「スロットも良いけどさ、やっぱ飽きるよね」
[絶対変な事になるからさっさと帰って来い]
いくらでも入るコインケースを持ち歩きながら、次の遊び場へと向かう。いくら歩いてもガチャガチャ鳴らないのは利点でもあるし欠点でもある。
「てかさ、お前誰なの?」
[だから、『運び屋』の一人だって]
「暇なの?」
[休憩中だ]
「働けよ」
[お前にだけは死んでも言われたくねぇよ!!!]
「音声だけ?」
[……あぁ、そうだな]
「りょ。一応視界も繋いでおくわ」
[もしかしてお前帰る気無いな?]
ワラギがうんうんと唸りながら目を瞑る。
ドンッ!!
「あっ!すいません!!」
ワラギが多少よろける。目を瞑りながら歩いたら誰かにぶつかるに決まっている。ただの前方不注意である。
…………。
「……あれ?」
ぶつかった相手がいない。
「……あれれ?」
オマケに、先程まで持っていたコインケースも無い。ぶつかったと思われる男が何処か遠くへと逃げ出していく。
…………。
ひったくりだ。
「っ!『レスアンカー:ターゲット』!!」
>>コインケースを片手に持ち、人混みを掻き分けながら全速力で逃げる男。ここでコインケースを奪われて一文無しになりました、となれば冗談では済まされない。
ワラギの背中に背負われているハルバード。レスアンカーの解禁と共に、ソレを包んでいた布が取れる。
狙うは腕、または脚。コインケースを直接狙って壊してしまってはいくら賠償されるかわかったもんじゃない。しかし、このまま逃す訳にもいかない以上、力づくでもコインケースを奪取しなければ——。
「おっと!そこまで!」
後ろから声がした後、兎が空間を横切る。
「ガッ!」
「お客様、これは貴方のコインケースではないようですが?」
「くそっ……!何だよ!コインケースを見せびらかしながらほっつき回ってたバカに制裁を加えただけじゃねぇか!」
「別にお客様は制裁を加える立場には居ませんし、他人のコインを奪った貴方の方が重罪ですよ」
兎がコインケースを取り返した後、ワラギの元へと歩いてくる。人々が少し集まり出して来た。
……受付で話をした兎だ。
「当会場は武具の使用は禁止されています。トラブルが発生した場合はスタッフが対応しますので、その得物はしまって下さいね」
「……ありがとうございます」
男に付けていたレスアンカーを外し、ハルバードを布で包み直す。武器の使用が禁止されている以上、此方も敵意は無いと示さなくてはならない。
「前は武器も預かっていたんですけど、現在は暗黙の了解で見逃してあげてるので……もしカッとなっても無闇に武器を抜いちゃ駄目ですよ」
「わかりました」
当たり前ではある。ここは裏路地ではなく、翼の中である。暴力なんて物とは無縁の生活を送って来た者も……まあ、多分いるだろう。
「自分のコインケースの管理もしっかりして下さいね。では、あの人を処理をしてくるので、引き続き遊んでもらって構いませんよ」
兎があのひったくりの元へと歩いていく。
[どうした?お前何やらかした?]
「……コインケースひったくられた」
[よそ見してただろ。翼の中だからって安全とは言い切れないんだから、そこら辺気を付けろよ]
遠くで叫ぶ声がするが、そこまで気にする事でもないだろう。運に見放されて一文無しとなり、是が非でも金を手に入れる為にひったくりをしたのだろうが、ここはそんな軽率な行動は出来ないようだ。
[……あれは間違いなく未来のお前だぞ]
「大丈夫。ワイ、あそこまで落ちぶれてはない」
[これから落ちぶれるぞって言ってんの!]
「大丈夫やって。勝てばええやん勝てば。アレとかオモロそうやで」
[……は?]
「時間ロトやってるよ〜。一口1時間で大金を稼げるかもよ〜」
変にメカメカしい服を着た者が宣伝をしている。
[……時間ロト?]
「聞いた事無いんか?T社の成金製造機」
「言い方が大分酷いですね〜。これでもT社福祉委員会が勧める慈善活動なんですよ〜」
おそらくT社の人間なのだろうが、J社に合わせて豪華な服装となっている。
「お客さ〜ん、時間ロトやっていきます?」
[そもそも時間ロトって何なんだよ]
「T社でやってる宝くじやで、金以上に大事な物を奪われるが」
「あながち間違いではありませんけどね〜。今はJ社との共同開発のテスト運用も兼ねているんですよ〜」
T社の人間と思われる男の前に行ってみる。屋台の様な所に、色々な機械や荷物が積み重なっている。
「ここはT社とは違って自分の時計を持っていないのが当たり前ですから〜、T社でのやり方と少々違いますけど〜。大金が手に入るのはおんなじですよ〜」
[その言い方的に、払うのは金じゃ無くて……]
「時間ですよ〜。目の前に一人しか居ないのに二人の声がするなんて〜、通信機器でも使っているんですかね〜?」
「……あんま喋らん方が良いかも」
「大丈夫ですよ〜。別に通信機を持って来たら駄目、なんてルールはありませんからね〜」
彼がそう言えば、目の前にあの匣が置かれる。
「え!?願望の匣じゃん!ここで使っちゃ駄目なんじゃ……」
「コレに運を蓄える機能はありませんよ〜。その代わりに〜、時間を蓄える事が出来るんですよ〜」
なんとなくやりたい事が分かった。
「これに触れれば〜、A社標準時間で1時間を徴収する事が出来るんです〜。その実験や時間ロトの宣伝も兼ねてJ社に出張しに来ているんですよ〜」
「……これに触れれば、次動けるのは1時間後になる……って事か?」
「厳密には違いますけどそんな感じで大丈夫ですよ〜。正確に言えば〜、お客さんの1時間を1秒に縮めて〜、余った時間をコレに回収するって仕組みになっています〜」
「……で、その1時間が過ぎれば宝くじの一枚が貰えるって事か」
[1時間掛けて貰えるのが一枚だけなのか……?]
J社では金が命だ。では、金を得る為には何を差し出さねばならないのか。
運だ。J社の借金取りは相手に返済能力が無いとみなした際に、願望の匣で運を吸い取れるだけ吸い取る……との噂話がある。概念的な運とは違い、J社に住む者における運とはまた一つの通貨のような物である。
T社でもやっている事は大体同じだ。時間税を払えなくなった者に対し、金の代わりに時間を徴収する。ここでは時間を一つの通貨として使っているのだ。
金の代わりに渡さなければならない物は、大抵金より大切な物の方が多い。当たり前ではあるが、ソレを理解している人間は思いの外少ない。
「じゃあ〜、やってみます〜?お代は時間を貰うので結構ですよ〜?」
「よし!やるか!」
[おい!!!]
故に、この手の商売はそこそこ繁盛する。
「では、ここに手を置いて下さいね〜」
……。
「……はい、通信機の方〜?話して大丈夫ですよ〜?」
[……え?]
「今1時間を徴収しましたから〜、次動くのは1時間後になりますよ〜」
ワラギはピクリとも動かなくなってしまった。
「それにしても大層不思議な通信機ですね〜?どこから声が発されているのかが分かりませんね〜。これでもT社のいろ〜んな開発班で働いて来ましたから〜、ある程度の装置の仕組みは分かるんですけど〜」
[…………]
「是非〜、T社の博覧会に持ってきてもらいたいですね〜。私の知り合いにそ〜ゆ〜技術が大好きな人がいるんですよ〜」
[……こいつはこのままどうするんだ?]
「この人は動き出すまでコチラで保護しますよ〜」
[……そうか]
「は?」
「気づかれましたか〜。1時間が1秒になった気分はどうでした〜?」
ワラギが動き出す。願望の匣?から手を離し、少し戸惑っている。
「……え?1時間経ったの?」
「そんな感じでしょうね〜。私もそうなると思いますよ〜」
T社の男が願望の匣?を調べた後、一枚のスクラッチが手渡される。
「はい、約束のスクラッチですよ〜。是非削ってみて下さい〜」
「……削るコインは?」
「ご自身が持っているじゃないですか〜?」
彼が持っていたコインケースからコインを一枚取り出す。
スクラッチを見ると、銀色の丸が縦に三つ、横に三つ。計九つある。こんなベラっとした紙の為に1時間を費やしたと考えると少し虚しくなる。
隣にある説明書きを読むに、縦、横、斜めのどれか三つ揃えれば良いらしいが、銀色の紙を削ると……。
「……は?」
コインが溶けてしまった。
「……あの?」
「銀色の紙を一つ削るのに〜、コインは3枚いりますよ〜」
「…………」
「そんな睨まないで下さいよ〜。私はお金は取らないとは言いましたが、お金が必要無いとは言ってませんからね〜」
スクラッチだから最低でも3つは削らないといけない為、少なくとも9枚のコインが消える。これをコラテラルダメージとして見逃せるか、見逃せないかはかなり分かれるだろう。
「銀色の紙はいくらでも削っていいですからね〜?」
……まあ、3×9で27コイン。少しぐらいは目を瞑ってあげよう。
| 縦、横、斜めに数字が揃えば当たり! |
① ② ③
④ ⑤ ⑥
⑦ ⑧ ⑨
①1d6=5 ②1d6=1 ③1d6=4 ④1d6=6 ⑤1d6=6 ⑥1d6=6 ⑦1d6=2 ⑧1d6=5 ⑨1d6=1 |
5 1 4
6 6 6
2 5 1
|
「…………え?」
「あらま〜!大当たりですよ〜!!」
当たってしまった。
「え〜と、これなら〜。……10000ヌルですね!!おめでとうございま〜す!!!」
「………………うそやろ?」
「一気に大金持ちですね〜!お客さんはツイてますね〜!」
「……見てるか『運び屋』の野郎!ワイにかかればこのぐらい余裕なんだよ!!!」
…………。
「通信機の人はかなり前にどっか行ったみたいですよ〜?」
「……」
ギャンブラーワイの所持金額 |
所持金:599ヌル 増加:10000ヌル 減少:27ヌル 総額:10572ヌル |
これ書いてる時期バレバレやん
私はあの子達に手を差し出すべき、なのかな?
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そうだ。彼ら彼女らを、貴方が導くべきだ。
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うーん。貴方の後輩に任せるべきでは?
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貴方達はあの者達に関わるべきではない。