「ッ、全員!アレに近づくな!」
二次被害を増やさないようオフィサーに声をかけるアレン。
寄生樹により苗木へと変貌した職員。鳴り響くトランペット。間違いなく非常事態である。
これ以上被害を増やさないために、即刻破壊を試みる。
「ッツ!」
巨大なクローバーがしなり、苗木を薙ぎ払おうとする。
「……ッ、効きが悪い……!」
……確かに苗木に傷は入りはするが、へし折るまではいかない。
「……なら!」
アレンはクローバーを引き、苗木に向けて突き刺さそうと……
——ッ!
瞬時に後ろへと後退する。その直後、苗木から謎のガスが噴き出す。
「……口を塞げ!今すぐメインルームから退避しろ!」
それを聞いたオフィサー達が慌てて何処かへと逃げていく。
「……クソッ……」
苗木一つにかなり手間取っている。他のチームで何が起こっているのかがわからない以上、コレを生かしておくのは余りにも危険だろう。
アレンが口を塞ぎながらクローバーを振り回そうとすると——
「オラアッ!!」
後方。誰かが苗木の後ろから飛び掛かった。
その熱された拳は、苗木を完全に破壊した。
「ベレット!!」
「アレン!生きてたか!」
あのマタドールがアレンの前に現れる。
「ベレット、あのガスは……」
「ああ?大丈夫だ!この通り……」
「大丈夫な訳ないでしょ!ちょっと来なさい!」
聞き覚えのある声がもう一つ。
「モフ!無事だったか!」
「はいベレット!精神中和ガス持ってきたからコレ吸って!」
「おお、ありがとな」
そこには、モコモコ姿のモフがいた。
……相変わらず鶏の頭と巨大なお札を付けている。
「モフ。何が起こっている?」
「分からない。ただ……寄生樹の脱走としか……」
[あ、あ、あー、聞こえてる]
「……え?」
どこからともなく聞こえる声。
(ゲゼルシャフトか?)
***:特異点ネキ
……スピーカーからですよ。
ふと顔を上げる。スピーカーから声がする。
[えーと、そこの三人。聞こえてる?]
「……俺らの事か?」
ガスを一通り吸い終わったベレットが話す。
[そうそう、そこのコントロールチームのメインルームの三人組]
「……やっぱり俺らの事みたいだな……」
[詳しいことは省かせてもらうが、この支部の管理人だ。今から君達に指示を飛ばす]
「唐突だな」
「唐突ね」
[寄生樹の脱走個体は5体。1つはスヌープ君が、2つはメイベル君が、先程君達が1つを破壊してくれた]
[そこで君達には後一つ、教育チームにいる苗木を破壊してほしい]
「……従うか?」
「他に動けそうな事もねぇし、良いんじゃねえか?」
「……そうね。教育チームに行ってみましょう」
[ありがとう。君達の健闘を祈るよ]
三人は走り出した。
情報チームの廊下に佇む老婦人。
「これは……酷いことになったわね……」
コントロールチーム部門長、イザベル。
非常事態ではあるが、その余裕は崩れていない。
「こんな騒動があれば……必ずと言っていいほど、貴方が来るのよね」
銀色の取っ手を掴み、構える。
「私は貴方とは相性が良くないのだけれど……」
——廊下の奥から、何かが高速で地面を這うように進む。
人型。その者は全裸であり、細長い手足を奇妙に動かし此方に向かってくる。
痩せ細った体とは裏腹に、腹だけは膨れ上がっている。
「D-01-110。風雲僧。悪いけど、今は構ってあげられるほど暇じゃないの」
「南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」
ソレはまごまごと何かを口ずさみながら、地面に長い爪を食い込ませる。
前傾姿勢。腰を下げ、脚に力を入れる。未だイザベルとの距離は離れているが、おそらく瞬きを一つする間に距離を詰める事が出来るだろう。
「……他も忙しいみたいね。援軍は期待出来ない、って所かしら」
迎えるはピアノに恋をし、月を夢見る。そんな俗世に生きる煌びやかな老婦人。
対するは悟りを求め、修行を重ねる僧が、悪鬼に惑わされ堕ちる所まで堕ちた哀れな餓鬼。
「じゃあしょうがないわね……。貴方に向けて……報告書の言葉を引用させてもらおうかしら」
「魔羅汝不極樂往生。貴方は、極楽浄土には行けない」
餓鬼の口が大きく開かれた。
「……安全チームの部門長は何をしている……!」
情報チームのメインルーム。そこにいるのは……
「知りません。連絡がつかないです」
コントロールチームチーフ、オリーブ。
装備しているE.G.Oは『ねばつき』。
「アイツそろそろクビになるんじゃねえの?」
情報チームチーフ、サンチェス。
装備しているE.G.Oは『たぷつき』。
「あんの馬鹿野郎……!何度言えば……!」
情報チーム部門長、ジョシュア。
装備しているE.G.Oは『阿弥陀』。
そして、現在情報チームのメインルームを牛耳る、一体のアブノーマリティ。
「『T-02-11-04』……『衝撃ムカデ』……」
とぐろを巻き、此方を赤い瞳で睨みつける一体の巨大ムカデ。アレは己を蛇か何がだと思っているのかは分からないが、アレも蛇と同じく『狩る』側なのだろう。
「最近この支部に入ってきたばかりのアブノーマリティ……。どのような性質を持ち合わせているかよくわかっていません」
「だから部門長の俺が来たんだろ。気を引き締めておけよ」
「嫌でも分かってますよ」
サンチェスが姿勢を整えた後、衝撃ムカデに飛び掛かる。
「ハアッ!」
彼の持つ棒の先端に巨大な緑の塊が作られ、それをムカデを纏う金属の鎧へと振り下ろす。
ガギィィィィィィィン!!!
甲高い音と共にムカデの姿勢が崩れかける。
「!!」
その隙を逃さず、ジョシュアは飛び掛かりムカデの頭に錫杖を突き刺す。
……しかし、ムカデの体制は崩れない。
「ヤァ!」
オリーブがクローバーを振り下ろした瞬間、ムカデはとぐろを解き、クローバーを避ける。その後、ムカデは無数の足を動かし体を所々宙に浮かせながら動き回る。
「ッ!早い!」
辺りを縦横無尽に駆け回る。ムカデの体に刺さった釘に電気が走る。
そして——最も痛手を負わされた敵に標的を向ける。
「!!サンチェス!離れろ!」
彼は既にあの百足の間合いに入っていた。
「な……!」
「!!サンチェスさん!」
「バカ!離れるぞ!」
ジョシュアはオリーブを掴み遠くに離れる。
その直後、サンチェスの体にムカデの胴体が巻きつき——
——桁違いの電流が、メインルームを駆け巡る。
「……!」
黒焦げになった男。おそらく、ジョシュアがオリーブを引っ張らなければ、彼女も黒焦げになっていただろう。
「チッ……」
「サンチェスさん……!」
ムカデは黒くなった人間を放り投げた後、一人しか仕留められなかった事に首を傾げる。しかし、やる事は変わらない。
あの