プラネタリウム・ドリーム   作:ななしのあ

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ちょい短めかも


人肌に触れた

 またある日。

 夫婦は泉へと向かった。

 

 木漏れ日。

 木々を明るさを生み出し、泉を明るく深い色に染め上げる。

 

 宝石。

 夫は泉の底にある緑の宝石を見る。

 

 夫はその宝石を掴もうと手を伸ばす。

 

 その泉は間違いなく、青緑色をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 錨が水面に突き立つ。

 繋がれた鎖は唸りを上げ、まるで鞭のように水を切り裂く。

 振り回されるそれが湖の主の攻撃を受け流し、抉るたびに水しぶきが爆ぜた。

 

 

 突如現れた男、ラクスが湖の目の前まで迫る。

 地の上を歩きながら確実に敵の先手を潰す姿。大湖の上とは違えど、彼の得意とする相手に湖の主は入っていた。

 

 

 それでも手数はややあちらの方が上。

 流れるような動作で錨を振り回そうとも、流れ出る水を堰き止める事は出来ない。

 

 無数の泥人形が飛び掛かる。

 鎖の鞭がまとめて胴体を砕く。

 再び生み出された巨大な手を振り下ろす。

 赤い光によって切り裂かれる。

 水面の揺らめきから全てを貫かん限りの金色の弾丸が放たれる。

 宙を飛び交う男の翼を貫く。

「あー!!!」

 

 

「姫様! わりと限界です!」

 

「んー、話しかけんな。集中してる」

 

「申し訳ございません!」

 

 

(確実に動きを止められるとっておきは一度きり、ラクスの参戦で間違いなく隙は増えた)

 

 

 アポリオンは思考を巡らせる。

 

 

(ただ……即再生する巨大な手、未だストックが切れない泥人形。勝負に出るには怖い……ってとこか)

 

 

(なら……)

 

 

「ルモ」

 

「はい」

 

「あの池に突っ込んで」

 

「はい!?」

 

 

 驚愕。

 

 

「何やるかは大体分かってますけど……」

 

「それならほぼ確実にいける。聞いてる? 二人共」

 

 

 湖の上空で行われた作戦会議。その真下では

 水が破裂する音、鎖が擦れる音、何かが潰れる音。本来なら、まともに会話は出来ない。

 

 

「了解」

 

「アポリオン殿。あの水は劇毒だ。お主らを失うのは避けたいのだが」

 

「それ込みで大丈夫。ウチの体、そんなヤワじゃないから」

 

「同じくです。我々はこの程度では死にはしないですよ」

 

 

 その声はゲゼルシャフトを通じ、しっかりと四人へ伝わっているようだ。

 

 未だ怒り狂う湖の主。

 攻撃は苛烈になり、数多の弾幕と暴力が降りかかる。

 そんな中、遠く離れた場所から二人。

 

 一発しか入らない薬室に巨大な弾丸を装填する。その弾は青白く、触れれば熱をみるみると奪う。

 

 

「じゃ、いっちょやりますかね」

 

「……本当に最高速でやるんですか?」

 

「そうじゃないと逃げられるでしょ」

 

 

 アポリオンが拳銃を構える。

 それと同時に二人が落下する。

 重力によって加速した二人は一刻も過ぎぬまま、湖の水面まで到達。

 

 

「……!!」

 

「ハアッッ!!」

 

 

 湖の主の眼中へと辿り着き、銃弾が放たれた。

 

 

 湖の動きが全て止まった。

 

 

「流石」

 

 

 赤い光と共に凍った水面を駆ける影。

 

 

 —————。

 

 

 赤い光は湖の主の首を刎ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙。

 先程の騒音が嘘の様に止まる。あの泥人形達は糸が切れたかのように横たわるだけである。

 湖の中心にいるのは、赤い刀の黒い男。

 その隣には、確かに頭と体に分けられた氷の像がある。

 

 

「ハッ!」

 

 

 錨を持った男が氷を砕き、湖に突き刺す。

 

 

「……もうちょっと右」

 

「うむ」

 

「ああ、やっぱ左」

 

「うーむ」

 

「そうそう、んで前」

 

「……うむ」

 

 

 モルテムが指示を飛ばす。

 それを聞いたラクスが錨を弄る。

 

 

「……そこ!」

 

「……とうっ!」

 

 

 釣られたのは錨に絡まった二人。

 金色の水に晒された様子は泥だらけと言ったところ。

 どうやら、あの銃弾……氷結弾を放った後、そのまま勢いを逸らすことが出来ずに氷を突き破り湖に突っ込んだようだ。

 

 

「ガッッ! ゲホッ!」

「ぺっぺっ」

 

 

 二人……アポリオンとルモが咳をする。

 口にまで泥が入ったようだ。

 

 

「何コレ!? バカヒリヒリするんだが!」

「こんな泥パックあったなー、ずっと痛いやつ」

 

「……あの無駄に高かったアレか?」

 

 

 モルテムが渋い顔をする。

 

 

「アレなー、K社のお高いお店で買った化粧品だったんだけど……あんま合わなかったんだよねー」

 

「……数万眼を経費で落とした挙句ヂェーヴィチ組に買わせに行くのは止めてくれないか」

 

「何で姫様はそんな平気なんですか……」

 

 

 緊張が解けた会話。

 湖に異変は無く、決着と言った所か。

 

 

 その会話を聞き、ラクスが動揺する。

 

 

「?、どうしたラクス」

 

「……ひとまず、彼を」

 

「……ん?、ん、あ!了解、指示しよう」

 

 

 ラクスとモルテムはまた氷に穴を開け、錨を差し込む。

 

 

「前、いや後ろ……ああ行き過ぎ! 次右!」

 

「ううむ……」

 

「ああ左斜め後ろ、いやもうちょい前、そうそう、そこからちょっと右……」

 

「……モルテムってクレーンゲームとか下手?」

 

「あああ……そこ!」

 

「うむ!」

 

 

 錨を引っ張り出す。

 湖の奥深くから釣り上げられたのは謎の物体。

 概ね人間……と取れる形と、ソレが付けていた金属の部品の数々。

 

 

「あ! 最初に貧乏くじ引いた可哀想な奴!」

 

「あー! 忘れてた!」

 

「お前らの組なんだから労わってやれよ……」

 

 

 誰がどう見ても手遅れだが、二人は安堵を覚える。

 

 

「そっちでそいつは回収しておけ。プシュケさんに頼めば何とかなるだろう」

 

「おーけー。『左足』。来い」

 

 

 何処かから何かがやってくる音がする。モルテムは未だ顔色が悪いラクスに目を向ける。

 

 

「……で、どうした? ラクス」

 

 

 

「……この水、元が人間だ」

 

「……ふーん?」

 

 

 

 

 疑問。なぜこんなところに怪物がいるのか? 

 なぜ都市から追放されてないのか? 

 答えは単純。人間だから。

 

 

 そうかそうか、そう言ったモルテム。

 

 

 次に脳裏に浮かぶ疑問。なぜこうなってしまったのか? 

 そこで考えられるのは……特異点。

 ここK社はHPアンプルをはじめとする数多の医療技術やナノマシンを主な特産物とする。本来この湖と関わりは見当たらない。

 

 

 だが彼らは知っている。K社の特異点の根源、本来外に出るべきではない、出てはならない最重要の機密情報。

 オマケに、元来の人間の姿と呼ぶべきモノになった事務所の一員に、湖の主の異常なまでの生存能力。

 

 

 

 あの『涙』と、この泉が関係しているなら? 

 

 

 

 次第に顔色が悪くなる。

 

 

「……杞憂で済めば……」

 

 

 氷が割れる音がする。

 

 

「そうそう、ソイツ。頼んだよー。あーあ、銃も駄目になっちゃったなー」

 

「アポリオン殿。撤退だ」

 

「えっ!? まだ戦えるよ?」

 

「そうですよ、まだまだ手札はありますよ」

 

 

 ラスクに反抗するアポリオンとルモ。

 なされるがまま撤退をする。

 

 

「違う! これは水じゃない! 人間が溶けている!」

 

「えー? そんくらいなら平気だよ?」

 

「ち!が!う!俺らは手出しちゃダメな案件に手出ししちゃったのかもしれんってことだ!」

 

 

 

 ——氷の一部が完全に割れる。

 

 

 

 そこから出てくるは、再び形を取り戻しつつあるあの人影。

 

 

「うそ! 死んでない!」

 

「おかしい。頭は確実にモルテム様が切り落としたはず。何故?」

 

 

 徐々に人型へと戻りゆく。しかし、その姿は歪であった。

 

 

 

 ——胎児の様な姿へと再生する。

 

 

 

「……やられたな」

 

「……ああもう! 総員撤退!」

 

 

 付近がざわめき出す。

 割れゆく氷から逃げるように走り出す。

 

 巨大な胎児とも見れる姿となった湖の主は四人を睨むだけで何もしなかった。




次回で秘境の泉編は終了の予定
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