コントロールチームのメインルームからエレベーターを使い、教育チームへと向かう新人三人。
「……いた!」
教育チームのメインルームに、あの苗木が居座っている。
「変な事をされる前に……」
「分かって……らあ!」
ベレットがすぐさま飛び掛かり、あの苗木へと殴りかかる。
幹が大きく損傷するが、まだ立ち続けている。
「ほっ」
すぐにアレンも追いつき、クローバーを突き刺す。
クローバーの葉っぱが苗木に食い付いた瞬間。
「おりゃ!」
クローバーを振り回し、根こそぎ抉り出す。
そのまま宙を舞った後、地面に叩きつけられた苗木は完全に破壊された。
[……よし。コントロールチーム1体、情報チーム1体、教育チーム1体、安全チーム2体の苗木の鎮圧を確認。それに伴い、『寄生樹』の沈静化、確認。よくやってくれた]
スピーカーから感謝が伝えられる。
「よし!じゃあ次は何をすれば良いんだ?」
「待ってベレット。その前に……」
次の指示を待つベレットとは対照的に、モフは未だにスピーカーの声に懐疑的なようだ。
「管理人……と言ったわね?私はまだこの支部に来たばかりの新人だけれど、貴方の存在なんて何も聞いていない」
「私がやってきた業務は全て、各チームのチーフさんか部門長さんからの指示でやってきたわ」
「……貴方がこの支部の管理人として、常に指示を出していればこの事故を防げたと思うの」
「答えなさい。どうして今まで指示をしていなかったの?」
[……うーん]
スピーカーが声を唸らせる。
[……働きたく無いから?]
「……は?」
「うぇ?」
ベレットとモフが声を漏らす。
[上からの指示がある以上、やらない訳にはいかないんだけど……この仕事をすればするほど、『俺、何やってんだろう』って思えてくるんだよね]
[だから俺は概ねの業務内容だけ作って、その後の事は部門長達に丸投げする事にしたんだ]
[まあ、それで支部が潰れそうになったらこうやって直接指示するけどね]
「……はぁ?」
モフの声に強い怒りが滲む。
「……本来貴方がしっかりと働いていれば、救えた命もあった……って事でしょ……」
幾つか気になる点はある。
あまりにも高い新人の殉職率。相性の合わないアブノーマリティとの作業。アブノーマリティ脱走と比べ、明らかに条件が厳しい職員死亡による非常事態レベルの引き上げ。
部門長やチーフを通して指示が飛んでくる以上彼らの点検も入るのだろうが、完全にミスを防げる訳では無い。
人が死ぬのはさほど問題ではない。
そう暗示しているようだった。
「貴方が!業務を全うしていれば!ここで死ぬ人が……」
「それに何言っても無駄ですよ……」
教育チームのメインルームに入ってきた職員がモフを宥める。
蔦と葉っぱの装飾がされた緑と黒の服。その手には緑に包まれたクロスボウが握られている。
「あ!初日に俺を助けてくれた人!」
ベレットがそう叫んだ後、濃い緑の髪の男が言葉を紡ぎ始める。
「『どうせ人が死んでも翼のブランドがある以上、いくらでも人は入ってくる。そもそも、死にかけの人間を助けた所で寿命が数日伸びるだけ』……でしたっけ」
[……彼が言ってくれた通りだよ]
「……何よ……この職場……」
[モフ君。君は確か、より多くの金を稼ぐ為に此処に来たのだろう?]
「……でも……」
[勿論、此処で働く以上、給料は弾もう。君もそれで満足だろう?]
「……」
モフが黙ってしまった。
「あー……管理人さん。ちょっと黙ってて下さい。……モフさん、私はこんなカス管理人の代わりに職員の命を守る、安全チーム。その部門長をやらせてもらっているメイベルです」
「……まぁ、私のせいでこんな大惨事になってしまったんですが」
メイベルはそう付け加えた。
「俺があの牛に踏まれた時、この人が助けてくれたんだよ」
「そうだったのか」
どうやら、ベレットの治療をしていたのはこの男のようだ。
彼、メイベルはモフの目の前に移動する。
「モフさん。貴方は間違っていない」
「このカスみたいな職場で、ゴミみたいな死に方をする人間を一人でも、一日でも長く生かせてやれるなら」
「その気持ちは安全チームの職員が必ず抱かないといけない心得のような物です」
「……」
「是非、共に安全チームで働いて欲しいですね」
メイベルはそう言い残した後、体を翻しスピーカーへと話しかける。
「……管理人さん、今のアブノーマリティの脱走状況はどうなっているんですか?」
[……]
「……管理人さん。拗ねないで下さい」
[……風雲僧はイザベルが対処中。衝撃ムカデはジュシュアが先導となり対処しているが苦戦中、そして……]
安全チームの方向から、メインルームの扉が破壊される。
「ッ……」
「ぁ……!」
「ひっ……」
そこから入ってきたのは、巨大な人面の黒鳥。二つの人間の頭部が融合した、二の口と鼻、三の青い目をもつ金髪の髪を垂らした女性。
青白くなった皮膚に首元にあるオレンジ色の飾りから胴体にかけて生えた黒い羽。人の背丈はある巨大な黒い傘を持ち、奇妙なオレンジ色の足を動かしている。
[『F-02-70』、『黒鳥の夢』]
黒い鳥が、彼等の目の前に迫る。
三つある中で最も大きな目が三人を視界に入れた後、手に持った傘を……
「そぉい!」
傘が、傘によって弾かれる。
黒鳥の前に割り込んだ男は、茶色のレインコートに身を包んでいた。
「ハァァ!!」
黒鳥の後ろから、更に一人。
あの黒鳥が持っている傘によく似た物を、黒鳥の胴体に突き刺そうとする。
「……!!」
「……チッ」
黒鳥がすぐさま後ろを向き、傘を広げる。それを見た女はすぐさま退き、メイベルの付近へと走ってきた。
黒鳥は女が下がったのを確認し、レインコートの男に傘を向ける。
男は反撃する事なく、ただ黒鳥を睨んでいる。
「……例の新人三人か!」
「そうですよ……貴方は興味ないと思いますけど……」
「は!寧ろ興味しか無いが!」
黒鳥が此方に向けていた傘を閉じる。
……黒鳥の首に、ネックレスが掛かっていた。
「えっと……どちら様?」
アレンは困惑しながら質問をする。
「教育チーム部門長!ローザだ!」
黒鳥に似た装備をつけた女はそう答え、
「教育チームチーフ!アカシアだ!」
ひどく汚れたレインコートを着た男がそう答えた。
[……黒鳥の夢の鎮圧は、ローザ君、メイベル君、そしてそこの新人三人で行う]
「……俺らでか」
「マジか」
「……」
「……管理人様が直接指示なさるとは……」
ローザが驚いている。この管理人が直接顔を出すのは相当珍しいようだ。
「管理人様!俺はどうすれば良いですか!」
アカシアは管理人に指示を仰ぐ。
[アカシア君には情報チームのメインルームに行き、衝撃ムカデの鎮圧に加勢してくれ]
「承知しました!では教育チーム部門長!安全チーム部門長!そこの新人三人!無事を祈ります!」
そう言った直後、レインコートを着た男はせっせと移動してしまった。
「……俺らが、アレを鎮圧するのか……?」
ベレットがそう声を漏らす。
黒鳥の夢。危険度はWAW。彼らが相手するにはかなり荷が重いだろう。
「安心しろ新人三人!教育チーム部門長であるこのローザが先導してやろう!」
「後ろから援護しますよ……」
***:特異点ネキ
ねばつき、カポーテ、耽美な夢。ブラック・スワンに偽善ですか。
……黒鳥の夢も、本人の戦闘能力自体はWAWでは下の方です。
***:特異点ネキ
勝負に出るには十分、と言った所でしょうか。
しかし、それは三人だけの話。そこに部門長が二人加われば十二分に勝機が生まれる。
[此方からも出来る限りは手伝おう。貴方達に死んで欲しい訳ではないからね]
「少なくともアレを抑えなければ今日は終わりそうにないな」
「……しゃあ!目の前の敵を倒す!俺が一番得意な事じゃあねぇか!」
「……ええ。ひとまず、あのアブノーマリティを片付けてないとね」
「黒鳥の夢の傘は肉体を抉ります……危なくなったら私の後ろまで下がってくださいね……」
「総員!準備はいいな!黒鳥の夢の鎮圧を開始する!」
紫色の髪が揺らぎ、黒鳥へと走り出す。
教育チームのメインルームにて、戦闘が開始した。
Q:安全チームのチーフは?
A:苗木になりました。