単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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渋・谷・開・戦〜メガギラス飛翔ス〜
#1


 それは、古い記憶だ。

「それ」はいくつも生まれた卵塊の中の一つであるが、その記憶は今でも覚えている。

 母親は自らを産み落とした後に力尽きた。彼等の種族に子供を育てるという概念はなく、そのまま放置された状態で生まれ、生まれた直後から厳しい生存競争に晒されるハズだった。

 

 だが、今はどうだ?本来なら知らず存ぜずのハズの父親は、「それ」の卵塊を抱いて無我夢中で飛んでいた。

 見れば「それ」の父親だけではない。無数の同族が、ある者は同じように卵塊を、ある者は生まれたばかりの幼虫を、またある者はそれらを守りながら飛んでいた。

 

 何故かって?

 背後に「悪魔」が迫っているからだ。

 

 ギャアゲェエエエ!!

 

 雲海を切り裂き、「悪魔」が姿を現した。

 二枚の翼からは溶岩のような熱と光が漏れ、鉤鼻のような嘴の両脇は、その残虐性と狂気を表すかのようにつり上がっている。

 もし、地獄に鳥類が生息して、その中で一番強いヤツがいるとしたらこんな姿だろうと、人間も怪獣も思った。

 だからこそ、こいつは人間からも怪獣からも「炎の悪魔」と呼ばれていた。

 

『もう追ってきたか!?』

『卵を優先して守れ!!』

 

 同族達は、種の未来を守るべく「悪魔」に立ち向かう。

 その種族は人間が定義する所の「昆虫」でもあった。が、それでも一匹一匹が2mという規格外の大きさを持つ怪獣である。

 鎌のような腕を振るい、鉄をも噛み切る顎を剥いて、まるで大量発生したイナゴがごとく一斉に「悪魔」に襲いかかる。

 

『残念だが「王」のご命令なんでなァ!テメェらメガニューラには今日で絶滅してもらうぜェ!!ハハハハハハッ!!』

 

 が、彼らと「悪魔」ではその体格もそうだが、怪獣としての種の差が圧倒的に過ぎた。

 鎌も顎も溶岩で熱し固められた羽毛を貫く事は叶わず、逆に「悪魔」は少し空中で回転(バレルロール)する事で、翼の熱と衝撃で周囲に群がる彼らを次々と焼き殺す。

 

『きゃあっ!!』

『ああっ、坊や………』

 

 それは熱波だけでも衝撃波として大気を揺らす。たまらず、彼らの内の一匹が抱えていた幼虫を落としてしまう。

 そして。

 

 …………ばくんっ!!

『!!??!!』

 

「悪魔」はこれ見よがしに、その幼虫を母親の前で食べてみせた。

 

『う〜ん、おいちぃ☆』

『あ………あああああああああ!!!!!』

 

 母親は激昂し、無謀という言葉すら浮かばず「悪魔」に飛びかかる。そして。

 

『そういうのいいからさァ、ハハハ!』

 

 ぐちゃ、と翼で潰されて死んだ。彼らの命の灯火も、親子愛も、「悪魔」からすれば狩りを盛り上げるためのファンファーレに過ぎない。

 そして「悪魔」が羽ばたき、メキシコにおいてサンタ・アナ風の由来ともなった熱波の風を吹き荒らす度に、無数に見えた彼らは熱湯に落とされた氷がごとく減っていく。

 本来、彼らが目指していたのは卵塊の育成に必要な豊かな水源のある地であったが、このまま集団で一箇所を目指すプランは「悪魔」から逃げ切れぬ以上は変更せざるを得なかった。

 

『こうなれば全員バラバラに逃げろ!!一箇所に留まっていたのでは全滅を待つだけだ!!』

 

 一匹の号令が群れに広がるのは早かった。卵塊と幼虫を抱えた者は蜘蛛の子を散らすがごとく離散し、残った護衛個体は一斉に「悪魔」に向けて飛びかかった。

 

『こいつら勝てねーってのがワカンネーのかぁ?まあいいぜェ!テメェらの悲鳴は、俺様のゲームを盛り上げるだけだからな!!』

 

「悪魔」は、それが自棄を起こしての行動に、生きる事を諦めてさっさと終わらせようとしたが故の行動に見えていた。「王」と対峙した人間の多くも、最終的にはそうした決断を下していたから。

 

 だが、「悪魔」は一つ見落としていた。

 彼らは怪獣である前に「虫」なのだ。虫にとって………特にハチやアリがこう言う時に捕る行動は一つ。

 

『一匹でもいい!ただの一匹でもいいから生き延びろ!』

『そうすれば群れは維持される!』

『命は紡がれる!』

『そうすれば、我等の勝ちだ!!』

『頑張れッ!挫けるな!諦めるなぁ!!』

 

 彼ら弱小の種にとっての勝利とは種の生存であり、敵を打ち負かす事ではない。

 ただ一匹、卵塊の一つや幼虫が一匹でも生き延びれば、それでいい。

 そう思えば、彼らは死すら怖くない。虫という種であるが故の強さであった。

 

『ハハハハハハァ!!流石のメガニューラ共も、ここで永遠にGOOD・NIGHTだ!!』

 ギャアゲェエエエ!!

 

 殺戮の空を、彼らは舞った。

 生き延びるために、生き抜くために………。

 

 ………

 

 ………メキシコの空は既に遠く、卵塊を抱えた一匹の古代トンボは彼の地にやってきた。

 他の個体がどうなったかは解らない。だが、この個体は生き延びた。が、助かったかと言えるかは、焼けただれた甲殻と無理して羽ばたいた結果取れかかった翅が物語る。

 

『へ、へ………やった、水だ。水がある』

 

 真夜中の空運良く彼は人間に見つからず、闇の中に広大な川を見つけた。

 ここなら卵塊を育てるには丁度いい。

 朦朧とする意識を奮い立たせながら、彼は水面に向け、卵塊を抱える脚を開いた。

 

 ぼちゃん

 

 死んだ(ツガイ)との間に生まれた卵塊。それが水に落ちる音が確かに響いた。役目は終わったと安心しきった彼の意識は、途端に遠ざかった。

 

『やった………やった………これで勝ちだ………』

 

 摩耗しきった翅は抜け落ち、飛行能力を失った身体は水面に向かい落下してゆく。

 死の瞬間であるが、彼は怖くなかった。むしろ、種の命を紡いだという誇りと幸福感に満ちあふれていた。

 

『………"メガギラス"さえ生まれれば、我らの勝ちだ………』

 

 ぼちゃん、と水音が立つと同時に彼の意識は消えた。

 夜の東京都を流れる広大な隅田川には、最初から何も無かったかのような静けさだけが広がっていた。

 

 

 ***

 

 

 ………メキシコに生息しているハズの古代昆虫メガニューラの死骸が東京湾で見つかった。が、そのニュースは人々間に広まるよりも早くに忘れ去られる事となった。

 文明にトドメを刺した最終決戦が、その直後に起きたのだ。

 

 戦ったのは、大自然の化身にして巨神(taitan)を統べる「王」と、突如として外宇宙より飛来しこの戦いに飛び入り参戦した「龍」。

 かつて古代において繰り広げられた地球最大の決戦の再演は、東京という都市の機能を完全に破壊し尽くすには十分であった。

 そしてここは、かつて渋谷と呼ばれた場所。

 繁華街の代表格だったビルと娯楽の街は、巨神(taitan)達の戦いにより噴出した地下水脈により水没。

 広大な廃墟群と湖、そして文明の崩壊により産まれた新たな生態系の広がる「渋谷湖」へと変貌した。

 

 あれから、どれだけの時間が過ぎただろうか?

 大いなる巨神の裁きを受け、生き残った人類は…………………

 

「今日こそタマ取ったるぞ学館倶楽部のガキ共ォ!!」

「やってみろ!集英組のジジイ共!!」

 

 …………やっぱり、反省してませんでした。

 渋谷湖にて、武装したボートの上で二つの集団が対峙していた。

 

 さてここで、今現在の渋谷湖がどうなっているかを解説しよう。

 この渋谷湖であるが、水源とある程度の食料(水棲小型怪獣の肉など)が確保できる事と、まだ使える文明の遺産が残っている事から、当然ながら人は相変わらず住み続けた。

 が、問題は住み着いた人々である。その中に問題となる勢力が二つあった。

 

「この渋谷湖はワシら集英組のシマじゃあ!!おどれら軟弱モンのガキ共は女のケツでも追っかけちょれ!!」

 

 指定暴力団・集英組。

 元々は関西を中心に活動していた暴力団、つまりは極道(ヤクザ)であるが、文明崩壊により勢力図が激変し各地を転々とした果てにこの東京は渋谷湖にやってきた。

 

「つーかこの渋谷は元々俺ら学館倶楽部のモンっしょ?あんたらみたいなムサいオッサンが幅利かせてっと、お姫様達が怖がるから出てけよ!」

 

 ホストクラブ・学館倶楽部。

 母体となったのはかつて渋谷最大規模を誇ったホストクラブ………と、そのバックにいた大陸系のマフィアの残党。

 現地民、特に女性からの支持が強いため誤解されがちだが、実態は集英組と似たりよったりの反社会的私設武装勢力である。

 

「ナメよってからにガキ共!おいヤス!例の物を!」

「ウッス!サヌキの組長(アニキ)ィ!」

 

 集英組の組長である「サヌキ」と言うハゲ頭の中年男性の元に、部下の男が何か箱のような物を持ってくる。

 

「はんっ!そんなモノ俺達も持ってるんだよ!だよなあ?!」

「はい、フォックスさん!!」

 

 対する学館倶楽部のリーダーである「フォックス」という金髪のイケメンも、同じものを保有していた。

 

 謎の箱を両者が構える。すると箱はまるでカラクリのようにガチャガチャと展開。モニターと制御用のキーボードにより構成されたそれは、さながら新型のパソコンのよう。

 だが、それはパソコンだなんて安っぽい嗜好品ではなく、胸を張って兵器と呼べるような代物だ。

 

 ………その名を「オルカ」。

 鯨類の総称を名として与えられたそのガジェットは、怪獣たちがイルカやシャチのように超音波によるエコロケーションを使って意思疎通している事から、それを分析して怪獣を都市から遠ざける装置として開発された。

 が、文明崩壊後にある男によって設計図が流出し、大量に生産されたコピー品は、その本来の役割とはほど遠い手段に使われた。

 

 

 ………ずずず、ず

 

 

 渋谷湖の水面下から、巨大な二つの影が近づいてくる。

 この狂った時代において、第三者による改良を加えられたオルカに与えられた尊厳破壊とさえ言える役割。それは、怪獣のリモートコントロールであった。

 

「さあスキュラ!女もガキ共諸共ブチ殺せぇ!!」

 キュルルルルル!!

 

 集英組サイド(赤コーナー)!!水魔怪獣スキュラ!

 アンモナイトからタカアシガニの足を生やしたような一見すると蜘蛛のようにも見えるタコに近い怪獣。

 周囲の熱を吸収し、それをエネルギーにして放つという能力を持つ、好戦的な性格の怪獣だ。

 

「さあ行けティアマト!お姫様達の街渋谷を守れ!」

 バロロロロロロ!!

 

 続いて学館倶楽部サイド(青コーナー)!!海龍怪獣ティアマト!

 東洋龍と熱帯魚を混ぜ合わせたような外見をしたそれは、長い身体を使った締め付け攻撃を得意とする、スキュラに勝るとも劣らない獰猛な怪獣だ。

 

 キュルルルルル!!

 バロロロロロロ!!

 

 水没した渋谷を舞台に激突する二大怪獣と、それを操る二大勢力。

 確かに巨神(taitan)による大破壊は自然の再生をもたらした。だがそれは、暴力と破壊が支配する古代への回帰でもあった。

 この戦いは、まさにその象徴と言えた。

 

 そう………時はまさに、大怪獣時代なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 from:ゴクラク蜻蛉

 to:dragonfly@2001

 件名:戦闘発生のお知らせ

 

 時刻

 ☓☓時☓☓分

 

 予想戦闘時間

 3時間

 

 予想戦果物

 木材、機械基板、兵器類

 

 注意点

 怪獣を使った戦闘を確認、放射能に注意されたし

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