらも、かすかな違和感を心の底に残した。

 けれど、それよりも今は――。

 

「無事か、翼ッ!!」

 

 彼は地面を蹴るようにして駆け寄った。

 翼は、血の海に沈みかけている。

 その鮮血は、まるで命の記録のように広がり続けていた。

 

「私とて……人類守護の務めを果たす、防人……」

 

 その声は震えていた。

 砕けそうな呼吸。

 潰れかけた目。

 それでも、その目だけは、真っすぐだった。

 

「────こんなところで……折れる剣じゃ……ありません」

 

 言い終えた瞬間、翼の身体が地に崩れ落ちた。

 

 

 *

 

 リディアン近くの病院――集中治療室。

 翼はそこに運び込まれ、沈黙の中で生死の境を彷徨っていた。

 

「辛うじて一命は取り留めました。ですが……容体は、予断を許しません」

「よろしくお願いします」

 

 医師の言葉がひとつひとつナイフのように突き刺さる。

 弦十郎は深々と頭を下げると、背後に立つ黒服たちに命じた。

 

「俺達は鎧の行方を追跡する。どんな手がかりも見落とすな!」

 

 一言ごとに、一歩ごとに、空気が張り詰めていく――まるで、呼吸さえ許されない戦場のように。

 その場にいた誰もが、ただ黙って弦十郎の背に視線を預けるしかなかった。

 

 弦十郎も二課の面々も、信じている。

 風鳴翼の強さを。

 どんな嵐の中でも前を向き、どれほどの痛みを受けようと剣を折らなかった、彼女の覚悟を。

 

 ――少女だったはずの彼女は、幼くして戦場に立った。

 シンフォギア装者として、生きることも、夢見ることも、普通ではいられなかった。

 それでも翼はその運命から逃げなかった。

 天羽奏を喪ってからは、喪失の痛みすら燃料にして、自らを刃へと鍛え上げていった。

 ただただ、誰かを守るために。誰かの犠牲を、無駄にしないために。

 

 

 

 翼の血にまみれた姿が、頭から離れない。

 あの紅はただの血ではなかった。

 誓いであり、祈りであり、すべてを背負った者の証だった。

 

 それでも、彼らは歩みを止めることはできない。

 立ち止まれば、彼女の命が、ただの“犠牲”になってしまうからだ。

 そうなってしまえば、翼に――あの誇り高い剣に、顔向けできない。

 

 

 

 だから進むしかない。

 たとえ心が泣いていても、たとえ今にも折れそうでも。

 その痛みすら、彼らにとっては背中を押す剣の一振りなのだ。

 

 

 

 ……そして。

 

 響は、病院の待合室で身を縮めていた。

 誰とも目を合わせられず、ただ、床を見つめている。

 

 現実が、遠い。

 

 さっきまで、翼さんは――そこにいた。

 血に濡れて、傷だらけで、それでも……戦っていた。

 なのに、自分は……なにもできなかった。

 その事実に眩暈がする。

 

──── 戦場(いくさば)で何を馬鹿な事をッ!

 

 ──あの声が、頭の中で反響する。

 剣のように鋭く、自分の甘さを切り裂く。

 

「……ッ」

 

 胸の奥が灼ける。

 腕が震える。

 目の奥が、熱く滲んだ。

 

 思考が同じ場所を何度も巡り、出口を見つけられずにいる。

 足元の床に、さっき見た血の跡がフラッシュバックした。

 

 

 

 

 そのとき、響の横に人影が立つ。

 

 

 

 

 

「貴女が気に病む必要はありませんよ。翼さんは、自分の意思で戦っていたんですから」

 

「緒川さん」

 

 

 

 その声に顔を上げると、静かにこちらへ歩いてくる人影があった。

 翼のマネージャー、緒川慎次だ。

 

 

 

 

 彼は自販機でコーヒーを買うと、缶の蓋を指でなぞりながら、そっと響に手渡す。

 

 

 

 

 

「熱くてすみません。でも、気分が落ち着くかと思って」

 

 響は黙って受け取る。

 缶のぬくもりが、指先から心の奥へと染みていく。

 

「調子はどうですか? 少しは楽になりましたか?」

 

「はい。全力疾走とまではいきませんけど、普通に歩くくらいなら」

 

「それなら何よりです。了子さんが全力で検査に当たった結果、貴女に打ち込まれた毒は一時的な物で、後遺症も無いそうです」

 

「……そう、ですか」

 

 安堵するべき言葉だった。それなのに胸の奥には、重たい何かがまだしこりのように残っていた。

 頷こうとして、結局うまく頷けなかった。

 

 それに気づいているのか気づいていないのか、慎次は語り出した。

 かつて翼がツヴァイウィングとして活動していたときの相棒、天羽奏。

 二年前のあの日、ノイズによる被害を最小限に食い止めるために奏が絶唱を歌ったこと、その代償として奏は生命を散らしたこと。

 

 

 

「それは、わたしを救うためですか……?」

 

 

 

 その問いに、慎次はすぐには答えなかった。

 缶を静かに傾け、ぬるくなりかけたコーヒーをひと口啜る。

 まるで、過去に言葉を探しているように。

 

「……独りになった翼さんは奏さんの抜けた穴を埋めるべく、がむしゃらに戦ってきました」

 

 普通の高校生なら知ってしかるべき恋愛や遊びも覚えず、自分を殺し、一振りの剣として生きた。

 そして今日、剣としての使命を果たすため、翼は死すら覚悟して戦っていたのだ。

 

 

 

「不器用ですよね。でもそれが、風鳴翼の生き方なんです」

 

 

 

 響の手元で、缶に小さな雫が零れた。

 それが涙だと気づいたのは、一拍遅れてからだった。

 

 

 

「そんなの……そんなのって……!」

 

  嗚咽が喉を突き破る。

  胸の奥に溜めていた感情が、涙とともに噴き出す。

 

 

「わたし……翼さんのこと、なにも知らなかったのに……あんな風に、一緒に戦いたいだなんて………奏さんの代わりになるだなんて……」

 

「僕も、貴女に奏さんの代わりになってもらいたいだなんて思っていません」

 

 慎次は静かに首を振った。

 

「そんなこと……誰も望んでなんかいません」

 

 その目に、責める色はなかった。

 ただ、響の痛みに寄り添おうとする誠実さが、そこにあった。

 そんな彼の在り方に傷ついた心がほんの少しだけ、ほつれていく。

 

「響さん、僕からのお願い、聞いてくれますか?」

 

 響は、涙を指で拭って頷く。

 そんな彼女に、慎次は一拍、静かに息を吸った。

 

「翼さんのこと……どうか、嫌いにならないでください」

 

 もう一度、響の目を見て言葉を継ぐ。

 

「彼女を、世界でひとりぼっちにさせないでください」

「……はい」

 

 微笑みながら言われたそのお願い。

 それに対して、響はただ頷くだけしかできなかった。

 

 *

 

 昼休み。

 いつもなら未来たちと食堂や中庭で昼食をとっている時間だが、今日は食事を楽しめる気分ではなかった。

 

 今まで響は、奏の代わりになることが自分の使命だと信じてきた。

 だが──翼の戦う姿と慎次との会話を経て、それは違うのだと気づかされた。

 奏の代わりではなく、自分自身として、何を守りたいのか。それを考えるべきだったのだと。

 

 あのとき、自分はあの少女と話し合いたいと、そう思った。すぐに否定されたけれど、それでもその想いは消えていない。

 

 たとえ、それが無謀だと誰かに言われたとしても。

 

 自分は――話すことを諦めたくない。

 そう、強く願っている。

 

「響」

 

 唐突に、自分の名前を呼ばれた。

 右を向くと、ベンチには響の大切な親友、未来が座っていた。

 

「未来……」

 

「響、最近ひとりでいることが多くなったんじゃない?だから、心配になって」

 

 未来は、変わらない優しい笑顔を浮かべていた。

 まるで、何もかもお見通しだとでも言いたげに。

 

「そうかなぁ!? わたし、一人じゃ何にもできないし……。それに、この学校も未来が進学するから選んだんだよ?

学費もびっくりするくらい安かったし、だったらお母さんとおばあちゃんに負担かけずにすむかなって……」

 

 思わず、早口でまくし立ててしまう。

 心配をかけたくなくて、口から出た言葉。

 それでも未来は、変わらぬ笑みを崩さなかった。

 

「……やっぱり未来には隠し事できないな」

 

「だって響、無理してるの見ればわかるもん。みんなも心配してたよ」

 

 きっと“みんな”というのは、創世や詩織、弓美のことだろう。

 リディアンに来てからできた、大切な友達たち。

 

 

 本当は今すぐにでも、未来に全部を打ち明けたい。

 だけど、それができない今、話せるのはほんの断片だけ――それがもどかしかった。

 

「……ごめん。もう少し、一人で考えさせて。これは……

 わたし自身が向き合わなきゃいけないことなんだ」

 

 冷たく聞こえたかもしれない。けれど未来は、何も言わずに、そっと響の手を握った。

 

――あたたかい。

 

「ねえ、響がどんなに悩んで、苦しんで、考えて、答えを出して……。

 一歩前進したとしても──」

 

 未来はそこで、一旦言葉を切った。その先の言葉を必死に考え、噛みしめているように。

 

「響は、響のままでいてね」

「……わたしの、まま?」

 

 ぽつりと落ちたその言葉が、思いがけないほど深く胸に刺さる。

 思わず目を丸くし、言葉の意味を測るように未来を見つめる。

 

 まるで、心の奥底を見透かされたような気がした。

 いや、実際にはきっと……顔に、全部出てしまっていたのだろう。

 答えを出したつもりでも、そこに残った葛藤は隠せなかった。

 

 未来は優しく、けれど確信を持った目で頷いた。

 

「響はね、自分を責めがちだから。

 もっと強くならなきゃって、もっと誰かの役に立たなきゃって……。

 でも、そんなふうに追い詰めてる響を、あたしは見てるのがつらいよ」

 

 その声は、まるで囁くようでいて、心の壁を簡単に超えて届いてくる。

 響の瞳がかすかに揺れる。

 

「響は、響のままでいいの。優しくて、真っ直ぐで……少し不器用で、でも全力でぶつかっていく響。

 それが、あたしが好きな響なんだから」

 

「……未来……」

 

「だから、変わろうとするのはいい。強くなろうとするのも、もちろん応援する。

 でも、“自分じゃない何か”にならないで。

 響が響でなくなったら、きっと誰より悲しむのは、響自身だから……」

 

 その言葉は、過去に響が見失いかけた“自分”への、静かで、強い手向けだった。

 

 響は唇を噛みしめた。

 目元が熱くなる。

 わたしのままで、いいの? このままでも、誰かを助けられるの?

 そんな疑問が胸をかき乱すけれど──

 

 未来のそのまっすぐな眼差しが、確かにそれを肯定していた。

 

「ありがとう、未来。……なんだか、わたしのままでも、歩いていけそうな気がする!」

 

 彼女の言葉が優しく自分に教えてくれる。

 覚悟、というより、決意は固まった。

 強くなるのに自分を変える必要などない。答えはもう出ていたのだ。

 

「そうだ。流星群、見る? 動画に撮っておいたよ」

 

 話題が変わったことで、未来のやさしさがいっそう胸に沁みる。

 あの日、ノイズが出現したせいで未来ひとりに見せてしまった流星群。

 その様子を録画してくれていたなんて、想像もしていなかった。

 

 響は嬉しさのあまり身を乗り出し、未来のスマホの画面を覗き込む。

 だが、穴が空きそうなくらい凝視しても、画面は真っ暗なままだった。

 

「……なんにも見えないけど」

 

「うん、光量不足だって」

 

「ダメじゃん!」

 

 思わず吹き出す。

 心から笑えたのは、入学してから初めてかもしれない。

 自然と、涙が頬を伝っていた。

 けれど、それは悲しみの涙ではなかった。

 

 慎次と話していたときのようなものではない、所謂嬉し泣きというやつだ。

 

 

 

「今度こそは一緒に見よう、流れ星!」

 

「次こそは約束だからね」

 

「うん!」

 

 

 

 未来に礼を言った後、真っ直ぐ校門へと向かう。

 行き先は一つ、強くなるのにもっとも敵面と思われるところだ。

 

 

 

わたしが守りたいものを、ちゃんと守れるように。

わたしは――わたしのまま、強くなりたい。

 

 

 想いを胸に。

 

 *

 

 

 ──某所。

 それは、人里離れた山奥にひっそりと建てられた、朽ちかけた洋館だった。

 

 外壁には蔓植物が絡みつき、まるで蛇が這いずり回っているかのよう。

 薄汚れた壁面が、静かに積み重ねた年月を語っている。

 

 錆びついた扉を押し開けると、鼻を突くようなカビと埃の臭い。

 まともな人間なら、足を踏み入れたくもないような場所だ。

 

「来たか」

 

 その“ありえない場所”の中心に、雪音クリスが胡座をかいていた。

 彼女の傍らには、黒と白に彩られた一対の陰陽剣──異国の意匠を思わせる中華風の刃。

腰には、引き金一つで火を吹くよう改造されたハンドガンが装備されている。

 

 クリスがそう呟いた直後。

 彼女の死角から、ひゅっ、と小さな風を裂く音と共にナイフが届く。

 

 咄嗟に首を傾けてそれを回避しながら、クリスは即座にハンドガンをナイフの飛んできた方向へと向けた。

 

「油断はしてないみたいね」

 

「……何しに来やがった、原始人」

 

 首元すれすれにナイフを突きつけられながらも、クリスは一切動じず、フィーネを睨み返す。

 

「経過報告よ。それと、()()()()()()()

 

 フィーネはわざとらしく肩をすくめて笑う。

 

「貴女も、これから何をするべきか分からないのは……ちょっと、辛いでしょ?」

 

「いいから、さっさと要件を話せ」

 

 ぶっきらぼうに言い放つクリス。

 だがフィーネは、まるで小動物でも見ているかのように、柔らかな笑みを浮かべる。

 

 その余裕ぶった態度が、ますます不快だった。

 

「つれない子ね。……それにしても、その短剣……そう、()の遺品、貴女はまだそれを使ってるのかしら?」

 

 意味深な視線が、クリスの手元の銃と剣をなぞる。

 

「……貴女なら、それを使わない方がいいってことくらい、わかりそうなものだけど?」

 

 クツクツと魔女のようにフィーネは嗤う。

 

「……ッ!!」

 

 次の瞬間、クリスは身を乗り出してフィーネを床に押さえつけると、彼女の眉間に向けて、銃口を向ける。

 

「どう言う意味だ、テメェ……。」

 

「その剣は、彼と言う特殊な領域にあったからこそ、使い物になった物。

 貴女では使いこなせない。使う意味もない。

 貴女が本当に頭の良い子なら、イチイバルを使うべきだと、分かると思うのだけれど?」

 

 フィーネは耳元でくすくすと笑いながら、甘く、挑発的にささやく。

 彼女の口から言葉が溢れる度に、クリスの眉間に皺がより、感情の高まりとともに、指が引き金を絞り込んでいく。

 

「あの時に渡した、私からのプレゼント。

 そんなに使って貰っているなんて、嬉しいわ」

 

 ダン、と乾いた音が一つ。

 引き金が引かれ、銃弾はフィーネの頬をかすめ、彼女のすぐ横の壁に着弾する。

 

「……怖いわね」

「……黙れ」

 

 震える銃口を、熱を持っていることも忘れたように手で押さえながら、クリスは絞り出すように呟いた。

 

「……あたしのやることに、いちいち口を挟むな」

 

 吐き捨てるように言い放ち、クリスはフィーネをにらみつけた。

 その瞳の奥には、怒りとも悔しさともつかぬ感情が滲んでいる。

 

「シンフォギアの装者で厄介な風鳴翼は――もう始末した。

 結局、あたしの相手にもなりゃしなかった」

 

 その言葉は、自身に言い聞かせるようでもあり、

 まるで何かをごまかすかのようにも響く。

 

「融合症例だって、同じだ。……あんな奴、障害にすらならねぇ」

 

 少し間を置いて、鼻で笑うように続けた。

 

「人だから、止まれ? ……バカバカしいにも程がある」

 

 声にはもう怒りだけが宿っていた。

 

「人間なんざ、結局分かり合えない生き物なんだよ。

 “誇り”を盾に他人を殺す。

 命懸けで助けてくれた相手さえ、自分の利益のために平気で絞首台に送る」

 

 そこで言葉を切り、クリスはふっと目を細める。

 

「……そんなことも知らずに、ぬくぬく育った甘ちゃんなんて……

 最初から、相手にする価値もねぇよ」

 

 そんな彼女を、フィーネは静かに――けれど確かな熱を宿した眼差しで見つめていた。

 

 それは決して、嗜虐的な愉しみなどではない。

 もっと深く、もっと厄介で、逃れようのない感情――理解。そして、執着に近い共感。

 

 一人の男の遺した意思を、死後なおも抱えて進もうとする姿。

 その痛みも矛盾も、すべて噛み締めてなお、剣を取るという選択。

 

 滑稽だ。哀れだ。……だが、だからこそ――美しい。

 

「……そう。ならば、まずは食事でもしましょうか」

 

 そう言って、フィーネは怒りに震える少女の手を、ゆっくりと、名残惜しむように取った。

 まるで、その熱を手放したくないかのように。

 

 フィーネは本来、自分の思い通りにならぬ者を嫌う。

 だがこの少女は、違った。

 

 抗い、傷つき、迷いながらも、それでも立ち上がる。

 誰かの言葉ではなく、自分の信じた何かのために。

 

 ……あの頃の、そして今の自分と、同じだ。

 

 彼女が選び取った剣は、きっと呪いだ。

 それでもなお手放せず、むしろその呪いに救いを見出そうとしている。

 

 その姿は哀れだと思う。

 

 たが、ただもし……自分が彼女と同じ状況に置かれたとしたのなら、きっと自分も同じ事をしただろう。

 

 だから、思い通りにはならないのに、思い通りのようでもある。

 自分が作り出したものではないのに、どうしようもなく愛おしい。

 

「それじゃあ、話しましょうか。あなたとわたし、どちらが先に、すべてを赦せるのか」

 

 フィーネの言葉に、クリスは何も言わなかった。




本文で書こうと思ったけど、尺とテンポの都合で書かなかったことを後書きに書きます。

Q,なんで、クリスは弦十郎が来た時点で逃げたの?

A,フィーネから弦十郎はヤベェから戦わないように言われていました。
 もし、戦おうとした場合、ソロモンの杖を使えばある程度は戦えると思いますが、近くにいた了子さんを狙わないと不自然なので、それを避けた形になります。
 響に傷をつけたのは、了子さんが毒の検査をすると言う理由で、違和感なく響の身体を調べる為です。

Q,フィーネとクリスの関係は?

A,原作とは違い、クリスは余り執着していません。どっちかと言うと、ビジネスパートナー的関係となっています。
 フィーネ視点だと、思い通りにはいかないけど、ある程度シンパシーを感じているので、そこまで嫌われていないです。

 ただ、互いに相手をいつ見捨てても良いように行動しています。

Q, スタレコラボで士郎が処刑されたのが日本とか出てきてる

A,逮捕されたのは外国で、その後日本に引き渡され戦争犯罪人として処罰されました。
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