対ヤギ戦
対ターニャ戦
対ヒーロー戦 ←今ここ
狭い地下の室内で、鋼鉄の犬と桃色の主人公が衝突する。
一方は南部ツヴァイの忠犬、エドガー。藍色に光る閃光は地下の広間を撃ち抜き揺れ動かす。
もう一方はピンクのツインテールを揺らす少女、ヒーロー。鮮やかな打撃が金属を染め貫く。
互いが掲げる正義の名の元に、お祭り騒ぎの『
「いいねぇツヴァイの犬!あんたらは正義の盾を構えただけの弱虫だと思ってたよ!」
「もしかしてだが、お前はツヴァイ協会を碌でも無い者達の集まりだと勘違いしてないか?」
「あんたらの得意分野は汚職だろ?」
「そんなゴミはツヴァイにいる価値などない」
「んあぁ……ともかく、その疑惑はとっくの昔に晴れてるよ。南部ツヴァイ1課、エドガー。ちょっとは名前を聞いた事があったけど、ここまでとはね」
ヒーローの眉間に突き出された拳は寸前の所で受け流され、小さい身体から放たれた左腕が心地良い破裂音を放ちエドガーを吹き飛ばす。
「ツヴァイ協会。その真髄はなんと言っても『ツヴァイ』っていう絶対的な正義の盾だろうね。どんなフィクサーでも、正義の盾を前にしては萎縮する、ましてや打ち壊そうなんて考える野朗はいないだろうね」
「当たり前だ。『ツヴァイ』の名誉を一介のフィクサー如きが穢そうものなら、どうなるかは見るまでもないからな」
エドガーはすぐさま体勢を立て直し、四足歩行で壁を駆け回りヒーローへと近づく。
ヒーローは地下の広間の真ん中に立ったまま動かず、エドガーの動きを右腕で抑止し続ける。
「つまりツヴァイ協会のフィクサーと対峙するとなれば、『殺害』ではなく『無力化』を強いられる訳。この差はあんたが考えているより大きく深いものだ。同格なら楽勝、格上の相手でも勝ち筋が生まれる」
「私の実績はツヴァイの栄光にあやかっただけとでも言いたいのか?」
「んー、あんたは周りが思っているほど強くない、ってこと。なんせあんたの目の前にいるのは、ちっぽけな盾じゃ止まらない
「……私が今まで、幾つの『指』のゴミ共を潰し回ってきたのか知らないようだな」
「大丈夫大丈夫、だってあんた、ツヴァイの強行犯係でしょ?あんたが築き上げた山の中の1つにオレが加わるだけであり——」
ヒーローはゆっくりと右腕を掲げ。
「オレが打ち壊した敵の中にあんたが混じるだけだからね。『コンサバティブ・硬楔』!」
ヒーローの立つ床を起点に、ヒビが刻み込まれる。
まるでヒビが衝撃波を連れていくように部屋全体へと広がり、地下室全体に強い衝撃が走る。
「ピピピ」
「ああ、分かってる」
小さな電子音が部屋に響いた後、エドガーは動じる事なく強化鎧から火花を散らしヒーローへと拳を突きつければ、鋭い衝撃波が再び地下室へと刻まれる。
「ここは『バトルロワイヤル』だ。あんたも、オレも、気に食わない奴はぶん殴り分からせることが出来る。何よりも単純で純粋な世界だ」
「力が全ての世界は必ず限界が来る」
「今のあんたらもやっている事は大して変わっていないだろ」
「お前の理念は重大な欠陥を抱えている。まるで餓鬼の夢物語のように、大切な物が抜け落ちた虚構の世界だ」
金属の摩耗音が地下室に広がり、肉が軋む音が次第に増えていく。
「虚構……ねぇ」
「苦痛の歯車……と言っていたな?その歯車があるお陰でどれだけの人々が生を享受出来ている?」
「現状維持タイプね。さしずめオレの考える世界より今の方がマシとでも言いたいんでしょ?」
「都市は今の都市になっているのは相応の理由がある。中途半端な革命は時間と労力と命の無駄遣いだ」
「そっか、じゃあ一生そこで寝ていろよ。『リベラル・専心』」
エドガーの心臓目掛けて突き出された左腕は鋼鉄の鎧によって威力を弱められ、火花と共に振り払われる。
その後すぐにエドガーは姿勢を屈め四肢で地下室を走り回る。
「私は私の手の届く範囲の人間を救い上げると決めている。むしろ寝惚けているのは——」
「オレって事ね!『コンサバティブ・曇天』!」
首元目掛けて放たれた鋼鉄の塊と柔らかで滑らかな右腕が接触し、霧が流れるように受け流す。エドガーはすぐに離脱しまた地下室を駆け巡る。
ヒーローもまた脚を踏み鳴らし反響音を響かせた後、地下室を縦横無尽に飛び回る。
「ピピピ」
「……作戦を早めるか」
ヒーローが壁と床を叩けば瓦礫は弾け吹き飛び、脚を回せば旋風が巻き起こる。ツヴァイの忠犬は壁、床、天井を走り続け立体的に動き回り、ヒーローへと的確に一打を加え続ける。
(もう慣れられてる!ツヴァイの刑事は洞察力がずば抜けてると聞いた事はあるが……これは完全に経験量の賜物だな!)
「何年都市の汚い所を見続けてきたんだ!?『リベラル・破天』!」
ヒーローが両腕を突き出せば、ばんばんばんと壁が撃ち抜かれ、吹き飛んだ忠犬が別室の家具を下敷きにする。
「私もあの邸宅に籠っていたなら、山程の財産が全て私の物となり不自由無い人生を送れただろう。薄汚れた水を飲まされる事も無く、今よりももっと良い人生を手に入れていたのかもしれない」
「それでも私は……この正義の道を選んだ」
ツヴァイの忠犬はそれでも止まる事無く、すぐさま四肢で地面と壁を走り回り、ヒーローへと飛び掛かる。
ヒーローもまた、2本の甘く香るツインテールを揺らしながら、地下室を突っ走り続ける。
「ツヴァイの忠犬……慣れられてる以上、これより長引かせるのはあまり良くないよね」
「
ヒーローが小さく息を吐き出し。
「『リベラル・千棘』!」
「ラング。正義執行の時間だ」
淡く光る無数の腕が、鈍く輝く鋼鉄の鎧へと——。
「『ツヴァイ式月詠剣術・仏兎』」
突き刺さる前に、巨大な何かによって遮られた。
ソレによってヒーローは押し弾かれ、エドガーも寸前の所で動作を中断する。
「……なんでいつも良いところで邪魔が入るんだろ」
小柄な身体を空中でくるりと回し、ヒーローが着地する。
その目線の先に。
「増援を呼んだ覚えは無い……が」
「此方ペルタ。第8ポイントにヒーローを確認、作戦を開始します」
「確か君は……2課の協力事務所か。通信出来ないこの場所でバッタリ会うことになるとはな」
右手にはツヴァイヘンダーを持ち、左腕には戦闘用盾を構え、群青色のコートを羽織った黒い髪の女性が立っていた。
「ルナ事務所所属、ツヴァイ組の部門長であるペルタと申します。こんな所でなければもう少し丁寧に挨拶したかったですね」
「何故君がここにいるのかは問わない。目的は同じと見て良いか?」
「ええ。都市の星に認定された『エセヒーロー』を堕とす。その為にルナ事務所は旧L社へと出向きましたから」
「そうか。援護を頼めるか?」
「そのつもりでなければ手出しをしていませんよ」
「感謝する。生半可な相手では無いぞ」
(うーん?オレってもっとデカい金属の塊に吹き飛ばされたよね?あの盾?、ツヴァイヘンダー……だったのかな?)
押し出されたヒーローは両手を握り広げてを繰り返し、脚をブラブラと回した。
ふと周りを見渡すと、先程まで床に伏していた連中が全員姿を消している。おそらく、何処かへと姿を隠しているのだろう。
「はぁ……まぁいいや。チャレンジャーもう1人追加ね。流石にキッツいなぁ……」
「ピピピ」
「そうだな、ラング。確か、ペルタと言ったな?」
「大丈夫です。
「良し。助けてやる余裕は無いからな」
ラングがまた姿勢を屈め、四足歩行で走り回る。
ペルタもまたツヴァイヘンダーを振り回し、奥にいるヒーローへと飛び掛かる。
「ちっこい盾が2つあった所でって話だよな!『リベラル・専心』、『コンサバティブ・霧消』!」
「ラング!」
「支援します」
強化鎧から火花が散れば、藍色の光がヒーローの左腕と衝突し、また火花が散る。ヒーローの右肩目掛けて振り下ろされたツヴァイヘンダーはこれまたヒーローの右腕によって受け流される。
「『コンサバティブ・硬楔』!」
ヒーローが両手を床へと押し付ければ、衝撃波が辺りへと地下室全体へと割れ広がる。
「チッ」
(凄まじい……ですが、確かに隙はありますね)
ペルタが持つツヴァイヘンダーの剣身に、左手に持つ盾を差し込めば。
(やはり前哨戦の成果はありましたね)
ツヴァイヘンダーと戦闘用盾が結合し、1つの巨大な大剣へと変化した。
「!?、オレがぶち当たったのは——」
「これですよ。『ツヴァイ式月詠剣術・蝦蟇』」
ヒーローの左脇に吸い込まれるかのように、真っ直ぐに突き出された
壁に衝突したヒーローは赤い液体を流しながらもすぐに体勢を立て直し、壁を蹴り飛ばした瞬間に、二足歩行に戻ったエドガーによって右横から殴り飛ばされる。
受け身を取りながらヒーローは構えを取り。
「いっ……たぁ!『リベラル・千棘』!!!」
「私はお前を座視する事は無い」
「此方も時間がありません。手早く済ませましょう」
ヒーローの両腕が小さく光り輝き、エドガーとペルタに向けて無数の線が突き刺さる。
いつの間にか、ヒーローの首元にはピンク色のマフラーが巻かれている。
ペルタの大剣はいつの間にかツヴァイヘンダーと戦闘用盾の2つに分解されており、2つの武具を用いて猛攻を受け流し続ける。
エドガーも強化鎧に纏われた身体を使い突き刺さる腕を受け流し、火花が目と耳をかき回す。
ヒーローの連打に対して、一打も通す事のない圧倒的なツヴァイの守り。
まさしく、
「やはり、右手が甘いですね」
一瞬の隙を逃さんと、ペルタの持つ戦闘用盾がヒーローの右手を振り払い落とす。
「『リベラル』、『コンサバティブ』。革命と保守。
(この短期間で見破られた……?)
「攻めの左手は相手の守りを貫き、守りの右手は相手の攻撃を防ぐ。一見、攻守優れた隙の無い格闘術ですね」
ペルタのツヴァイヘンダーがヒーローを押し飛ばすと、エドガーが再び四足歩行になり、ヒーローへと一気に近づく。
(いや、違う!こいつは、
「しかし明確な欠点も存在する。もし、右手で『リベラル』を使う、もしくは左手で『コンサバティブ』を使えば、効果は著しく減少する」
「こんの……」
「そしてヒーロー。あなたは手癖で、
「先程から感じていた違和感の正体はそれか。仕掛けの種さえ暴いてしまえば——」
「ツヴァイの犬がぁぁぁぁぁ!!!!!」
「大した事は無い訳だ」
振り抜かれた正義の鉄槌は、地下室を撃ち貫き、遥か遠くまでヒーローを殴り飛ばした。
地下室が揺れ動く。
天井から砂が落ちてくる。
「はぁッ……ふぅッ、クソッ……!」
床を這いずり回るヒーロー。赤い液体が床に広がり、少女の身体がソレをさらに広げ伸ばしている。
先程までの戦闘にて、第8ポイントの『バトルロワイヤル』は限界を迎えようとしている。この室内は怪物同士の戦闘に耐えられる程の耐久性を持ち合わせていない。
もはや、この空間が潰されてしまうのは時間の問題だろう。
「うぅ……あの犬は、やってきて……ないのか」
ツヴァイの2人はヒーローを追いかけてくる気配はしない。あの2人も、下敷きになるのは勘弁なのだろうか?
「……」
ふと、ヒーローは身体を起こし、部屋全員を見渡す。
殴り飛ばされた先は、少し前までヒーローが休んでいた小さい地下室の1つだった。
古びたソファー。綿が見えるクッション。破れかけの毛布。ボロボロの机。
部屋の片隅に佇む、大きなタンス。
「あぁ……クソっ」
ふと、思い出したかのようにタンスへと近づき。
「なんで……」
どうにかタンスの扉を開き。
「オレが……」
その中に入っている、棒に巻かれた布を剥がし。
「こんな……」
ふとした思い付きで、賞品として保管していた。
「……」
黄金の小枝へと手を伸ばし——
「天に浮かぶ林檎の実は敬われ」
「地に沈む茸は穢らわしく」
「そんなのって、あんまりじゃない?」
「……」
「こんにちは、主人公」
「……カルメン」
「やっと、私の目を見て応えてくれたね」
「黙れ。お前と話す事は無い」
「そんな事言わないで。私だって、こうやって話す時は緊張するの」
「この会話に意味なんて無い」
「だから、今から意味を作っていくんでしょ?」
「……」
「ねぇ、主人公。私と少し、お話をしましょう?」
Tips:『リベラル』と『コンサバティブ』
元はもっと政治用語をモリモリにしようとしていたがアホほどダサくなったのでやめた。
*守り進む剣
ツヴァイネキことペルタの持つツヴァイヘンダーと戦闘用盾……を合体させた大剣。U社の特異点である『共鳴又』を使う事によって、スムーズな合体及び分解を実現させている。
トレスネキの作る作品は『1つ星』、『2つ星』、『3つ星』の3段階評価によって分けられている。『1つ星』はブロフロアの点火グローブとか『手足』の使う禁忌スレスレ爆弾……『2つ星』はテクスタの次元鞄、『目』の野郎のスナイパーライフル、プグヌスさんが持ってる銃剣とかか。『3つ星』は色々あるぞ、代表の次元手袋、パンドラさんの超特殊型次元鞄、ラクスさんの錨、ポールさんの青龍偃月刀、アポリオンさんのウルトラ拳銃……ペルタさんの変形型大剣もそうか。まぁ、色々言ったがどれもこれも癖の強いヘンテコ品ばっかだ。遺跡から取れるすごい遺物を扱えって言われた方がまだマシだ。 ——とあるルナ事務所フィクサー
*ツヴァイ式
ツヴァイ組の精鋭部隊、『アイギス』が使う戦闘剣術。名前の由来は各国から見た月の動物の名前から。最初は某第一眷属のふりをするぐらい良いアイデアだと思ったが後々想像以上にレパートリーが無い事に気づき苦しむ事になるのはまた別の話である。
私はあの子達に手を差し出すべき、なのかな?
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そうだ。彼ら彼女らを、貴方が導くべきだ。
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うーん。貴方の後輩に任せるべきでは?
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貴方達はあの者達に関わるべきではない。