単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#6

 自身も「小事」だと認識しているミズアサリの残党狩りに学館倶楽部の頭領たるフォックスが自ら出向いたのは、ただ単に弱者男性狩りという最もスカッとできるイベントを楽しみたいだけという、彼の生来持つサディストな欲望を満たすためだけに過ぎない。

 だから。

 

「なんでお前らが来てんだよ!?」

「じゃあかしい!おどれらガキ共の考える事なんざお見通しなんじゃボケェ!!」

 

 確かに、データセンタービルは連中の縄張りの近くにはある。

 だがまさか、連中が潜伏したデータセンタービルに向かう道中、集英組が待ち構えていた。それも、サヌキに率いられた本隊に出くわすなど思っても見なかっただろう。

 

「さあ今日こそ(タマ)取ったるけんのぉ!!殺れぇ!!スキュラああ〜〜〜!!」

 キュルルルルル!!

 

 サヌキが起動したオルカに反応し、水中から立ち上がる怪獣スキュラ。

 百数mある槍のような長い脚を振り上げ、それを学館倶楽部の武装船団向けて突き刺す!

 

「ぎゃああ!」

「ひいい!」

 

 反撃として放たれる機関銃は通じず、脚が水面に突き刺さる度に何人ものホストの命が散ってゆく。スキュラから見れば蟻を狙って踏み潰すような感覚だ。

 

「ちいいっ!来いティアマト!!」

 バロロロロロロ!!

 

 しかしフォックスもただ見ているだけではない。

 こちらもオルカを起動し、ティアマトを呼び出した。

 

 バロロロロロロ!!

 キュルルルルル!!

 

 鎌首をもたげてスキュラを威嚇するティアマト。

 対するスキュラも口の触手を広げて唸り、威嚇する。

 

「今日こそテメェら皆殺しにしちゃるけんのぉ!!お前ら殺れェ〜〜〜ッ!!」

「「「ウッス!アザッス!サヌキの組長(アニキ)ィ!!」」」

「それはこっちのセリフだ!!時代遅れのジジイ共を皆殺しにしてやれ!!」

「「「おまかせください!!フォックスさん!!」」」

 

 弾丸が飛び交い、武装船団と二大怪獣が激突………しようとしていた、その時。 

 

 

 

『見るに耐えん、これが邪念か』

 

 

 

 ………突如、両軍の間に割り込むかのように渋谷湖の水面が大きくうねった。

 それは瞬く間に巨大な津波となり、武装船団を押し流してゆく。

 

「な、なんだ!?何が起こって………うわあ!」

「飲み込まれるっ!助け………わあああ!」

「助けてっ、助け………!」

 

 まるで嵐の海かと思うほどに強烈な水の流れは、集英組と学館倶楽部の両方の戦力を水底へと引きずり込んでゆく。

 多くのヤクザとホストを飲み込む荒波は、水棲怪獣であるスキュラとティアマトですら立っているのがやっとである。

 

「な、なんじゃあ………!?」

「あれは………!?」

 

 後方に控えていた為沈まずに済んだが、それでも荒波に激しく揉まれているサヌキとフォックスの其々の武装クルーザーから、飛沫を立てて水中から何かが飛び上がるのが見えた。

 ホストの、ヤクザの、そして二体の怪獣達の視線が集まる中、それは渋谷湖の夜の空にその姿を現す。

 

 ………おおよその姿は、メガニューラを100mサイズに巨大化させたように見えた。

 しかしその肉体は紫の鱗のような甲殻に覆われ、一対増えて六枚になった翼は虫の翅と言うよりは蝙蝠か翼竜のような膜の羽であり、それが組み合わさることで二枚の大きな翼のようになっている。

 ダガーナイフのような鋭い鋏の両手を持ち、胸には足が三対の合計八本の脚。

 ムカデがそのまま取り付いたような尻尾は先端に三叉の槍のような針が伸び、尾の内側には節一つに一つずつ計八つの発光体。

 何より特徴的なのは顔だ。それは古代蜻蛉(メガニューラ)の変異体でありながら、顔は爬虫類のような………それこそ邪悪なドラゴンそのものであり、血のように赤い目とナイフのような牙が光る。

 

 ………ギュリィイイイイッ!!

 

 そう、これこそ「メガギラス」。

 メガニューラ種が天敵であるラドン族に対抗するための変異を繰り返した果てであり、メガニューラ種の究極戦闘形態である。

 

「な、なんじゃあの怪獣は………」

「と、トンボの化け物だあっ………!」

 

 多くの仲間を"現れただけ"で水底に沈めたメガギラスを前に、ホストもヤクザも恐怖のあまり戦意を喪失してしまっている。

 が、ヤクザとしての面子が許さなかったのかサヌキは攻撃を敢行する。

 

「ざけんなゴルァ!!たかが虫のくせに偉そうにしちょってからにいィ!!スキュラああ!ヤツを焼き殺せぇ!!」

 キュルルルルル!!

 

 サヌキの怒りがオルカ越しに伝わったのか、スキュラはその触手まみれの口をメガギラスに向ける。

 そして職種の奥にある嘴から、なんと火炎をメガギラス向けて噴出する。

 

 ………スキュラは、体内と体外の熱比を交換する「熱交換」という能力を持ち、特に核エネルギーを吸収した後はすさまじい高熱を周囲にまき散らす。

 これはその応用であり、体内で生成した高熱を使って引火性の烏賊墨に炎を乗せて噴出するのだ。

 

 メガギラスは昆虫怪獣。某携帯獣でもそうであるように、虫に炎は禁物。

 このままではメガギラスは燃え尽きてしまう………のだが、そこは対ラドンが本来の用途であるメガギラス。炎対策はちゃんとしている。

 

 ぶしゅううう!!と、メガギラスの六枚の翼の付け根にある噴出孔から、突如として黄色いガスが噴出される。

 煙幕のように広がったそれは、スキュラの放った火炎噴射を本体に届く前にかき消してしまった。

 

「あ、ありゃあ鎮火ガスか!?」

 

 ヤクザの一人が驚いて解説してくれた通り、これはメガギラスの対ラドン用戦略である消火ガスだ。

 触れるだけでダメージを与えるラドン炎の身体。これを無効化し、相手を弱体化させるための器官。

 ゴジラの熱線ならともかく、並の怪獣の火炎噴射程度なら消火するなど容易い事。

 

「こ、この!やれっ!ティアマト!!」

 バロロロロロロ!!

 

 フォックスも集英組ばかりに戦わせるのは面子が廃ると、自身のオルカを使いティアマトを向かわせる。

 古来より語り継がれてきたシーサーペントの正体と云われているティアマトは、その流星のような素早い泳ぎでメガギラスの背後に回り込み、海鳥を狩るシャチが如く水上に飛び上がる。

 大きく口を開け、メガギラスに噛みつこうとした。

 が。

 

 ギュリッ

 バロロッ?!

 

 メガギラスはフッと舞い上がり、ティアマトの顎をいとも簡単に避けてみせた。

 ティアマトの長い身体は宙を切り、その射線上には………火炎噴射を防がれて呆然としているスキュラ。

 

 バロロロォ?!

 キュルルル?!

 

 当然ティアマトは飛行船上にいるスキュラに激突する事となり、二体は水しぶきを立ててもつれながら倒れる。

 メガギラスはそんな二体に呆れるか、もしくは見下すかのようにゆっくりと降りてきた。

 

 ギュリィ………ッ

 

 そして尻尾を、尖った針と丸い発光体が鈍く輝く尻尾を、まるで蜂が毒針を構えるかのように後ろにいる学館倶楽部と集英組へと向ける。

 すると、発光体内部で何かが蠢くのが見えた。それはまるで寄生虫かのように発光体の内部でウニョウニョと気味悪く蠢いていた。

 そして。

 

『クモンガ、射出(イジェークト)!』

 

 びしゃあっ!と、発光体の一つから、水色の液体が射出された。

 かと思うと、それは大気中で固まり、生物の………ヤシガニと毒蜘蛛を混ぜ合わせたかのような二体の怪物の姿へと変わる。

 

 ギギュウ!ギギュウ!

 

 ………これは、メガギラスがシン・ゴジラ由来のエネルギーを吸収した事で、シン・ゴジラの持つ「自己増殖」を劣化ではあるもののコピーした結果の能力。

 自身の細胞を分離させ、独立して戦闘を行う動く疑似生命体………言ってみれば"ドローン怪獣"とでも言うべき存在へと作り変える。

 

 ギギュウ!ギギュウ!

 ギギュウ!ギュウ!

「な、なんじゃこいつらあ!?」

「く、来るなぁっ!!」

 

 そしてこれは、蜘蛛と甲殻類の特徴を持った「クモンガ」と呼ばれるドローン怪獣であり、メガギラスやスキュラ達と比較すると2mと小型だが、それでも人間からしたら十分脅威だ。

 両陣営の武装船弾に飛びかかり、破壊しては飛び上がりを繰り返しながら、其々がサヌキとフォックスの武装クルーザーに迫ってくる。

 

「(こいつら………まさか誰がリーダーかを理解しているのか!?)」

 

 おおよそ知性が見当たらないかに見えたクモンガがこちらを目指す様を前に、フォックスはまさかと感づく。

 そして自分が怪獣をコントロールできる手段を手に入れたからと、怪獣を用心棒が連れているドーベルマンや金持ちが飼うトラやヘビの類の延長線として考えていた事が間違いだったと気付いた時には、自身の乗る武装クルーザーの上にクモンガが飛び乗ってきた後だった。

 

「ひいっ!!」

 

 ぶんっ!と、フォックスが真っ二つに切り裂かれた。

 いくら権力と暴力を手に入れようと、それはクモンガの尖った爪から守ってはくれない。

 極上のスーツはビチャビチャと飛び散った臓物で汚れ、まるで生ゴミのようにフォックスは息絶えた。

 

「こ、この野郎!てめっ………!」

 

 同じように武装クルーザーにてクモンガに追い詰められたサヌキもまた、最後の時を迎えようとしている。

 眼前に迫るクモンガに対して、極道の意地を見せようと短刀(ドス)を構えて突っ込む。

 が。

 

「ぎ」

 

 無駄だった。クモンガは脚を構えたたけで、向かってきたサヌキの腹を貫いてみせた。

 そしてサヌキに向け、口から粘液を………対象をドロドロに溶かす硫酸を吹きかけた。

 

「ぎゅあ、あああああ!!」

 

 肥満体のサヌキは、まるでロウソクが溶けるかのように体組織がドロドロに溶け、醜く肉片を撒き散らしながら、苦しみ抜いて息絶えた。

 理想的な極道の死に方とは程遠い、無様で汚い死に様だった。

 

 ギギュウ!

 ギギュウ!

 

 最後の仕上げ、と言わんばかりに両陣営のトップを打ち取ったクモンガは、鋭い脚を同時に振り上げ貫いた。

 その矛先にあったのは………怪獣コントロール装置・オルカ。

 精密機器の塊は、銃弾すら弾く甲殻の槍に貫かれ、あっという間に無価値なジャンクパーツへと変貌した。

 そして………

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