L社……ロボトミーコーポレーション。
12区に存在する翼。
主な業務はエネルギーの生成。エンケファリンと呼ばれるエネルギーを他の翼へと売り渡す事によって成り立っている。
エネルギー生成に伴い、環境を壊す煙も出さない。その上エネルギーも非常に安価。供給されるエネルギー量も尋常ではない量だ。
それ故にL社と協力関係を結ぶ翼は少なくない。K社もその一つであり、互いに利益を享受する取引相手である。
そんな顧客の翼の皆様に一々遠くから届けるのは相手も此方も手間だろう。
そこでL社は各翼に支部を設置。そこで生成されたエネルギーを直接L社へと送る事になった。
——ロボトミーコーポレーション
K-04支部
一日目
地下へと降っていくエレベーターは彼らを地獄へと運ぶ。
周りの同じ新人達は期待の目を輝かせる中、一人。どこか硬い雰囲気を見せる。
「どうした? 緊張してんのか?」
彼と共にエレベーターへと乗っていた赤黒い短髪の男が話しかける。
「……少しな」
黒い髪の彼はそう答える。
「まあ気持ちは分かるぞ。何てったってあの大企業である翼に入社出来たんだからな!」
「そうそう! 裏路地でゴミ同然の生活から翼の大企業での生活に早変わり!」
さらに隣にいた青い長髪の女が話しかける。
「……ここK社だけど……」
「それが何だ! ここが素晴らしい大企業である事に変わりはない!」
「はあ……これからお金で困る事もないだろうし……一気に人生の勝ち組……ってやつ?」
二人は意気揚々と話し続ける。
未だエレベーターは下がり続ける。
「……あー、アレンだ。前は……リウで働いていたが……何やかんやでここに入った」
「おっと! 確かに自己紹介がまだだったな! ベレットだ! 裏路地のちょっとした事務所にいた!」
隣にいた男はベレットと名乗り、
「私はモフ。金稼ぎの為にいろいろ生活してた」
さらに隣にいた女はモフと名乗る。
周りを見れば他にも数人、同じ環境下の人間がおり、それぞれが小話をしている。
「これでも戦闘経験はまあまあはあるからな! 昔組織にいた時……」
「私は色んな事務所に盗みに入ってたわね。まあ……狙う事務所がそもそもしょぼくれてるから大した金はないのだけれど……」
アレンは二人の武勇伝を黙って聞く。
***:特異点ネキ
テストテスト……聞こえてる?
「……へっ?」
「そしたら急に……どうした?」
「ねーリウって稼げてた? そもそも……」
「……すまん、しゃっくりだ」
「おいおい、流石に緊張しすぎじゃないか?」
「そうよ! リウ所属ならそこそこ腕は立つみたいじゃない! それなら……」
声。
周りには聞こえていない。つまり、ゲゼルシャフトから。
***:特異点ネキ
あれ? 知らない? 最近、脳に直接情報を伝達する形式ができるようになったんだよ?
***:特異点ネキ
緊急時は文字を読む余裕は無いからね。
かと言って現状の音声方式じゃアレン君が独り言ばっか言う変人になっちゃう。
***:特異点ネキ
そこで改良を重ね直接脳内に伝達出来るようになりました!
***:特異点ネキ
最初は文字から始まり音声へと変換出来るようになって遂には脳に直接……
***:特異点ネキ
……まあ、ここら辺にしていて。
就職おめでとう。アレン君。
「……そうして俺は黒い白虎と呼ばれるに至った……って訳だ」
「何で黒い白虎なのよ」
「バカお前、そりゃあ……」
唖然とするアレンに対し話に熱が入るベレットとモフ。
エレベーターは未だ下がり続ける。
***:特異点ネキ
これから貴方はL社で働いてもらいます。
***:特異点ネキ
出来る限りの事は手伝いますが、基本、ルナ事務所の助力は見込めません。
***:特異点ネキ
つまり死んだらそれまでという事。パニックぐらいなら何とか出来ない事も無いけど。
***:特異点ネキ
現状、ルナ事務所からL社に就職出来たのは貴方一人だけです。ここでの貴方の働きが事務所の命運を左右します。
***:特異点ネキ
相応の覚悟を持ち、業務に励んで下さい。
それでは、貴方の成功を切に願っております。
「……なもん、言われなくてもわかってんだよ」
「はあ!? アンタも私は金さえ積めば何でもする乞食女だと思ってんの!?」
「あ……いや……その……」
「いやー見る目があるなアレン君! 君とは仲良く出来そうだよ!」
変な地雷を踏んでしまった。
そう思った刹那、エレベーターが減速する。
「おー、大分地下深くまで来たな。何でだ?」
「さあ?」
エレベーターが完全に停止する。
***:特異点ネキ
そうそう、言い忘れてた。
エレベーターの扉が開く。
***:特異点ネキ
貴方の視界と音はゲゼルシャフトを通じて共有されています。……言い換えればライブ配信されているので。それを承知の上、頑張ってください。
……頭が痛くなった。
何処からともなく聞き慣れた音が聞こえてくる。
暖かみを感じながら無機質な装飾で飾られた室内。
間違いなく、今まで画面越しから幾度となく見てきた光景。
ロボトミーコーポレーション。教育チームのメインルーム。
新人達は全員そこに集められた。
「今回来た新人は7名か」
「こういうのは教育チームがやるべきなんだが……まあ、いいか」
男が愚痴を言った後、新人達の前に出る。
「歓迎しよう。私は情報チームの部門長、ジョシュアだ」
修行僧のような男……ジョシュアと緑の塊がくっ付いた男がいる。
「このk-04支部にはコントロール、情報、教育、安全の四つの部署に分けられている」
「今日、新人達には四つの部署にそれぞれ分かれてもらう」
修行僧の男が資料を見た後。
「アレン、ベレット、モフ。お前ら三人はコントロールチームに行け」
「おっ! まさかのだな」
「何でよりによってコイツらと働かないと行けないのよ……」
「はーいじゃあついてきてくださーい」
何処からともなく現れた巨大な四葉のクローバーを担いだ緑の髪の女性が三人を連れて行く。
一人は嬉しそうに、もう一人は嫌々付いている。最後の一人は何を考えてるのかよくわからない。
「次はスヌープとペスタ。お前らは……」
他の新人も指示を貰っていたが、何処に行ったのかは聞こえなかった。
長い廊下を歩いていく。
「はい、コントロールチームチーフのオリーブです」
この仕事場に来て真っ先に思いついた、率直な疑問。
廊下を歩きながら新人三人が質問をする。
「チーフと部門長って何が違うんだ?」
「絶対聞くのそれじゃ無いでしょ」
「そうだぞ! 何だそのクソデカクローバーは! って聞く所だろ!」
「え? 情報、教育、安全とあるのにここだけコントロールなのおかしくない? ……って事じゃないの?」
「お前ら……」
総ツッコミ?を喰らいながら質問するアレンとどさくさに紛れ追加質問をするモフ。
まさかの方向の質問にオリーブは困る。
「えーっと……部門長さんがそのチームの一番偉い人、チーフは中間管理職……って感じですね……。コントロールチームはそういう名前でって上が決めちゃったから……ですね……」
「ありがとうございます」
「まあ……社内の謎文化って所かしら?」
***:特異点ネキ
部門長は本部で言うところのセフィラに値します。本部では部門長が直接出向く事は無かったですか、支部では直接出向いてアブノーマリティの管理や制圧をする事もありそうですね。コントロールチームは……翻訳のズレです。
外部から情報共有がされる。
「……二人が変な質問しやがったから俺から聞かせてもらうが……その『ソレ』は何だ?」
巨大なクローバーと緑の翅の服を指差す。
一人……遅れて二人が息を呑む。
「そうですね……その前に、コレを見てもらいますか」
廊下の窓を見るように促す。
「何だ……アレ?」
「……人形? お札が付いているようだけど……」
「かなりデカい。人の数倍はある」
一様に巨大な人形の感想を述べた所で、オリーブがかしこまり、話し出す。
「ここ、L社のお仕事は……彼ら、アブノーマリティを管理し、エネルギーを抽出する事です」
「……怪物の世話をするのか?」
ベレットの勢いが削がれているのが分かる。
「そうです。アブノーマリティ。その名の通り説明が付かない正体不明の存在です。人知を超えた現象を引き起こし、人の命も軽々しく奪う存在」
エレベーターに乗り込む。
オリーブは続ける。
「しかしロボトミー社は彼らからエンケファリンと呼ばれるエネルギーを生成する事に成功、それ以降適切な管理マニュアルの元、彼らを適度に刺激しエンケファリンを生成し続けています。こちら……E.G.Oと呼ばれる装備もその副産物として生成された物です」
「じゃあお世話をしてあげればいいだけなの?」
モフは軽そうに言う。
上の階へと到着し、歩き始める。
「端的に言えばそれだけです。ロボトミー社には適切な管理方法が既に確立されている為、貴方達が失敗しなければ何の問題もありません」
「そりゃあ失敗したら酷い目に遭うっつってんのと同じじゃねえか……」
「……その辺りは身をもって理解するのが手っ取り早いですね。知った所で次があるとは限りませんが」
そうこうしている内に広い部屋へと出る。
「ここがコントロールチームのメインルームです。いい所でしょう」
黄色を基調にした部屋。棚には様々な物資が置かれ、何人かがソファーに腰掛け休息を取っている。
「ここK-04支部はK社の支援を受けております。その為、それぞれのメインルームには再生リアクターと呼ばれる自動治療機能が備わっております。他の支部ではそう取り付けられない優れ物なんですよ」
「かなり多くの人がここで休んでんな」
「ここで治療をしつつ他の職員とのコミュニケーションを図る……合理的だな」
「よく分かんないけど……福利厚生がしっかりしてるって事?」
「早速貴方達には仕事をしてもらいます。はいこれ資料」
三人に紙が渡される。
「これは貴方達の能力検査の結果です。勇気、慎重、自制、正義の四つに分けられています」
アレンは手元の資料を見る。
勇気2、慎重3、自制3、正義2……
「そこそこ高い……のか? おい、ちょっと見せてくれよ」
ベレットが覗き見てくる。
彼の資料は……勇気3、慎重1、自制1、正義2……
「高いのか低いのか分からないわね……」
モフも覗き見てくる。
どうやら……勇気1、慎重3、自制3、正義1……
「アレン高いな……」
「高いわね」
「皆さん全体的に優秀ですよ。本来全員ステータスが1が普通ですからね。だからこそここに配属されたのでしょう」
三人が訝しむ中、オリーブが話し出す。
「ここ、コントロールチームは先日のアブノーマリティの脱走により従業員が半分死にました」
「……はっ」
「ヒッ……」
「……と言う事で貴方達は即戦力として入った期待の新人です。はいコレ」
また紙が渡される。
「今日管理をしてもらうアブノーマリティの管理方法です」
「あぁ……? 『真鍮の雄牛』……?」
「うーん……『空虚な夢』?」
「……『足長妖精』」
「えー、この支部にはZAYIN、TETH、HE、WAWの四つの危険度のアブノーマリティが存在します。……まあ、大した支部でも無いのでALEPHは存在しませんけど……」
「……TETHだな」
「TETHね」
「……TETH」
「基本資料を読んでちゃんと管理すれば何の心配も無いですよ。ただ、ソレが貴方の命を奪う可能性は大いにあるとだけ伝えておきます」
オリーブが何処かへ歩き出す。
「ああ後……アブノーマリティを生物として扱っては駄目ですよ。アイツらと仲良くなろうとして死んでいった馬鹿を何人も見てきましたから。……では、私も仕事があるのでこの辺りで。廊下に出れば収容室があると思うので、そこに適宜入って下さい」
「あの……俺らの……E.G.Oってやつは?」
「今日、貴方達が頑張って生成するんですよ。しっかりお世話をしてエネルギーを沢山出せば、自然と用意できるようになってますよ」
「……ではお願いします。正直深刻な人手不足で私も忙しいんですよ。困った事があれば資料やら事務員であるオフィサーにでも聞いてください」
オリーブはそう言い、奥の部屋へと消えていった。
「……え? もう俺らだけで動けって?」
「そう……みたいね?」
「……行くか……」
彼らに残されたのは不安と困惑。
当初の自信はもはや見る目もない。
あまりにも適当、そう思わざるを得ない。
それでも、やるべき事はこの紙に書いてある。
「ああ、そのアブノーマリティ達は向こうの廊下にいますよ」
「ありがとうございます」
事務員……オフィサーから話を聞いて廊下を歩き、収容室の前へとやってきた。
「……まあ! なるようになれだ! ここで失敗してたまるかってんだ!」
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ベレットは収容室へと入っていった
「簡単な説明は受けたから……行ってくるわね」
「ああ」
[T-02-99の管理を開始します]
モフもまた、収容室に入っていった。
「新人研修って……もっと丁寧に行われるもんじゃ無いのか?」
***:特異点ネキ
入社の時に簡単にレクリエーションは受けてましたよね?
「受けてたけどさ……」
作業に必要な物質は持った。
行う作業は、本能作業。
[F-01-11-45の管理を開始します]
「まあ、やるしかない」
アレンは収容室へと入っていった。