あの騒動の後、アレンはベレットに会う事は出来なかった。
ではモフには会えたのかというと、そちらにも会えていない。もしやの考えが脳裏によぎる中、社内寮で一日を終える。
本来二人が入る予定の部屋には、誰も入っていなかった。
——ロボトミーコーポレーション
K-04支部
二日目
二日目。朝。
アレンは昨日貰っていたパンを食べる。
「おはよーございますー」
「おはようございます」
業務へと向かう途中オリーブに出会う。
今はE.G.O装備をつけておらず、オフィサーが着ているようなスーツ姿だった。
朝早くからも独特な気の明るさはそのままだ。
「今日も元気に働く……前に、やるべき事があります。ついてきて下さい」
そう言われてついていけば、たどり着いたのは厳重そうな倉庫。そこの扉のパスワードをガタガタと操作した後、扉がちょっとだけ横に移動した。
「えーと、これか。はい」
「……ありがとうございます」
手渡されたのは緑の翅が生えた服。
オリーブが昨日着ていた物と同じだった。
「それが貴方のE.G.O装備。『ねばつき』です」
「ええっと……ありがとうございます」
早速E.G.O装備を着ようとしてみる。
「それは昨日貴方が作業をして得たエネルギーから抽出されたE.G.Oです。自分の力で何かを生み出す経験はペーペーの時にしておいた方が……あ、スーツは脱いで下さいね」
そこら辺の物陰に隠れて服を脱ぎ、片付けた後に再びE.G.O装備を着る。
「……このベタベタしたのを着ないといけないんですが?」
「我慢してください。今回の新人三人のE.G.O装備着用担当は私ですから、着れたら見せてくださいね」
……新人三人?ベレットは無事なのかもしれない。
グダグダとしている内に装着できた。
「どう?初めてE.G.Oをつけてみた感想は」
「……悪くはないけど……気持ち悪いです」
「えーと……慣れ。その内気にならなくなるから」
そう言いながらオリーブはちゃんと着用できているか確認を始める。
……胴体に緑のゼリーがひっ付く。雨の中を通り抜け服がずぶ濡れになったかのようなひんやり感を感じる。どこか気色悪さを感じ、何となくやるせなくなる気分になる。
一通り確認をした後、オリーブが再び倉庫から何かを取り出す。
「はい、これが貴方の武器です」
手渡されたのは、想像通りの巨大な四葉のクローバー。
「これでお揃いですね」
「昨日入ってきたばかりの新人と同じ装備……ってだけ聞くと……私の数年って何だったんだろうってなりますよ」
「いやいや、経験の差は大きいですよ」
四葉のクローバーを手に取ると、その大きさ故の重さが手に伝わる。
葉っぱの重さで茎がしなり、気を抜くと体ごと持っていかれそうになる。
「……重い」
「それも慣れです。少し使っていれば自然と分かってきますよ」
うーんと頭を悩ませる。
「ほら、もうすぐ業務が始まりますよ。さっさと移動しましょう」
「……はい」
アレンは長い廊下をオリーブと共に歩く。
社員寮から業務先まではかなり離れている。安全面も合わせての考えなのだろうが、とても遠い。
「……えっと、他の二人は……」
「ああ、ベレットさんとモフさんですね。ベレットさんは医務室で治療を、モフさんは別行動をしてもらっていたので先に着替えさせておきました」
良かった。二人共生きてはいるようだ。
「多分モフさんは業務で会えると思いますよ。ベレットさんは……明日には会えると思います」
「……ありがとうございます」
二人は未だ長い廊下を歩く。
…………
……
……
(……気まずい)
無言。
昨日も思った事であるが、この廊下、とにかく長い。どうしようもないぐらい長い。
気まずくなり会話を試みるが、うまく話せない。
残念ながら彼、アレンは人見知りだった。
「えっと……」
「?どうしました?」
「あぁ……」
言葉が詰まる。
「……オリーブさんは、どうしてここに入ったんですか?」
「……え?私ですか?」
突然の質問にオリーブは少しうろたえる。
しかしすぐ持ち直し、話し出す。
「……私はですね、都市に輝く星になりたかったんです」
「……星……どうしてですか?」
「私は翼の中で生まれて、翼の中にある大学を出てここに入ったんです。その中で色んな事を見て来ました」
翼の中とはいえ、激しい競争に巻き込まれる事に変わりはない。裏路地には裏路地の悩みがあるように、翼には翼だけの悩みも、確かにあるのだろう。
「みんな、何かに縛られていたんです。お金や友人関係、プライドに学歴。人によって抱えている物は違えど、みんな何かに縛られているんです」
「……」
「でも、あの星々は違う。誰かに縛られる事無く、好きな場所でいつまでも輝き続けている。夜が明けても日が沈んでもお構い無しに都市を照らしている」
「私はそんな星を、この都市で最も自由な存在だと思ってます」
「だからこそ、この都市でもっと偉くなって、自由に生きる為に、このL社に入ったんです」
おそらくオリーブはこのL社を人生の終着点ではなく、更なるステージへの一歩と考えているのだろう。
「……俺は……」
アレンはオリーブの言葉を聞き届けた後、静かに言葉を発する。
「……この都市は、巨大なプラネタリウムだと思っています」
オリーブは彼の言葉を静かに聞く。
「日々新しい星が作られ、また新しい星が堕ちる。まるで都市が夢を見ているように」
「その星のどれもが、都市を謳歌していた」
「俺は、オリーブさんがこの都市で輝く星になれると信じてます」
「……ありがとうございます」
オリーブは少し微笑む。
「……少し湿っぽくなっちゃいましたね。ほら、今日も業務を頑張りましょう!」
あれだけ長かった廊下が終わろうとしている。
「そうですね、今日も頑張りましょう」
アレンとオリーブは今日も業務を開始した。
***:特異点ネキ
私は……あの星々が、自由なのかと聞かれたら……
……とてもそうは思いませんけどね。
しちゃった…タイトル回収…