単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#6

 怪獣同士が戦う事など人間時代の認識では珍しくなかったし、ジゴラになってから何度も命を狙われたのも「そういう事」だとばかり思っていた。

 しかしジゴラはここ最近、自分を狙ってくる怪獣達について、ある程度気付いた事があった。

 それは………

 

 

 ギィィーエッ!ギィエッ!

 

 海をかき分け波をはね返しながら進む巨大な岩山。

 いや、岩山ではない。それには手があり、足があり、尻尾と伸縮する頭があった。マタマタガメと呼ばれる絶滅種の古代亀を起源に持つその怪獣の名は「カメーバ」。

 しかもこの個体は100mクラスに巨大化した突然変異の大型個体。そんなカメーバが狙うはただ一つ。怪獣災害により家を失った避難民を乗せた船である。

 

「くそっ!こんな時まで怪獣かよ!」

「援護の艦隊は!?」

「だめだ、やられてる!」

 

 自身を守る軍の艦隊は既に片付けられ、身を守らぬ手段を持たぬ船は、このままではカメーバに沈められ海の藻屑と消える。

 徐々に迫ってくる変異により牙の生えた顎を前に、船員は死を覚悟し、乗っている避難民達は恐怖のあまり泣き叫ぶ。

 その時。

 

 ギャエエエエーーーン!!

 ギエェ!?

 

 突如、船に飛びかかろうとしたカメーバを海中から飛び出した別の巨影が襲った。

 飛沫の中に見えたのは、恐竜のような姿、ワニのような顎、それはまさに王道の怪獣。

 

「ゴジラ………!?」

「助けてくれたのか?!」

 

 防衛軍がその存在を伏せているため船員たちが知らないのは当然だが、これはゴジラではない。ジゴラだ。

 唖然とする船員たちを他所に、二体の怪獣は海上でもみ合いになりながら海の底へと消えてゆく………

 

 そして、カメーバとゴジラは海底に降り立ち、土煙が舞い上がった。 

 して、ジゴラが"怪獣に襲われている人間を助ける"という怪獣が取る行動としては、やはり彼が元人間が故の同族意識と、無駄な殺しが許せないという人並みの善意によるものだろう。

 

『貴様………よく見れば噂のジゴラか!?』

 

 そしてジゴラの思惑通り、深海で睨み合うカメーバの興味は避難民からこちらに向いた。

 そりゃそうだ、カメーバのような怪獣の一番の目的が自分である事は、これまでの経験でジゴラも学習している。

 

『俺は貴様を倒す!そして………!』

 

 カメーバが海底の岩を蹴り、水かきで加速しながらジゴラに向けて突進する。

 さながら、巨大な岩山が走ってくるような光景である。

 

『生き残るんだぁあーーっ!!』

 ギィエエエーーーーッ!!

 

 どごぉん!!

 カメーバの頑強な甲羅を使った体当たりは、ジゴラの巨体で受け止めたにも関わらず、逆にジゴラを前へと押していった。

 

『死ねジゴラ!お前が死ねば俺は「王」に認められる!そうすれば、粛清されずに済むんだ!』

『へえそうかい、大した恐怖政治だこって!』

 

 その間にもジゴラは背鰭に光を走らせてエネルギーを溜めてゆく。

 ………ガンマブレスの弱点は、やはりオリジナルゴジラの放射熱線と比較した時の威力の低さだろう。攻撃範囲は広いが、これではカメーバの装甲は破れない。

 が、その対抗案は既にある。

 一回、二回、三回とエネルギーを充電しジゴラが口を大きく開ける。

 

 ぼんっ 

 ギィィーエッ!?ギィエッ?!

 

 

 至近距離からカメーバ向けて放たれたのは、リング状の緑色の光。

 

 ………その熱線は「ガンマリング」と言う。

 ガンマブレスが拡散と射程距離に特化した連続放射型(いわゆるゲロビ)である一方で、ガンマリングはエネルギーを収縮させて放つ貫通力と破壊力に特化させた単発型。

 某古代の守護神のプラズマ火球のような絵面なら多少は格好もついたが、絵面が皆様の知る所のミニラのアレなので少々締まらないのは御愛嬌。

 

 しかしながら威力は申し分なく、それはカメーバの甲羅を粉砕し、爆発。

 苦しむカメーバ向けジゴラは手を休める事なく、今度はそこにガンマブレスを叩き込む。そう、いくら頑強な甲羅とはいえ、内部まではまもれない!

 

 ギィエエエェーーッ?!!?

 

 カメーバは内側からガンマ線の炎で焼き尽くされ、やがてグズグズに死んだ組織が崩れ落ち、そのまま死んだ。

 後に残ったのは、皮肉にも自身の象徴たる岩山のような甲羅のみ。それ以外は、後には何も残らない。

 

 

 ………人類の歴史においては、2010年代後半は怪獣による都市部への襲撃頻度が爆発的に増えた時代だったという。

 そしてジゴラはその原因が何かを、後の世で人間と怪獣が同盟を結んでから知った事実を、全貌を把握して切れていないにしても知ることになった。

 

 理由は、ここ最近「王」が自分以外の怪獣を殺して回っているからだ。

 理由はその怪獣が「人間と同じく自然環境を破壊する」と判断したからとの事だが、それがどういう基準かも分からず、傍から見ればほとんど「王」の気まぐれで怪獣が殺されているようなものだ。

 怪獣達は兎に角自身が粛清される事を回避するために、自然破壊を繰り広げるという人間の街を襲うといった………言ってみれば「王」に気に入られるような行動を取るようになった。

 最も、それで粛清を回避できるという保証もないのだが………。

 

 

『船は………もう行ったか』

 

 今、船が逃げ切った事を祈るジゴラの大元となった死体人形が「王」の同族=同じゴジラの亡骸であり、それが「王」の粛清対象となって殺されたものである事である事を考えても、街を破壊したぐらいで生存を許してくれるとはとても思えない。

 

『………疲れた、寝よ』

 

 それを考えると、人間を助けるという「王」の考えに真っ向から逆らうような事を、単なる善意と同族意識から実行している自分は何なんだ。

 そう自嘲しながら、ただでさえ使うと疲れる熱線をバリエーション二つに分けて使った疲労を感じながら、ジゴラは海底深くで身体を丸めた。

 こういう時、肺呼吸と鰓呼吸の両方が使えるゴジラの身体の便利さに感謝しながら。

 

 

 ***

 

 

 ………ジゴラは夢を見た。

 古いビデオカメラの映像を回しているかのような映像だった。

 夢の中で、ジゴラは小さな………最初目覚めた時よりも遥かに小さい、緑色の豆のようなゴジラになっていた。

 そして驚くべき事に、ゴジラは自分一体ではなかった。

 夢の中の自分には兄弟がいた。

 二人の兄は、下の方がグレーの体色ののんびり屋で、上の方は自身のよく知るゴジラに似ていたがやはり小さく、眉の部分が今のジゴラと同じように金色をしていた。

 

 ………恐らくこれは、ジゴラを作る上で使われた亡骸。小笠原諸島沖で見つかった無数のゴジラの死体に残った、残留思念が見せている記憶だ。

 ジゴラは、夢中のぼんやりとした意識の中でそう思った。

 

 三匹の子供のゴジラは、小さな孤島に三匹だけで暮らしていた。

 餌を取りに行ったきり戻ってこない父と母の帰りを待ちながら、三体で力を合わせて暮らしていた。

 快適とはとても言えなかったが、兄弟で笑い合い過ごす日々は温かく、楽しかった。

 

 そんなある日、長男が血相を変えて巣穴に飛び込んできた。

 父さんと母さんが帰ってきた、近くで背鰭の光を見たと。

 三匹の子ゴジラは両親を迎えるべく砂浜へと走った。毎日は楽しかったが、子供心に親がいないというのは寂しかったから。

 

 砂浜で待っていると、海がうねり、大きな影がゆっくりと立ち上った。

 確かに、その巨影には尻尾があり、背びれがあった。ゴジラの条件を満たす姿をしていた。

 だが、そもそもの話そこにいたのは一体であり、見た目も三兄弟の親のどちらとも似ても似つかない姿をしていた。

 

 ………ガエエェーーーーーーーン!!!

 

 だが………………この記憶を三男ゴジラの記憶を通じて盗み見しているジゴラは知っていた。

 確かに、そいつはゴジラである。

 だがそいつは、ジゴラの人間としての生を終わらせ、全てを奪ったとさえ言える………

 

 

 ***

 

 

 目を覚ましたジゴラは、心臓の動きと動機が止まらず、見れば背びれが臨戦態勢に入ったのか薄っすらと光っていた。

 もし人間だった頃なら、布団を気持ち悪い汗で濡らしていただろう。まさかゴジラになってから、悪夢で飛び起きるという人間らしい生理現象を味わうとは思わなかった。

 

『………なんて夢だよ、くそ』

 

 そんな、最悪の寝起きを味わいながらも今からどうするかと考えながら、尻尾の付け根あたりをポリポリと掻くジゴラ。

 とりあえず腹でも満たそうと、少し前に見つけた巨大ワカメの群生地に向かおうとした、その時。

 

 

 …………………フォオン………………

 

 

 ふと、何か奇妙な音が聞こえた。

 自分を狙う怪獣か?と思い身構えるジゴラだが、どこを向いても他の怪獣の姿はない。

 

 

 …………………フォオン………………

 

 

 また聞こえた。

 音からして潜水艦のソナーか?とも思ったジゴラだったが、潜水艦の類、ドローンのようなものすらどこを向いても見当たらない。

 そうこうしている間にも、奇妙な音はずっと聞こえていた。

 

 

 …………………フォオン………………

 

 

 普通、こういう状況では「誰だ!?姿を現せ!」と声を荒げたくなる程度には苛立ちを感じるもの。

 しかし、ジゴラの耳に入ってくるこの奇妙な音は、聞いているとひどく落ち着き安心する………少々洒落た表現を使うなら、母の子守唄のようだった。

 

 

 …………………フォオン………………

 

 

 耳をすませば、音は遠くの、遠くの方から聞こえていた。

 ゴジラの身体だからこそ拾え、方角もわかった遠くの地で響いている謎の音。

 けれども、聞いていると安心するような、優しい音。

 

『………呼んでいるのか?』

 

 ジゴラは海底を蹴り、尻尾をくねらせて深海を泳いでいった。

 その先に何があるのか、確かめるために………

 

 ………この選択に関しては、長く戦いが続いていた為に魔が差したというのもあるだろう。

 が、もしこの時ジゴラが立ち止まっていれば、あの悲劇は防げたかも知れない。

 いや、むしろこのまま留まり続ければ、ジゴラの持つ人並みの欲望………つまり邪念を感じ取った「王」により、その肉体を構成するゴジラの亡骸の主達のように八つ裂きにされていたであろう事を考えると、ある意味幸運だったのかもしれない。

 

 まあどっち道………これがジゴラにとっての地獄の始まりである事には変わりないのだが

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