単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#2

 ………西暦2018年。

 文明崩壊の1年前。南海の孤島「トレンディ島」にある防衛軍が保有する研究施設にて、この物語は始まる。

 そこは第二次大戦時に旧日本軍が拠点としていた場所であり、その後も誰も寄り付かず無人島のままであり、そこに防衛軍が研究施設を設立した。

 扱っているモノがモノのため、軍の研究施設としては民間人に被害が出ないという意味では最高の立地だった。

 

「貴様どういう事だ!?何故"ジゴラ"は動かん!?」

 

 してここは、研究施設の第三研究室。

 まるで巨大ロボットか何かの格納庫のような場所で、この施設の設立者である「鏑木剛(カブラギ・タケシ)」が怒号を上げている。

 陸自出身という事もあってか、髭面にサングラスに軍服という典型的な「鬼軍曹」の見た目であるが、防衛軍内における階級は大将。

 防衛軍日本支部の総司令官であり、国内において抗戦派と呼ばれる怪獣に対して徹底抗戦を掲げる思想を扇動している極右軍人でもある。

 

「理論上は完璧なんです!ただ、脳波増幅機能に問題がありまして………」

「………もうちょいわかり易く言ってくれ」

「肉体は完璧なんですが魂が無いんです、仏作って魂入れずと言いますか………」

「じゃかあしい!!そんなもん気合でどうにかせい!!貴様それでも日本男児かァ!!」

「がへあっ!!」

 

 鏑木は自分で質問したにも関わらず、望む答えが得られないと知るや否や研究員を殴り飛ばした。

 元より傍若無人なパワハラ上司である鏑木だが、単純に権力を傘に暴力を振るいたいというよりは、焦りからの八つ当たりがこの拳の理由である。

 

「"ジゴラ"が………"我々のゴジラ"が完成すれば、怪獣ごとき………!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で鏑木が見上げる先にあったのは、50mもある巨大な怪獣。その頭。

 背中から伸びたチューブは研究室の天井から絶えず栄養と電気信号を送り、いきなり暴れ出さないように下半身を床下に格納し、研究室に露出した上半身にも拘束具が着けられている。

 まるでパッチワークがごとく様々な部位を繋ぎ合わせた姿は、さながらフランケンシュタインの怪物のよう。

 だが、そんな歪な姿ながらも同一の種族を繋ぎ合わせただけあってか、シルエット自体はおおよその「それ」………大いなる怪獣王「ゴジラ」そのものであった。

 

 ………………事の発端は2017年にまで遡る。

 当時より防衛軍内では、2014年に現れた怪獣王・ゴジラを撃滅するための、部署間による様々な戦略、兵器の開発競争が激化していた。

 そんな折、小笠原諸島沖で突如として深海が隆起し「ゴジラの墓場」とでも言うべきおびただしい数のゴジラの死体が発見された。

 鏑木はそれに目をつけた。

 発見された死体の内、個体ごとの優れた部分をツギハギにし、足りない部分は2016年の個体(シン・ゴジラ)の細胞片を使用して補強し、電流で細胞を活性化させて蘇生。

 モナークで研究しているという怪獣のエコロケーションに干渉する「ある機械」の技術を応用する事で、脳に埋め込んだ制御チップを使って意のままに操る事ができる「自分達のためのゴジラ」を作る計画が立ち上がった。

 その計画は、旧軍を神聖視する鏑木の価値観により、かつて旧日本軍が極秘裏に進めていた人造兵士「ジンラ号」から取って「ジゴラ計画」と名付けられ、研究が進められた人造ゴジラにも「ジゴラ」の名が与えられる事になった。

 ジゴラ、つまりはフランケンシュタインの怪物ならぬフランケンシュタインのゴジラを作る、狂気と冒涜の計画である。

 

「モナークが例の装置を提供してくれない以上、こいつはただのデカい脳死死体なんです!どうしようもありません!」

「ならそれをどうにかするのが貴様らの仕事だろうが!?!?この腑抜けどもめ!!」

 

 しかし、防衛軍………というか鏑木剛一派は、モナークが怪獣の研究をしているというだけで、志が自分達と同じ怪獣の打倒であると勘違いしていた。

 モナークは長年の研究の結果「巨神(taitan)は何をやっても倒せないし止められない」「むしろ巨神(taitan)が目覚めたのは地球規模の自然破壊を行う文明人共に制裁を加えるためだ」という考えに至る者が多くを占めており、このような怪獣こそが正しく悪いのは人間であるという思想は「共存派」と呼ばれる。

 そんなモナークがフランケンシュタインのゴジラを作ろうというジゴラ計画に賛同するハズもなく、装置の提供を拒否。

 肉体(ハードウェア)が完成したまではよかったものの、寸前の所でジゴラ計画は行き詰まってしまったのだ。

 

「第一貴様らは気合が足りんのだ!このジゴラにはこの鏑木の立場がかかっていると言うのに!クソッ!雁夜(カリヤ)のメカゴジラには負けられんのだ!!」

 

 そして上記の通り対ゴジラ戦力の開発はジゴラだけではなく、このままでは他部署に出し抜かれ、自身の立場も危うくなる。

 防衛軍内の自身の立場という個人的欲望と、それにより自国たる日本の存在を世に知らしめ、ゆくゆくはジゴラを使って列強を叩き潰すという歪んだ愛国心のためにも、鏑木はどうしてもジゴラ計画を成功させたいと思っていた。

 

「おのれェ!こうなれば………むうんっ!!!」

「ファッ!?!?」

 

 研究員が面食らったのも無理はない。

 事が思い通りにいかず、顔を茹でダコのように赤くして怒りに震える鏑木が取った手段。それはなんと、全身に纏う軍服を脱ぎ捨てて全裸になる事であった!

 上半身裸だのパンツ一丁だのではなく、文字通りの全裸。シモのイチモツも晒した完全なる中年の全裸である!

 

 呆然とする新人職員、ああまたかと頭を抱える先ほど殴られていた研究員、キャアア!!と悲鳴を上げる女性職員を尻目に、鏑木は悠々とジゴラの前に躍り出て、そのまあまあ筋肉質であるもののブヨブヨに弛んだ中年の裸体を………アッチの人の専門用語で言う所の、本来の意味での「ガチムチ」と呼ばれる身体を見せつける。

 

「グハハハハ!ジゴラよ見よ!!この鏑木の肢体を!!現代に降臨したミケランジェロの彫刻がごとき、そう!シン・ダビデとも言うべき神の力が宿る、日本という国を象徴する全裸を!!さあ!貴様も我が肉体美を見れば、その雄々しき日本男児の魂を前に目を覚ますだろう!!グハハハハッ!!」

 

 ………そもそもこの鏑木剛という男であるが、ナルシストの気があるという事は防衛軍内においても周知の事実である。

 しかしながら自身の裸を見せつければジゴラが目を覚ますなど、まるで自らの肉体美に神通力が宿っているかのような考えは、この場の研究員達から見てもナルシストを通り越して人格破綻者の類にしか見えなかった。

 

「ジゴラよ!!この鏑木剛の美しき舞と祝詞を受け取るがいい!!そしてシン・大日本帝国の栄光のために目覚めるのだ!!ウーッ!!ハァーッ!!ナンマイダーホーレンソー!!ナンマイダードクダミソー!!アーメンソーメン!!タンタンメン!!アーメンラーメン!!チャーシューメン!!」

 

 おそらく、祝詞と言う所を見るに鏑木にとってはこれは、神道の何らかの儀式のつもりなのだろう。

 しかしその見るに堪えないぎこちない舞いも、ドラ声で放たれる滅茶苦茶な内容の祝詞も、いくらジゴラが目覚めないからと儀式をするという素っ頓狂な行動も、それを権力と暴力によるパワーハラスメントで押し通す鏑木自身も、施設の研究員達に極度の心労と「何でこんな人格破綻者が防衛軍の重役になれてるんだろう………」という疑問を与えるだけだった。

 

「………転職しようかな」

 

 先程鏑木に殴り飛ばされた研究員は、頭を抱えながら鏑木本人に聞こえないように吐き捨てた。

 

 

 ***

 

 

 ………ある所に、一人の少年がいた。

 日本の片隅にある町で生まれたその少年は、おおよそどこにでもいるような平凡な少年だった。

 人並みの善意と、人並みの欲望と、人並みの夢を持って青春を謳歌する、学園ラブコメなら主役を張れそうな善良な少年だった。

 しかし、この物語は怪獣映画だった。

 少年は原発を破壊すべく上陸した「王」により、家族、友人、幼馴染もろとも叩き潰された。

 大いなる巨神(taitan)こそが中心のこの世界において、少年一人の命も人生も、取るに足らない虫ケラに過ぎなかった。

 

 あれから、どれだけの時間が流れただろう。

 

 放射能に満ちた大波にのみ込まれ、ズタズタに引き裂かれて死んだ少年は、今も海を漂っていた。

 肉体を失った後も、たった一人で海を彷徨い続けた。

 何度も、何度も、身体を引き裂かれる痛みと恐怖の中、自分の名前すら忘れ、成仏できないままに長い時間を過ごしていた。

 

 そして長い苦しみの中、海は色々な情報(もの)を運んできた。

 その「王」が原発を襲ったというニュースは、人々の間に反原発の思想を強化し、日本中で市民団体による原発廃止デモを加速させていた。

 そう、「王」こそ自然を破壊する愚かな文明への警鐘であり、死んでいった人々は大自然の怒りを思い知らせるために、原発を無くすために犠牲になったのだと。

 そんな意見が日本に溢れていると。

 

 少年は納得しようとした。

 いや、しなければならないと思った。

 これは大自然の大いなるうねりであり、人一人の命など取るに足らないものなのだと。

 怒っても仕方ない。自然とは、そういうものなのだと。

 

 ………ここで全てを受け入れていれば、少年の魂は海原へと溶けて還っていけただろう。

 

 しかし、少年が眠るように意識を手放そうとしたその時、何か強いマイナスの力が少年の意識を呼び覚ました。

 少年は恐怖しつつもまるで引き寄せられるかのように、その強い力に近付いた。

 

 そこには「王」がいた。

 

 いや厳密には違う。単に同じ名前で呼ばれているだけの同族、その亡骸を組み合わせた死体人形だった。

 そこに魂など既になかった。ただ、その死体人形に染み付いた怒りと恐怖、そして強い怨念により形作られた強力な邪念………いや最早「呪怨」とでも言うべきそれは、ヘドロのようにベッタリとその死体人形に張り付いていた。

 

 その呪怨に触れた瞬間、少年の中に死体人形の持つ「記憶」が雪崩込んできた。

 そこに見えたのは、死体の主達の死の瞬間の記憶。突如現れた殺戮者により、女や子供さえも次々と殺されてゆく。首を引き千切られ、胸を踏みつぶされ、青白い炎により焼き尽くされ………

 

 して、恐るべき虐殺の記憶の中に見えた殺戮者。何の因果か、それは少年から全てを奪った「王」そのものだった。

 

 

「………ああなんだ、こいつらもゴジラ(あいつ)に殺されたのか」

 

 呪怨と魂が同調し、消えかかっていた少年の意識は核爆発のように強く燃え上がった。

 燃料は怒り、起爆剤は憎悪。

 既に朧げな記憶になっていたものの、やりたい事も将来の夢もあったのだと少年は思い出した。それを「王」が無慈悲に奪っていった事も。

 それを、何もかもを奪われて己の死すらも下らないイデオロギーに利用されるという尊厳への侮辱を、大自然の一言で納得できるなど、とても出来なかった。

 

「邪念?自然環境?巨神?はは、ははははは……………

 

 

 

 

 

 …………そんな理由で殺されてたまるかァ!!!」

 

 

 かくして死体人形(ジゴラ)という乗り物は、魂という運転手を得て、ここに呪怨の共鳴という燃料は注がれた。

 ならば後は、キーを回して発進するだけだ。

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