幾つもの扉を通り抜け、最後にたどり着いた部屋。そこに佇む男と黒獣の兎。今までの部屋よりかは明るく装飾もなされているが、それでも先程までいた一般エリアの方が豪華そうだ。
「よくここまでたどり着いたね。お疲れ様」
「凄いですね!私も最初は迷子になったって言うのに!」
目の前にいる椅子に座った男。その横で佇む黒獣の女。男に面識は無いが、黒獣の方は間違いなく入り口で案内を受けた兎だった。
「言いたい事は山ほどあるが……とりあえず、自己紹介をしろ」
ワラギは明らかに声に苛立ちを滲ませる。幽閉じみた事をされて、変な部屋を右往左往させられた後に不満を持つな、と言う方が無理があるだろう。
「これは失礼。私はネデア。このカジノのオーナーさ」
「私は名もない黒獣ですけど……それだと呼びにくいのでバニーさん、って呼んでください!」
ワラギは依然として距離を保ったまま、二人を警戒し続ける。
「……一つ、なんで俺をVIPルームに幽閉した」
「君がかの有名なルナ事務所出身って聞いて試したくなったんだ。悪かったと思ってるよ」
(……ワイらの事務所ってそんな有名になってたっけ?)
残念ながらあの事務所はそこそこ名を連ねた事務所になってしまっている。ただ、何故ルナ事務所の人間に興味を持ったのか?……と、疑問を残す。
「二つ。あのトランプは何だ」
「…………?」
「トランプ?そんなのありましたっけ?」
ネデアと兎が顔を見合わせる。
「とぼけるな。ここに来るまでに落ちていた20枚のトランプに意味が無いなんて言わせないぞ」
どうやらトランプはそれ以上見つからなかったようだ。
「……バニーさん。用意してた?」
「いえ、何も……」
「……はあ」
ワラギが一息ついた後、後ろに背負ったハルバードに手をかける。
「最後の質問……ってか脅し。俺のコインケースの中身を全て眼へと両替し、外に出せ」
「……お客様、その手を引っ込めて下さい」
「…………」
213:密売ニキ
おいギャンブラー。アレやばいぞ
214:名無しのフィクサー
勝てるかあれ?黒獣はギリ何とかなりそうやけどさ
215:名無しのフィクサー
あのオーナーヤベェな
部長でトントンぐらいか?
216:名無しのフィクサー
流石に代表とか本部長レベルは無いだろうけど
217:名無しのフィクサー
てか2対1の時点で勝ち目がほぼない定期
218:名無しのフィクサー
暴力で解決はほぼ無理じゃね?
219:名無しのフィクサー
待て!(光1回復)
話し合うのも大事やと思うんや
220:ギャンブラーワイ
オーナーはキツイが黒獣単体だけなら持っていける
じゃなくてワイの狙いはそっちじゃない
221:名無しのフィクサー
あれそうなの
222:名無しのフィクサー
良かった
どう考えても手出したらこっちが不利やもん
「……これから何をするかは知らんが……まず、仲介人を呼べ」
ワラギの要求は中立の人間の召集だった。
「ウーフィ協会の様な明確な第三者がこの取引の立会を行わない限り、俺は取引の椅子に座ることは無い。二者による取引なんぞ、どうせ俺の理解の範疇を超えた手を使って騙すに決まってる」
「なら、まだ力づくの方が信頼できる」
「……そんなつもりは無いんだけどな……。ま、信用が無いのは否定出来ないか。では、お願いします」
……部屋の横に取り付けられた扉が開く。
「……!?」
229:名無しのフィクサー
まじ?
その扉から現れたのは、顔見知りの人物——
「……部長!!!」
ワラギの上司だった。
230:名無しのフィクサー
ウーフィニキやんけ!
231:名無しのフィクサー
お前こんな変な所で働いてんの!?
232:名無しのフィクサー
あこれ最悪力づくでも何とかなるか?
233:密売ニキ
ウーフィニキもこのカジノに来てたんか
J社は人手不足ってよく聞くしな
「……ワラギさん」
「へい!」
「事務所が壊滅状態だと言うのにギャンブルですか。呑気ですね」
「安価がそうしろって言いました」
「……」
235:安価大好きウーフィニキ
ワラギさんの処罰を決めます。
>>250
>>260
>>270
236:名無しのフィクサー
はいざまぁ
237:密売ニキ
怒涛の三連安価にニヤニヤを隠せないなこれ
238:名無しのフィクサー
悪は滅びた
「は……はは……」
「さて、全体的に君が有利な環境へと早変わり。じゃあ、椅子に座ってくれるかな?」
「ワラギさん。着席を願います」
「……」
ワラギは渋々椅子へと座った。
「……では、早速ですが」
ネデアは資料とペンを渡す。
「貴方がこのカジノで手に入れた『ヌル』。それを全て『眼』へと変換する、という旨の同意書だね」
「部長、ってかクレドさん。その旨で合ってます?」
「……確認しました。ワラギ氏の持つ10572ヌルを1億572万眼へと変換する、との旨で宜しいでしょうか?」
「勿論。元々そういう風に宣伝してあるからね」
「……分かりました」
ワラギが契約書にサインをした後、ネデアもサインをする。クレドが署名を確認した後、契約の施行を見守る。
「これが10572ヌルが入ったコインケースです」
ワラギがコインケースを渡す。
「バニーさん、1億572万眼、持ってきて」
「……でも」
「大丈夫。彼らがそんな事をするとは思えないし、仮に2人掛かりで襲ってきても負けないよ」
「分かりました」
「……ウーフィ協会に所属している以上、その様な野暮はしません」
「分かってるさ。それは2人共重々承知だろうからね」
淡々と契約を施行するクレド、余裕を見せるネデア、未だ警戒を続けるワラギ。その三者を取り巻く沈黙。
「……さて、何でも話して良いよ。答えられるだけ答えてあげよう」
ネデアは椅子に腰掛けながら質問を待っている。
250:名無しのフィクサー
ボーナス取り消し
「……」
「ワラギさんでも、クレドさんでも。何でもどうぞ」
「部長……先に質問しますか?」
「あくまで私は仲介人なので」
聞きたい事は山程あるが、あえて遠回りをしながら詰めていく事にした。
「……『ヌル』って何だったんですか?」
「……ああ、ただのチップさ」
「それは分かるんですけど、その割にはパッとしないなって……」
さて、まずはJ社のチップ事情について簡単に説明しておこう。
J社及びその裏路地に位置するカジノにて使われるチップは、そのカジノ運営自体が価値を保証している。
具体的に言うならば、J社の巣の中ならJ社の認定を受けたカジノ会社が、裏路地なら複数のカジノ会社が共同でチップの価値を保証しているようだ。
ちなみにリアルでは複数の会社が同じ種類のチップを使うなんてありえないぞ!
「……チップの名前にヌルなんて名付けるんですか?」
雰囲気の為?ただそれだけの為に手間をかけて独自の通貨であるチップに『Null』なんて変な名前を用意するものなのかと疑問に思うのだが、オーナーにとって雰囲気作りはカジノ運営に関わる重大な仕事である。
「中々良い名前だと思うけどな?」
金持ちのセンスはよく分からないものだ。
「……そういうもんなのか?」
260:名無しのフィクサー
これから半年の間給料半分カット
「そう言うものだよ。他には何か無いのかい?」
クレドが黙ったまま片手を上げる。もう片手では未だにコインケースの中身を確認している。
「どうぞ。独り言としてでも、君の立場からでも何でもいいよ」
「……このカジノ、何故か公平性に欠ける行為について厳しいですね」
「確かに!」
このカジノの広告にも書かれていた違反行為についての注意事項。イカサマ、願望の匣の使用等のギャンブルの公平性を著しく損なう行為。イカサマ等を禁止している箇所は多くあるが、願望の匣によるタトゥーシールまで禁止にしている場所は少ない。
と言うのも、願望の匣は財力の象徴でもある。これにケチをつけると、当たるまで金を注ぎ込む行為が違法、と言っているようなものである。
1億眼を注ぎ込むのも、願望の匣のタトゥーシールを貼るのも、カジノの入り口にあるルーレットから願望力を与えられて大当たりを引くのも、正直大差は無いのだ。
「正直使われても問題ないんだけどさ。一応だね」
「………」
(一応でそんなルール付けるか?)
セブン協会による調査では、願望の匣の利用を制限した場合とそうでない場合では客数にかなりの差が生まれる、というデータがある。
オマケに、願望の匣を使う客層は富裕層が多い。このルールはターゲットの客を切り捨てている事になる。
そもそもこのカジノ自体、ワラギのような貧乏人でも楽しめるようにと設計されている。では、このカジノはどうやって利益を出しているのか?
何を考えているのかよく分からなくなってきたので、もっとわかりやすい所をつつくことにした。
「オーナーさん!1億572万眼、持ってきましたよ!」
黒獣が大きなケースを運んできた。クレドも、あの兎を待っていたかのようにコインケースを机の上に置いた。
「クレドさん。1億572万眼の確認をしてくれるかい?」
「……10572ヌルを確認しました。続いて、1億572万眼を確認を致します」
「はい!お願いします!」
クレドは大きなケースから札束を取り出し、確認を進める。
270:名無しのフィクサー
コテハンを『ギャンブラーワイ』から『クソカスギャンブラー』に変更
271:クソカスギャンブラー
は?????
272:名無しのフィクサー
反映はっや
「……さて、まだ話したい事はあるかい?」
気を取り戻し、やっと聞きたい事を聞く。
「……あの部屋、何だったんですか?」
先程幽閉されたVIPルーム。東西南北にある4つの扉の先には更に同じような部屋が広がり、戻ろうとしてもまた別の部屋へと飛ばされる。都市の技術で作ろうと思えば作れそうなものだが、どうも彼らが言うには見た事が無い、との事。
「ああ、あれはね……」
「私の『神秘』だよ」
「…………?」
「……」
279:クソカスギャンブラー
誰か有識者!
280:名無しのフィクサー
神秘って何
281:名無しのフィクサー
知らんのかクソカスギャンブラー
ワイも知らん
「……まあ、君達ならE.G.Oの方が分かりやすいかな?」
「E.G.O?あの部屋が?」
『E.G.O』。正式名称はその名で広まってはいるが、ある者はソレを『神秘』と名付け、今も少数の者達がその呼び名を使っている。
「……E.G.Oって、ほら、あの、衣服を纏うヤツじゃないんですか?」
「そうだけどね。人の心の形は決して人間らしい姿だけとは限らないよ。君達が今目指している場所もそうじゃないのかい?」
「……」
自我の殻の形は千差万別。ごくごく稀ではあるが、このような場所型のE.G.Oも存在するとか。
「このVIPルームは私の自我の殻だね。中々良い場所だと思うけどな」
「幽閉されかけた場所をいい場所だとは思えないな……」
「……確認が終わりました。では、両者。コインと現金の交換を行って下さい」
クソカスギャンブラーの所持金額 |
所持金:10572ヌル 増加:0ヌル 減少:10572ヌル 総額:0ヌル |
クソカスギャンブラーのガチ所持金額 |
所持金:350000眼 増加:105720000眼 減少:0眼 総額:106070000眼 |
「……さて」
両者の金額の取引を行い、1億眼を手に入れたワラギ。一応持ってきた金がゴミと化する程の金額だった。
「良し。帰らせてもらいます」
「約束は果たしたけど、ここで君に提案が一つ」
「私とゲームをしてみないかい?」
ワラギの足が止まる。
「……あの、コインはもう交換してしまったんですけど」
「今から賭けとして出してもらうのはその札束だよ」
チップを介した勝負から現ナマを直でぶつける勝負へと早変わり。いっそのことJ社に怒られてしまえ。
「今からするのはカジノのオーナーではなく、ただの一個人である
横から冷たい視線を感じる。
「……倍率は?」
「簡単な勝負で戦って、君が勝ったら100倍、負けたら全額没収でどうだい?」
やっぱり横から冷たい視線を感じる。
「……どれで勝負をする?」
「カードゲームさ。丁度面白いゲームを知っているからね」
また横から冷たい視線を感じる。どこからか罵声も聞こえてくる気がする。
「カードゲームの名を言え」
「……LORって言うんだけどね?」
………………。
「100億眼!クイズハンター ハンターチャンスワン!」
287:密売ニキ
バカバカバカバカ!!!
お前馬鹿野郎なのか明らかに罠じゃねぇか!!!
288:名無しのフィクサー
はいこいつ死んだー
289:名無しのフィクサー
ルイナ!?
なんでこいつlibrary of ruina知っとるんや?
290:名無しのフィクサー
ここで引かないのばバカ中のバカ
291:名無しのフィクサー
ワイらはやっぱり馬鹿だった
292:名無しのフィクサー
>>289
もしかしたら略称が同じだけの別ゲーかもしれん
293:名無しのフィクサー
>>291
こんな奴と一緒にするな
294:名無しのフィクサー
あとそのネタわかる奴いるか?
「1億眼、賭けだ!!!」
「……はぁ」
「流石。君をこのカジノに招いて良かったよ」
横からため息をつく音がする。まんまと罠に掛かりやがったな、とでも言いたげな態度と共に、確信へと変わったかのような目つきでネデアを睨む。
「バニーさん、準備は出来てるよね?」
「勿論です!今広げますね!」
298:安価大好きウーフィニキ
あの時の転生者の一人、と見て大丈夫でしょうね
「
「そこまでノリノリになってくれて嬉しいよ」
「100億眼、回収させてもらうぞ」
*ネデア
開花E.G.O:???
男性。J社にあるカジノ、『イヌーティル・パレス』を運営してる。ワイらと共に転生し、早々に何処かへと抜け出してド底辺からその身一つでカジノのオーナーにまで成り上がり今に至る。
どうも彼は理性と共に戦う事を選んだみたい。でも、彼の殻からは隠しきれない感情が滲み出ているね。そうやって誤魔化しを続けていたら、いつか崩れてしまうのはあの子も分かってるんじゃないのかな?
*バニーさん
女性。ネデアに仕える『黒獣—卯』の1人。別にワイら出身ではない。実は実家(H社)に弟が3人、妹が2人いる。
*安価大好きウーフィニキ
フィクサー名:クレド
ルナ事務所所属ウーフィ組部長、ウーフィ協会所属の2級フィクサー。人手不足のJ社から高待遇のお仕事がやってきたので出稼ぎに来た。
私はあの子達に手を差し出すべき、なのかな?
-
そうだ。彼ら彼女らを、貴方が導くべきだ。
-
うーん。貴方の後輩に任せるべきでは?
-
貴方達はあの者達に関わるべきではない。