プラネタリウム・ドリーム   作:ななしのあ

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主人公(ヒーロー)討伐作戦—スケープゴート

 天を穿つ2本の線が軌跡を作る。1つは虚空へ、もう一つは男の鳩尾へと吸い込まれていく。

 

 破城槌を模したトンファーはワラギの腹部を打ち貫く……前にハルバードが一撃を遮ったが、威力を抑えるまでは至らず()()()()へと打ち上げられる。

 

 

(……?、!?、やっば!一瞬オチてた!)

 

 

 全身に浮遊感を感じ、天に足を向けたまま上へ上へと昇っている事を把握したワラギはすぐさま、天に頭を地に足をと、人間があるべき姿を取り戻した後、両手に強く握られたハルバードを構え直す。

 

 

「俺さっきまで地下深くにいたよな!?あのヤギの一発で地中突き抜けて空高くまでスポーンか!?バッカじゃねぇの!?!?」

 

「それにしちゃあ思うたよりピンピンしとるのぉ。もう一発ぐらいかましとっても構わんじゃろ」

 

 

 ワラギの体に影が差し込む。白い煙越しに照らしていた光を更に遮った人物が、ワラギの更に上から落下してくる。

 

 

「なんだお前、どう考えても未の速さじゃ——」

 

「刻めェ!破砕痕!!」

 

 

 咄嗟に構えたハルバードの柄に、腕よりも太く硬いトンファーが突き出される。ワラギはその勢いをそのままに、地面へと引き込まれ、叩きつけられ——。

 

 

「……なんや、あんた」

 

 

 砂煙が上がる中、落下地点から少し離れた位置にヤギが着地する。両手はトンファーの持ち手を強く握り、腕にはしめ縄を思わせる黒く太い縄がトンファーと黒獣をきつく結んでいるようだ。

 

 

「打ち込んだ時ぁええのが決まった思うたんじゃが、壊すとこまでは届いとらんし受け身もやけに上手いのぉ……あんた、ほんまにウーフィの人間なんか?」

 

「こっちのセリフだ黒獣。未のクセに速いし寒がりでもないし寂しがりやでも、変な強迫観念もねぇ。……何者だ、テメェ」

 

 

 砂煙が晴れれば、ハルバードを向けた男が露わになる。破城槌を思わせるトンファーが腹に打ち付けられたにも関わらず、ワラギは一切の動揺も見せずに体勢を立て直している。

 

 

(レスアンカーで完璧に合わせたのにここまで響くものなのか?……いや、合わせたからこそ逆にハマってしまったのか?)

 

「……やっぱり、あの冷てぇ焦りがないとロクな一撃は入れられんのぉ。威力だけじゃあ筆頭さんには逆立ちしても勝てんじゃろな」

 

(このままだとジリ貧で負ける……守れば負ける……守るから負ける、の方が正しいのか……?)

 

「じゃけぇ言うて、ワシが筆頭さんより弱いっちゅうことにはならんけぇの」

 

(本当にコイツが筆頭クラスなら部長でも手に余る傑物……だからこそ、コイツを本隊に合流させる訳には行かない……)

 

「……なら、頑張るか」

 

 

 ワラギが姿勢を屈めた後、足元が爆ぜる。そのままハルバードを振りかざし、ヤギの左肩から右腰にかけて鈍く光る金属の刃が放たれる。

 

 ヤギは左手に強く握っているトンファーを軽く払い、向かうハルバードを跳ね除ける。浮いたワラギの身体に生まれた左脇の隙間に、右手のトンファーを打ち込む……が、ワラギは器用に身体を捻り、トンファーの向かう先を空白にする。そのままワラギは両足をヤギに押し付け、ハルバードと共に距離を取り、着地する。

 

 

「……あんた、ほんま動きがええのぉ。博打好きの荒くれもんの相手でもしとったんか?」

 

「知らんのか、最近のフィクサーはこんぐらい出来ないとクビになるんだぞ」

 

「ワシの知らん所でフィクサーも成長しとるんやなぁ。血の気ばっかり盛んになってあれよあれよと競い合うて……あいつ等もあんた達も、前にも後ろにも行けんようになった事に気づいておらんのか?」

 

「……?」

 

 

「……なんとも、馬鹿らしいのぉ」

 

 

 その瞬間、ヤギの脚絆が内側から破れ……()()()が露わとなる。

 

 

「……はぁ!?」

 

「『脚力【卯】』、高ぅ鳴り響け」

 

 

 一瞬の後、ワラギの胸に向けて致命的な一打が打ち込まれた。

 

 ワラギの口から赤い血が漏れ出し、体内のなにかが壊れる音を鳴らして遥か彼方へと吹き飛ばされる。

 

 ヤギは追撃の手を止める気配はなく、両脚を強く踏み鳴らしながら未だ吹き飛ばされているワラギの元へと追いつき、追撃の一撃を顔面へと振り下ろす。

 

 

「——ッッ!!!」

 

 

 直撃すれば頭蓋骨を砕いたであろうその一撃は、またもやハルバードによって軌道がズラされる。

 

 

「ええ技能じゃのぉ。そこまでの腕を持っとるフィクサーは珍しいで」

 

「こんな所で死ぬタマじゃねぇんだよ!」

 

 

 瞬間的にハルバードを振り払い、ヤギの胴体を切り裂く。しかし黒獣は怯む事なく兎の脚を踏み鳴らし、肘、腰、膝、頭と、少しでも相手の動きが鈍くなりそうな部位を重点的に狙ってトンファーを打ち込み続けていく。

 

 その連撃をワラギは上手く全身を使いながら攻撃を流し続け、カウンターとして上半身、首元、太腿を狙いハルバードを振り回し続ける。

 

 

「なるほどのぉ、ダメージ覚悟で反撃を入れてきたんか。うまいこと泥沼に引きずり込みたいんじゃな」

 

(なんでか分からんがコイツは黒獣の『卯』と『未』の性質を持ち合わせてる!速すぎてマトモにかち合えないし守ったら逆に押し切られる!)

 

(なら!反撃で着実に削る!黒獣である以上、兎の脚も羊の角も永遠に持つ訳じゃない、確実に弱る場面がやってくるはず!)

 

 

「ほいじゃ、さっさと決めたるかぁ!」

「そこまで粘り切ってやらぁ!」

 

 

 乱闘。目にも止まらぬ速さで動きつつ、トンファーを打ち込み続けるヤギに、不気味なまでにその乱撃に対応し反撃を入れ続けるワラギ。建物にいくつものヒビが入り、コンクリートに無数のクレーターが生まれていく。

 

 

「『発角』、『脚力』、肉突き破って何もかもぶち壊したる!」

 

「やってみろエセ黒獣!『振幅増大——』

 

 

「『瞬撃・破竹之勢』!」

 

「『——負債』!」

 

 

 破砕鎚とハルバードが衝突する。

 

 ハルバードがヤギの身体を揺らしはするも、2本のトンファーを止めるまでは至らず、ワラギの胴体にめり込み吹き飛ばす。

 

 

(押し負けとっても意地で攻撃をぶち込むか……早うケリつけとらんと後々が響くのぉ)

 

 

 兎の脚が異次元の速度を生み出し、2本のトンファーに刻まれた無数の呪印が光り出す。

 

 

「——チッ!なんのこれしき……」

 

「あんた、刻まれとる呪印、忘れとらんよな?」

 

「!?」

 

♑︎

 

 ワラギの胴体に刻まれた呪印が鈍く光り輝いている。

 

 

(呪殺!?待て、いつ刻まれた、刻まれてから何発——)

 

「考えても分からんのなら実際に試してみりゃええじゃろうが!『雲解顕現・破砕角』!!!」

 

 

 2本のトンファーが呪印を食い破った。

 

 

「……!!」

 

 

 力無く吹き飛ぶワラギを見送らず、これを好機と見て追撃に移るヤギ。先程のような速度は出せなくなっているが、それでも彼に追い付くのにそれほど時間は掛からないだろう。

 

 

(『脚力』が切れてもうたが……今の一発で崩したで、あと一発ぶち込めりゃ流石に持たんやろ!)

 

「終いじゃ!フィクサー!!!」

 

 

 右腕に付いた破砕鎚がワラギの頭部へと吸い込まれ——。

 

 

 

 足音。

 

 ワラギの、更に向こうから、高速で。

 

 

 

 赤い牛が突っ込んでくる。

 

 

 

「……チィッ!!」

 

 

『脚力』が切れたヤギの脚ではワラギに止めを刺す前に牛と衝突すると判断、やむを得ず迎撃体勢に移る。

 

 赤く巨大な牛に見えたソレは……人だった。

 

 

「制止。逃げられると思うなよ」

 

 

 赤く熱く巨大な塊はワラギを通り過ぎ、ヤギへと衝突、甲高い牛の鳴き声を撒き散らすと同時に大きく撥ね飛ばす。

 

 振り抜かれた右手は赤い熱を帯び、肩に掛かった赤いコートは未だにたなびいている。

 

 

「おっっっっっっそーーーい!!!!!どこふらつきやがってたんだテメェ!!!!!」

 

「……思ったより元気そうだな」

 

 

 受け身に失敗し地面を転げ回り、ボロボロになった筈の体から罵声が飛んでくる。

 

 颯爽と駆けつけた男は横に倒れる無様な者を少し見た後、再び遥か向こうの黒獣へと視線を戻し、独り言かのように話し始める。

 

 

「アネサさんから伝言だ。『支部ニキを送る、これ以上の増援は送らないから後は2人で決め切ってくれ』……との事だ」

 

「それで来たのが試作品付けたお前かよ……黒獣相手になんでケチってんだよ都市伝ネキは……」

 

「試作品じゃない、欠陥品だ」

 

「もっと駄目じゃねぇか」

 

 

「熱っちいのぉ……援軍を呼ぶ隙は作らせんかったはずなんじゃが……仲間の悲痛な叫びでも聞いたんかぁ?」

 

 

 遥か遠くまで飛ばされた筈のヤギが2人の目の前へと降りてきた。2本のトンファーや身に巻かれた衣服には焼け焦げて黒くなった跡が見える。

 

 

「ルナ事務所リウ組所属、陽炎3番隊隊長、アレンだ。仲間の悲痛な叫びを聞いて駆けつけてやる程の心は持っていないが、仕事だから相手になろう」

 

「おい」

 

「リウのフィクサーか……クソめんどいのが来よったわ。ほんまどいつもこいつも群れんと気がすまん奴らじゃのぉ」

 

「一匹狼が正しいとは言い切れないな。色が付くようなフィクサーでさえ出来ない事の方が多い。だから俺らは事務所を作り、共に協力しながら便利屋(フィクサー)をやっているんだ」

 

「……冷てぇ焦りが目の前をふさいで、外野がそれを煽り立てる……あの群れの息苦しさがフィクサーどもに分かるわけなかろうが!」

 

「お前ら黒獣の事はよく分からないが集団行動の難しさはよく知っているさ、こんなのでもリウの出身だからな」

 

 

「……おーい、アレン。お前がつけている()()()()()、どこまで使いこなせる?」

 

 

 地面に寝っ転がったまま討論を観戦していたワラギが横から確認を取り始める。

 

 

「心配は無用だ」

 

「なら、()()()()()()()って出来るか?」

 

「……隙が要る」

 

「じゃあワイが暫く引き受ける、それならやってくれるか?」

 

「ならやってやろう。その後にグダついたら俺が勝手に決め切ってしまうからな?」

 

無問題(モーマンタイ)!」

 

 

 地面に伏せていたワラギが飛び上がり、ハルバードを構える。アレンも両手に付けた赤く光るグローブを握り締める。

 

 

「……やるぞ、『カポーテ』」

 

「やかましいのぉ……『発角』、『脚力』。全て纏めてぶっ壊しちゃる!」

 

 

 破砕鎚と雄牛が衝突する。熱された拳がトンファーと衝突し火花を撒き散らせば、羊の角が巻き付いたトンファーが火種ごと揉み潰す。

 

 

「少しは慣れておかないとな、『煉獄拳』」

 

「しゃらくせぇ!『突破・解路新天』!」

 

 

 アレンの拳に充分な熱が籠る前に、放たれた片方のトンファーがグローブを押しのける。

 

 

「っ!速い!」

 

「ちょい引っ込んどれや!リウのフィクサー!」

 

 

 空いた隙に挟まるのは、もう片方のトンファー。アレンの右脇腹へと——。

 

 

「『負債絡縺・崩壊』!!」

 

 

 ワラギがヤギの前へと割り込み、ハルバードをトンファーへと押し付け、黒獣の体ごと押しのける。

 

 ヤギはすぐに体勢を整え、怯む事なくワラギの方へと飛び掛かる。

 

 

「さすがにあんたら二人を相手にするんは骨が折れるのぉ……先に満身創痍のお前からくたばってもらうで!」

 

「上等だ黒獣!タフさには自信があるんだよ!」

 

 

 トンファーに刻まれた呪印が眩しい程に輝き、何度も何度もワラギへと打ち付けられる。上手くいなし続ける事は出来ているが完全に防ぎきる事は出来ず、ひとつ、またひとつと痣が増えていく。

 

 

(なんなんじゃコイツ……いくらなんでもしぶと過ぎるじゃろ……!)

 

(本当にこれ以上はマズイ、死ぬ、マジで死んでまう……)

 

 

「……だからこそ!囮になれるんだよ!」

 

 

 隣から、熱い空気が肺へと入り込む。

 

 ヤギが即座に攻撃を中断、防御体勢に移る。

 

 

「終幕の前準備だ。『カポーテ【欠陥】』!」

 

 

 ブオオオオオォォォォォ!!!!!

 

 

 真鍮の雄牛の鳴き声が辺りに響く。赤い牛の頭突きはヤギの守りに突き刺さり、崩すまでは行かずとも大きく揺らした。

 

 

(!?、なんやこれ、()()()()()()()!)

 

 

「おいワラギ!あの黒獣、本当に『未』か!?無駄に速いんだが!?」

 

「あっ!あの黒獣、兎と羊のハイブリッド!」

 

「そういう事は先に言え!!!」

 

「ともかくサンキュ!()()()()だ、ここで決め切るぞ!」

 

 

「……この流れは壊さねばならんのぉ。刻めェ、破砕痕!『雲解顕現・破砕角』!!!」

 

「ここから立て直せると思うなよ!『負債絡縺・鎖』!」

 

「『カポーテ【突進】』。三連発の方な」

 

 

 ハルバードがヤギの胴体へとめり込み、カポーテの三連撃がトンファーの威力を殺し、眩く光る呪印が刻まれたトンファーが、ワラギとアレンに呪殺を描く。

 

 三者一歩も譲らぬ総攻撃。守ればそのまま押し切られる事がわかっていたからこそ、総力をかけての激突。

 

 

「もうちょい耐えててくれ!『負債絡縺・亀裂』!」

 

「ならばもう暫く受け持とう。『裡門頂肘』」

 

 

「『脚力』が切れてもうても……ワシにはまだ『発角』が残っちょる。双角の黒ヤギが、こんなとこでくたばる思うたら大間違いじゃけぇの!」

 

 

 ワラギとアレンが絶え間無く攻め続ける中、ヤギの持つトンファーが蠢く。

 破砕鎚を思わせる木の塊、その殺傷力と安定性を向上させる為に巻きつけられた羊の角と縄、その先端には岩石を思わせるような球状の塊。

 

 そこに巻き付いていた羊の角が伸び、トンファーを覆う。

 

 

「全開の一発だな。来い、黒獣」

 

「行く手を阻むもんはまとめてぶち壊してみせちゃるけぇ!『黒山羊之嘆(スケープゴート)』!!!!!」

 

 

 アレンが2本のトンファーを迎え撃ち、赤く染まったグローブを前に突き出す。両者の得物は少しの拮抗を見せた後、黒く染まった破砕鎚が赤い熱を完全に飲み込み、呪殺を壊し両腕を抉り飛ばした。

 

 ……そして、ヤギの胴体にもまた、切り傷が生まれる。

 

 

「ヘイヘイ黒獣!そっちばっか見てて大丈夫か!?」

 

(これで『発角』も切れよったか……それでもようやく一対一に戻せたのぉ)

 

 

 トンファーを覆っていた羊の角が割れて剥がれ落ち、元の姿へと戻る。ヤギはトンファーを持ち直し、再びワラギへと向け——。

 

 

「後はお前だけじゃ!ウーフィのフィクサー!」

 

「最初からねちっこくお前に切り掛かって、元支部ニキに無理言って燃え震えさせて、3つの絡縺印を付けた!」

 

 

 ワラギは左肩後方にハルバードを引き、乗りかかるかのようにヤギへと飛び掛かる。

 

 何も言わずにとも分かる、決め切る一撃。

 

 

(クソ……!しくじった!『発角』がないから打ち返せんし『脚力』がないから避けられん!)

 

「そんでやっと隙らしい隙を見せてくれたな!ハイブリッド黒獣……いや、>>ヤギ!!!」

 

 

 ヤギの胴体へと横一文字にハルバードが振り抜かれ——。

 

 

「総決算だ!『強制執行』!!!!!」

 

 

 揺れ動いた身体の震えが爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い……両腕を折りやがった、あの黒獣……」

 

 

 両腕をブラブラとふらつかせたまま歩くアレン。相当遠くまで吹き飛ばされてしまい、戦線復帰に少しばかり時間がかかってしまっている。

 

 

(『カポーテ』は無事……だが、もうマトモには動かないだろうな。また特異点ネキとトレスネキに修理してもらわないと……)

 

(正直腕はどうなろうと構わないが……この『カポーテ』だけは壊せない……事務所の財産的にも、俺個人の私情としても……)

 

 

(それでも……)

 

 それでも。

 

 

 アレン自身、この作戦の重要度を理解しているが為に。

 

 

(この第6ポイントだけは決め切らねぇと……!)

 

 戦場に戻り、戦わなければならなかった。

 

 

(さっきから音がしない……決め切れたのか?、ともかく、脚を使えばまだ戦える……早く戻らないと……)

 

 

 そうしてアレンが、先程までいた戦場へと辿り着き。

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……タフ過ぎるだろ……あの黒獣……」

 

 

 肩で息をするワラギと。

 

 

「フィー、ふっ、ガハッ、ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

 片膝をついて咳き込む黒獣。床には数多の血液が広がっている。

 

 

「おい、ワラギ。どう、なった?」

 

「決めた。それでも……耐えやがった」

 

「……あいつも底が見え始めたが……底にたどり着くまでがあまりにも遠過ぎる……どうする?」

 

「……やるしかないやろ」

 

「だな」

 

 

 ワラギはハルバードを、アレンは腕の代わりに脚を向ける。

 

 

「はは……まだや、ゴホッ!、ワシはこの程度じゃ……」

 

 

 ヤギも片足を持ち上げ、2本のトンファーを構える。覇気は感じないものの、まだ戦意は消えていない。

 

 

「お前らも、成金野朗も、ヒーローも、ワシが全員ぶっ壊してや——」

 

 

 轟音。

 

 

「——る?」

 

「はっ!?」

 

「!?」

 

 

 突如、遠くから天高くに昇るピンクの光が打ち上がる。

 

 けたたましい音と共に辺りは桃色に包まれ、L社跡地を包む白い煙がピンク色に染まる。

 

 まるで……あの日打ち上がった白い光のように、L社の裏路地を照らしている。

 

 

「あれは……H社で……ヒーローが見せとった……」

 

 

 ヤギがぶつぶつと独り言を述べた後、ピンクの光が打ち上がる地点へと走り始める。

 

 

「待てよ!黒獣!」

 

「おい!、アネサさん!それかペルタさん!何が起こってんだ!?」

 

 

 1人(ワラギ)は黒獣を押さえつけ、もう1人(アレン)は状況確認を急ぐ。

 

 

「邪魔すんなやフィクサー!あの光の下にヒーローがおるんじゃ!」

 

「なら一層通す訳には行かねぇよ!」

 

「ほいじゃ、まずはお前らから潰して——」

 

「……交渉をしよう、黒ヤギ!」

 

 

 ワラギが焦燥に駆られたように訴えかける。

 

 

「ワイらも何が起こってるのか分かっていない!もしヒーローが凄い事やってるなら戦力が足りなくなる!だからワイらと共闘しないか!?」

 

「言うたじゃろうが。お前らと一緒に戦うんはH社の評判に泥塗ることになるんじゃって!」

 

「ならこのまま手ぶらで帰るか!?!?それなら最後まで付き合うぞ!?!?!?」

 

 

「おーい、誰か!何が起こってんだ!?」

 

 

 アレンはゲゼルシャフト越しに情報確認を急ぐが、まともな応答が帰って来ない。

 

 

「おい!本当にどうなって——」

 

[鬲疲ウ補?ヲ窶ヲ蟆大・ウ窶ヲ窶ヲ]

 

「……はぁ?????なんて?????」

 

 

「……分かったわ!お前らと一緒に動いたる!」

 

「言質とった!これ破ったらH社に文句言ってやるからな!?」

 

 

 ワラギは押し付けていたハルバードをしまい、黒獣のヤギと共に光の柱の元へと走り出す。

 

 

「アレン!お前は下がってろ!そのE.G.Oの事もあるし!生存最優先で動け!」

 

[……気をつけろよ。お前自身も満身創痍だし、相当タチが悪い戦いをしているみたいだぞ?]

 

 

 アレンのか細い声は、黒獣の耳を少し震えさせた。

 

 

「……H社の時も、あの光のあとで筆頭さん方が押され始めたって聞いとる。あんたも気をつけておきな」

 

「情報提供さんくす!なら腹括っておかないとなぁ!」

 

 

 主人公(ヒーロー)の独壇場へと、2人が乱入していった。

『レスアンカー:セット完了』




*ヤギ

黒獣丸の『卯』と『未』を同時に摂取しているハイブリッド黒獣。正式名称は黒ヤギ。元ネタは童謡に出てくる、手紙を読まずに食べる戦犯こと黒ヤギさんから。

2つの黒獣丸を組み合わせて作る混合黒獣……いわゆる、『キメラ』の構想は遥か昔から存在していた。では何故、今まで実用化されなかったのか?……理由は大まかに3つ。1つ目は圧倒的なコストの悪さ、単に丸の必要量が2倍になるだけでなく、本人との相性も通常以上に気を配らないといけなくなる。2つ目は黒獣仙人からの根強い批難、今回は特別に許可を貰えたが、未だ混合黒獣については難色を示す者が大半だ。3つ目は専門性の喪失。我々が求めているのは何でも出来るオールラウンダーではなく、1つの物事に特化した専門家なのだ。 ——とあるH社の職員


*元L社支部ニキ
フィクサー名:アレン

ルナ事務所所属リウ組『陽炎』3番隊隊長の4級フィクサー。33話ぶり、およそ半年ぶりの登場。ロラン襲撃書いた時から半年経ってるってマジ?L社にて培った能力を活かし、せっせとフィクサー業に勤しんでいる。危機察知能力に関しては特色すら上回るとか上回らないとか。やっぱりWayfarer社では働いていない。


*カポーテ【欠陥】

K-04支部の跡地から掘り起こされた死体がつけていたE.G.O装備を、特異点ネキとトレスネキによって修復したもの。修復不可能な部分については工房の技術を使い穴埋めをしたらしい。曰く、『どういう仕組みになっているのかさっぱりわからない』、『付け焼き刃もいいところ』、『もはや欠陥品。でも俺は天才だから使いこなせる』……との事。

私はあの子達に手を差し出すべき、なのかな?

  • そうだ。彼ら彼女らを、貴方が導くべきだ。
  • うーん。貴方の後輩に任せるべきでは?
  • 貴方達はあの者達に関わるべきではない。
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