単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です 作:アイアイホイホイおさるさん
メイドメガニューラに案内されて、コースケ達ミズアサリはビルの中へと誘われる。まだ生きていた電気系統により自動ドアが開いた時、彼等はこのビルの正体を知った。
「データセンタービルだ………」
「データセンター?」
「昔、インターネットのサーバーを管理するために、サーバーを集めていたビルさ」
埃を被ったお洒落な………というよりかはいかにも勝ち組のデザイナーがデザインしましたよという「気取った」内装と、それに不釣り合いなお役所仕事で作られた看板の「第七SHIBUYAデータセンタービル」という文字が目を引く。
そんな文明崩壊前の日本政府の腐敗の残穢がただようロビーを抜けて、彼らはぞろぞろとデータセンタービルの下へ下へと、階段を下って案内される。
「………水没してないんですか?下って」
「ええ、我々がせき止めましたから!」
「まだ電力が動いているのは………」
「近場のダムから水力発電装置を引っ張ってきて、水流で動かしています!流れが弱い時はメガヌロンに水流を作らせています!」
「さいですか………」
コースケ達の質問にハキハキと答えるメイドメガニューラ達は、やっぱりどこか不気味。
しかし言っている事は事実らしく、ビルの水没部分は硬化した粘液により水の侵入がせき止められ、照明は一部消えてはいるもののビル内を明るく照らしている。
「到着しました!ここがSHIBUYAデータセンターのメインホールです!」
………時間としては十分もかからなかったと、フサミはなんとなく感覚で感じた。
この一階エントランスホールもなんというか、かつての日本政府の腐臭の残穢が感じられる場所だ。なんせ、一面をガラス張りにし、高い天井とよくわらかない芸術様式が使われている。
ロビーと同じく、なんというか、実用性を理解していないアーティスト気取りのデザイナーに好き勝手やらせた感をビンビンに感じるのは、気の所為ではないだろう。
このガラスであるが、水族館の巨大水槽で使われるような分厚い特殊ガラスが使われていた為か、水没部分でありながら水は入ってきておらず、水中の様子がよく見えた。
この、一言で言うなら「気取った」外装が故に、彼等はついに自分たちがゴクラク蜻蛉と呼んでいた「それ」と相対する事になった。
「お、お兄ちゃん!あれ!」
「えっ………わあっ!?」
最初は、水底に沈んだ瓦礫の山だと思っていた。
だが、ガラス越しに水底に鎮座していたそれは倒壊したビルなどではなく、節のある四対の脚と芋虫のような膨らんだ身体、そしてつり上がった複眼の目を持つ竜のような、巨大な巨大な生物であった。
一瞬身構えたミズアサリ達であった。が、その巨大生物が自重のために動けないのか、はたまた温厚な生物だからか、それが動かずにただこちらを見つめているだけだと判断すると警戒を解いた。
「なんだありゃあ………!?」
「メガヌロンに似てるけど、この大きさは………」
巨大生物の外見は、屋外にも抜け殻があったメガニューラの幼虫である怪虫・メガヌロンに酷似している。
だがメガヌロンも巨大昆虫ながら、大きさは2〜8m程度。しかし眼前の巨大生物は推定でも100m近くはある。個体差と言うには無理があるサイズである。
「こいつは、メガヌロンの親玉だ………」
「いや、違う」
ただ、ミズアサリの中には博識な者もいた。元より異性としての魅力がないため捨てられた人間の集まりが故に、こうした「ガリ勉」もいるというのがミズアサリ達の幸運であった。
「こいつは………"メガギラス"だ」
「メガギラス?」
聞き慣れない「メガギラス」という名詞の登場に周囲が呆然とする中、その博識なミズアサリは解説を続けた。
「メガニューラは天敵から身を守るために、群れの中のメガヌロンを一匹選んで、周囲の生物から吸収した生命エネルギーを与えて巨大化させる。そうしてドーピングにドーピングを重ね、異常強化された状態で羽化し生まれてくるのがメガギラスだ。メガギラスは、その有り余る戦闘力で周囲の天敵を駆逐し、メガニューラは生息域を広げていく………」
彼の言っている事は荒唐無稽な話に聞こえたが、メガギラス自体は中国で化石も見つかっている実在する生物だ。
しかし、その化石も20m前後であり、眼前の個体ほど大きくはなかったハズである。
「だが、この個体の大きさは………」
『その疑問については、このワタシ自身が答えるとしよう』
突如、エントランスホールに響いたのは、エフェクトが何重にもかかった機械的な音声。
それは室内放送用のスピーカーから響いていたのだが、問題は誰が話しているのかという事。
『待ちたまえ君達。声の主、つまりワタシは君達の眼前にいる』
「えっ………?」
続いて響いたもう一声。
それに従い、まさか?という疑念を抱きつつもミズアサリ一同はそーっと、水底の巨大メガヌロンに目をやる。
そこでは、あまりの巨体故に自由に動けないなりに、おーいと手を振るかのように巨大メガヌロンが僅かに頭を動かしていた。
『直接顔を合わせる以上は、はじめましてと言わせて頂く。ワタシは人間の認識では"メガギラス"と呼ばれる怪獣であり、君達に"ゴクラク蜻蛉"の名で接触していたメールの配信者だ』
「え、ええーーっ!?」
「嘘だろ………!?」
驚くミズアサリも数名いたが、その内何人かは信じていないようにも見えた。
ので。
『信じられないなら証拠をお見せしよう』
直後、エントランスホールに着信音が響いた。それが自身の携帯から聞こえたと気付いた残りのミズアサリ達は、まさかと携帯を見る。
そこには「ゴクラク蜻蛉」の宛名でただ一言「これが証拠だ」と書かれたメールが入っていた。
「お兄ちゃん、これ………!」
「どうやら………俺達は本当に怪獣からメルマガを受け取っていたらしい………」
僅かに動いた巨大メガヌロンが、コースケにはまるで"してやったり"と笑っているようにも見えた。
『では………皆の質問は予想がついている。その上でまずは私の身の上話を聞いてほしい。その中におおよその質問への答えは入っている。ので、それでも質問があるのなら後から引き受けよう』
ふとコースケが背後に違和感を感じて振り返ると、メイドメガニューラ達が恐らく映画館施設から引っ剥がしてきたであろう椅子を、その場にいたコースケとフサミを含めたミズアサリ達の人数分用意して立っていた。
"座って聞け"という事だろう。
逆らう理由もない一同は、とりあえずその座り心地のいい椅子に腰掛けてメガギラスの身の上話の座談会に参加する事にした。
『そう、あれは夏の暑い日であった………』
***
文明崩壊前夜。
ゴジラは人類文明に対する粛清を決定したが、同時に地球の自然を破壊すると判断した他の怪獣に対する粛清も行った。
その粛清対象の中にメガニューラ一族がおり、ゴジラにより差し向けられたラドンにより、メガニューラ達は全滅した。
………命からがら隅田川にたどり着いた、卵塊を抱えた一匹を覗いて。
その後、東京にて繰り広げられたゴジラとキングギドラの激突により水道と地下水脈が決壊して渋谷は水没。
一帯が水に覆われた事で孵化の条件が揃い、メガニューラ一族はなんとか生命を紡げた。
メガニューラ達の目標は、同胞を皆殺しにしたラドンへの復讐。その為にはメガギラスを誕生させる必要があるが、膨大なエネルギーが必要になる。
だが、適当な怪獣を襲おうにも、目立った動きを見せればゴジラに察知される。
それを避けるために目をつけたのが、文明の遺産を漁って生きるミズアサリ達。彼等は今においても抜け道を探し、衛星ネットワークによる以前と近い生活を送っていた。
メガニューラ達は、メガギラスとなる個体の持つ強いエコロケーション能力を応用し、彼らの持つネット環境にハッキングを仕掛け、そこから防衛軍の持つネットワークに侵入。
電子機器越しにゴジラの動向を見張る事にした。
その見返りとして、メガギラスは自らを謎のメルマガ配信者・ゴクラク蜻蛉を名乗り、ミズアサリ達の利益となる情報を提供する事にした。
「つまり、俺等………知らない間に携帯をハッキングされてた………って事!?」
「でも助かったのも事実だしなぁ………」
メガニューラ達はミズアサリ達人類のインターネット環境を使って、ゴジラの動向を探りながらメガギラス誕生に必要なエネルギーを集める。
その見返りとして、メガニューラがゴクラク蜻蛉として渋谷湖で起きた様々や情報を提供する。
知らぬうちに、怪獣と人間の間でウィン・ウィンの関係が構築されていた、という事である。
勝手に携帯に入られたという事実はミズアサリ達も難色を示すものであったが、結果論とはいえ生活の助けになっていたという事実が、ミズアサリ達からの反感を回避していた。
対する巨大メガヌロンもそうなる事を見越していたのか、身の上話を淡々と続ける。
『貴方方人類には本当に感謝している。情報だけでなく、ワタシがこうしてメガギラスとなるまでのエネルギーまでくれたのだから』
「エネルギー………?」
巨大メガヌロンの話に、コースケは疑問を浮かべた。
何故なら、インターネット環境こそ提供していたものの、彼らにメガヌロンを巨大化させるために何かを提供した記憶はないからだ。
『おそらくかつての文明を知る者なら知っているだろう。ほら、国立科学技術研究所の………』
「国立科学………ああ!」
「何かあるの?」
そこで、コースケは膝を打った。
豊かな生態系ではあるものの、メガヌロンを巨大化させられる程のエネルギーがあるとは言えない渋谷湖において、メガギラスの誕生を可能としたエネルギー源。
しかし、フサミのような若い世代にはイマイチピンとこない。そりゃあそうだ、事件になったのはコースケ達の時代なのだから。
「あそこには、回収されたゴジラ細胞があった」
「ゴジラ細胞!?」
「
国立科学技術研究所において研究されていたのは、原子力を上回る次世代のエネルギーとして期待されていた「Gエナジー」なるもの。
感のいい人ならわかるだろうが、GというのはGODZILLAの頭文字。すなわち、ゴジラを由来とするエネルギーである。
日本に現れた「シン・ゴジラ」と呼ばれる個体の細胞を研究し開発されたそのエネルギーは、確かに東京の国立科学技術研究所で研究が進んでいた。
だがゴジラとキングギドラの激突により研究所は東京ごと放棄され、永遠に失われたかに思われたが………
『試作された炉心が生きていてね、誰も使わないならと利用させてもらったよ。お陰でワタシもほら、こんなに大きくなった』
スピーカー越しに得意げに笑ってみせる巨大メガヌロン。
ゴジラ細胞由来のエネルギーを吸収したと考えれば、この巨体にもなると一同も納得した。
………同時に、この巨大メガヌロンから
「………ん?」
「お兄ちゃん?」
「今、地響きが………」
ズズズ、とぐもった地鳴りのような音が遠くから聞こえてきたが、これは彼等がメガギラスの底知れなさに恐怖し震えているからではない。
コースケとフサミ以外も気付いたのか、不安げに周囲を見渡す。
『………これは戦闘だ。配下のメガニューラから報告が来ている』
スピーカーから聞こえたその一言に、ミズアサリ達に恐怖が広がる。
それが意味する事が何かは察しがついた。学館倶楽部と集英組が近くにいるのだ。
まさか自分達を始末しに来たのか?と震え上がる一同を安心させるように、今度はメイドメガニューラが前に出る。
「ご安心ください!このフロアにいる限りは皆様の安全は保証します!我々には、メガギラスがついているのだから!」
直後、彼女の背後で制止していた巨大メガヌロンに亀裂が走った。
そして、そこから別のものが現れようとしている。
「………一つ、最後に聞いていいか?」
『可能な範囲で答えよう』
「何故俺達を助けてくれるんだ?怪獣のアンタが」
コースケの問いは、この時代に生きる人間としては皆が思う疑問。
大自然の化身たる怪獣からすれば、足元で喚く人間など取るに足らない虫ケラである。
なら、何故この巨大メガヌロンは、メガギラスは、ゴクラク蜻蛉は………
『………貴方方人間の言葉に、一番相応しい理由があります』
「それは………?」
『………"義理人情"!!』
巨大メガヌロンの亀裂から、その巨大な竜が如き影が翼を広げた!