単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#3

「ウーッ!!ハァーッ!!ナンマイダーホーレンソー!!ナンマイダードクダミソー!!アーメンソーメン!!タンタンメン!!アーメンラーメン!!チャーシューメン!!」

 

 鏑木の謎の神事という名のどんちゃん騒ぎが始まって、実は五分しか過ぎていない。

 しかしこの場にいる職員達にとっては千年より長い五分だった。

 付き合ってられないからと勝手に帰れば後から鏑木に見つかり「その根性を叩き直してやる!」と軍人精神注入棒で顔が変形するまで殴られるのだ。

 職員達はただ黙って耐えるしかなかった。

 

「………んっ?えっ、ええっ!?」

 

 だがその時、ジゴラのバイタル値を監視していた女性研究員が計器の異常に気付いた。

 

「どうした?」

「主任、見てください!ジゴラの心臓が動いています!」

「そんな馬鹿な?!何をしても動かなかったのに………」

 

 不動のまま眠っていたジゴラの心臓が活性化していた。

 それに合わせ、脳神経、運動神経、内臓が次々と覚醒してゆく。

 まるで乾いた大地に水が染み込むがごとく、物言わぬ死体人形だったジゴラに生命が満ち溢れてゆくのがまずは画面上のデータとして見えた。

 

「見てください!ジゴラが………!」

「すごい………まるで進化だ!」

 

 次に、異変は目に見えて現れた。

 ジゴラの身体が震えたかと思うと、文字通りのツギハギだった身体はグニャグニャと不気味に蠢き、ワニのそれを思わせる緑色の鱗の体表へと変化し、背中の背びれは小さく変わり、精気のない白い半開きの眼には真っ赤な瞳が輝く。

 

【挿絵表示】

 

 肉体が、内部構造が、急速に造り替えられてゆく。その様はまるで、生物の進化図を早回しに見ているようでもあった。

 

「ウーッ!!ハァーッ!!ナンマイダーホーレンソー!!ナンマイダードクダミソー!!アーメンソーメン!!タンタンメン!!アーメンラーメン!!チャーシューメン!!」

 

 そんな事にも気付かず謎の神事(きこう)を続ける鏑木。

 しかし周囲の緊迫した雰囲気を見ると、流石にそれが自分の舞に見とれているからではない事は、極度のナルシストである鏑木にも解った。同時に、彼らの視線が自身の後ろを向いている事にも。

 

「アーメンソーメン………ん?どうした貴様ら………んんっ!?お、おおおおーーーっ!?!?」

 

 鏑木が振り向くと、すっかり姿の変わったジゴラの上半身、その頭からグルルと鼻息が漏れ、真っ赤な瞳でこちらをじっと見つめている様が見えた。

 ジゴラは目覚め、心臓が動き脳が起動し、生命活動を開始していた。死体人形に命が宿った瞬間だった。

 

 ………して、状況を見るに鏑木のあの奇妙な舞と無茶苦茶な祝詞により、ジゴラに神通力が通じて覚醒したとも取れるような状況である。

 ので、当然であるが鏑木は大いに調子に乗り、汚い笑い声を上げて喜びを表現した。

 

「グハハハハハッ!!見よどうだ!!このシン・ダビデ120%とでも言うべき鏑木剛の肉体にはまさに神通力が宿っているのだ!!さあジゴラよ!!この鏑木の全裸をしかと見るがいい!!この裸を!!このイチモツを!!グハハハハハ!!」

 

 自身の都合で動く"我々のゴジラ"ことジゴラの目覚めを前に歓喜の絶頂に至り、自身の股のイチモツをビタンビタンと左右させる鏑木は気付かなかった。

 ジゴラは拘束されてはいたものの、自由に動かせた右腕を振り上げていた事を。

 そして。

 

 ………ギャエエェン!!(ばっちいモン見せんな!)

 

 ビッタァン!!と、ジゴラはハエを払いのけるように鏑木を叩き飛ばした。鏑木は悲鳴を上げる間もなく宙を舞い、研究室の壁にこれまたビッタァン!!と叩きつけられ、伸びたヒキガエルのように壁に張り付き気を失った。

 ………これでも死なない上に、グモッチュイーンな肉塊にすら鳴らず原型を留めている辺り、鏑木も軍人であり鍛えている事が伺えた。

 しかし、研究員達にとって重要なのはそんな事ではない。

 

「総員退避!繰り返す!!総員退避!!」

「ジゴラはコントロールを受け付けません!!総員退避ぃッ!!」

 

 ………そも先も話した通り、モナークは件の装置(ORCA)の提供を拒んでおり、ここにはジゴラに命令を飛ばす手段はない。

 だがジゴラは動き、鏑木を叩き飛ばした。

 それはジゴラが明確な自分の意思を持ち自立して活動している証拠であり、同時にそれは「施設内に生きたゴジラが一体いる」という状況と変わらない。

 

 ギャエェェーーーン!!

 

 下半身の埋まった穴から這い出て、拘束具を破壊したジゴラは、ついに自由の身となった。

 そして狭い研究室内を破壊しながら外に出ようとしている。ジゴラの頭が天井を破壊し、瓦礫が降り注ぐ中研究員達は無我夢中で逃げ惑う。

 

「あの主任………"これ"どうしましょう」

「………これでも防衛軍日本支部司令官だ、気は進まないが連れて行こう」

 

 ………奇行と痴態の果てに気を失ったままの鏑木も、ついでに救出して。

 

 ギャエェェーーーン!!

 

 ジゴラが狭い研究室で暴れる度に、研究員の頭上から破壊された壁や天井が降り注ぐ。

 主任………鏑木に殴られた研究員は、その状況を見て施設の責任者としての決断を迫られた。

 

「仕方ない、ジェットカノンを出せ!ヤツを生かしてこの島から出すな!!」

 

 主任としても、手塩にかけて作り上げて完成したジゴラを失いたくはない。

 しかしそれが制御不可能な実質的な"ゴジラ"である場合は、仮にも防衛軍の一員として責任を果たさなくてはならない。

 

「ジェットカノンでやれますかね………?」

「駄目だった時には施設は廃棄、総員退却だ」

 

 最も、相手が死体の寄せ集めとはいえ"ゴジラ"である以上、できるかどうかは別問題であるが。

 

 

 ***

 

 

 真夜中のトレンディ島。緊急事態を知らせるサイレンとサーチライトが飛ぶ中、施設の壁を突き破りついにジゴラは地上へと現れた。

 

『あ、ああ………俺は、俺は………』

 

 ジゴラ………もとい、理不尽な死への怒りと強い生への執着でジゴラという新たな生命を得た少年であるが、少し落ち着くと同時に燃え上がるような怒りは混乱へと変わっていった。

 見下ろす手は見知った肌色ではなく緑色の爬虫類のそれであり、腰からは尻尾の物であろう奇妙な感覚が伸び、まるで足が3本あるような錯覚を与えた。

 

『俺は………怪獣になったのか………!?』

 

 よく、異世界転生を果たした物語の主人公がゴブリンやスライムになってしまったというのは王道パターンであるが、皆早いことその状況を飲み込んでいた。

 しかし、やはりそこはフィクションだ。

 もはや思い出せない事が多いとはいえ、元は人間である自分が怪獣になってしまった。ジゴラはそんな状況を簡単には飲み込めない、飲み込めるわけがない。

 

『ジェットカノン発進!繰り返す、ジェットカノン発進!』

 

 しかし、時はジゴラに状況を飲み込む時間を与えてはくれなかった。

 ジゴラの眼前。おそらく飛行機が降り立つ滑走路らしき場所の一角がせり上がり、巨大な影が現れる。

 

 般若とプロレスラーを混ぜたような特徴的な頭部と、装甲を組み合わせた重機のような四肢。

 明らかな人の形をしたその機械は、真っ赤な機体カラーと右肩から伸びた一門の大砲を背負っている様から、某ロボットアニメに登場する中距離支援型モビルスーツを連想させる姿をしていた。あちらは二問だが。

 

 名を「ジェットカノン」。

 日本のオオタキ重工が自衛隊と協力して災害救助用に開発した人型巨大重機・ジェットジャガー………を対怪獣戦力として改造したもので、50mと他機と比べると小型ではあるが対怪獣ロボット兵機(イェーガー)に分類されている。

 従来の重機と違うのは、パイロットを必要としない無線遠隔操作(ラジコン)方式を採用している事。

 本来はトレンディ島が他怪獣の襲撃を受けた際の自衛戦力として配備されていたものだが、研究結果であるジゴラの撃滅のため出撃する羽目になってしまった。

 

『ジェットカノン、目標を制圧します!』

 

 そんなジェットカノンの背部のキャノン砲がガション、と前を向き、オペレーターがバイザー内の高感度カメラを使い目標をロックオンする。

 ターゲットは勿論ジゴラ。そして一秒ともかからぬエネルギー充填により、砲身からピャアアアア!という発射音と共にメーサー光線が照射された!

 

 ギャエエエン!!

 

 メーサーがジゴラの体表を焼き、白い煙と火花が上がる。強烈な痛みを感じたジゴラは、甲高い悲鳴のような咆哮を上げた。

 メーサーの勝者は数秒続き、やがて停止。ジェットカノンの背中のダクトからブシュウと排熱による蒸気が噴出された。

 

 グルル………グ?

『痛いけど………耐えた?』

 

 しかし、ジゴラは体表に僅かな火傷は負ったものの、メーサー砲はジゴラの生命を奪うまでには至らなかった。

 それ所か、ジゴラの火傷もじわじわと再生し、元通りになる。当然痛みも残らない。

 驚異の再生能力!これが体内に流れるG細胞のによる物である事は言うまでもない。

 

『なんてヤツだ!カメーバの甲羅を貫くメーサーだぞ!?』

『だったら格闘戦だ!行けええっ!!』

 

 メーサー砲は冷却のため使えない。ならばと、ジェットカノンはタックルの構えを取って突っ込んでくる。

 ガシャンガシャンと地面を揺らしながら迫る相手に、ジゴラは微動だにせず、ただ睨みつける。

 それはジゴラ自身にも勝算があったから。

 

『こいつがゴジラの身体なら………使えるハズだ!』

 

 ジゴラ意識を集中すると、身体に流れるゴジラ細胞が教えてくれた。

 それに従うと、ジゴラの腰から頭にかけて並ぶ背びれをエネルギーが走り、それは緑色の光となって現れる。

 

『喰らえェーーッ!!』

 ギャエエェーーーーン!!

 

 ぼううっ!!と口から放たれる緑色の火炎の噴射!

 これは、ゴジラのゴジラたる証、放射熱線…………ではなく「ガンマブレス」だ。放射線の一種であるガンマ線を含んだ破壊の炎で、敵対する相手を焼き尽くす。

 ………の、だが。

 

『わああっ!』

『これがジゴラの熱線かっ!?』

 

 ジゴラは一撃でジェットカノンを粉砕する威力を期待していたが、実際は向かってきたジェットカノンを押し戻すに留まった。

 ………それでもジェットカノンの内部構造にある程度のダメージを与えている辺り、決して威力がないわけではないのだが。

 

『火力が足りないか………なら!』

 ギャエエェーーーーン!!

 

 しかしジェットカノンは少しであるが怯んだ。システムエラーにより生じた一瞬の隙をつき、ジゴラはジェットカノンに距離を詰める。

 

 ギャエエン!

 

 ばごんっ!とジゴラの尻尾の先端。トゲがいくつも生えたハンマーが、ジェットカノンの重装甲のボディに叩きつけられ、破壊し、ジェットカノンは倒れる。名は体を表すその武器の名は「テールハンマー」だ!

 

『まだまだああ!!』

 ギャエエェーーーーン!!

 

 ジェットカノンが倒れ、えぐれた装甲から内部機関が露出している。

 ジゴラはその隙を見逃さず、ジェットカノンを踏みつけて押さえつける。

 そして破損部分めがけて再びガンマブレスを発射!その破壊の炎はジェットカノンの内部を焼き尽くしどごぉん!!と大爆発を起こした。

 勝利を収めたのはジゴラだった。

 

 

 研究員は避難のために乗り込んだ船に揺られながら、遠目に見える自分の研究所が破壊され、炎に包まれる様をただただ見つめるしか無かった。

 闇夜(のトレンディ島を照らす炎の中に、ゴジラのそれに似たジゴラの咆哮が木霊している。

 

「自覚はあったが………我々はとんでもないものを生み出したんだ」

 

 今後、ジゴラが振りまく破壊と殺戮の責任は自身にあると思うと、彼は胸が苦しくなった。

 今なお医務室で眠りこけている上官殿(タケシ)は責任など取らぬという事は、分かっていたから。

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