単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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バトルモスラの華麗なる覚醒〜バトラ対因習村〜
#1


 ………むかし、むかし。

 この世界には高度な文明を築いた旧人類がいました。

 

 彼らは醜く、欲望の赴くままに大きな町や高い塔を築き上げましたが、その邪念に満ちた心は満たされることがありませんでした。

 更に彼らは、その欲望のままに争いました。

 国と国とが衝突し、武器を手にした方々が互いを滅ぼそうと戦争を繰り広げました。

 空は黒煙に覆われ、大地は血で染まり、自然は泣き叫ぶばかりでございました。

 しかし、彼らはそれに気付かず、己の欲望を満たす事ばかりを追い求めていました。

 それが、どれだけ愚かな行動かも気づかずに。

 

 やがて、そのような愚かな行いに怒り立ち上がったのが、大自然の化身たる巨神(taitan)たちでした。

 彼らは巨大な姿を現し、大地を揺らし、海を裂き、咆哮とともに旧人類に鉄槌を下しました。

 巨神(taitan)の炎は町を焼き尽くし、自然を汚した者たちに裁きを下しました。

 旧人類は自分たちが築かれた文明ごと、巨神(taitan )たちの大いなる力に飲み込まれ、醜い欲望とともに滅び去りました。

 

 文明は崩壊し、わずかに生き残った私達の祖先は、ゼロからの再出発をする事になりました。

 森に寄り添い、川を清め、争いのない世界を目指して、新たな一歩を踏み出したのです。

 そして、巨神は深き眠りにつきました。

 しかし再び世界に邪念が満ちる時があれば、その大いなる力を振るう事でしょう。

 

 めでたしめでたし………

 

 

 ***

 

 

「モスラよモスラ、今こそ新たな命を受け生まれいでよ」

 

 神殿に安置された卵の中で「それ」は生を受ける瞬間を待っていた。

 生まれる前から「それ」は「母親」から自らの使命を聞かされていた。

 大自然の化身、光の守護者という巨神(taitan)の使命を。

 共に生命を受けた「妹」と共に、偉大な王に仕えるという女王(Queen)の誉れを。

 

「モスラよモスラ、悲しき下僕の祈りに応えて、今こそ蘇れ、モスラよ」

 

 外界の光が見えていた。光の向こうから人々の祈りの歌が聞こえる。

「それ」は共に命を受けた「妹」と、自分達を覆う生体の膜をゆっくりと破り、その巨体を起こした。

「母親」から聞かされたように、外で祈りを捧げている人々の想いに応えるために。

 

 ………ぶち、ぶちぶち

 ぶちぃ

 

「それ」を覆っていた膜が、上体を起こすと同時にゆっくりと破れる。

 初めて外界の空気を味わった「それ」は、ひんやりとした気温に少し震えた次に、目を開いてまばゆい光に目を細めた。

 初めて見た外界は、テレパシーで感じていた通りの場所だった。

 そしてここは「それ」を祀るための地下の寺院で、古代のアジアに見られる建築様式の石造りの中で、「それ」を崇める人達が周りを囲んで生誕の時を待っていた。

 ………銃を持っている兵隊が数名いたが、母親から「そういう事もある」と事前に聞いていた為、特に取り乱す様子はなかった。

 

「モスラよモス………えっ?」

 

 しかし、「それ」は周囲の様子のおかしさに気付いた。

 自身を奉り、生誕を祝うとされていた人々は自身の姿を見て、畏怖とも困惑とも取れる表情を浮かべている。

 

「双子………!」

「いや、双子もそうだが………」

「これがモスラなのか………?」

「まるで悪魔だ、これがモスラだと………!?」

 

 ざわざわと騒ぐ声はどんどん大きくなる。

 大勢の人々が何を話しているか聞き取れるほど「それ」は器用ではなかった。だが場の空気と伝わってくる感情は、少なくとも人々が「それ」の誕生を祝福してくれている訳ではないという事は解った。

「それ」はだんだん怖くなってきて、助けを求めるように遅れて立ち上がってきた「妹」に目をやった。

 

 ………ピキュウ………?

『………お姉ちゃん………?』

 

 しかしその「妹」………一言で言うなら"立ち上がった鱗翅目の幼虫(イモムシ)"でありながら、マリア像のような神々しさを感じる穏やかな巨神(taitan)ですら、共に生まれてそれまでもテレパシーでずっと側にいた実の姉の姿をまるで信じられないような物を見る目で見ていた。

 

 ………そして、「それ」は見た。

 青くキラキラ輝く妹の複眼に反射して写った、自らの姿。

 

 同じ姉妹だとはとても思えぬ。

 同じ卵から生まれたとはとても信じられぬ。

 穏やかで優しい、マリア像のようなシルエットを持つ「妹」とは似ても似つかぬ。

 

 刺々しい身体、血のように赤い目、悪鬼のようなツノ。

 

 かろうじて身体の造りは母や妹と共通していたが、その外見は鱗翅目の幼虫と言うよりかは、ムカデとクワガタを混ぜ合わせたかのような外見と、それを彩る黒と黄色の警戒色。

 

 ………「毒虫」。そんな単語が、「それ」の脳裏に過った。

 

 

 「こんなのモスラなんかじゃない!!」

 

 

 誰かの声が飛んだ。

 次の瞬間、事実を飲み込めない「それ」に向けて、兵士の一人が引き金を引いた。

 それが引き金となり、兵士達は「それ」に銃弾の雨を降らせた。

 

 

 ***

 

 

「………ああクソ、なんて夢だい」

 

 彼女は寝袋の中からモソモソと這い出てくる。

 寝袋は、酷く寒く乾燥した荒野の夜から彼女を守ってくれた。旧防衛軍の備品だからだ。

 側に留めたサイドカーは荒野の厳しい旅を安全に進めてくれた。旧防衛軍の備品だからだ。

 

【挿絵表示】

 

「うん、ん、んー…………あーっ、よく寝た」

 

 これまた旧防衛軍の備品から拝借したジャケットとズボンに包まれた褐色の身体は、平均と比べればやや筋肉質ではある。が、美女に十分分類できる見た目をしていた。

 カラコンが入ったかのような赤い目と、片方を刈り上げて金のメッシュを入れた短い髪は、まるでハードなロックバンドのよう。

 全体的に治安が悪く、異性よりも同性にモテる(マブ)い女。そんな感じだ。

 人種はアジア人、特に日本人に近く見えた。90年代から2000年代にグラビアか歌手で活躍していそうにも見える。

 

「………しっかしまあ、ランデブーポイントは遥か遠く。戻りゃそうでもないがあのクソッタレの王に勘付かれたら困るねえ………」

 

 野宿で固まった体を背伸びでパキパキと鳴らしながら、サイドカーについたカーナビで現在地を確認。

 かろうじて残った人工衛星とリンクして割り出した場所は、サイドカーを使ってもまあまあかかる距離にある。

 そこに向かうのが彼女の目的。

 

 ………「本来の姿」に戻ればそうでもないのだが。

 

「………行くか」

 

 しかしそれでも行くしかない。

 彼女はサイドカーのエンジンをドルルと回し、かつての文明の残穢たる荒れた道路を駆けてゆく。

 地平線を照らす朝焼けが、女の一人旅を見送った。

 

 

 ***

 

 

 ………家の中が酷く荒れていた。

 ただその少年は、自らの身体に起きた事が病気ではないかと思い、母親に相談しただけである。

 しかし、母親は何が起きたかを聞いた途端、瞬間湯沸かし器がごとく顔を真っ赤にして叫び散らし、手元にあるものを片っ端から投げてきた。

 

「この強姦魔!痴漢!不倫野郎!あんたなんか女の敵!息子なんかじゃない!消えろ!死ね!自殺しろ!死ねええ!!」

 

 重ねていうが、少年は自身の肉体に起きた異変を母親に尋ねただけである。

 家庭と向き合わず命をかける楽な道に逃げたという父親もすでに他界し、場所が場所のためにデリケートな問題になってしまった為に母親に頼るしかなかった。

 

「もう消えて!!出てって!!あんたなんかいらない!!産むんじゃなかった!!あああああ!!やだあああ!!無理無理無理無理ぃ!!あああ!!」

 

 その結果がこれである。

 ついに包丁さえ振り上げた母親を前に、少年は逃げるように家を飛び出した。

 

「あうっ!」

 

 つまずき転倒し、家の前の芝生に顔をぶつける。

 鼻にジンジンとした痛みを感じる少年の後ろで、ガチャン!と無慈悲にも扉の鍵が閉まる音がした。

 締め出されたのだ。

 

「う………う………」

 

 朝身体に異変が起き、恐怖しながら母親に尋ねると発狂され、ついには朝食も食べられないまま家を叩き出される。

 母親がこうなる事は珍しくなかったが、少年は不安に支配されて周囲を見渡す。

 まだ太陽は昇っておらず、辺りは夜中のように暗い。

 いつも見慣れた近所の光景が、少年にはまるで陸も見えない海のど真ん中ように見えた。

 

「………どうしよう」

 

 少年が心配したのは、これからの事だ。

 母親の憤慨(ヒステリー)ぶりからして、家に入れてくれるとは思えなかった。

 誰かに頼ろうにも誰も助けてくれない事は目に見えていた。

 

「………お腹すいた」

 

 それに何より、朝食を食べ損ねたために空腹だった。

 母親にねだるなど当然できなかったし、他所の畑から盗むなど論外である。

 

 ………そこで浮かんだのが、「里」の外。自然溢れる里の外の、未だビルや文明の遺産が眠る廃墟の街に出る事。

 食べられる野草が自生している事は昔に探検して知っていたし、運が良ければ小型怪獣の死骸や旧文明のカンヅメ辺りが見つかるかも知れないとも思った。

 

「でも………里の外かあ」

 

 大人達は口を酸っぱくして「旧人類の遺産に触れてはいけない、あれには邪念が満ちている」だとか「醜い邪念を持つ者は里の外に潜んでいる旧人類の生き残りに連れて行かれる」だとか、子供を叱る際の常套句にしていた。

 ので、少年も「里」の外に行く事が、上手く自分を納得できる理由が浮かばないものの「なんとなく駄目」で「それが常識」である事はわかっていた。

 

「怖いけど………けど………」

 

 しかし少年にとって背に腹は代えられないのもまた事実。

 家から叩き出された、つまり生活基盤のほとんどを没収された子供にとって優先すべきは生きるか死ぬか。

 世間の目だとか、怖いとか、常識だとか、無視できない事はいくつもある。

 

「………行くか」

 

 しかしそれでも行くしかない。

 彼は意を決して大地に踏み出し、再生しつつある自然が生み出したたる青々とした芝生を駆けてゆく。

 地平線を照らす朝焼けが、少年の一人旅を見送った。

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