U社の裏路地。
ドブのような水が一面に広がる中、老人は辺りをうろつくクラップ蟹を仕留めている。
「グエッ!」
「……」
粗悪な銛で蟹の頭部を突き刺す。さほど殺傷力もない為、何度突き刺しても蟹の脳を潰すには至らず。かと言って間違いなく致命傷の一撃、確実に数刻後には命を落としているだろう。
つまり、この蟹は苦しんで死ぬ。
……。
未だ僅かに動く蟹の甲羅を剥がす。蟹が背負うのは廃品の数々。ゴミとしか言いようのない鉄屑の塊だが、今の彼等の財力ではこの程度のガラクタしか手に入れる事が出来ない。
……しかし、ガラクタから大金を手に入れる方法は存在する。例えば……。
[用意するのはそこら辺にあるレンガと縄のみ。レンガで相手の後頭部を殴り、縄でグルグル巻きにする]
「……ふむ」
「お……おい、頼む、助けてくれよ……!」
老人の隣で、グルグルに縛られた男が仰向けで倒れている。
彼の両手両足は縄できつく縛られており、その両目も布で覆い被されている。
「なあ……金、金だろ?お前らが欲しいのは……金さえやればこの縄を解いてくれるんだろ?」
現在の時刻、A社標準時刻にて午前3時10分。
「……儂らが欲しいのは車だ」
「な、なら!やるよ!車を!それでいいだろ!?じゃ、じゃあ解いてくれよこの縄!」
「……車は、単体だけでは動かん。燃料を入れてやらねばならん」
「ね、燃料も家の中にある!それ持っていけば良い!」
「儂らは金も足らん」
「なんなんだよお前!なら!金も!持っていけよ!だ、だから!命だけは!」
[後は3時14分にそいつをポイで
午前3時13分から午前4時34分の81分間。何をしても許される無法の時間帯、『裏路地の夜』。裏路地に住むどんな人間も、この時間帯に外に出る事は無い。それほど都市の人々はこの時間を恐れている。
この時間に起きたあらゆる出来事を都市や協会が追及する事は無い。
老人は両腕にクラップ蟹の廃材を抱え、歩き始める。
「おい!俺を置いていくな!そこは俺の家で!俺が死に物狂いで稼いだ俺だけが使える財産があって!それを!お前らが!使う権利なんて何処にも——」
居住区域の扉が閉められた。
「……爺さん」
先に居住区域に入っていた男が申し訳なさからか、老人へと話しかける。この時間になってもまだ起き続けていたようだ。
居住区域の中には、既に十数人もの人が休んでいた。既に床に寝転がり寝ている者もいれば、老人の一部始終を見ていた者もいる。部屋の片隅にはクラップ蟹から手に入れた廃材が積み上げられている。
「……早く寝るといい。体力が持たないぞ」
「これは俺らがやるべき仕事だ。爺さんがやるべきじゃない」
「……ふむ。老い先短い老人に罪をなすりつける方が得だと思うが」
老人は新しく持って来た追加の廃材を放り投げる。廃材の山が少し大きくなった。
現在の時刻、午前3時13分。掃除屋が現れ、老人の犯した罪が揉み消されようとしていた。
「そもそも爺さんだってこんな夜中まで起きるべきじゃない。何で裏路地の夜寸前までクラップ蟹を狩ってるんだ。ここで死んだら事務所まで持たないんだぞ、特異点の人が言ってた蘇生だって間に合わない——」
「疲れているだろう。寝るといい」
老人はただ1人、窓際へと歩いていき、外の様子を眺めている。
「……あの、お爺さん。お爺さんも疲れているのです。もう寝た方が良いのです」
「……都市が眼を瞑ろうとも、儂の罪が消えた事にはならん」
白く長い髪の少女は老人を休ませようとするも、老人は動こうとしない。
時計の針が一つ進み、グルグル巻きにされた者が掃除屋に喰われていく。
「だからこそ、儂だけは目を開ける必要がある。お主らが見る必要は無い」
今日を生きる為に誰かを傷付ける事を許容する。別に彼等は善人では無い。
後はあの家にある財産を一つ残らず持っていけば、この場所の地主は「奴は夜逃げした」と考えるだろう。
つまり、もう後ろめたい事象は消えた。
……にも関わらず。
「……何故寝ない。お主らの方がこの世界の事をよく分かっておるだろう」
「分かってる。……ただ、寝れない……って事にしておいてくれ」
「……明日も早いぞ」
……L社崩壊の数ヶ月前、ルナ事務所設立から数日後。彼らはこの時期を『事務所黎明期』と呼ぶ。
「……あの!お爺さん!」
「……なんだ」
「明日!皆さんでエイト協会に行って、フィクサーに、な、なりませんか!」
「……お主らだけで行くといい。儂はまだ成すべき仕事がある」
「……だからこそ、か。俺も賛成だな、爺さん」
男が少女の言葉に賛同する。周りを見渡せば、その意見に異議なし、と微笑む者もいれば眼を瞑りコク、コクと頷いているに違いない者もいる。
「……フィクサーになるのも容易くない。儂は書類も免許も用意が出来て——」
「うっぜーぞ爺さん!ゲゼルシャフトにそこら辺に関して色々詳しい奴が出て来たから何とかなるんだよ!てかさせる!」
午前3時に似つかわしくない怒号が飛ぶ。
「お爺さんは漁師さんだったのでしょう?なら大丈夫なのです!私達よりはなんとかなると思うのです!」
……彼らがこの時期、事務所黎明期の話をする事は少ない。
何故なら。
「……ふむ」
あまり良い思い出が無いからである。
| 自我の選択 |
| 憂鬱有利判定 成功値:20(??)以上 |
| ラクス:判定不能 黄金の小枝による強制調律:+5
|
| 合計値:5<成功値:20 判定失敗 |
「ラクスさん!こっちなのです!こっちに物作りが得意な人がいるらしいのです!」
K社の裏路地、ルナ事務所の本拠地である一軒家。
そこの室内を少々歩いた先にある、物置きのような空間。劣悪な環境の中、作業台の上で作業をする女性が1人。古びたジャケットを着込み、何が原因なのか分からない汚れが全身に染み付いている。
「は?あんた達誰?」
目にクマの出来た女性の視線の先に、人影が2人。
「儂はルナ事務所所属、エイト協会8級のラクスだ」
「ルナ事務所……ああ、ちょっと前に騒いでたこの事務所の名前か。で、あんたがエイト協会に入ったジジイね」
どこか軽蔑するような視線を飛ばした後、隣の少女にも視線を向ける。
「私はエイト協会9級フィクサーのフルールなのです!よろしくなのです!アポリオンさん!」
「……はぁ」
女は聞いてあげるフリをしながら、すぐさま視線を目下に向け作業を再開する。
「……どうせ、船でも作ってなんて頼みに来たんだろうけど、無理。材料も時間も金も無い」
「そうなのです!船を作って欲しいのです!材料は私達で調達してきたのです!」
フルールが笑顔で答える。アポリオンから舌打ちが飛んできた気がする。
「……じゃ、金と時間が無い。諦めて」
「ふむ。やはり無理だったか」
アポリオンの額に青い筋が1本出来る。
「……そ。だから諦めて」
「無理なら仕方ないのです。しょうがないのです!」
アポリオンの額に青い筋が増殖する。
「……ふむ。ならば出直そう。失礼し——」
「ああもう!分かったわよ!やってやれば良いんでしょやってやれば!?」
「ありがとうなのです!」
作業台に乗り出しながら、アポリオンが叫ぶ。フルールは笑顔の一方、ラクスは突然の許可に困惑してしまっている。
「……本当に作れるのか?」
「あたしに作れない物なんて無いの!どうせ人手だけは有り余っているし!」
アポリオンがぶっきらぼうに答える。一体その自信は何処から来ているのか分からないが、本人が出来ると言えば出来るのだろう。
「ただ、そこの小娘。あんたは方針について相談する必要があるから残って。ジジイはどっか行ってても良いわよ」
「分かったのです!ラクスさん、先にウォニルさんと合流しておいて下さいです!」
「……頼めるか」
ラクスが少々不安そうに見つめる。
「大丈夫なのです!必要になったら連絡するです!」
ラクスが物置き部屋から外に出ようとする。ふと振り返ると、フルールが手を振っていた。
…………。
「……さて。そこの小娘」
「はいなのです!」
ラクスが何処かへと行ったのを見計らって、アポリオンが口を開ける。
「技術はあたしが持ってる。材料はあんた達から奪えばいい。時間も何とかする。後は、金よ」
「分かりましたです!稼いでくるのです!」
フルールが外へと出ていこうとして。
「待って」
アポリオンに止められてしまった。
「はいなのです」
「あんた、最近事務所の野郎共がやってる迷子の子猫探しがいくら稼げるか知ってる?」
「知らないのです!」
「正直で宜しい」
アポリオンが作業台から離れ、物置きの方へと歩み出す。そのまま、ガラクタの山を掻き分け始める。
「いい?子猫1匹につき報酬金が3000眼。それだけじゃない。正式なフィクサーとして契約して物事を解決する以上、税金が発生する。最後に手元に残るのは2000眼って所かしら」
2000眼。翼に住む子供のお小遣いはおろか、裏路地に住む子供のお小遣いすら超えているのか怪しい金額。
フィクサーとして仕事を受けているので長期的に見れば儲かるのだが、残念ながら今日を生きれる金額にはなっていない。
「それでも稼げるならやるのです!」
「……あんたね、時間が無いって言ったわよね?あんたらの船にいつまでもつきっきりでやれる訳じゃないの……ああ、あった」
アポリオンがガラクタの山から変なパーツを掘り起こす。それを持ったまま、作業台へと戻っていく。
「……今、この事務所の最高効率の稼ぎ方が何か知ってる?」
「知らないのです!」
変なパーツを作業台の上に置き、フルールへと視線を向ける。
「……あんたの身体をバラして内臓を取れるだけ取る。それから『命綱』を使って生き返り、また身体をバラして内臓を取る」
「……」
「そうやって手に入れた内臓を闇市で売り飛ばす。これが現状最大効率の金策。協会経由でもないから税金もあまり掛からないし、取引相手もそこら辺は考慮してくれる。迷惑が掛かるのはせいぜいあんた自身だけ」
底辺フィクサーには、とあるジレンマが存在する。
金を稼ぐ為には仕事をしなければならないが、仕事をする為には金が必要。
多くの者がこのサイクルから抜け出せずに勝ち目の無い戦いに挑み、悲惨な死を迎える。
「因みに次点は事務所破り。金と資源、誰かからの恨みと悪名とフィクサーの減点記録を貰えるわ。好きな方にするといいわよ」
だが、この事務所の人間は違う。死んでも生き返れる。
「分かったのです。私がお金を作り出すのです。……迷惑が掛かるのは、私だけで充分なのです」
「了解。あんた達の覚悟に見合う船、作ってあげる」
なら、きっと、やれる事はある。
「……でも、一つだけ約束して欲しいのです」
「あーいい。あんたが何を言いたいのか分かってる。その為にあのジジイを外に放り出したんだから」
「……ありがとうなのです」
……本当に?
| 自我の選択 |
| 憂鬱有利判定 成功値:20(??)以上 |
| ラクス:判定不能 黄金の小枝による強制調律:+10
|
| 合計値:10<成功値:20 判定失敗 |
「す、素晴らしい!」
人混みの出来た場所。部屋に鎮座する物体に圧倒され、感嘆の言葉が漏れ出る。
物置き部屋の中央に鎮座する巨大な船。空間拡張技術によって、部屋は限りなく大きく広げられたお陰でなんとか室内に収まっている。
「ま、デカいと言ってもあんた達エイト協会の十数人を乗せるのが限界だろうけどね。U社みたいな超巨大漁船は色んな面からして無理ね。諦めて」
「……流石だ。これなら、大湖の荒波にも耐えうるだろう」
アポリオンとラクスが下から船を眺めている。
「あ、姉貴……これ、エンジン部分、どうなってんですか……?」
物置き部屋によく出入りしていた者が、設計図を見て震えている。
「鯨の心臓を参考にした。何も入れなくてもちゃんと動くけど、エンジンの負担が大きくなるから定期的に鯨油を補充するように」
「忠告、感謝する」
「す……すげぇ……!傑作だ!こりゃ天才だ!あ、姉貴!いや!姫様!姫様と呼ばせて下さい!」
「どういうレベルの上がり方なのよそれ」
「……フルール」
「……あ、はいなのです。どうしたのです?」
ラクスが船の構造を隅々まで確認する最中、やや疲れを見せるフルールの姿が目に入った。
「……少し休め。疲れの色が隠せていない」
「大丈夫なのです。まだまだ、やるべき事がたくさんあるのです」
「いーや。絶対に休んだ方が良い。ついでに爺さんも」
青い上着の青年が会話に割り込んできた。
「ウォニルさん……」
「フルール。お前、最近調子がおかしいぞ。ここらでちゃんと休んだ方が良い」
「同感だ」
「爺さんもだ馬鹿!あんたそうやって動き続けてたらいつかぶっ倒れるぞ!」
ウォニルと呼ばれた青年がラクスとフルールを睨む。
ラクスには効果が無かった。
フルールにも効果が無かった。
「……あのなぁ!そうやって無茶して迷惑掛かるのは大体いつも俺らなんだよ!」
「同意だ」
「ジジイ!!!」
物置き部屋に怒号が飛ぶ。もはやいつもの事なので誰も気にしない。
そんな小競り合いを遠くから眺めていたアポリオンが、ふと思い出したかのように駆け寄ってくる。
「……ラクス。これの名前はどうする?」
これからの旅路を共にする漁船。我が子に名を付けるように、願いを込めた名前にするべきである。
「……ふむ。『漂流丸』はどうだ」
「縁起が悪いよ爺さん」
ラクスの意見は却下されてしまった。
「……アポリオンさん。貴方はこの船を作ってる時、なんて呼んでたんですか?」
「『デストロイガトリング号』」
「却下で」
アポリオンの意見も却下されてしまった。
「……じゃああんたはさぞ良い名前付けられるんでしょうね?」
「同感だ」
「……フルール。なんか案とか無いのか?」
「ふぇ!?」
流れ弾が飛んできた。フルールはあたふたと焦りの様子を少し見せた後、ふと口から溢れたかのように言葉を発した。
「『テセウス号』……とか、どうなの……です?」
「普通」
「……ふむ」
「いいんでね?」
「なんでそんな微妙な反応なのです!?じゃあ他はどんな名前がいいのです!?私には分かんないのです!」
命名権を巡って余りにも情け無い小競り合いが始まる。外野も混じり、別に意欲のない者さえも巻き込まれていく。
「アポリオンさん。配達に……何してるんですか」
乱闘中の最中、物置き部屋に、次元鞄を背負った少女が入ってきた。子供と勘違いする程の背丈に、とんでもなく長い白髪はポニーテールで纏められている。
「あ!白髪のチビ!この船をU社の大湖まで運んでおいて!」
「誰が白髪の……は?この船を?K社からU社まで?」
次元鞄を持つ少女の数十倍はありそうな程の巨大な船。ここまで大きいと次元鞄に入り切らないだろう。
「あ!待って欲しいのですパンドラさん!もう少し後で運んで欲しいのです!」
「なんでお前らそこまでネーミングセンスが無いんだよ!もっとだな!こう!真心込めた名前って奴をだなぁ!」
「真心籠った名前でしょうが『デストロイガトリング号』は!」
「儂はどんな名前でも嬉しいぞ」
「……どうやって運ぼう…………」
パンドラと呼ばれた少女は乱闘会場を横目に、目の前の巨大船の処理に頭を悩ませていた。
| 自我の選択 |
| 憂鬱有利判定 成功値:20(??)以上 |
| ラクス:判定不能 黄金の小枝による強制調律:+15
|
| 合計値:15<成功値:20 判定失敗 |
「『組』……とな」
「そうそう。陸地にいる奴らが協会ごとにまとまりを作ろうとしているらしい」
大湖のどこか、テセウス号船内。甲板の上でラクスとウォニルが大湖を眺めている。徐々に日が沈み始め、水が橙色に染まり始めている。
この大湖の区域を出るまで後25分。46分後にはこの区域を『波』が襲いかかってくるだろう。
「まあ、俺らは大して気にする事は無いですよ。これから俺らはエイト組ですよろしく、で解決ですから」
「……ふむ。この『部長』とはなんだ?」
ラクスが虚空を見つめる。その視線の先には橙色に染まっていく空と、数切れの雲しか存在しない。
「組を纏める人の事ですよ。エイト組の部長は船長で通しておきました」
「……ふむ。良かったのか?」
「良くなかったらこの船に乗ってないですよ船長」
ラクスは水平線の彼方を見つめる。徐々に沈む日の下に、水と空の境目がある。
船に乗る資格すら無かった者達が、今では大湖の上を渡り進んでいる。大湖の上で生きる事を志した者達が夢を叶えようとしている。
「船長さん」
声がした方を見ると、フルールが立っていた。夕日のせいで全身橙色になってしまっている。
「ダイオウエイ港船の座標が更新されたのです。この様子なら、明け方には到着出来るのです」
「ふむ。なら、ここからは儂が変わろう。フルール、お主は休んでていいぞ」
「あー……分かりましたのです」
フルールが何か言いたげな様子を見せる。それを見たウォニルが何かを察したかのように微笑み、あからさまな態度を取りながらしゃしゃり出る。
「あー、船長。俺今すっごく船を操縦したい気分だから変わるよ。この区域を出るまでは操縦しようと思うから船長はその後に操縦するといいようん」
「……ふむ。ルダン2等航海士の命令はちゃんと聞け。舵を動かす時はエスニル操舵手と共に動かせ。いいな」
「信用……」
ウォニルがしょんぼりとしながら操舵室に向かう。ただの銛使いが船を操縦したいなんて言おうものなら大湖に叩き込まれるだろうに、条件付き許してもらえるだけ有情である。
「……じゃ、ごゆっくり」
誰にも聞こえない声でボソッと言い残したウォニルが操舵室に消えていった。
「……船長さん。お隣、いいのです?」
「……うむ」
甲板の外縁に寄りかかる少女。白くたなびく髪と夕日も相まってどこか幻想的に見える。
ラクスは大湖の遥か向こうを見たまま動かない。こうなったら老人は意地でも動こうとしないのを彼女は知っている。
「……船長さん。船長さんは、どうして大湖に出たのですか?」
「……」
今までもこの質問はし続けていた。しかし、その度に有耶無耶に誤魔化され続け、本人からの答えを貰った事は無かった。
ただ、老人が大湖を諦める事も無かった。
「……」
「……いいじゃないですか。もう教えてくれたって良いと思うのです」
ラクスは水平線の向こうを見続けたまま、独り言のように話し始めた。
「……儂は、海の上にしか生きる場所が無い。海こそが儂の天職であり、墓場になる筈だった」
「……」
「大湖も海も、本質は同じだ。どうしようもない自然の摂理のみが人間の命運を左右する」
夕日が大湖に呑まれ始める。
「儂がここに来た意味など無い。流れに添い、そうなるべくしてこの『海』に来た」
夕日が徐々に呑まれていく。しかし、体はまだ橙色に染まったままだ。
「……船長さん。大湖にはこんな伝承があるのです」
大湖には明日を生きる為に必要不可欠な言い伝えから、曖昧すぎて何を伝えたいのか分からない逸話、何の意味があるのか分からない噂話まで。それらを縮めて『伝承』と呼ぶ。
どれだけ馬鹿らしいと感じる伝承も、大湖の上に船を浮かべる者達からすれば大切な情報源。故に、真偽不明の伝承は山ほど存在する。
「……『大湖の果てには水と空が交わる場所がある』。ちょっと前に教えて貰った伝承なのです」
「……」
いざ蓋を開けた時、どれだけその話がゴミのような話であろうとも、また次の者へと伝承が伝え継がれていくのだろう。
「……船長さん。私はいつか——」
橙色に染まった体が徐々に暗く染まり始める。
「みんなで、大湖の果ての空を見に行きたいのです」
「……良い夢だ」
老人は小さく微笑んだ後、夕日を後にし操舵室へと歩き始める。
「……ウォニル銛使い。変わろう」
「お、黄昏るのはもういいんですか?」
ウォニルが老人の顔を見た後、色々と言い残した後にどこか嬉しそうに操舵室を飛び出し——。
「……フルール」
「はいなのです」
「何話したんだ?あんなニッコニコな船長ひっさしぶりに見たぞ」
「まあ……ちょっとしたお話なのです」
夕日が完全に呑み込まれた。
| 自???択 |
| 憂鬱有利?定 成?値:20(??)?? |
| ラクス:判?不能 黄??小枝に???強?調律:+??
|
| 合?値:???成功?:?? 判定?? |
「———」
幾多の波を乗り越え。
「『波』、来ます」
「総員、備えろ!」
数多の人魚を退け。
「船長!」
「船長さん!」
数多の鯨を狩り。
「おい!?いつもより5割増しじゃねぇの!?」
「チッ……船長!このままじゃ持ちません!」
違う。
「はっ……?おい!何かいる!」
何故お前がここにいる。
「総員。狩りは中止だ。直ちにこの区域を出る」
どうしてお前はここに来た。
「——————」
大湖を知り尽くす人間なんて存在しない。
奴は。「網を離すな!吹き飛ばされるぞ!」もしお前がどんな波が起こるか分からない湖の中に閉じ込められたなら、信じるべきはただ一つだ。『船底から』外郭の大湖にいる。「クソ!なんでこんなに人魚が多いんだよ!?」五大災害。それはお前の航海の実力でも……万里先まで見渡す案内人の実力でも……仲間の固い絆でもない。全てを。『甲板にかけて』 「1等航海士!2等航海士に舵を任せ、人魚を処理へと迎え!」貫く。多くの者がこれに耐えられず、湖の底へと自らを贄とすることを選ぶ。「はいなのです!」マカジキ鯨。ただ、いかなる混沌と震えにも、自らの精神を保てるお前の意思を信じねばならない。『船を』「船長!それは余りにも危険です!」「違う……あれは俺らの狙いの鯨じゃない!」「船長!来ます!」『撃ち抜いた』湖が、たかがお前ごときで鎮まるかは分からないが。
大湖自身でさえも、大湖を知らないのだから。
「……おい、老い耄れ」
「……」
「喋らなくて良い。概ねこのザマを見れば何が起こったか分かる」
「……」
「ここを墓場にしたいなら好きにしたらいい。誰だって無人島に流れ着いたなら、明日への希望を見失うもんだ」
「……」
「でも、まあ、例えお前がどれだけクソみたいな状況下にいようとも——」
「……」
「生きていたら案外良い事あるぞ」
| 自我の選択 |
| 憂鬱有利判定 成功値:20(??)以上 |
| ラクス:憂鬱 黄金の小枝による強制調律:+19
1d10=7 黄金の小枝による強制調律:+19
|
| 合計値:26>成功値:20 判定成功 |
……老人は目を開けた。
私はあの子達に手を差し出すべき、なのかな?
-
そうだ。彼ら彼女らを、貴方が導くべきだ。
-
うーん。貴方の後輩に任せるべきでは?
-
貴方達はあの者達に関わるべきではない。