プラネタリウム・ドリーム   作:ななしのあ

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L社通勤三日目-4

 無数の足を使い壁、天井を伝う一匹のムカデ。体に電流が流れれば、標的へと飛び掛かる。

 

 

「ッッ!クソッ!」

 

 

 ムカデはジョシュアを噛みちぎろうと喰らいつくが、彼の持っている錫杖がそれを阻止する。

 

 

「サンチェスさん!今助けに……」

 

「やめとけオリーブ!どうせ死んでいる!」

 

 

 ムカデはもう一人の標的に向け、尻尾を突き刺す。

 

 

「っつ!よくも……!」

 

 

 オリーブはその四葉のクローバーでムカデの尾を防ぐ。クローバーの幹が大きく軋みながらもムカデの尾を振り払おうとした瞬間。

 

 ムカデの尾に、電流が走る。

 

 

「ぃ……」

 

「オリーブ!」

 

 

 オリーブの体が痙攣する。ムカデの尾から放たれた電流の大半は彼女の持つ四葉のクローバーを通り外へと逃げたが、少しは彼女の体内へと伝わり筋肉を硬直させた。

 

 

「クソッ!」

 

 

 ジョシュアが彼女の側へと近づこうとするが、ムカデの頭がそれを許さない。

 

 

「ぁ……」

 

 

 再び、ムカデの尾が振り下ろされる。

 

 

 

「そぉい!」

 

 

 

 突き刺さると思われた尾は、ビニール傘によって弾かれる。

 

 

「……ぁ!」

 

「アカシアか!」

 

「情報チーム部門長!助力に来ました!」

 

 

 汚れたレインコートからは考えられないほどに明るい青年が、ビニール傘を構えてムカデと向き合う。

 

 

「衝撃ムカデ……百足と言うより蛇、って所か!」

 

「……奴は電気を扱う。頭部と胴体に電流を流す器官があり、奴の一撃をもらえば装備越しに電気が流れる」

「おそらくだが、とぐろを巻いた後に胴体から強力な電気を発生させる」

 

「電気か!こんなずぶ濡れの格好じゃ、あっという間に感電死してしまうな!はは!」

 

「……オリーブ。動けるか?」

 

「……はい、大丈夫です」

 

 

 オリーブが立ち上がる。体が未だに震えてはいるが、まだ戦えるようだ。

 

 

「情報チーム部門長!貴方様はあの虫の頭部を狙って下さい!私はコントロールのチーフと胴体を抑えます!」

 

「……では、そうさせて頂こう」

 

「それで、お願いします」

 

 

 アカシアが走り出す。泥水を撒き散らしながら、傘の先端をムカデの胴体に向ける。

 

 ムカデが身じろぎをした後、走ってくる青年を締め殺そうと胴体を巻き付ける。

 一瞬の間に回り込まれたアカシアは、そのままムカデの胴体によって見えなくなった。

 

 

「っ!アカシアさん!」

 

「大丈夫だ」

 

 

 ——ムカデの中央から、傘が開かれる。

 

 

 傘の衝撃によってムカデの姿勢が崩れ、その胴体の隙間からレインコートを被った青年が飛び出す。

 

 その隙を逃さずジョシュアは錫杖でムカデの頭部を叩きつける。

 ムカデの頭部を守る金属が剥がれ、電気が走る。

 

 

「……はっ!頭を割れば全身に電気が流れ出したか!」

 

「頭部の装甲が外れた。今までと比べ格段に攻撃が通りやすくなるだろう」

 

「オリーブさん!部門長が奴を殺すまで時間稼ぎをしますよ!」

 

「はい!」

 

 

 クローバーが胴体を薙ぎ、ビニール傘が胴体の尾を弾く。クローバーの葉っぱが胴体に引っ付き、傘によって切り刻まれた金属板が剥がれる。

 切れ味を持つムカデの胴体が二人の傷を増やすが、その程度では止まらない。

 

 

「この……害虫がぁ!」

 

 

 何度もジョシュアに向かって噛みついてくるムカデを押し退け、その頭部へと錫杖を突き刺し続ける。

 

 ムカデの頭部から金属片が飛び散る。

 

 

「このままなら……行ける!」

 

 

 オリーブがそう言葉を漏らした瞬間——

 

 

 

 

「あの僧に時間を割かれたと思えば……」

 

 

 

 

 メインルームに、老婦人が入ってくる。

 

 

「……貴方、サンチェス君ね」

 

 

 その姿は所々血が滲んでいるものの、普段と何も変わらない姿と余裕を保っている。

 

 

「……イザベルさん!」

 

「コントロールチーム部門長!」

 

「イザベル!来てくれたか!」

 

「……貴方とこの支部で共に働けた事。誇りに思います」

 

 

 イザベルは黒く焦げた彼にそう告げ……

 

 

「……あの百足ね」

 

 

 銀の蛇の取っ手を強く掴んだ瞬間。

 

 

 

 ——空間が揺らぎ、ムカデの頭が弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一閃を振り抜いたイザベルは地面へと着地し、少しの間佇む。

 

 

「イザベルさん!無事で良かったです!」

 

 

 オリーブがすぐに彼女の元へと駆け寄る。

 しかし、未だイザベルの顔に笑顔は戻らない。

 

 

「……あの百足は、どうなっているのかしら?」

 

「……え?」

 

 

 

ビクンッ!!

 

 

 

 頭部が破壊された筈のムカデが跳ね上がる。

 

 

「……へぇ?」

 

「やべっ!」

 

 

 チーフの二人が声を漏らした瞬間、完全に制御を失ったムカデの尾がアカシアへと薙ぎ払われ……

 

 

「ガッ!!」

 

 

 そのままビニール傘と共に壁へと叩きつけられ、ぼろ切れの様に動かなくなった。

 

 

「何故、卵に戻らない……!」

 

「……ジョシュアさん。まだ動けるわね?」

 

「勿論だ」

 

 

 イザベルとジョシュアがムカデへと走り出す。電流が漏れ出しながらも暴れ続けるその姿は正に壊れた玩具。

 

 

「オリーブ。アカシアさんの所に行ってあげて」

 

「……はい!」

 

 

 オリーブが走り始めた刹那、ムカデの体が完全に暴走する。付近の物を無差別に破壊し始め、勝手に自滅するのだろうと思われた。

 

 突如、アカシアへと飛び掛かる。

 

 

「っ!!」

 

 

 イザベルは即座にアカシアを庇うかのように立ちはだかり、ムカデの轟く頭を抑え地面へと叩きつける。ムカデはすぐさま杖を跳ね除け、再び暴れ出す。

 

 

「どうせ死ぬなら道連れ……って魂胆か。とんだ害虫じゃねぇか」

 

「ジョシュアさん。あの百足が貯めている電気を全て吐かせますよ」

 

「……つまりあのうねる頭と尾をどうにかすれば良いんだな?」

 

「ええ。あの暴れ具合なら、合わせていれば勝手に力尽きてくれます。私は頭を、ジョシュアさんは尾をお願いします」

 

「了解」

 

 

 倒れたアカシアとそこに近づくオリーブ。手負いの者に止めを刺さんと暴れ続けるムカデ。それを阻止する部門長の二人。

 

 蠢く頭は銀の取っ手によって受け流され、轟く胴体は錫杖によって防がれる。暴走したムカデの体は先程よりも更に破壊力を増し、ただ動きを逸らすだけでも至難の業である。

 

 しかし、それほど大きく動き回れば、ムカデの電気はより多く放出し……

 

 

 ……糸が切れたかのように衝撃ムカデの動きが止まった後。

 

 

 ——やや青い金属板に釘が刺さった卵へと変貌した。

 

 

「……人騒がせなムカデだったわね」

 

「ああ……本当に酷い目に遭った」

 

 

 情報チームが平穏を取り戻す。

 地面に杖を付き、流石に疲れの色を見せるイザベル。

 

 

「風雲僧の鎮圧に加え、コイツの鎮圧まで手伝ってもらうとは……。頭が上がらねぇな」

 

「良いのよ。私個人が処理できる最大限の一手を打ったまでよ」

 

 

[……じゃあもう一手打って欲しいんだ]

 

 

 壊れかけのスピーカーから声がする。

 

 

「あら……管理人さんね」

 

「……あのサボり魔が今になって顔を出しやがったか」

 

「アカシアさーん!大丈夫ですかー!」

 

 

 ……一人だけその声には気づいていないようだ。

 

 

「オリーブ。アカシアさんを医務室まで」

 

「……っ、はい!」

 

 

 オリーブは彼を担いだ後、情報チームの廊下の奥へと入っていった。

 

 

「……で、管理人さんはどんな一手が打ちたいんですか?」

 

 

[教育チームのメインルームにて黒鳥の夢と戦闘中だ。イザベルさんにはそこに加勢しに行って欲しい]

 

 

「……おいカス。イザベルさんは風雲僧と衝撃ムカデの二連戦でクタクタだ。お年寄りを労る気持ちってもんが無いんじゃないか?」

 

「大丈夫よジョシュアさん。あの鳥なら、相性が良いからね」

 

 

 イザベルが歩き出す。向かう先は勿論、教育チームのメインルーム。

 

 

「……なら、俺も行こう」

 

「ジョシュアさんは他の職員に指示を出してエネルギーを回収して。あの鳥の鎮圧が終わったら直ぐに業務を終了出来るように」

 

「……死ぬなよ」

 

「ええ」

 

 

[ありがとう。恩に着るよ]

 

 

 イザベルが教育チームへと走り始めた。

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