単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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人造巨獣の逆襲〜プロローグ・オブ・スペースゴジラ〜 前編・地の章
#1


 一般人だよ………怪獣(おまえ)達がいつも足で踏みつぶしている、一般市民の代表だよ。

 

────内海将(『SSSS.GRIDMAN』より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ある所に、一人の少年がいた。

 日本の片隅にある町で生まれたその少年は、おおよそどこにでもいるような平凡な少年だった。

 人並みの善意と、人並みの欲望と、人並みの夢を持って青春を謳歌する。

 そんな、ただの少年だった。

 

 もし、この作品がよくある学園ラブコメや青春物語の類なら主人公を張れたかも知れない。

 だがある時、街に鳴り響いたサイレンはこの物語の正確なジャンルと、この少年は物語の主人公なんかじゃないという事を無慈悲に告げた。

 

 やがて海が隆起し、巻き起こった津波は街を、学校を、日常を、見知った人々を、幼馴染を、家族を、そして少年自身を無慈悲に飲み込み終わらせた。

 エンディングの代わりに響いたのは、街の近くにある原発を破壊しに現れた大いなる巨神(taitan)の咆哮だった。

 

 世界が、終わった。

「王」が目覚めた。

 

 稼働する原発の放射能をかぎつけた「王」が上陸し、その人類の持つ愚かしい科学文明ごと、それを享受する邪念に満ちた街を踏み潰していった。

 

 こうして、少年の人生は終わった。

 

 将来の夢も、かけがえのない日常も、怪獣という大いなる存在の前では道端の石ころのような存在に過ぎない。

 人間の営みも、命も、想いも、大いなる巨神(taitan)の前では取るに足らない虫ケラに過ぎないのだ。

 

 濁流の中で、他の人々と共に細切れにされて死んだその少年は、怪獣というこの世の絶対の法則の前に全てを失い、他の多くの生命と共に観客に爽快感を与えるためにゴミのように殺された。

 それが、怪獣映画の洗礼であった。

 

 

 ***

 

 

 ………西暦2017年。

 赤道付近のとある国の泥濘んだ道を、MONARCHのロゴが描かれた一台の車が走っていた。

 ハンドルを握る科学者アイリーン・チェンは、見るからに憂鬱な表情を浮かべつつ、これも仕事だと自身を律し、日差しの輝く道を見つめる。

 

 ………自身の"一族"の一大イベントであり、モナークとしても重要であった「女王」の孵化の立ち会い。

 そこで生まれてきたのがまさかの双子だった事や、片方が「女王」とは似ても似つかぬ存在だった事からその場がパニックになり、錯乱した兵士が独断で攻撃した事で変異種と思われる黒い個体は逃げてしまった。

 

「あの子………どこに行っちゃったんだろ」

 

 どんな見た目であろうと昔から「女王」と共にあった一族としては、心に深い傷を残す結果となってしまった。

 その事で自分も、姉であり同じく科学者のリン・チェンも意気消沈していたが、モナークの科学者という立場は彼女達のメンタルの疲弊に配慮してくれる程甘くない。

 

「………あっ、来た!」

「先生ー!」

 

 アイリーンが車を駐車すると、現地の村の人々が走り寄ってきた。

 

「例のものはどちらに?」

「こっちです」

 

 人々に案内されて向かうと、そこには村の広場に集まる人だかりが見えた。

 皆、何かを囲むように立って不安そうにしている。

 

「これは………!」

 

 アイリーンが村人に頼んで見せてもらったもの。

 村人達の関心を集めるもの。

 それは、モナークという巨大な組織の科学者をこんな僻地に呼びつけるには十分なものだった。

 

「こいつがあああ!!」

 

 突然大声が聞こえたかと思うと、一人の老婆がクワを振り上げて走ってくるのが見えた。

 村人達をかき分け、人だかりの中心に走ってきた彼女は、クワを思い切り振り上げる。

 

「こいつがっ!こいつがあああ!!」

 

 そしてクワを「それ」に向けて、何度も叩きつける。

 ぐちゃり、ぐちゃり、と腐った肉が砕ける音がする。

 鬼気迫る状況に村人もアイリーンもただただ見つめるしかできない。

 

「………娘さんと孫が食われたそうです」

 

 案内人から聞き、アイリーンは納得した。

 家族を食い殺した相手ともなれば、死体であろうと痛めつけたくなるものである。

 

 ………「スカルクローラー」。

 腕だけの黒いトカゲのような、髑髏のような頭を持つ凶暴な肉食怪獣………の、死体。

 最初に発見されたのは髑髏島で、無数の類人猿型怪獣(グレイトエイプ)の死体と一緒に見つかっている。

 成体になると30mになるが、この個体は2mしかない。恐らく子供なのだろう。

 アイリーンが呼び出されたのは、本来地底に生息しているこの怪獣が地上に現れたという報告を受けたからだ。

 

「おばあちゃん離れて!落ち着いて!」

「こいつが娘と孫をっ!生まれたばかりで、これからだったんだよ!それをっ、わ、わあああ………っ!」

 

 他の村人に引き離されたこの老婆のように人的被害も出ているなら尚の事。

 半狂乱になって泣き叫ぶ、これからの生き甲斐の全てを奪われた彼女に心を痛めながらも、アイリーンは己を律して眼前のスカルクローラーと向き合う。

 

「これは………」

 

 先も話したが、スカルクローラーは本来地底に生息する怪獣であり、滅多な事がなければ地上に現れる事はない。眼前の死体のような、恐らく産まれて間もない幼体なら尚の事。

 なら、この個体は何故地上に現れたのか?その疑問は、損傷した死体が物語る。

 

「………このトカゲは、他にもいませんでしたか?」

 

 ………まさか、地下から逃げてきた?

 一つの仮説がアイリーンの中に浮かんだが、それはもう一つの疑問を産んだ。

 スカルクローラーは怪獣全体で見れば強力ではないが、それでも凶暴な肉食怪獣で、場所によっては頂点捕食者にもなり得る。

 そんなスカルクローラーが、安住の地である地下を捨てて逃げ出すような相手とは何なのか?

 

「山の中からもっと大きい個体が何匹も出てきて、海の方へ逃げて行ったんだ」

「海の方へ………?」

 

 これは科学者として恥ずべき事ではあるが、アイリーンはこの事件に何か大きな不安を抱いていた。

 地底、人間の感知し得ない怪獣達の世界で、今何かが起きていると。

 そしてそれは、この先起きる良くない事の前触れでもある、と。

 

 

 ***

 

 

 ………小笠原諸島沿岸。

 そこに、日本の防衛軍が保有する巡洋艦「あいづ」がやってきた理由は、この海域に原因不明の海底の隆起が発生したから。

 それだけならまだ良かったものの、隆起した場所から放射能が検知された。当然ながらこの近くに原発などなく、未知の巨大生物の存在の可能性を考え、わざわざ調査に軍用艦を派遣したのだ。

 

「さつま、発進します」

 

 同じく防衛軍が保有する有人小型潜水艇「さつま」が、あいづから発進し海底へと沈降してゆく。

 最低限ではあるものの対怪獣用の武装を持ち、また放射能遮蔽機能を有している事から今回の調査に最適と判断された。

 

 さつまはゆっくりと沈んでいき、目的の場所にたどり着いた。

 その様子は、あいづ内のオペレーションルームに、さつまのメインカメラを通じて届けられている。

 

「………海底面がこんな隆起の仕方しますかね………?」

 

 調査のため動向していたモナークの科学者がつぶやいた。

 彼は生物学の他に地質学等の博士号も持っており、彼の知見から見ても、さつまから届けられる海底の隆起は自然な地殻変動により押し上げられた物とは思えなかった。

 

「もしかして、スケールの問題じゃないですかね?」

「スケール?」

「対象に近づき過ぎて全体面を把握できてないとか………離れてみてくれ」

『了解』

 

 防衛軍のオペレーターの提案により、さつまはゆっくりと距離を取る。

 しかし。

 

「………何も見えん」

「だろうね」

 

 そこは光届かぬ深海。

 光源がさつまのライトしかないが為に、やはり一カ所しか見えない。

 

「カメラの感度を上げろ」

『了解』

 

 しかし、当然そこも対策済み。

 取り込む光源の量を増やす事で、暗い海の底でも見えるようになる。暗視ゴーグルと同じだ。

 そして感度を上げ、一瞬モニターが眩い光に覆われたかと思うと、ゆっくりと海底の全貌が明らかになってゆく………。

 

 ………だが、そこに映っていたのは、新たな知見のような明るい結果に繋がるものでは断じてなかった。

 

「な………ッ!?」

 

 オペレーションルームにいた一同は、その光景を前に驚愕した。

 それは頭骨だった。もっと言うと、白骨化した頭骨と肉の残る身体を持った、今まさに微生物等に分解され土に帰る最中の、生物の遺骸。

 しかしクジラやサメのそれではなく、頭骨の特徴は爬虫類に近く、身体には地面を踏みしめるための足と腕があり、背中には平べったい背びれが並ぶ。

 それはまさに………

 

「………ゴジラ?」

 

 怪獣王ゴジラ。2014年に初めてその存在が大衆の知る所となった、地球上で最強の生物そのものである。

 そりゃあゴジラも、冷静に考えれば生物。フィリピンで発見されたダゴンという個体名のゴジラのように、死んだ個体がいるぐらい珍しい事ではない。

 だが、この場所に広がる問題はそれではない。

 

「………この数を見ろ、こいつ一体じゃない」

 

 亡骸はもう一つあった。更にもう一つ。更に、更に、更に………。

 大きさも見た目もまばらな、数え切れない数のゴジラがそこにいた。

 本来、人類には決して太刀打ちできないハズのゴジラ。その死体が一面に転がっている。

 

「じゃあ………だったらここは………!」

 

 その時、それまで黙っていたさつまのパイロットが呟いた。

 

 

 「………ゴジラの墓場」

 

 

 王にする埋葬とは程遠い、酷く損傷したゴジラの亡骸は、そこで何が起きたかを訪問者たる彼らに強く訴えかけているようにも見えた。

 

 その体表の傷は、2014年のムートーが食らった放射熱線の傷跡とよく似ていた。

 

 

 ***

 

 

 ………かつて「王」による大粛清があった。

 

 何故「王」がそのような行動に出たかは分からない。だが兎にも角にも「王」はある日突然、一部を除いた他の怪獣を殺して回った。

 "おまえから邪念を感じる"とだけ言って。

 そして、その粛清は「王」の同族にまで及んだが、人間にはこの事を知る由はなかった。

 

 そして………

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