プラネタリウム・ドリーム   作:ななしのあ

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L社通勤二日目-2

「あ!アレンじゃん!」

 

「……!!モフか!」

 

 

 業務が始まった後、モフと再開した。

 その身体にはふわふわの白いウールに包まれ、変な鶏の頭を拳につけている。

 

 

「……その鶏の頭は?」

 

「聞くな」

 

「……えっと……」

 

「聞くな」

 

「……」

 

 

 感情を全て消しただそう答えるだけのモフ。

 気を取り直し、本来聞きたかった事を聞く。

 

 

「無事だったか?あの後何が……」

 

「あー、えっと……」

 

 

 アレンは息を呑む。

 

 

「寝てた」

 

「寝てた???」

 

「えーと、『空虚な夢』の管理は無事終わったけど……そのあとどこからか飛んできた星?にぶつかって……気づいたら寝てた」

 

 

 ***:特異点ネキ

 良かったですね。バグで起きれない、とかが無くて。

 

 

「オリーブさんに起こしてもらった時には、もう業務が終わってて……」

 

「はぁ……」

 

「その後オリーブさんと明日の業務の用意をしてたね」

 

「……まあ、無事なら本当に良かった」

 

 

 アレンは安堵する。

 

 

「……そういえば、ベレットはどうなったか知っているか?」

 

「あー、あいつ?業務ミスってあの牛に腹踏まれて血吹き出したって」

 

 

 想像以上に痛々しかった。

 

 

「……生きているんだよな?」

 

「らしいよ」

 

 

 ひとまず、全員の無事は取れた。今日も生きている事に感謝し、業務を……

 

 

「……でも、他のチームに行った新人がかなり死んだって。もう昨日来た新人の中で生き残っているのは私達ともう一人だけらしいわ」

 

 

 ……業務を開始しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、今日の担当ね」

 

 

 モフと別れた後、オリーブから資料が渡される。

 担当するのは、あの牛。

 

 

「『M-01-11-07』……『真鍮の雄牛』か……」

 

 

 昨日ベレットが管理を失敗して、脱走させた個体。

 もし失敗したら、彼のように医務室送りへとなるのだろうか?

 それとも、医務室に行く前に死ぬのだろうか?

 

 

「……そこまで怖がる必要は無いと思いますよ」

 

 

 ……資料を読む限り、難しい事は書いていない。

 足長妖精の時と同じく、本能作業で良さそうだ。

 

 

「ではお願いしますね。私は今日も色々と回らないといけないので。あ!昨日みたいに迎えには行かないので、作業が終わったら勝手にメインルームに戻っておいて下さい!」

 

 

 そう言い残し、オリーブが何処かへと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 [M-01-11-07の管理を開始します]

 

 収容室へと入る。

 そこには、メインルームへと入ってきたあの赤い牛がいた。

 その体は赤く熱された真鍮に包まれ、その口の中には人がいる。

 その牛がこちらを認知すると、切羽詰まった様に話し始める。

 

 

「そこの人!どうか!水を一口だけでも、水を一口だけでもちょうだい!」

 

「……やろう」

 

 

 持って来た水を牛の口に近づける。内部にいる人の口からふさまじい熱気が吹き出し、顔に掛かる度に汗が溢れ出す。

 コップの中から流れ出た水は、中にいる人の口に入るが、喉を通る前に蒸発した。

 喉を潤す事が出来なかった人間は苦痛を露わにし、牛が暴れ回る。

 

 

「あっつ!」

 

 

 牛の体当たり。それはアレンの体を焼く。

 しかし、今の彼にはE.G.O装備がある。それのお陰で彼へのダメージは……

 

 

「なんか……メインルームであった時より熱いんだけど……」

 

 

 ***:特異点ネキ

 ……多分、その装備。REDダメージ弱点ですね。

 

 

 ……。

 

 

「まずいまずいまずい死ぬ死ぬ死ぬ!!」

 

 

 焦り出す。暑さからと焦りからか、汗が止まらない。

 

 

「はいはい水やったから作業終了出る!」

 

 

 アレンが収容室から出ようとする。その道中でコップの中の水を飲む。

 

 

 ***:特異点ネキ

 あっ……

 

 

 牛が絶叫するように泣き叫ぶ。

 

 何故お前が喉を潤す事が出来るのに、私は水に触れる事すらままならないのか。

 何故私はこの牛の中で苦しまなければならないのか!

 

 その叫びには、そんな身を焦がす憤怒が含まれていた。

 

 

「!!まずっ!」

 

 

 収容室の扉が破壊された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——ッッッ!」

 

 

 牛の突進を巨大なクローバーで抑える。

 壁に叩きつけられながらも、クローバーがしなり雄牛の一撃を逸らす。

 

 

「ブモオオオオオオォォォォ!!!」

 

 

 First Trumpet。脱走したのはもちろん真鍮の雄牛。

 

 

「ッ、クソッ!」

 

 

 悪態をつきながら、彼はクローバーを振り回す。

 うまく雄牛の頭突きをいなせているようだ。

 

 

「オラッ!」

 

 

 牛の頭部目掛けてクローバーの葉っぱを突き出す。クローバーの葉っぱが牛の頭部を破壊しようとまとわり付く。

 

 

「モオオオオ」

 

 

 そのまま牛の頭部を抉ろうとするが、徐々にクローバーが黒く焦げていく。アレンは力強くクローバーを振り回し、牛の頭部を揺らし続ける。

 

 

「アブノーマリティが脱走って聞けば……コイツ前にも脱走してなかったか?」

 

 

 膠着状態。そこに現れたのは、緑の塊を身につけた男。

 

 

「おい、そのまま抑えておけ」

 

 

 彼の持つ棒の先端に緑の塊が現れ、牛の胴体へと振り下ろされた。

 ふさまじい衝撃と共に雄牛の体は二つへと割られた後、熱い蒸気を放ち前に見た卵の姿へと変わっていた。

 

 

「おい、大丈夫か」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 

 紺色の髪の男。初日に見かけたあの緑の服の男。

 

 

「……お前、新人か。よくもまあ生きてたもんだ」

 

 

 その男が驚いている。どうもこの支部で新人が生き残るのは珍しいらしい。

 

 

(思い当たりはあるが……)

 

 

 アレンも先程焼き焦げる所であったが故に、この支部の殉職率に納得がいく。

 

 

「俺は情報チームチーフ、サンチェスだ」

 

「……先日入って来たアレンと申します。助けていただきありがとうございました」

 

「ああ。とりあえずは情報チームのメインルームへと向かおう。お前もかなり傷ついているからな」

 

 

 サンチェス。彼はそう名乗り、メインルームへと連れて行ってくれた。 

 

 

 

 

 

 

 

 情報チームのメインルーム。

 そこに設置された再生リアクターが彼の身を癒す。

 

 

「REDダメージ弱点のE.G.O装備を付けてREDダメージを与えるアブノーマリティの作業をした?」

 

 

 とある男に激詰めされる。

 初日の最初に出会った男、情報チーム部門長、ジョシュア。

 

 

「どこにそんな馬鹿な指示をする職員がいる?コントロールチームと教育チームは何をしている?……一度全職員の点検を行う必要がありそうだな」

 

 ジョシュアは黒髪に僧衣を纏っており、その右手には六つの輪っかが付いた錫杖を手にしている。やはり修行僧、と呼ぶのがあってるだろう。

 

 

「お前も気をつけろよ。ちゃんと自分の着ているE.G.O装備の耐性とアブノーマリティの属性は把握しておけ。今回は奇跡的に助かったが、次はどうなるか分かったもんじゃない」

 

「ハイ……」

 

 

 勢いに圧倒されるアレン。それを横目にジョシュアは資料を運んでいる。

 

 

「最近コントロールチームの職員のミスが目立つな。昨日今日とM-01-11-07の脱走がし、最近あったD-04-108の事案も……」

 

 

 ***:特異点ネキ

 そういえばあの雄牛、涙を流していませんでしたね

 

 

(うん?)

 

 

 ***:特異点ネキ

 気づきませんでした?あの水色の涙を流していなかったじゃないですか。

 リンバスでの個体はK社が好き勝手に実験した結果の個体なんですよ。

 

 

(そうだっけ?)

 

 

 ***:特異点ネキ

 識別番号にTEARの文字もありませんし、アイツこそが正真正銘の真鍮の雄牛なのでしょうね。

 

 

「……とりあえず、今日の業務はこれでお終いで大丈夫だ。一度コントロールチームのメインルームに戻るといい」

 

「アリガトウゴサイマス」

 

 

 情報チーム部門長に一礼をした後、とぼとぼとコントロールチームのメインルームへと歩き出す。

 

 

「……うまくいかなかったな……」

 

 

 ***:特異点ネキ

 毎日上手くいくとは限りませんよ。まあ、明日はちゃんとして下さいね。

 

 

「ハイ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 コントロールチームへと戻り、メインルームでくつろぐ。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 二日目となったが、未だ業務は慣れない。自惚れではあるかもだが、この都市に来てそこそこの死線を潜り抜けてきた自負はあったが、本質的な恐怖が違う。

 

 それは死んでも生き返れない、失敗できないという重圧も確かにあるのだろうが、アブノーマリティと接する事と都市を転がり生き延びる事とでは明らかに恐怖のベクトルが違う。

 

 

「……!」

 

 

 ふと、ポケットの中を探る。すると、何かが入っている。

 四葉のクローバー。E.G.O装備を着る時に服と一緒に洗濯に出してしまった筈が、何故か今ポケットの中に入っている。

 

 

「……そういえば、ポケットに入れっぱなしだったな……」

 

 

『どこかのポケットにも入れておきなさい。きっと貴方の助けになってくれるよ』

 

 

「……昨日もここで、今と同じぐらいの時間にイザベルさんと出会ったな……」

 

 

 足音。

 

 ハッとして音のする方を見る。そこには……

 

 

「……モフ」

 

「……何」

 

 

 モフだった。先程と変わらず、ふわふわの白いウールと手に変な鶏の頭を付けている。

 ……一つ、違いがあるのなら……。

 

 

 

顔に張り付いた巨大な黄色のお札だろう。

 

 

 

「……その、顔に張り付いた……」

 

「聞くな」

 

「……あの」

 

「何も、聞くな」

 

 

 そのお札はきっと、慰めとして貼り付けられたのだろう。

 ……誰も泣かぬように、と。

 

 今日の業務が終了した。

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