プラネタリウム・ドリーム   作:ななしのあ

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入港

「……ふむ」

 

 

 ラクスが大きく息を付く。未だ雨が降り続ける中、鯨の上から転げ落ちたフルールを回収し、舟の上へと乗せる。どうやら意識を失っているようだ。

 

 黄金の小枝は彼女の胸へと深く突き刺さっても尚、光り輝いている。

 

 ……フルールの首元に手をかざす。小さくともとくん、とくん、と脈は動いている。ぐちゃぐちゃになった白い髪と虚空を見つめ続ける眼は、壊れてしまった人形のような切なさを感じる。

 

 

「……助かった。藍色殿」

 

「儂はただ鯨を捕っただけじゃ。その小娘はあんさんが捕らえた獲物じゃろう」

 

 

 遠くで倒れたまま微動だにしない無人鯨を眺める。いくら銛が胴体を貫いたからと言って、これだけで死ぬのはどうも違和感が残る。

 

 

「はて、その小娘もこの鯨も、何かに酔ってパッパラパーになってしまっていたようじゃったな」

 

「こいつに関しては思い当たりがあるが……その鯨はなんとも……」

 

「だからこそ儂が来たのだ。不気味な鯨がおると聞いて地道に追い続けてはおったが、どうも掴めないままであったからな」

 

 

 藍色の老人は動かなくなった鯨に近づき、何かしらの小細工を行った後、再びラクスの元へと近づいてくる。

 

 

「その小娘は生きておるのかえ?」

 

「……おそらく」

 

「なら早く陸地まで戻すべきじゃ。海から出た時が、最も凍えやすいからの。お主もまた遭難者じゃ、儂が案内しよう」

 

 

 藍色はラクスの前まで出てきて、オールをゆっくりと漕ぎ始める。少しは落ち着きを見せていた『波』が再び蠢き始める。

 

 

「先頭は儂が誘導しちゃる。人魚も大方吹き飛ばしちゃろう。……じゃが、細かいのはあんさんで対処せえ」

 

「……藍色殿。あの鯨はあのままで良いのか?」

 

「構わない。儂がするべき仕事はもう済んでおるからの。それよりも、ここの波が徐々に悪化しちょる。このままじゃ、儂とあんさんは耐えれども小娘は生き絶えるじゃろう」

 

「あんさんらの救助も儂の仕事じゃからな」

 

「……感謝する」

 

 

 藍色の老人はタバコに再び火をつけ直した後、荒波の中を掻き分け、進み始めた。

 その背中は力強く勇ましく、一方は穏やかで優しさを感じる。

 

 特色とは、ここまで差のある者達であるか。

 

 ラクスはそんな事を思いながら、彼の背を追っていく事にした。

 

 

 

 

 

     Ramus Aureus Receptus

 

    黄金の小枝 回収

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

783:名無しのフィクサー

あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

 

遭難したエイトニキが帰って来たと思ったら特色と黄金の小枝と女の子と一緒に帰って来た……

 

な……何を言ってるのかわからねーと思うがワイも何をして来たのか分からなかった……

 

784:名無しのフィクサー

とりま代表はエイトニキ救出の為に特色様を使ったって事ね

 

さようなら、ワイらのお金

 

785:名無しのフィクサー

特色フィクサーに払う金なんぞこの事務所に残ってねぇよ……

遂に借金生活か?

 

786:名無しのフィクサー

なんでごごに来でまで借金じないどいげないのぉぉぉ!!!

 

787:名無しのフィクサー

プラマイプラプラプラマイマイマイマイマイマイナスだよバーカ

 

788:名無しのフィクサー

え?遂に雑草暮らしか?

 

789:代表

とんでもない誤解があるな

金ならもう払ったぞ

 

790:名無しのフィクサー

>>788

最近の流行りはクラップ蟹の生焼きらしい

 

791:名無しのフィクサー

>>789

は???

そんな金どっから作ったんや?

 

792:名無しのフィクサー

>>789

遂にワイらの特異点売り払ったかぁ……

 

793:名無しのフィクサー

>>789

へそくりから生み出したんか?

 

794:名無しのフィクサー

>>789

お前何回臓器売っぱらったん?

アレもう大して稼げないけどさ

 

795:代表

だーかーらー違う!

めちゃんこ良心的な価格で依頼を受けてくれたんだって信じてくれよベイベー!

 

796:名無しのフィクサー

それが信用出来てないからこうなってんじゃん

 

797:名無しのフィクサー

お前のコネってそんな広かったの?

んな訳無いじゃん

 

798:名無しのフィクサー

特色様にお小遣いレベルの金額で依頼受けてくれたって誰が信じるんだよ

 

799:名無しのフィクサー

>>795

もしかして:詐欺

 

800:名無しのフィクサー

>>799

あっ

 

801:名無しのフィクサー

>>799

まずい

冗談抜きでまずい

 

802:名無しのフィクサー

あれ?

そんな不味い事あったっけ?

 

803:名無しのフィクサー

>>799

これワンチャン終わった説ある?

 

804:名無しのフィクサー

>>802

最近クソ骸骨がトンデモ依頼書で色んな人間を詐欺ってるって噂が広まっててだな

ウーフィ組がピリついてんのは大体こいつのせい

 

805:名無しのフィクサー

代表代表

もしかしてその取引相手って骸骨頭だったりしなかった?

 

806:代表

>>805

流石にワイを馬鹿にし過ぎ

流石にそこん所の情報系はきっちりしてるわ

 

807:名無しのフィクサー

ほんとぉ〜?

 

808:名無しのフィクサー

隣に青キチとかいなかった?

 

809:名無しのフィクサー

ちゃんと契約書の隅々まで目で通した?

 

810:代表

協会経由だからアイツらが入れる隙なんて無いしワイもちゃんと確認したから大丈夫やで

 

多分

 

811:名無しのフィクサー

>>810

はい余計

 

812:名無しのフィクサー

終わった

夜逃げの準備しておきます

 

813:名無しのフィクサー

あなや

お前だけは絶対殺すなり

 

814:名無しのフィクサー

>>810

使用時 自分に出血を3付与、このページの全ダイス+3

 

打撃 1~8 的中 次の幕 出血1 付与

防御 2~7

斬撃 3~8 的中 次の幕 出血1 付与

 

815:名無しのフィクサー

>>813

夜逃げても掃除屋いるぞ

 

816:名無しのフィクサー

>>814

あーあ

あん時このページあったら楽勝やったのにな

 

817:代表

まぁそこはなんとかなるとして

 

万歳!エイトニキのお陰で都市悪夢事件解決&黄金の小枝2個目ゲットだぜ!

 

818:名無しのフィクサー

うわーい

 

819:名無しのフィクサー

もうこの時点で色々お腹が痛いなりー

 

820:名無しのフィクサー

怪我の功名とはまさにこの事なりー

 

821:名無しのフィクサー

もう既に図書館は都市伝説に足を突っ込んでるノム

ぶっちゃけこのペースじゃ間に合わないノム

 

822:代表

この調子で他の皆様方も頑張りやがれ下さい

現場からは以上(イサン)です

 

823:名無しのフィクサー

>>821

だから今なんとかしようと努力してんだよ黙っとけ外郭の怪物

 

824:名無しのフィクサー

>>822

現在進行形で頑張ってんだよ応援するぐらいなら手伝えや1級

 

825:名無しのフィクサー

あれ今エイトニキってどこおるの?

 

826:名無しのフィクサー

これ本当に間に合うか?

図書館が成長し切る前に凸って押し切る戦法やろ?

 

827:名無しのフィクサー

>>826

分かってんだよこのままだと黄金の小枝が5本集まるのは図書館が都市の星認定された辺りになりそうな事ぐらいだから今こうやって頑張ってんだろうが

 

828:名無しのフィクサー

>>825

今事務所でゆっくりしてる

 

829:名無しのフィクサー

>>827

キレんなって

深呼吸しろよ

 

830:名無しのフィクサー

>>828

あもう事務所まで帰って来てんの

お早い帰宅なこと

 

831:名無しのフィクサー

>>830

ちなワープ列車(一等席)

 

832:名無しのフィクサー

は?????

 

833:名無しのフィクサー

おい馬鹿まて馬鹿ちょい馬鹿

 

834:名無しのフィクサー

>>831

おいくら万眼???

 

835:名無しのフィクサー

いやだからワイら今お金無いんだって

 

836:名無しのフィクサー

都市悪夢事件解決したんやろ?

そこそこは貰えるだろうし部長だし疲れてるだろうしまあ許してやらん事も無い

 

837:名無しのフィクサー

>>834

3000万眼♡

 

838:名無しのフィクサー

はい許さん

 

839:名無しのフィクサー

終わった

こんな事してるからいつまで経ってもワイらの金はねぇんだよ

 

840:名無しのフィクサー

たっっっっっっか

1人で???

 

841:名無しのフィクサー

これもうW社の方が悪いだろ

 

842:名無しのフィクサー

>>840

いや2人らしい

 

843:名無しのフィクサー

>>841

おい責任取れL社

 

844:名無しのフィクサー

>>842

もしかしてエイトニキと連れて来た女の子の事?

藍色の老人は違うよね?

 

845:名無しのフィクサー

>>843

別にロボトミー社あった頃からこの有様やったやろ

 

846:名無しのフィクサー

>>844

そうやね

藍色の老人はもうどっか行っちゃったらしい

 

847:名無しのフィクサー

ああもう行っちゃったんだ

ワイも一目見たかったのに

 

848:名無しのフィクサー

ありがとう藍色様

またなんかあったら頼みます

 

849:名無しのフィクサー

>>846

エイトニキがナンパするなんて考えられないから訳アリだろうな

 

ま、難破はしたんですけどね

 

850:名無しのフィクサー

>>849

お前の下顎を砕く

 

851:名無しのフィクサー

なんかそこら辺については特異点ネキと色々話してたな

ワイもよく知らん

 

852:名無しのフィクサー

てかアレ多分ねじれじゃねぇの

 

853:名無しのフィクサー

もしかして大湖の精霊を生け取りにしてきたんかエイトニキ

 

854:名無しのフィクサー

流石部長

ヘマをしても挽回が上手い

 

855:名無しのフィクサー

部長格は失敗するが

反省するのが早くて良いんだよな

 

856:名無しのフィクサー

>>855

なおお前

 

857:指切り拳万ニキ

別にここで親指ごっこをするのは構わないがそれ本物の前では絶対やるなよ

冗談抜きでルナ事務所フィクサー全粛清ルートだからな?

 

858:名無しのフィクサー

>>856

下顎を砕けー!

 

859:名無しのフィクサー

>>857

そうなったら親指と全面戦争です

 

860:名無しのフィクサー

この状況下で親指まで相手しなきゃならんってなったらもう無理だろ

 

861:名無しのフィクサー

>>859

別にワイらそこまで強くないぞ?

 

862:名無しのフィクサー

>>857

流石に身内ネタを外に持っていくほどアホじゃないって

 

863:名無しのフィクサー

親指との付き合い方は面倒臭いけどまだなんとかなるのよ

そこに異常なまでのエンカ率が合わさるとまぁしんどい

 

864:鍵ヲタク

そうだ指ニキ氏おるやん忘れてたわ

おい指ニキ氏今どこいる?

 

865:名無しのフィクサー

>>863

親指構成員だけならまだしもその傘下まで含むとまぁ多い多い

 

866:名無しのフィクサー

>>864

もしかしてL社跡地の方?

 

867:指切り拳万ニキ

>>864

L社跡地の北部

そっちまで行ってもいいが時間掛かるぞ

 

868:名無しのフィクサー

指ニキかぁ……

いや文句は無いけどさ……なんというか……

 

869:名無しのフィクサー

>>864

そっちで指関連の事故でも起こったか?

 

870:名無しのフィクサー

>>869

他面子は動かせないしまぁしゃあなくないか?

 

871:鍵ヲタク

>>869

いや違う

L社跡地の戦力が足りないから増援が欲しいなと

 

872:名無しのフィクサー

戦力足りんぐらいなら気合いでなんとかしろよ

 

873:指切り拳万ニキ

>>871

戦力目当てなら俺は場違いだぞ

 

874:鍵ヲタク

>>872

いやL社跡地捜索隊もう半壊してるんだって

>>873

それでも小生よりは強いだろうから来て

 

875:名無しのフィクサー

>>869

人手不足なのは本当にそう

エイトニキも来れるなら来て欲しい

 

876:名無しのフィクサー

てか代表戻ってきてんならL社跡地来てよ

地獄絵図過ぎてワイじゃ太刀打ち出来ん

 

877:代表

がーんば♡

 

878:名無しのフィクサー

くたばれ粉カス

 

879:名無しのフィクサー

もう二度とそのズラ見せんじゃねぇぞ

 

880:指切り拳万ニキ

>>874

分かった

 

881:名無しのフィクサー

楽に死ねると思うなよ

 

882:名無しのフィクサー

夜道には気をつけろよ

 

 

………

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 K社の裏路地、ルナ事務所内部。

 普段は人が多くいる事務所だが、今は誰も彼もが働きに行っている為、人影は見当たらない。

 

 ラクスは人気のいなくなった部屋で、雑に置かれたソファーに横たわっていた。

 

 

「…………」

 

「……あ、ラクスじゃん」

 

 

 突然、部屋に声が響き渡る。ラクスが体を起こす。

 

 

「……アポリオンか」

 

「やっほ。ごめんね、助けに行けなくて」

 

「構わない。こちらの不手際が生み出した失態だった」

 

 

 ジャケットを羽織った女性がラクスの近くまで歩いてくる。まるで遊び道具を見つけた犬のように、どこかニヤニヤとした表情を浮かべながら近づいてくる。

 

 

「凄いじゃん。都市悪夢事件の解決に、黄金の小枝の確保。今の所この事務所の誰よりも働いてるよ」

 

「……」

 

「……あれ?どうした?」

 

「……お主、丸くなったな」

 

「えっ?私はいつもいつでもこの調子だよー?」

 

「…………」

 

 

 とぼけた様子を流しながら、ラクスは天井をじっと見つめ続ける。電球が途切れる事なく輝き続け、部屋を照らし続けている。

 

 

「ラクス。ちょいといいか?」

 

「ラクスさん。フルールさんの事で少々お話が」

 

 

 扉が開かれれば、また部屋に人が入る。

 

 ルナ事務所代表、アストラ。それに加え、ルナ事務所特異点係、プシュケ。

 

 

「あれ、代表。あんたL社跡地に来いって言われて無かったっけ?」

 

「ワイにはワイの仕事があるから行けないんですぅー。藍色様に感謝の色々とかー、謎のお偉いさんの接待とかー」

 

「……フルールについてか?」

 

「此方でフルールさんの容態について調査しました。アポリオンさんももしかしたら手伝って貰うかもなので聞いておいて下さい」

 

 

 そう言うとプシュケは数枚の資料をラクスへと手渡す。

 

 どうやら、フルールの健康状態について詳しく書かれた紙のようだ。専門用語ばかり書かれているせいで、半分の半分も分からない。

 

 

「半分ぐらいしか分かんないけどさ……なんか凄い事書いてない?」

 

「ふっ。ワイは半分の半分の半分も分からんぞ」

 

「代表さんはややこしくなるので喋らないで下さい」

 

 

 アポリオンとアストラが資料を覗き見て、思い思いの感想を述べる。

 

 

「……簡単に言えば、フルールさんは意識不明の重体です」

 

 

 思い当たる節しか無い。黄金の小枝を心臓に突き刺してしまった。

 

 

「ただの意識不明の重体なら命綱に繋いで生き返らせれば大丈夫なのですけど……問題はフルールさんの『E.G.O』にありましてね」

 

「……エゴ、か?」

 

 

 おかしい。本人は『ねじれ』だと話していた。

 

 

「正確に言えば『不安定E.G.O』ですね。ただ、どうも自我の殻が造られては崩れを繰り返しているみたいでして……」

 

「……自我の損傷?」

 

 

 アポリオンがふと思い立ったかのように口を挟む。

 

 自我の損傷。E.G.Oを発現した人間の(E.G.O)を完全に破壊すると、持ち主の心すらも完全に破壊される、と言われている。

 

 

「まぁ、そんな感じですね。それが黄金の小枝のせいでバラバラになってしまった感じです」

 

「はい質問」

 

 

 アストラが勇ましく手を挙げる。

 

 

 …………。

 

 

「……はい、なんでしょうか」

 

「元から崩れて作られを繰り返してるなら別に問題は無いんじゃないですか」

 

「いいえ」

 

 

 プシュケがキッパリと答える。

 

 

「そうですね……例えるなら、フルールさんのねじれとE.G.Oの状態は化学平衡です。崩れている殻と造られている殻が釣り合っているんです」

 

「対して黄金の小枝の影響による破壊は、どちらかと言うと核反応です。殻の状態ではなく、殻の元そのものが壊れてしまっている、と考えた方がいいでしょう」

 

 

「なるほど、わからん」

 

「ま、現状外部から出来る事は無いって事でいいの?」

 

「その解釈で大丈夫です。人魚化も相まって、命綱による蘇生も記憶障害や植物状態を招く可能性が非常に高いです」

 

「ただ、鯨による侵食にも関わらず、あの日から今日まで自我を保ち続けて来たのは本人の圧倒的な自我の強さ故と言うしか無いですね。今後もフルールさんに関しては此方で治療を試みていきます」

 

「……ふむ」

 

 

 そんな解説を聞きながら、ラクスはずっと天井の電球を眺めている。

 

 

「……ラクス」

 

 

 ふと、尋ねるように、励ますように、アストラが声をかける。

 

 

「ラクスはさ、後悔してる?」

 

 

 本当にあの手しか無かったのだろうか。

 もし、彼女の手を握っていたのなら、このような結末にはなっていなかったのだろうか。もしかしたら、もっと酷い結末を迎えているのかもしれないし、もっと良い世界を迎えていたのかもしれない。

 

 それでも、ラクスは己の我儘を通し、今に至った。

 

 

「……儂には夢がある」

 

「おっ」

 

「へぇ〜?」

 

「…………」

 

 

「いずれ、この事務所の者達()()を、大湖の果てにある水と空が交わる場所へと連れて行く事だ」

 

 

「……へぇ」

 

「おぉー?」

 

「……面白い伝承ですよね。その時は私も是非、ついて行きたいですね」

 

 

 都市は変わらない。

 この黒い都市は苦痛の歯車を回し続け、今日も進み続けて行くのだろう。

 

 

「だから儂はあいつ(フルール)を力強くでも戻した。この事務所の者達と、彼女と共に大湖の果てに辿り着きたいからな」

 

「……そっか。じゃ、その時はお弁当でも作って行ってみよっか」

 

 

 ……それでも、まぁ。今までとは違う夢を見たって良いのかもしれない。

 

 

 

「……だから、儂はこれからも()()し続ける事になるだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大湖、及び外郭。

 

 霧が深く掛かったどこかの地に向けて、深く傷付いた鯨が泳いでくる。

 

 

 鯨が死ぬ時はいつも、太陽の方を向く。

 体を精一杯伸ばし、光り輝く先に少しでも近づこうとする。

 

 ……ただ、その鯨はその様子を見せる事は無い。

 

 まるで、太陽なんて目も暮れてないように。

 

 

 ……はたまた、既に太陽の元へ辿り着いているからか。

 

 

「おお、ちゃんと来てくれたね」

 

 

 大湖の果ての陸地には、人影がある。

 

 

「流石だね。最初に聞いた時は俺も疑心暗鬼だったけど……」

 

「契約通り、素晴らしい出来で御座います」

 

 

 無人鯨が座礁する。その巨体が地面と擦れ合いながら減速していく。

 

 

「では、後の処理は私が処理致します。お下がり下さい——」

 

 

「アルガリア団長様」

 

 

 「大丈夫だよ、プルート。こっちは俺がやっておくから、プルートはその()()()を見て欲しいな」

 

「承知しました」

 

 

 アルガリア、と呼ばれた色男が座礁した鯨へと近付き、音符の様な巨大な鎌を払う。空間に響き渡る残響と共に、鯨が切り裂かれる。

 

 血飛沫、肉塊、鯨の鳴き声。様々な物が撒き散る中、アルガリアは鯨の体内をかき乱しお目当ての物を探り続けている。

 

 

「……お、これかな?」

 

 

 鯨の体内から取り出されたのは——。

 

 

「これが……『黄金の枝』、って言うのかな?」

 

 

 一点の曇り無き程に眩い光を放つ、黄金の枝がそこにはあった。

 

 

「……」

 

 

 遠くから老人はその光景を眺めている。

 

 鯨は己の体内から取り出された黄金の枝へと必死に体を伸ばす。目指すべき場所が、己の宝物が奪われ、それを取り返そうと、辿り着こうと、体を必死に伸ばす。

 

 

「……面白いね。お前も、この枝を大切にしていたんだろ?」

 

 

 ——残響。

 

 

 既に満身創痍だった鯨は、鳴り響く音が止むと同時に動かなくなってしまった。

 

 

「ありがとう、藍色の老人。これで契約は満了……って事で良いね、プルート?」

 

「構いません。藍色様の協力に感謝致します」

 

 

「……あんさんりゃにゃ、それで満足かえ?」

 

 

 藍色は重い口を開いた。

 

 

「せっかく大湖にまで来たんだから、少しぐらいは魚臭くならないと損だからね。じゃ、プルート」

 

「藍色の老人様。此方が……『全てを貫くマカジキ鯨』の情報となっております」

 

 

 骸骨頭が1冊の分厚い本を渡す。

 

 

「マカジキ鯨の生態が全て載っております。貴方が契約を守ったのなら、此方も契約を守らせて頂きます」

 

「……」

 

 

 藍色の老人は手渡された本をペラペラとめくる。既に知っている情報から知らなかった情報、使わないだろうという情報まで、五大災害の一つ、マカジキ鯨について徹底的な解説が載っている。

 

 

「おつむの弱い友達に、四角いだけの鉄頭……そんなのに比べたら、爺さんはよっぽど良いフィクサーだし俺らの事も分かってくれる良い人だよ。流石は特色の1人だね」

 

「……」

 

「もし良ければだけどさ、俺達と一緒に世界と都市を変える演奏をしてみないかい?」

 

 

 アルガリアは笑みを絶やさず、老人に語りかける。そのオーラには、人を引き寄せる力が宿っている。

 

 

「儂は鯨捕りしか出来ん」

 

「そうかい?爺さんは案外、色んな事が出来るんじゃないのかな?」

 

「…………」

 

 

 老人は二度は言わんと口を結ぶ。

 

 

「……まあ、断られちゃったならしょうがないか。プルート?」

 

「はい。やはりこのラジオ、我々も知らない特異点相当の技術が使われている様です」

 

「使えるようには出来るかい?」

 

「完全な修復は極めて難しいですが、断片的になら可能でしょう」

 

 

『ピピ、ガガガガガガガガガガガッ』

 

 

 ラジオからは相変わらず壊れた音だけが鳴り響く。

 

 

「……じゃあ、お先に失礼するよ、藍色の老人。似た色同士、これからも仲良くやって行こうじゃないか」

 

「……青色」

 

 

 極限まで口数を絞っていた老人が話し始めた。

 

 

「儂とあんさん達の目指す場所が似通っているのは事実じゃ。だからこそ、あんさんにも言葉を投げかけておこう」

 

「後悔するぞ」

 

 

 アルガリアはきょとんとしながら言葉を反芻した後、急に吹き出し、笑い始めた。

 

 

「ふっ、はははっ……確かに俺達は今から航海に出るね。プルート、船を出してくれるかい?」

 

「はい、アルガリア団長様」

 

 

 突然、大湖の上に船が現れ、浮かび上がる。

 そのままアルガリアとプルートは藍色の老人に背を向け船へと飛び乗り、大湖の向こうへと進み始める。

 

 

「……プルート。図書館を肥やすと同時に、黄金の枝の捜索も進めてくれないか?」

 

「分かりました、アルガリア団長様」

 

 

 プルートの手の上に浮かぶラジオからは、砂嵐だけが流れていた。




これで大湖の精霊は一区切りです。
エイトニキに関するお話は前々から伏線を貼っていた事もあり、やっておきたかったので満足です。んで、慣れねぇ事をするもんじゃねぇなとも痛感しました。


*フルール
不安定E.G.O::『ジェリーフィッシュ・ラブレター』

詳細不明。ウェットスーツのような役割、精神汚染からの保護、死体を用いた眷属の生成?人魚化によるゲゼルシャフトの切断?要調査  ——プシュケ

元エイト組1級航海士。全てを貫くマカジキ鯨によってテセウスが沈没、その後人魚へと呑まれるが精神力のみで堪え、白夜黒昼の後に不安定E.G.Oを発現、ねじれとの境界線を渡りながらエイトニキと共に大湖の果てへと旅立つ事を夢見ていた。エイトニキによる黄金の小枝アタックによりE.G.Oを損傷、意識不明の重体に。現在は特異点ネキの元、治療が行われている。
個人的モチーフ?は超絶厄介オタクです。尊敬する誰かを神格化し、理想の人格を作り出しそれを本人もしくは他人に押し付ける。いるでしょ?そんな人。

今回の話は先日のアークナイツコラボの影響を深く受けています。人魚も頑張ればE.G.Oを開花できる説も、シーボーンE.G.O開花可能説から来ています。


*アルガリア
所属:????、団長、青い残響

陰湿な色男  ——ネモ


*プルート
所属:????、???担当、昨日の約束

骸骨クソアタマ ——ネモ

私はあの子達に手を差し出すべき、なのかな?

  • そうだ。彼ら彼女らを、貴方が導くべきだ。
  • うーん。貴方の後輩に任せるべきでは?
  • 貴方達はあの者達に関わるべきではない。
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