「我々の用意した、“ソロモンの杖”はどうだ?」
「へっ、自慢げに語るほどのモンかよ。
あんなモン、シンフォギアとやり合うには、到底力不足だろうが。」
乾いた声だった。
なのにその言葉の裏には、炎のような怒りと、憎しみと、諦めきれない執着が潜んでいた。
「そもそも、ノイズを倒す為に作られたシンフォギア相手に、ノイズで挑むなんて考えがナンセンスだろ。
やるんだったら、もっと簡単な方法が、幾つもあるだろう?
シンフォギアを装備する前の狙撃、毒殺。
人であるのなら、わざわざ正面切って殺す必要なんてねえだろうに」
吐き捨てるようなその声音には、明確な敵意がこもっていた。
「それをせずに、わざわざ“力”をぶつけに行くってのは──ああ、わかってるよ。
お前らも、フィーネも。どいつもこいつも、“力の優位”でなきゃ納得できねえんだろうな」
憎しみとも、呆れともつかぬ視線を投げつける。
場所は、都内の路地裏。
監視カメラの死角。人目が絶対に入らぬよう、何重にも仕組まれた“密談のための巣”。
そんな闇の奥で、クリスはカラスのように黒いコートに身を包んだ男を、睨み据えていた。
男はアメリカの非公式な工作員──“国のため”という正義すら持たぬ、ただの冷徹な装置。
フィーネとは裏で手を組む関係にあり、利だけを天秤にかけるような冷たい目をしている。
だが今日はそのフィーネを通してではない。
これは、クリス自身が仕掛けた“密会”だった。
「我々がフィーネに提供したのは、彼女のためでもあるし──我々自身の実験でもある。
相互利益にかなう以上、君のような小娘がどうこう口を挟む筋合いではないだろう?
それとも、そんなつまらない事を言う為に、我々をこんな所に呼びつけたのか」
男は冷ややかに返す。
その声には体温がなかった。まるで命の通っていない装置のような、無感情の応答。
その在り方に、クリスの胸の奥が、鋭い棘で引っかかれるように痛んだ。
まるで、人を人とも思っていない。
──なのに、それを“当然”とする眼差しに、憤りと同時に、どこか魂を削るような悍ましさが湧き上がる。
いや、それは自分も同じか、
「……んなわけねえだろ」
低く、濁った声が口をついて出る。
「こんだけ危険人物の存在をアピールしてやったんだ。いずれ、デュランダルの輸送作戦が行われる。
そん時に必要なモンがある。
あたし個人じゃ、手に入ん無いモンがな」
言いながら、クリスは懐から小さな紙片を取り出し無造作に男の胸元へと押し付けた。
折り畳まれた紙には行くの暗号化された物資コードと、その内容を示す極秘指定の品名が書かれている。
それは──通常ルートでは決して手に入らない“裏ルート”の品だった。
「……ほう。てっきり“聖遺物”でも要求するのかと思ったが……多少は現実が見えているらしいな」
男は紙を開き、目を通しながら微かに唇を歪めた。
あざけりでも侮蔑でもない。むしろ、興味を持った時にだけ見せる、微かな緊張感。
そして、その視線をじっとクリスへと向ける。
その瞳はどこか艶めいていた。
生きているのに死人のようで、なのに腐ることなく艶を残した──裏の世界に生きる人間特有の残酷な光を宿していた。
「だが、我々がこれを用意する理由は?
フィーネに協力しているのは一重に“利益”があるからこそだ。
日本との表向きの関係も、米国にとっては重要なファクター。
それを捨ててまで……貴様に手を貸す理由があるとでも?」
挑発ではない。
ただただ淡々と、論理だけで組み立てられた問答。
だが、その無機質さにこそ──クリスは、なおさら感情が燃え上がるのを感じた。
「……阿呆が」
クリスは吐き捨てるように言った。
その声は冷たく、けれど明確に怒りを孕んでいた。
「その程度の“対価”も提示できないと思ってんのか? 舐めるなよ」
睨む。
目の奥に、猛る火を灯して。
「知ってるんだぜ。──スノーフィールド。
お前らがあの都市で、何を目論んで、何をやらかして……そして、どうやって派手にコケたのか」
一瞬。
男の目がわずかに揺れた。
氷のようだったその表情に、かすかな亀裂が走る。
その反応に、クリスの口元がほんの僅かに歪んだ。
笑いではない。
怒りと皮肉と――人としての、悼みすら混じった、感情の滲んだ歪みだった。
「“観光都市”だっけ? ラスベガスの北の……人口八十万の平和な街。
確かに、表向きはそんなもんだな」
言葉の端々に棘があった。
そして、あくまで淡々と情報を並べるその態度が、かえって神経を逆撫でした。
まるで自分を値踏みするようなその視線に、クリスの奥底に沈んでいた怒りがゆらりと揺れる。
「……どこでその情報を得た?」
低く、乾いた声。だがその響きは明らかに鋭くなっていた。
「ふん。あたしがその程度、知れないとでも思ってんの?」
返す声は静かだったが、その裏に燃えているのは決して冷めない火だ。
それは怒りではない。――執念だ。
男がわずかに眉を寄せる。
クリスは一瞬だけ、その目を細めた。
ほんの数秒、彼女の頭に浮かんでいたのは――この場で始末する、という選択肢。
だがそれはすぐに打ち捨てた。
まだ、使える。使い倒すだけの価値がある。
「心配すんなって。言ったろ?ちゃんとメリットは“提示”するって」
そう言って、クリスはゆっくりと懐に手を入れる。
男の身体が微かに強張るのを、彼女は見逃さなかった。
だが、彼女が取り出したのは、銃でも刃でもない。
封のされた、薄い封筒一枚。
クリスは無言でそれを差し出す。
男は訝しげに受け取ると、ゆっくりと中身を覗いた――
次の瞬間。
「……ッ」
明らかに、空気が変わった。
表情が、硬直する。
沈黙が、妙に長く続く。
男はその中身を見つめたまま、まるで時が止まったように動けずにいた。
「貴様……どこで、こんなものを……」
かすれた声で漏れたその言葉に、わずかに恐れすら滲む。
クリスは冷笑を浮かべる。
「どこで?お前たちは知ってんだろ?あたしが誰に育てられたのか。
なら、知っていて当然だろう?」
「そうか……ならば、質問を変えよう」
男はしばし沈黙し、そして問い直す。
だがその声には、確信よりも困惑が混じっていた。
まるで、祈るように。
「これは……貴様がやったことなのか? 本当に?とても……貴様のような人間が、こんなことをするとは思えん……!」
クリスは肩を震わせ、喉の奥で笑いをこぼす。
それは嗤い――相手の善良さを嘲る、冷えきったもの。
「お前さ、自分が何に首突っ込んでるか、分かってないんじゃねえの?」
そこで、クリスは視線を真っ直ぐに向ける。
闇の中で、その双眸だけがぎらりと光を帯びる。
「“あたしにそんなことはできない”って、どの口が言ってんだよ。」
その声は、あくまで低く、冷静で――
けれど言葉の一つ一つが、鋭利な刃物のように胸を裂いた。
「じゃあ質問してやる。お前の育ての親が、ある日、旅客機に乗っていたとする。
でもその飛行機を、今すぐ墜とさなきゃ、数百人が死ぬ。……そんな状況に立たされた時、
――お前なら、どうする?」
返答はない。
男の口は閉ざされたまま、ただわずかに眉間に皺が寄る。
クリスは、続けた。
「……撃ち落とすんだよ。飛行機ごとな。
自分を育てた人間だろうが、恩人だろうが……見捨てて、引き金を引く」
その瞳に、迷いはなかった。
「そうするって、もう決めてる。
だから、今さら“あたしには無理だ”なんて、誰にも言わせねえ」
沈黙が場を支配する。
夜の路地裏にただ、都市の喧騒だけが遠く響いている。
男の喉が、ごくりと鳴る。
クリスの言葉が重く――まるで何かを突きつけるように、胸を圧迫していた。
「まあ良い。貴様の言っていた物は用意しておこう」
男のその言葉に、クリスはただ鼻を鳴らした。
*
「今、戻った」
玄関の自動ドアが開くと同時に、特異災害対策機動部二課――通称・二課のメンバーたちの視線が弦十郎に集まった。
「あっ、師匠! お帰りなさい!」
元気に駆け寄る響。あの日以来、彼女は弦十郎のもとで“修行”に打ち込んでいた。
走り込みに始まり、武術の型、さらにどこかのアクション映画じみた奇妙な訓練まで。
具体的には、毎朝四時起きで坂道を全力ダッシュ。朝食は玄米と味噌汁。そしてブルース・リーの映画を三本観賞してから、ようやく型の練習に入る――そんな、常識からすれば首を傾げたくなる内容だ。
だが、弦十郎は真顔でこう語る。
「強さとは、健全な生活と映画から育まれるものだ」と。
それがどれほど風変わりでも、響にとっては全てが“必要な修行”だった。強くなりたいという一心で彼女はひたむきに食らいついていたのだ。
「すみません司令、気づきませんで……」
控えめに声をかけたのは、オペレーターのスタッフの一人。
「いいさ。響くんにとっても、この手の話を知っておくのは大切なことだ」
弦十郎は肩の力を抜いてそう応じると、響と軽く言葉を交わした。
やがて、響がふと尋ねる。
「そういえば、了子さんの姿が見えませんけど……」
確かに最近の了子は研究に没頭しているのか、研究室にこもりきりだった。だが今日ばかりは、それが理由ではない。
「永田町だ。政府のお偉方に呼び出されてな。二課本部の安全性や防衛システムについて、関係閣僚へ説明する義務がある」
「うわぁ……やっぱり、何もかもややこしいんですね」
響の素直な感想に、弦十郎は思わず苦笑した。まったくもって、その通りだった。
「ルールを複雑にするのは、得てして責任を回避したがる連中さ。その点、広木防衛大臣はまだマシだが……」
腕時計をちらと見る。了子の戻りが遅すぎる。
本来なら、響との修行を終えた頃には戻っていていいはずだった。嫌な予感が脳裏をよぎる。
否定したいが、状況証拠は揃いすぎている。
「……了子くんの到着まで、もう少しかかりそうだな。今のうちに情報の整理をしておこう」
弦十郎の一声に応じ、朔也が即座に操作を開始する。
数秒ののち、モニターに映し出されたのは――
ネフシュタンの鎧を纏った一人の少女。
その姿が画面に現れた瞬間、室内の空気がわずかに引き締まる。
「彼女との交戦時、何か印象に残っていることはあるか?」
モニターを見据えたまま、弦十郎が問う。
「え、えっと……その、すごく強かったです」
響は少し戸惑いながらも、正直にそう答えた。
映像に映る少女は、静かに、無慈悲に、すべてをなぎ払っていた。
躊躇がない。感情もない。だからこそ、底知れない恐怖を感じたのだ。
「ああ。彼女の実力は高い。特に近接戦闘では、君たち装者の誰と比べても遜色ないどころか――上回っている場面すらあった」
そう評する弦十郎の声音は淡々としているが、鋭く分析する目には緊張の色が宿る。
「加えて、彼女が纏っていた完全聖遺物も――無視できない要素だ」
「かんぜん……せいいぶつ?」
響は素直に首をかしげる。その言葉を聞くのは、本当に初めてだった。
それを見て、弦十郎はふと呟く。
「そういえば、まだ話していなかったか……」
「“聖遺物”というのは、遥か昔に作られた異物。現代の科学技術では、解析も再現も不可能な――いわば、ロストテクノロジーの結晶だ」
語るその声は、どこか重く、響の胸にじんわりと染み込んでいく。
響は無意識のうちに身を乗り出して聞き入っていた。
「ただし、そうした聖遺物のほとんどは、時代を経て劣化し、損壊している。
断片しか残っておらず、その破片を加工して作られるのが……君たちの装者が纏う“シンフォギア”だ」
それは知っている。だが、目の前の司令の言葉は続く。
「だが――中には例外がある。
何千年もの時を、傷ひとつなく越えてきた“完全な”聖遺物が、存在する」
モニターに映る少女が纏っていた、あの異形の鎧。
それこそが、彼女が纏っていた「ネフシュタン」だ。
「それが、“完全聖遺物”だ。
損壊もなく、封印も解けた状態で現代に存在する……極めて危険で、そして強力な存在」
弦十郎の言葉は、静かでありながら力を帯びていた。
「シンフォギアが“破片”であるのに対し、完全聖遺物は“本体”だ。
出力も、適合者に与える力も――次元が違う。
文字通り、“神話の力”を現実に持ち込んだような代物だ」
その言葉の重みが、響の胸にゆっくりと沈んでいく。
そして、彼女の脳裏に蘇る――あの、少女の姿。
あれほどの力を、何の躊躇もなく振るっていた。
迷いも、戸惑いもない。
それが何を意味しているのか――今、ようやく響にも、言葉を越えて伝わり始めていた。
「確認できる限り、彼女は“三つ”の完全聖遺物を使用している」
弦十郎の言葉と同時に、オペレーターが操作を行い、モニターに三種の聖遺物らしき物体の映像が順に映し出される。
「詳細が判明しているのは、“ネフシュタンの鎧”ですね。
数年前、例のライブ会場でのノイズ出現事件で……何者かに持ち去られていたものです」
「ああ」
弦十郎は静かに頷く。
あの事件は、ただのノイズ出現ではなかった。
奏が命を落とし、翼は変わり、そして――響が装者となった。
歯車が、そこから回り始めたのだ。
まるで、誰かの手によって用意されたかのように。
弦十郎の目が鋭く細められる。
「偶然とは思えん。すべては、あの事件から繋がっている気がしてならない」
⸻
「……そうですね」
その言葉に、オペレーターは短く頷いた。
だが、響は何も言えなかった。
つい最近、装者として戦い始めたばかりの自分には、知識も、経験も、判断材料も足りない。
ただ、映像の中で見た“力”が恐ろしかった。
それだけは確かだった。
「済まない。少し話が逸れたな」
弦十郎は姿勢を正し、リモコンを操作して映像を再生する。
「この少女――彼女は、君を拘束した時と、翼と戦った時で、異なる聖遺物を使っているように見える。
注目してほしいのは、このシーンだ」
映像には、あの戦闘の最中――響が黒いノイズに絡め取られ、動きを封じられた瞬間が映し出されていた。
「普通、ノイズは出現と同時に周囲の生物に襲いかかる。無差別に、無感情に。
だがこの時――ノイズは君を“捕らえただけ”で、一切動こうとしていない。」
画面越しに見るノイズの異様な静止。
その光景に、響は無意識に背筋を正した。
「……これは、従来のノイズでは考えられない行動だ。
恐らく、彼女が用いていた聖遺物の一つに――“ノイズを操作する能力”がある。
この仮定に立てば、リディアン周辺で最近急増しているノイズの件にも、説明がつく」
そして――弦十郎の視線が、真っすぐに響を射抜く。
「もう一つ重要なのは、彼女が翼くんには“明確に殺意を持って攻撃”していたのに対し、
君には“拘束”のみで済ませているという事実だ」
言葉は静かだが、その内容は重い。
沈黙が場を支配する。
その意味が、心にじわじわと沈み込んでくる。
――自分は、狙われている。
「……私が、狙い……ってこと、ですか?」
震える声。だが、逃げなかった。
弦十郎は小さく頷く。
「ああ。その可能性は、極めて高いだろう」
誰も、軽々しく励まそうとはしなかった。
響が背負うには、あまりにも大きすぎる現実。
だが――その沈黙の中で、響はゆっくりと前を向いた。
⸻
「――大丈夫です。私、やれます。
そのために、師匠に鍛えてもらったんですから!」
声は、まったく震えていなかった。
不安も、恐怖も、確かにそこにある。けれどそれに負けず、彼女は前を向く。
目に宿る光は、今にも折れそうで――それでも、強かった。
その姿に、弦十郎の表情がわずかに和らぐ。
一般人だった少女が、自らの意志で立ち上がった。
今日まで、彼女は数えきれないものを見てきた。
ノイズに怯える人々。必死に戦い、ボロボロになりながらも立ち上がる翼の背中。
ならば、自分にできることをするのは当然のこと――
たとえそれが、棚ぼたのように手にした力であっても。
「そうだな……済まなかった」
弦十郎の声は、静かであたたかかった。
彼は大人だ。
だからこそ、子供の彼女が考え、決断したその選択を――全力で支える覚悟がある。
「では次に、彼女の持っていた二振りの剣について話そう」
「ハイッ! それって、どんな剣なんですか?」
響が勢いよく身を乗り出す。その目は真剣そのもので、知ろうとする強い意志がにじんでいた。
「――古代中国に伝わる、対となる宝剣だ」
弦十郎は画面の双剣に目を向けたまま、静かに口を開く。
「伝説によれば、鍛冶師・干将が妻の莫耶とともに鍛え上げた、二振り一対の名剣。
一振りは陽の気を、もう一振りは陰の気を宿しており、本来は離れていても互いの位置を感じ取ると言われている」
響は思わず息を呑んだ。
「……それって、まるで心が通じてるみたいですね」
「ああ。了子君によると、この二振りの剣は“誰かのために振るわれる時”に、本来の力を発揮するとされている。
逆に言えば、“強い情念”を源とする力だ。復讐、執着、愛情、使命……そのいずれかが込められた時、この剣は神話を超える斬撃を現実にもたらす」
弦十郎の声は、低く重い。
それは警鐘でもあった。
「彼女はその剣を、明らかに“想い”を込めて振るっていた。
――殺意という名の、確かな意志をな」
再び映し出される戦闘映像。
その中で双剣は、まるで意思を持っているかのように空を裂き、光を断ち、音を振り払っていた。
「了子君は干将・莫耶は、武器であると同時に――“感情の媒介”でもあると言っていた。
だからこそ、彼女がこれを使う意味は重い。……その感情が、何を向いているのかを見極めなければならない」
*
「――ふっはは……電話一本で予定を反故にされてしまったか」
皮肉めいた笑みを浮かべながら、広木防衛大臣は肩をすくめる。
秘書や護衛たちは憤慨した様子で資料を手にしているが、本人はまるで意に介さない。
それどころか2課の無遠慮なやり口さえ、どこか愉快そうにさえ思っているようだった。
「とはいえ――特異災害に対抗し得る、唯一無二の切り札だ。
私の務めは、あの連中の“勝手気まま”を、可能な限り守ってやることだからな」
政府内では異物として扱われる2課。
その最前線に立つ者たちを、彼はいつも後方から支えてきた。
ときに政治的圧力を跳ね除け、ときに組織の盾となって。
広木防衛大臣――彼は、忌避される異能の力を正面から受け止め、矢面に立ち続けた、数少ない理解者だった。
だが――
その背中に、やがて銃口が向けられることを、彼はまだ知らない。
このあと、彼はテロリストによって暗殺される。
フィーネの指示による計画的な排除。
理想のために、秩序のために尽力してきた男は、あまりにもあっけなく命を落とすことになる。
そして、その運命を変える者は――誰もいなかった。
*
自分から命を絶つ人間は、皆「死にたい」と思って死んでいくのだと、ずっとそう思っていた。
けれど――実際は、違った。
生きるという選択は、「生きたい」と「死にたくない」が、幾重にも重なって形を成す、曖昧で脆いグラデーションだ。
だから、人はそう簡単にそれ以外の選択――つまり死を、取ることはできない。
逆に、自ら命を投げ出す人間の多くは、「死にたい」とは本心から思っていない。
そう口にする者もいるかもしれない。だが、それは決して「本当に死を望んでいる」わけではない。
むしろ――
「生きていたくない」と、そう感じているだけなのだ。
将来に希望が持てない。
幸福を見出すことができない。
あるいは、到底背負いきれぬ絶望を抱えてしまった。
そうした人間の“生”への拒絶は、直接「生きたくない」とは出力されず、代わりに「死にたい」という言葉として現れる。
その違いに、どれほどの人が気づけるだろうか。
では――自分は、どちらの人間なのだろう?
喪失と絶望の果てに、もはや生きようとする意思さえ見出せず。
それでも、「約束」と呼ぶにはあまりに頼りなく、か細い執着だけを心の隅に残して、この世にしがみついている。
「……士郎……」
答えは、どれだけ探しても出てこない。
だが一つだけ、確かなことがあった。
携帯が震え、無機質な着信音が沈黙を破った。
その名を画面に見て、彼女はつぶやく。
「……なんだ、フィーネ」
彼女の懐に仕込まれた、禍々しい肉塊が――
ゆっくりと、律動を刻みはじめていた。
聖遺物の設定を上手くシンフォギアとfateで絡み合わせて書いていけば、面白い小説になるとは思うけど、そんな簡単に出来ない……(悲しみ)
一応、チャレンジ精神で今回の話で伏線を入れてみましたが、上手く伝えることは出来るのか。楽しんで頂けるのか。
ハラハラドキドキです。
因みにクリスの性格は元々はジェネリック士郎みたいな感じにしてみるつもりだったんですが、境遇を書いている内に気がついたんです。
これ、士郎じゃなくて切嗣だと。
その結果こんな感じの性格になりました。
まあ、現状そんなに変化は感じられないのかもしれませんが。
性格は微妙に変化させているつもりです。
とりあえず次回、天下の往来独り占め作戦。