単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#3

 学館倶楽部の母体となったのは大陸系のマフィア、その残党である。故に、彼らの持つ文化や風習にもそれは色濃く表れている。

 その象徴とも言えるのが、彼等の根城である「ドラゴン・パレス」である。古代中国の城塞を水上に浮かべてネオンで彩ったかのようなそれは、本来は水上レストラン………つまりこれ自体が巨大な船であり、わざわざ本国から引っ張ってきたというから驚きだ。

 

「嫌ああああ!!」

「痛い!痛いいいい!」

「やべでえええ!!」

 

 学館倶楽部のリーダー、フォックスの楽しみは債務者………配下のホストに貢いでは貢ぎ、ついに首の回らなくなった「元・お姫様(おきゃくさま)」を使った遊びだ。

 内容は簡単。拘束し、肉食昆虫怪獣「ショッキラス」の生殖器を挿入させる交尾ショー。

 女性が最も嫌悪する昆虫とまぐわらせる事で、尊厳も内臓もズタズタに破壊し尽くし、やがてショッキラスに食われながら彼女達は死んでゆく。

 

「………店に来る女を人間扱いするな、俺の先輩はよく言っていた」

「その通りですねフォックスさん」

 

 ただフォックスには別にそういうフェチズムがあるわけではなく、ついこの間までお姫様お姫様と呼ばれホストからチヤホヤされて、自分の所属するコミュニティに不利益を与えてまで「推し活」をやめない愚かな女達。

 そんな奴等が最後は人権も繋がりも全て奪われて、下等な虫に貪られる様は、普段から彼女達の相手と言う名の介護をやらされるホスト達からしたら最高のエンターテイメントであった。

 

「バカ共を見ながら飲むワインは格別だ、そうは思わないか?」

「ええ、フォックスさん」

 

 特にフォックスに関しては、それを観ながらワインを飲むのが数少ない楽しみであった。

 

「………ああ、綺麗だ」

 

 もう一つは、ドラゴン・ネストから見る夜景。

 この周囲一帯が海に浮かぶ繁華街であり、同時に学館倶楽部の縄張りだ。それを見渡す度に、フォックスは自らの支配と権力を実感できた。口説き文句や揶揄ではなく、文字通りこの夜景はフォックスの物なのだ。

 

「俺はね、世の中は綺麗な物だけあればいいと思っている。が、俺の渋谷は今汚いものが多すぎる」

「集英組、ですね?」

「それもある。だが今一番目障りなのは………ミズアサリ共だ」

 

 前提として目下最大の敵は集英組であるが、既に壊れているとはいえ自分達の持つ兵器のパーツをハイエナのように漁るミズアサリ達に対してもフォックスは不快感を持っていた。

 

「俺の渋谷にあの弱者男性(ダニ)共はいらない。掃除をする必要がある」

「………人間狩りですか」

「大事の前の小事、というワケさ」

 

 フォックスの浮かべる邪悪な笑みから、自分達以外の人を人とすら思わない腐った本性を察する女性はおそらく居ない。王子様の素敵な微笑みにしか見えないだろう。

 だが、その吐き気を催す邪悪な念を感じたものが、この場所にただ一匹だけいた。

 

 ……ブブブ、ブ………

 

 闇夜の中に消えたメガニューラを認識した者は、ここにはいなかった。

 

 

 ***

 

 

 また朝が来て、蒸し暑い一日が始まる。

 この所ゴクラク蜻蛉のメルマガに頼り切りであるミズアサリ達であるが、ミズアサリの基本である「自分の足で宝探し」の精神は忘れていない。

 というか、ゴクラク蜻蛉から連絡が来ない時は、それまでのように廃墟にボートを走らせてめぼしい物がないか探すのが常だ。

 

「んおっ?あれは………」

 

 コースケもまたかわいい奥様(フサミ)を食べさせていく為に、渋谷湖に船を走らせて今日もジャンクパーツを探していた。

 そんな時、コースケは湖面に何かを見つけた。

 プカプカと、何か大きな物が浮かんでいた。

 

「うわ、臭い………」

 

 気になって船を寄せたコースケが最初に感じたのは、ハエがブンブンと群がっている様子からも解る強烈な腐敗臭。

 見ればそれは生き物の死骸であり、割れて内部が露出した複眼やボロボロの翅から、それが昆虫………それも巨大なトンボである事が解った。

 

「これ、メガニューラだ………」

 

 古代昆虫メガニューラ。

 3億5000年前に生息していた昆虫で、メガヌロンと呼ばれるこれまた巨大なヤゴから成虫になる巨大な古代トンボ。

 絶滅したと考えられていたが、ゴジラの出現に呼応するかのように古代からの生き残りが次々と出現。それこそゴジラと比べると遥かに小型ながら、現代において十分に「怪獣」と呼べる戦闘力と生命力、そして肉食という食性で人々を苦しめた。

 

「でも、なんで日本にいるんだ?それにメガニューラは………」

 

 しかし、メガニューラの本来の生息域はメキシコを中心とする一帯。日本は生息域から離れている上に、メガニューラの持つ「ある生態」に適う環境が日本にない事。

 そして何より、メガニューラは文明崩壊の少し前に天敵でもある空の大怪獣にして炎の悪魔・ラドンによって一匹残らず全滅したという話を聞いた。

 

 つまり、こんな所にメガニューラの死体などあるわけがないハズなのだ。

 なら、目の前のこれは何なのか?コースケが考えにふけっていたその時、彼の携帯電話(スマートフォン)から着信音が鳴る。

 

「お、ゴクラク蜻蛉だ!どれどれ………」

 

 ゴクラク蜻蛉からのメールの着信だった。

 お宝の情報を期待して、今度は現場に一番乗りだと携帯を開いたコースケだったが………。

 

 

 ***

 

 

 文明崩壊によりテレビ番組の放映はほとんどが無くなり、今や防衛軍残党の一部の物好きが残った人工衛星でやっているチャンネルがなんとかあるだけだ。

 その内容も過去のドラマやアニメの再放送か、反抗作戦への参加を募るプロパガンダcmが流れる程度。しかし、それは一通りの家事を終えたフサミにとっては丁度いい暇つぶし。

 お茶の間の机に膝をついてテレビ番組を観る様は、文明崩壊以前には既に失われていた「主婦」そのものである。年齢は遥かに若すぎるが。

 

『アイ〜ン』

「あはははっ!やっぱバカ殿は日本の宝よね〜」

 

 コースケが帰って来る時間から逆算して、そろそろ晩御飯の準備をしようかとフサミが立ち上がろうとしたその時。

 ふと眼下に置かれた自身の携帯電話に、一通のメールが入っている事に気付いた。受信は一時間前だった。

 

「あら………なあに?」

 

 コースケから「緊急の連絡が入る可能性があるから日中はオンにしておけ」と言われた通りに電源を入れていた携帯を開くと、メールの受信欄に見えた名前は。

 

「………ゴクラク蜻蛉?」

 

 差出人はかのゴクラク蜻蛉だった。しかし、ゴクラク蜻蛉からのメッセージは今までコースケなような外に出て働く人間にしか届かなかっただけに、フサミはどういう事かと恐る恐るメールを開いた。

 そこには………

 

 

 

 

 

 

 

 from:ゴクラク蜻蛉

 to:dragonfly@2001

 件名:緊急

 

 時刻、△△時☓☓分に学館倶楽部が◯◯地区を中心にしたミズアサリ駆除計画を実行

 

 被害予測範囲は画像の通り

 

 避難経路は追って報告する、避難準備を進められたし

 

 

 

 

 

 

 

「………何、これ?」

 

 フサミには何が何だか解らなかった。

 被害予想範囲を記した衛星写真には自身のいる水上集落も含まれていた。

 何故、集英組と戦っている学館倶楽部が自分達を殺しに来るのか?少なくともフサミ自身の知る範囲では自分達は学館倶楽部から恨みを買うような事は何もしていないハズだ。

 

 ………もしかしたら、これは間違いメールか成りすましじゃないか?

 そんな希望的観測が浮かんだが、直後に遠くに聞こえたドゴォン!!という火薬の爆発する音がそれを粉々に打ち砕いた。

 

 

 ***

 

 

 操縦しながら操作できる砲台や銃座をつけた武装クルーザーや武装ジェットスキーは、さながら水上を駆け抜ける戦車と装甲車。

 学館倶楽部を象徴する野狐のマークを入れたそれは、彼らから隠れるように暮らしていたミズアサリの人々を見つけ出し、圧倒的な暴力を持って「駆除」していく。

 

「ぎゃあ!?」

「げへぇ?!」

 

 本来は同じ武装した勢力や怪獣に向けられる銃口からズダダダダーンと弾丸(たま)が飛び、トタンや屑鉄の家屋とそこにいる人々が生活ごとズバババババーンと弾け飛ぶ。

 

「ウッシ!当たり〜!」

「ははははっ!最高にスカッとするな!」

 

 ミズアサリと呼ばれる人々が、女達から見放された老人や子供、弱者男性が基本だった事。

 使っている武器が壊れたものを修理したジャンク品にがほとんどだった事。

 何より、住人同士の小競り合いこそあったが、狩りを目的にした対小型怪獣以外の戦闘をした事がなかった事。

 

 それが、勝負の分かれ目になった。

 

 相手は、雄としても遥かに優れ、大陸のマフィアから流された整備された重火器で武装し、人殺しに十分に慣れた集団だったから。

 

「た、大変!早く、早く逃げないと………!」

「逃がすかよ!」

「ひっ!」

 

 遠目に見える破壊の禍を前に今なら間に合うと、フサミはガレージに隠した予備の船を出そうと急いだ。

 が、人間狩りという人類史上最も刺激的な娯楽を味わう彼ら学館倶楽部が、太った子供という狙いやすい的であるフサミを逃がす訳が無かった。

 桟橋の上のフサミをモーターボートに乗った学館倶楽部のホスト達が取り囲んだ。

 

「ははっ!見ろよこいつ、ブサイクなガキだな」

「無駄に肥えて、俺だったら自殺してるわ!」

「違いねえ、ギャハハハ!!」

 

 怯えるフサミに対して口々に罵声を浴びせるホスト達。

 ロリ巨乳という"スキモノ"にはたまらないフサミも、まともな倫理観の中で育ったホスト達からすればただの太った子供に過ぎず、またミズアサリの一員となれば殺す事に何の躊躇いもない。

 

「ひいっ………!」

 

 ホストの内一人がフサミに対して煽るように銃口を突きつけた。

 次の瞬間。

 

「げぶっ」

 

 そのホストの綺麗な顔面は、横から飛んできた弾丸により吹き飛んだ。

 その殺戮の報いと言わんばかりに、脳症をビチャビチャとぶちまけながら倒れる。

 

「な、なんだテメェ!!」

「誰だ!?」

「俺じゃああああ!!!」

 

 遠くからマシンガンを構えた小太りの中年男性が一人、鬼気迫る表情でモーターボートを爆走させながら迫ってくる。

 フサミと同じメールを受け取り、急いで自分の集落へと戻ってきたコースケである!

 

「人の嫁に何してくれとんじゃ貴様らぁあ!?」

「げへぇっ!!」

「ごほぉ?!」

 

 唖然とする二人ホストに対し、サルベージした鉄パイプを使い、一撃!

 綺麗な顔はぐしゃあと歪み、そのまま水中に落下していった。

 

「お、お兄ちゃん………!?」

「話は後だ、早く逃げよう!」

「う、うん!」

 

 呆然とするフサミの手を引いてボートに乗せ、破壊と殺戮の坩堝となった集落から逃げてゆくコースケ。

 見れば、同じように集落からボートに乗って逃げてゆく住人達の姿がちらほら。

 それはまるで、山火事から逃げてゆく獣の群れのようにも見えた。

 

「あっ………!」

 

 その直後、ホストの放ったロケットランチャーが水上住宅を粉砕した。

 トタンと木と鉄板で作られたバラックの自宅はいとも簡単に粉砕され、水底へと沈んでゆく。

 この家に刻まれた思い出ごと、炎に包まれて消えてゆく。

 

「私達の家が………あ、ああっ………!」

「………クソがっ!」

 

 しかし、コースケもフサミも悔しさに耐え、涙を流すしかできなかった。

 文明が崩壊しようとお前らブサイクに幸せになる資格はない、泣かされるだけだ。そう、爆発と炎がしたり顔で嗤った気がした。

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