プラネタリウム・ドリーム   作:ななしのあ

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9.5-2楽しみだね



前作主人公

 建物の屋上でヒーローが倒れる。

 全身が血塗れになったペルタがその姿を見下ろす。

 

 

「ペルタさん!大丈夫ですか!?」

 

「……なんで背中から杖ぶっ刺されながら殴り飛ばせるんだよ、この人は」

 

 

 コロモが灰色の矢を握ったまま駆け寄って来る。その後ろには次元鞄を担いだテクスタも付いている。

 

 

「テクスタさん」

 

「なんだ?手伝える事なら何でもするが」

 

「背中に突き刺さっているコレを引き抜いて、次元鞄に隠して下さい」

 

「それ引き抜いたら変に出血して……分かった。コロモ、ペルタさんを抑えててくれ」

 

「……はいっ!」

 

 

 コロモはペルタの身体を抑え、テクスタが黄金の小枝を掴む。次元鞄が緑色に光り輝いた瞬間、ペルタの身体から黄金の小枝が引き抜かれ、胸に空いた穴が露わとなる。

 

 血液が零れ落ちる中、ペルタが気絶したヒーローの後ろ袖を掴む。

 

 

「……すぐに次元鞄に仕舞い、後の指示はアネサさんに従って下さい」

 

「待て、ペルタさんはどうするんだ?」

 

「ヒーローを連れてエドガーさんの元へ向かいます」

 

 

 コロモが床に付いた血の跡を見て何かを言おうとするも、テクスタが制止する。

 

 

「……プシュケさん」

 

[はい、聞こえていますよ]

 

「ヒーローはどうするべきですか?」

 

[……我儘を言うなら、連れて帰って欲しいです]

 

「分かりました」

 

 

 ペルタはヒーローを引きずりながら、先程まで戦っていた場所へと歩く。白い煙のせいで視界は良くないが、それでも向こうから男の影が見える。

 

 

「待て」

 

 

 ヒーローを引きずるペルタを、エドガーが制止した。

 

 

「周りにいたフィクサーを上手く使ってそいつを仕留める事が出来たみたいだな」

 

「……おかげさまで」

 

「酷い怪我を負っている中でこんな事を言うのも忍びないが……」

 

 

「そいつを私に渡せ」

 

「……」

 

 

 エドガーがヒーローへと顎を向ける。

 

 南部ツヴァイ一課のエドガーはツヴァイ組……ルナ事務所の曖昧かつ漠然とした立ち位置を理解している。

 

 形式上は協会直属でありながら実際は協会指定の協力事務所。フィクサー協会内では彼ら彼女らを忌避する者も少なくない。

 

 伝統、規則を重視するツヴァイ協会は尚更であり、ツヴァイ組の置かれた立ち位置は決して良いものでは無かった。

 

 

「……これはツヴァイ協会のフィクサーとして当然の義務だ。そいつの身柄は私が責任を持って対処する」

 

「ヒーローは渡せません」

 

「……なんのつもりだ?」

 

「彼女は私達の戦利品です」

 

「そいつは罪なき人々を捲し立て、数千人もの命を潰した都市の星だ。そいつを匿う事は善悪の無い組織のクズ共となんら変わらない」

 

「私達はそのような結果を招くつもりはありません。彼女を手に入れた方が、今後の事務所運営が円滑に進むと判断したまでです」

 

「君は今にも死にそうなのに、それでも事務所の利益を重視するのか。あまりにも……命を軽視し過ぎている」

 

「そんな君達が起こす行動など……私が態々言う必要は無いだろう」

 

 

 エドガーが軽く首を振る。目に危険な光が灯る。

 

 もはやルナ事務所に現存する戦力は存在しない。エドガーを止める手段など無に等しい。

 

 仮にエドガーを止めれたとしても、それはツヴァイ協会に対する重大な禁忌を犯す。ツヴァイ組の立場は勿論、ルナ事務所全体すら揺らぎかねない。

 

 

「……エドガーさん」

 

 

 残された手は、ヒーローを引き渡すのみ。

 

 

「私達を信用してくれませんか」

 

 

 しかし、ペルタはその選択を取らなかった。

 

 

「……信用か。ツヴァイ協会のフィクサーなら、その言葉にどれだけの重みがあるか理解していないとは言わせないぞ」

 

「ツヴァイ協会だけではありません。『フィクサー』という制度自体が、信用の上に成り立っています」

 

「はは、そうだな。フィクサーは信用無しには成り立たないから、金を人質にして無理矢理信用出来るようになったからな」

 

「君達は被害者でも加害者でも仲裁者でもない。都合の良い時に都合良く手を翻す傍観者だ」

 

 

 エドガーの強化鎧から火花が散る。暫定的に作られていた協力関係が崩れようとしている。

 

 

「私は君達を信用しない」

 

そいつ(エセヒーロー)を私に渡——」

 

 

「ピピピ」

 

 

 強化鎧から電子音が鳴る。

 

 

「……ラング?」

 

「ピピピ」

 

「……通信?今になってやっと繋がったのか?」

 

 

 砂嵐の混じる音と共に音声が聞こえる。

 

 

『ツヴァイ三課■親指■■■■■■■■し■■■■■■■————』

 

『■■■■■■■狙撃■■■——■■が全滅■■■■———』

 

『エドガー■■■応援■■■■■■』

 

 

「……親指と私の部下達が交戦し……全滅か?」

 

 

 エドガーの視線が揺らいだ。ペルタは胸元の傷口を抑えながら、その様子を黙って眺めている。

 

 

「エセヒーローを放っておく事は出来ない。しかし……親指とツヴァイ三課が衝突し被害を受けている……三課を殺せるのなら傘下組織のレベルでは考えられない……私が直々に……それだとヒーローが……いっそ、ここで殺してしまうべきか……?」

 

「エドガーさん」

 

 

「私達はフィクサーです」

 

 

「……はっ!」

 

 

 エドガーが乾いた笑いを溢す。

 

 

「フィクサーペルタ。そして今も聞き耳を立てているルナ事務所フィクサー達。もしお前達がそいつを使って良からぬ企みをするなら……その時は私が、直々に手を下す事になるだろう」

 

 

 エドガーの強化鎧が分解し、1人の男と1匹の犬が煙の向こうへと歩き出す。

 エドガーとラングは屋上から飛び降り、地面へと着地する。

 

 

「ラング。休息を取りながら現場へ向かう。支援先へ案内してくれ」

 

「ピピピ」

 

 

 男と犬が、白い煙の先に消えていった。

 

 

「…………」

 

 

「——ふぃ〜〜〜〜〜!あっぶねぇなペルタさん!」

 

「サラッと俺らの事もバレてたし……」

 

「余りにも危険な橋を渡り過ぎですよペルタさん!」

 

 

 様々な物陰からワラギ、テクスタ、コロモが現れる。

 

 

「……コロモさん。『有耶無耶』は回収しましたか」

 

「はいっ!しっかり確保していますよ!」

 

「テクスタさん。黄金の小枝は……」

 

「大丈夫だ。次元鞄に仕舞ってある」

 

「……プグヌスさんの状況は…………」

 

「『死組』が既に回収済みらしい。そこは心配しなくていいぞ」

 

「あとは……ヒーロー……を、回収して……てった…………」

 

 

 ペルタが膝から崩れ落ちた。

 

 

「あー!!!絶対死んだ!!!」

 

「ちょっ!ワラギさん!普通に失礼!」

 

「何でもいいからペルタさん担いでさっさと撤退するぞ!」

 

「……ワラギさん。担げますか?」

 

「おててが無いと流石に担げないです。テクスタ、頼んだ」

 

「俺も手一杯なんだよ!鍵か点火グローブか適当に手空いてる奴連れて来い!」

 

「私はヒーローの方を背負うのでワラギさんはペルタさんをお願いします!」

 

「えーん、誰でもいいから手伝いに来てー」

 

[はいはい!指示出してるのでさっさと帰りますよ!]

 

「いつもありがとう特異点ネキ……」

 

「勝手に泣いとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ramus Aureus Receptus

 

   黄金の小枝  獲得

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ヒーロー』は死んだのか?」

 

「そこまでは知らん。……ただ、星が堕ちたんは確かなんじゃ」

 

 

 薄暗く澱んだ空間。様々な実験器具が散らかり、研究室のような部屋に、一匹の黒獣が伏せている。

 

 未の目線の先に、奇妙な液体を入れた瓶を持つ、1人の白衣を纏った男が忙しなく動き回っている。

 

 

(ワシも割と死にかけたんじゃが……)

 

「……チッ。融通の利く混合黒獣を使った結果、過大解釈で目的を失ったか。愚図が」

 

 

 白衣の男は机を小刻みに叩きながら黒獣を睨みつける。不信感を隠す事ができず、思い通りに進まない現状に苛立ちを隠せないようだった。

 

 

「お前に課した任務の内、1つは成果無し。もう1つも大した成果を挙げられず、か」

 

「……お前も白ヤギのようになりたいのか?」

 

 

 未の黒獣が僅かに身震いをする。

 

 

「……使った轡、返した方がええか?」

 

「いらん。お前のような半端者でも一応は黒獣、轡を無碍にする事など出来ない。残念ながらな」

 

「ただ、これで混合黒獣に関する軍事金が下りるだろう。そうしたら——」

 

 

 男は小さく何かを呟いた後、とあるポスターを眺める。

 

 不老不死、そしてH社が生み出した12の黒獣を使役する者の座に関する書類。

 

 

「……家主審査。H社が最も脆くなる瞬間。内からも、外からもだ」

 

「鴻園が外の状況に気を払う事は当分無いだろう。それどころでは無くなるからな」

 

(そういう話はもっと偉いさんとしてほしいんじゃがの)

 

 

 黒獣は口答えしようとしたが何も話さない事にした。

 

 

「いいか。『兎を盗んだ曲者』を殺し、卯の黒獣を連れて戻れ。是が非でもだ」

 

「……わかっとる」

 

「野獣派の屑共も、R社の基地外集団も、全員を噛み殺せる最強かつ最善の黒獣……その為にはあの脱走兎を捕らえて……クソッ!あの塵が轡を奪い取っていなかったら……!」

 

 

 男が机を叩けば、器具が揺れる。

 

 

「必ず次の家主審査までに『混合黒獣丸』……いや、『混合黒獣』を実用化し、鴻園を都市で最も豊かで強靭な翼に仕立て上げる!」

 

「全てはジア・ムー様、そして鴻園の果てしない繁栄の為に!」

 

 

「……せいぜいちっぽけな命を擦り減らせ」

 

 

「……イカれ野朗はどっちや」

 

 

 誰にも届かない声を漏らし、未の黒獣は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと……これで黄金の小枝は3つ……まぁ、いいペースなんじゃない?ヒロ子ちゃんも容態は良好……うんうん、そんなもんかな?」

 

 

「はわあああああぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

「わっ!びっくりした」

 

 

 知らない……かもしれない天井。

 

 程よい光が窓から入ってくる白い室内。

 

 ふかふかの布団に包まれながら、病的なまでに白い肌の少女が飛び上がった。

 

 

「……えええ?お、起きたの?」

 

「はっ……はっ……うぅぅ。頭が痛い……のです……」

 

 

 白い肌の少女の両腕には無数の線が機械へと繋がっており、ちょうど部屋の片隅には資料と睨めっこをするメイドがいた。

 

 彼女が自分の身体を触っていると、自身に白い膜のようなものがある事に気づいた。

 

 

「えー、こちら『アイギス』。フルールさんが意識を取り戻しました。バイタルチェックの準備をお願いします」

 

[えええ!わかりました!今すぐ向かいます!]

 

 

「……あのぅ」

 

「さて、お嬢さん」

 

 

 メイド姿の女性が少女の前まで歩いてくる。

 

 

「まずは深呼吸からしましょうか」

 

「……しんこきゅう、なのですか?」

 

「ほらほら、吸って〜」

 

「……すぅ〜」

 

「吐いて〜」

 

「ふぅ〜」

 

「吸って〜〜」

 

「すぅ〜〜」

 

「吐いて〜〜」

 

「ふぅ〜〜」

 

 

 ……。

 

 

「落ち着いた?」

 

「落ち着いたのです」

 

「ならオッケー。気になる事がたくさんあるだろうし、お話しよっか」

 

 

 メイド姿の女性が奥から椅子を持って来て、少女のベットの近くへと置き、座った。

 

 

「……えっと、ここはどこなのです?」

 

「ここはルナ事務所の医務室だよ」

 

「ルナ……あなたは誰なのです?」

 

「私はハクヨ。ここの警備員だよ」

 

 

 ハクヨ、と名乗った女性がはっとしたように資料を確認し、少しかしこまったような態度を取る。

 

 

「お嬢さん。あなたの名前を教えてくれる?」

 

「……えっと、フルール、なのです」

 

「聞こえてたかな……じゃあ、ここに来る前までに覚えている事を教えて欲しいな」

 

「……確か、大湖にいて……」

 

「うんうん」

 

「船長さんと争ってた所までは覚えているのです……」

 

「結構覚えてるね?」

 

 

 ハクヨは乾いたうわ言を呟いた後、にっこりと微笑んだままフルールへと向き合った。

 

 

「ごめんね。他に聞きたい事はあるかな?」

 

「えっと……船長さんはどこにいるのです?」

 

「ラクスさんは大湖に出掛けているね。かなーり心配してたよ」

 

「……そうなのですか」

 

 

 フルールが少し渋った表情を見せる。その瞳の中には安堵が見え隠れしているようだった。

 

 その表情を見て、ハクヨはゆっくり笑いながら語りかける。

 

 

「他に気になる事は無い?」

 

「……この白い膜……私のE.G.Oは、どうなっているのですか?」

 

 

 ハクヨの表情が固まる。

 

 

「本当に何でも覚えてるねぇ……」

 

「……えっと、ハクヨ、さん?」

 

「いい?落ち着いて聞いてね?」

 

「はいなのです」

 

「あなたのE.G.Oはね……」

 

 

「バグっています」

 

「バグっているのですか!?!?!?」

 

「あっちょっと!?深呼吸!深呼吸しよう!」

 

 

 すぅ〜。はぁ〜。

 

 ベットの上で少女が深呼吸を繰り返し、その度に布団が揺れ動く。

 ハクヨはズレた布団を元に戻しながら、宥めるように呟く。

 

 

「あのね、あなたの……主治医さんが頑張ってくれているけれど、あなたの症状については分からないことの方が多いの」

 

「そうなの……ですか」

 

「端的に言うなら、あなたの心はブレーキの効かない状態になっている……って言った方がいいみたい」

 

「ブレーキが効かない……の、ですか?」

 

「そう。だからあなたのE.G.O……『ジェリーフィッシュ・ラブレター』が暴走してもおかしくない。ねじれへと転じなくても、E.G.Oの侵食によって被害が出たら……大変でしょ?」

 

(勝手に変な名前をつけられているのです……)

 

「だからね——」

 

 

 ハクヨが立ち上がり、資料を覗きながらフルールの目の前へとやってくる。

 

 

「あなたが、どんな状況下においてもあなたであれるように、リハビリをしましょう!」

 

「……えーと、わかったのです」

 

 

 多少強引な選択にきょとんとしながら、フルールは首を縦に振った。

 その仕草を見たハクヨは笑顔を見せる。

 

 

「……まぁ、しばらくは血を取ったり、皮膚を取ったり、E.G.Oの白い膜を取ったりするだけだと思うけどね」

 

「なんかとても取られるのです……」

 

 

 有無を言わさぬ選択の数々にフルールが不満を感じるも、未だに倦怠感の残る身体では反抗を起こす気にはなれなかった。

 

 

「——!」

 

「————!!」

 

 

 ふと、扉の向こう側から物音が聞こえてくる。

 駆け足で床を踏み鳴らす音、誰かの話し声、荷物が擦れ合う音……静かな病室には似合わない騒音が耳へと入る。

 

 

「少し騒がしいのです」

 

「ごめんね。今、お客さんがやって来てて、その人達の接待を行ってるの」

 

「接待……なのですか」

 

「あぁ!そんな変な意味じゃないからね!おもてなしだよおもてなし。ちゃんと招いてやってきた客だよ」

 

 

 ちゃんと招いてやってきた客……にしては、余りにも多くの人が動き回っているように思える。

 本当は、客を拒んでいるのではないのか?

 そう思える程に、事務所全体が揺らいでいた。

 

 

「ともかく、今日はゆっくり寝てた方がいいよ。隣の病室にヒロ子ちゃんが入ったせいで、たまにうるさくなるかもだけど——」

 

「誰がお客さんとしてやってきてるのです?」

 

「——え?……まぁ、言ってもいいけど分かんないと思うよ?」

 

「わかるかもしれないので言って欲しいのです」

 

「……ええっとね」

 

 

「……『南部ハナ協会3課部長、ミリネ様。南部セブン協会2課、ハン・ヒジュン様。以上2名の協会フィクサーと会談し、ヒーローの処遇及び今後の事務所運営に関する——』……ミリネさんとヒジュンさんだって」

 

 

「……あまりわからないのです」

 

「だろうね。まぁ、ただの依頼の後処理作業だよ。どんな依頼も1番面倒なのは事後処理だからね」

 

 

 ハクヨがゆっくりと資料を眺め、その中に描かれた一人の少女を見つめる。

 その資料の中には、ツヴァイ協会や被害を受けた翼からの非難が集められていた。

 

 その資料の片隅に、書き殴られた『하나(ハナ)』と『 Dias (ディアス)』の文字が残されている。

 

 

「……どんな崇高な信念も、金と権力の前には無にも等しいなんて」

 

「……?」

 

「ツヴァイ協会の端くれとして、なんとも言えない気持ちになるな」

 

 

 ハクヨが資料から目を離す。

 誰かの駆け足を音が響き続け、病室に静寂は訪れない。

 

 

「……あの」

 

「どうしました?」

 

「じゃあ……お金と権力を持った人が、信念を抱いたなら、どうなるのですか?」

 

「……それは」

 

 

「間違いなく、この都市で最強の存在だね」

 

 

「……」

 

 

 ハクヨは少し笑いながら、椅子から立ち上がる。

 

 

「……結局はどちらの毒の方が強いかって話だよね。血で血を洗う、本当に醜い蠱毒だよ」

 

「……フィクサーとして生きていくなら、その覚悟はしておくべき……だと思うのです」

 

「……そうだよね」

 

 

 ハクヨが病室の扉を開く。

 

 

「果物持ってくるね。何が食べたい?」

 

「……えーと。りんごが食べたいのです」

 

「わかった。すぐ取ってくるね」

 

 

 病室の扉がゆっくりと閉められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかも分からない、白一色の場所。

 

 異質かつ重圧感のある、無機質な廊下。

 

 

「悪いね。わざわざ呼び出して」

 

 

 足音をコツコツと踏み鳴らしながら歩く青い服の男。

 その手には白く巨大で、常人には扱う事が出来ないであろう鎌を添えている。

 

 

「……」

 

「ターニャ。もしかして、前のおつかいの事を引っ張ってる?それなら気にしなくてもいいよ。あの件はそこまで重要じゃかったからさ」

 

「ターニャ様に撤退の要請を送ったのは私ですから、気にしなくても良いですよ」

 

「分かってるよ」

 

 

 青い男の後ろを歩く骸骨が、狼に擁護の言葉を送る。

 

 それでもなお、狼は不服そうだった。

 

 

「……変な所で慌ててもいけないか」

 

「そう。俺達の目標はここで道草を食う事じゃないからさ。むしろ、今からやる事を頑張ってくれた方が俺は嬉しいよ」

 

 

 開かれた扉の先より。

 

 

「……これが散々にやらかし、特色の色はおろかフィクサーの身分まで失った男か」

 

「クボ。余りにも分かりやすく馬鹿みたいな挑発はやめろ」

 

「……言葉1つ、所作1つにすら気をつけるようにと言った筈だけれど」

 

 

 赤い眼鏡の男。ポニーテールを携えた長身の男。

 

 紺色のコートを羽織った、初老の女性。

 

 

「ようこそ。気が滅入るような白紙の空間で失礼する」

 

「会えて嬉しいよ。N社の理事、ヘルマン」

 

 

 無機質な空間に、青い残響が侵食し始める。

 

 その側には、約束を交わした骸骨と、猛者を喰らう狼を携えて。

 

 

「プルート。アレはちゃんと持ってきたよね?」

 

「勿論でございます、アルガリア様」

 

「洒落た骸骨に狼人間……ここまで様々な者を眺めてきたが、ここまで不可思議な者達は久々だ」

 

「こんなのでも団長の旦那とそう大差は無い」

 

「……無様を晒すくらいならアセアと変わるべきだったな」

 

「そこまで。この子達は言葉遊びが好きなだけで、あなた方に敵意を持っている訳ではない事を理解して欲しい」

 

 

 N社の二人を抑えながら、余裕の笑みを一切崩さないヘルマン。

 まるで青い色の奥底まで見透かし掘り起こすかのように、優しい目を向け続ける。

 

 対するアルガリアもまた、予定調和のように爽やかな笑顔を見せる。

 この場を力で抑えつける事が得策でないと理解しているからなのか、愉快な者達のおしゃべりにとことん付き合うようだ。

 

 

「それでは始めようか。これまでの話と、これからの話を」

 

 

「黄金の枝……何でも叶うとされる不思議な枝について」

 

「この小さい枝が俺らが欲する光の代わりになるとは到底思えないけれど……それでも、これを通じて、もっと面白い演奏が作れるようになるかもしれないね」

 

 

 プルートが手を翳せば、黄金の枝が現れる。

 満物の可能性を宿し、白く眩く燃えるように輝く生命の枝。

 

 

「互いに利のある取引をしようか、ヘルマン」

 

 

 そうして、円形の机に並べられた椅子へと腰をかけ——

 

 

 

 

 

 

パサッ

 

 

 

 

 

 

「……ターニャ?」

 

「そこの狼の方、何か落としたようですが?」

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ」

 

「気色悪い」




これでエセヒーローの凱旋は一区切りです。
長すぎる!!!!!


Tips:招待状

なんか薄いし荒くね?
本来は特殊タグを挟む予定だったが変なバグで完全に崩れてしまった為、一応とっておいた挿絵方式で代用
くそっ!かなりの自信作だったのに!これもお前せいだなイシュメール!


*???
フィクサー名:ハクヨ

ルナ事務所所属、ツヴァイ組の精鋭部隊『アイギス』の4級フィクサー。メイド。バトラーではなく、メイド。最近の趣味はローラースケートを履いてルナ事務所内を走ること。
彼女に限らず、『アイギス』はルナ事務所の警備員として事務所内で働いている者が大半である。滅多に外へ出掛けない事から『自宅警備員』の名称で親しまれている。


*黒獣—ヤギ
所属:H社、鴻園陣営

混合黒獣史上最高(GOAT)傑作。出した意味はあんまり無い。
JACKPOT編の時点でそんな感じの気配はしていたがこいつのせいでH社家主審査編が確定してしまった。カルメンアンケすら締め切れるか分からないのに何をしているんだ?


*ターニャ
所属:残響楽団、狼の時間

都市怪談〜都市疾病時点で残響楽団に所属していること、めちゃ強いこと、『都市の在り方』というテーマに対して深い信念があること、の全てを満たしたのがこの人でした。
マティアスみたいな圧倒的な暴力をうまく表現出来なかったのでいつかリベンジします。


*ヒーロー
所属:ルナ事務所?
開花E.G.O::偽善者

ガキ。ヒーローはあだ名とかではなくガチの本名。一般名詞と固有名詞が混ざるせいでルナ事務所フィクサーからは『ヒロ子』と呼ばれるようになっ(てしまっ)た。センスだけで見れば代表の次ぐらいにある。
初期案ではガチガチのメスガキでいく予定だったが、おれがあまりメスガキが好きではない点、文章の勢いや作品の雰囲気を著しく損なった点などからやめた。

『ヒーロー』って本名なのか。……なんと言うか……こんな事を言うのもアレなんだが……どんな家庭環境で育てられたんだ?  ——とあるルナ事務所フィクサー
本人が嫌そうじゃないのがなんとも……  ——とあるルナ事務所フィクサー

私はあの子達に手を差し出すべき、なのかな?

  • そうだ。彼ら彼女らを、貴方が導くべきだ。
  • うーん。貴方の後輩に任せるべきでは?
  • 貴方達はあの者達に関わるべきではない。
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