一気に混戦となった大広間。
一人はかろうじて喰らいつく演者。
一人は次元鞄を振り回す運び屋。
一人は黒いコートと共に大広間を駆け巡る代表。
その猛攻を全て弾き返す黒い沈黙。
「デリバリーキャリア全開、『タイプ:ルナ』」
「……『老いた少年工房』」
「『デリバリーキャリア・タイプ:ミュルニル』!」
黒い手袋から現れたハンマーと、次元鞄が変形したハンマーが衝突する。
「『ケヤキ工房』」
あのハンマーだけでは抑えきれないと判断し、斧とメイスへと持ち替え次元鞄の攻撃を完全に受け止める。
「……はっ、『Le Jugement de Jean』」
「『十二型便利屋術』!!『
首元をレイピアが通り、目と鼻の先を赤く燃えた一撃が通過する。
(センクは完全にキレを無くした、ヂェーヴィチは火力こそ高いが隙が大きい)
(……なら、先に抑えるべきは……)
——沈黙。
三度目の正直。狂える狂犬が舞台ごと破壊せんとする。
「っ!無理にでもやるしかねぇ!『十二型便利屋術』——」
アストラが付けている黒い手袋から、妙にゴツいレイピアが現れる。
「『
黒いコートの男がレイピアを突き出せば、剣身が伸びる。
「……!?」
レイピアがより伸びれば伸びる程、より大きくしなる。
もはやレイピアと言うより鞭剣と化したその武器を振り回せば、金属の糸が空間を駆け巡る。剣舞……とも呼べるか分からない金属の舞いがありとあらゆる物を切り刻みながら黒い影へと打ち込まれる。
パンドラとルミナスが近づけなくなった。
「何だそれ……『クリスタルアトリエ』」
双剣が金属の鞭を弾き、火花が散る。
「代表!私達まで殺す気ですか!」
「ははーん、あのイカれポンチ。狙いは
「え?ちょっ!死にますよ!」
ルミナスが金属の鞭が暴れ回る空間へと入り込む。
一歩進むごとに幾つもの切り傷が刻まれていく。
「後は君達が幕引きをしてくれよ!『C'est mon panache』!!!」
金属の鞭が駆け巡る中、ルミナスが一本の線を作り出す。
——キンッ!
ルミナスがそのまま倒れ込む。
決死の一撃は黒い影の体には掠りもしなかった。
……
カラン
黒い仮面が落ちる。
今まで黒い沈黙を包んでいた黒い影が晴れ、その姿をしっかりと捉える事が出来るようになる。
「ヨシ!これなら……!『レスアンカー:ターゲット』!!!」
黒い影……否。
「初めましてだな!>>ローラン!!!」
黒い影が晴れ、その顔が露わとなる。
「………………」
ローランが一度距離を取る。
少しの動揺。すぐさま空間を包む……
——沈黙。
「おい!パンドラちゃん!ルミナスちゃん連れて撤退しろ!」
「……はい!後は頼みますよ!」
「悪いね、体中痛いし一歩も動けないんだ。出来るだけ優しく運ん——」
「はいはい!」
「ガッ!!!」
完全に止めを刺してしまったパンドラと次元鞄、運ばれていくルミナス。
その後にかき鳴らされる狂想曲。
最早彼が都市の苦痛から目を逸らす手段は存在しない。彼が味わった都市の苦痛。どうしようもない現実に苛まれるしかない、ただ失った物を思い返す事しか出来ない。
その感情が濁流となり、目の前の全てを飲み込まんとする。
対するはルナ事務所代表、アストラ。手に持っていたレイピアが何処かへと姿を消し、そのままローランの元へと走っていく。
その手には、あの次元手袋がはめられている。
「『十二型便利屋術』——」
——Furioso。
「『
弾丸を細身の剣が弾く。
「『
ランスによる突撃をツヴァイヘンダーが防ぐ。
「『
頭部へと振り翳された一撃を光る流星が迎え撃つ。
「『
刀と刀がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。
「『
アストラの付けている手袋が赤く燃え上がり、短剣による三連撃を弾き返す。
「『
斧とハルバードがぶつかり合い、メイスの一撃をハルバードの柄で防ぐ。
「『
——ッ!!!
振り下ろされる大剣の一撃が、光を纏ったツヴァイヘンダーによって激しくぶつかり合う。
「『
アストラの手袋から次元鞄が飛び出し、双剣の一閃を防ごうとする。
……完全に防ぐ事は出来ず、体に切り傷が生まれる。
「『
このまま押し込まんとショットガンが叩き込まれるが、銛が銃弾を纏めて弾き飛ばす。
「『
黒く染まった武器達が衝突する。
「チッ。『アラス工房』」
「『
「『狼牙工房』」
「『
「『老いた少年工房』」
「『
「『デュランダル』」
「『
「『ケヤキ工房』」
「『
狂想曲が終わった後も、大広間にて繰り広げられる激戦。
一撃を防ぎ、カウンターの一撃をまた防ぎ、そのカウンターをまた防ぐ。互いの黒い手袋から無数の武器がぶつかり合い、瞬きすれば互いに全く別の武器を握っている。
今まで大虐殺としか呼べない殺戮の数々が、ここに来てようやく攻防一体の戦闘へと昇華した。
「『ロジックアトリエ』」
「『
リボルバーとショットガンの連射を赤く光ったハルバードが横一文字にぶった斬る。
「『ムク工房』」
「『
手袋から現れた次元鞄から何かが飛び出し、大広間を爆風で覆い尽くす。
ローランは爆風を切り裂きながら突き進み、攻めの手を緩めようとしない。
「『クリスタルアトリエ』」
「『
クリスタルアトリエの双剣が数多の斬撃を弾き返す。
突く、斬る、叩く。全てに適応しアストラの元へと突き進む。
「『ホイールズ・インダストリー』」
「『
破壊の一撃を撃ち返さんと無数の天翔る流星が降り注ぎ、押し返していく。
——沈黙。
狂想曲は終わる事を知らず、目の前の敵を屠ろうと、いや屠った後もどこまでも続いていく。
苦痛を愛するための祈り。
それが、狂えるローランがこの都市で生きていける唯一の方法だから。
——Furioso。
「『
俺には苦痛しかありません。
「『
それ以上の何物も望みませんでした。
「!?『
苦痛は俺に忠実で、今も変わりありません。
「テメッ!『
俺の魂が深淵の底を彷徨うときにも。
「『
苦痛はいつもそばに座り、俺を守ってくれたから。
「『
どうして苦痛を恨むことが出来ましょう。
「痛ぇ!!」
「『
ああ苦痛よ、お前は決して俺から離れなかったゆえ。
「『
俺はついにお前を尊敬するまでに至った。
「『
俺はようやくお前のことがわかった。
「——ッ!!クソッ!!」
「『
お前は存在するだけで美しいことを。
「『
お前は貧しい俺の心の火鉢の傍を決して離れなかった人と似ている。
「『
俺の苦痛よ、お前はこの上なく愛する恋人より優しい。
「『
俺は知っているだろうか。
「『
俺が死に就く日にもお前は俺の心の奥深くに入り。
「『
俺と共に整然と横たわらんことを。
……
「『
————。
「…………さて」
横たわった人物。左肩から右腰にかけて大きな赤い線が刻まれ、血が溢れて出している。
「最後だ。お前が知っているねじれの情報を全て話せ」
「……いい顔をしているね。ローラン」
「今すぐその首を飛ばして貰いたいのか?」
「流石だ。この事務所の全てを注ぎ込んでも、君を討ち取ることが出来なかった」
「……おい」
「分かったよ。俺が手に入れたねじれの情報を教えてやる」
「……ねじれ現象は『白夜、黒昼』と共に現れた」
「君も知ってるだろ?都市が眠りこけたあの日を」
「…………」
「それからだ。この都市にねじれが現れたのは」
「……そうか。なら、誰が白夜黒昼を引き起こしたんだ?」
「そこまでは知らない。ただ……」
「あの光は、折れたL社から放たれていた」
アストラがローランと目を合わせる。
「L社の跡地へ行ってみろ」
「そこに、君の望む答えが必ずある」
「……お前らは何があるのか知らないのか?」
「生憎ね。確実に何かはあるが、どうも手に取る事が出来なかった」
「………………」
ローランが大広間を歩き、血塗れになった黒い仮面を拾う。
「……そこの扉を開ければ外に出れるよ」
「…………この扉が安全って証拠は?」
「そんなので殺せるならとっくの昔に殺してるよ」
ローランが扉を蹴り飛ばす。
……外だった。
「君の目で確かめてみろ。きっと後悔はさせないさ」
……黒い沈黙が、ルナ事務所から去っていった。
○レスアンカー
ウーフィニキが主導となり開発されたルナ事務所向け戦闘補強システム。対象にアンカーを設定、ゲゼルシャフトを用いて対象の分析をする事によって加算コイン強化、ダメージ量増加、クイックなどを獲得する事が出来る。強力な反面、アンカーの設定は一人につき一体のみ可能であり、アンカー使用中はゲゼルシャフトを一切使用出来ない。
生存状況
代表…△
特異点ネキ…○
本部長…○
ツヴァイネキ…✖️
トレスネキ…✖️
シニキ…○
センクネキ…✖️
リウニキ…✖️
セブンネキ…✖️
エイトニキ…✖️
ヂェーヴィチネキ…○
ディエーチネキ…△
ウーフィニキ…○