単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です 作:アイアイホイホイおさるさん
#1
罪なき妻子を殺した憎き敵
私はオヌシが虫けらのように踏み殺してきた無数の者たちに紛れた一匹に過ぎぬ。
だがオヌシは今、その取るに足らぬ一匹の怒りを受けて、全てを失い、死ぬのだ。
惑星ヴォルト。
かつてヴォルタークと呼ばれる
しかし、その文明もヴォルタークも、もはや存在しない。突如襲来した「黄金の龍」により、ヴォルタークの文明は跡形もなく殲滅させられたからだ。
そして惑星ヴォルトは、元の豊かな生態系と自然が溢れる美しい星に戻………
グワッカアアアア!!!
………る事はなかった。
ヴォルタークは怪獣を操る技術を持っており、自身の戦力とする為に様々な惑星、ひいては次元から怪獣をかき集めていた。
そして主人の文明が滅んだ後、惑星の新たな支配者となったのは自然由来の原生生物ではなく、ヴォルタークが連れてきた無数の外来生物=怪獣だった。
ちなみに件の黄金龍はというとヴォルタークを滅ぼしたらさっさと何処かへ行ってしまいましたとさ。
『行けえええっ!!』
『ぶっ殺せえええっ!!』
『もっと暴れろおおおっ!!』
して、そんなヴォルタークがいた頃の方が遥かにマシなレベルで生態系が滅茶苦茶にされた惑星ヴォルト。
その一角にて、陥没した地下街が丁度盆地になった事で出来た"闘技場"にて怪獣達はそれこそ人間のように、繰り広げられる戦いを興奮しながら鑑賞していた。
グワッカアアアア!!!
そして闘技場で戦わされている怪獣は二体いる。両方、骨のベルトのような物を身体の一部に付けられているが、これは剣闘士役の怪獣が逃げ出さないようにする為のいわば「鎖」である。
『現在9連勝中の古代怪獣ツインテール選手!このまま連勝記録更新なるかァ!?』
片方は、下部に顔があり上部からムチのような尻尾を伸ばしているという、シャチホコのような異形の怪獣「ツインテール」。
本来なら他の星どころかこの宇宙にはいない、
して、そんな外来生物に対するのは………
『対するは空からやってきた期待のルーキー!遠い宇宙の彼方からスゴいヤツがやってきた!』
大地を踏みしめ、迫るツインテールに対して真っ向から立ち向かうもう一体の怪獣がいた。
昔の肉食恐竜の復元図を思わせる体型に、ワニのような緑色の鱗。
黄土色の眉は、鋭い鱗の造形も相まって王者の冠のよう。
鋭い爪、鋭い牙、並んだ背びれに、尻尾の先端に唸るスパイク付きのモーニングスター。
まさに、王道の怪獣。まさかゴジラか?いや違う。ヤツの名は!
『現在6勝9引き分け!!無敵の大怪獣ジゴラだぁぁーーーっ!!!』
ギャエエエエーーーーーンッ!!!
ジゴラの咆哮が、スタジアムを揺らした。
***
………怪獣とて、その全てが野生動物の延長線上にある訳ではない。人間のように感情を持ち、意思疎通する者もいる。
であれば、知的生命体と文明が消え去った後に必ず野生の王国が蘇るとは限らないのは、本家モンスターバースにてまあまあの宮殿を建造していた
そして今現在、惑星ヴォルトはそんな強大な帝国を築いたある強大な怪獣によって大部分が支配されている。
その怪獣は、かつてヴォルターク人の大都市があった「王都ヴォルテロス」に、瓦礫と廃墟と発掘した鉱石を組み合わせて固めて作った、歪な王城とでも言うべき石の宮殿を築き、そこにいる。
『おい、ベムラー。どうなっている』
その怪獣は、自らの手下である怪獣を呼び寄せ、謁見させていた。
この惑星の主権を握るための怪獣間の戦争は未だ続いており、その状況報告をさせている。
『我は3ヶ月で制圧しろと言ったのだ。この体たらくはなんだ?』
『くっ、"クイーン"の力は凄まじいのです!あれだけの兵力で挑むなど、無茶です!』
『黙れ、私は常に正しい、私は常に間違えない』
しかしこれは状況報告と言うよりかは尋問や弾劾裁判のそれに近い。
現に晒し者にされている以外の怪獣達。この、支配者たる怪獣の側近達は、まるで死刑になる罪人を見るような嘲笑染みた感情を浮かべつつも、次にここに立つのは自身かも知れぬという恐怖があった。
『せめて兵力の増強を!これでは死んでいった部下達があまりに………』
ドスッ
そこまで言いかけて、部下の怪獣の動きは止まった。
支配者の怪獣。その高熱により宝石のように変化した瓦礫の王座から伸びた、骨髄のような鋭い尻尾が、部下の怪獣の腹を貫通し、背中から刃のような先端が飛び出していた。
『お、お慈悲を………』
『ならん、貴様は我を怒らせた』
『お慈悲を………!』
『王を怒らせた罪は死をもって償え』
ずどばしゃあ!!
途端に尻尾が振り上げられ、その怪獣は真っ二つに切り裂かれた。
青い血が一面に降り注ぎ、ボタボタと臓物が撒き散らされた。
スプラッター映画がごとき惨状を作り出したこの国家の邪悪な支配者は、歪な宝石の王座にふんぞり返り、自身以外の全てを見下ろしている。
一見すると、それは肉がへばりついた人工、肋骨から頭蓋骨にかけての人間の骨に見えた。
が、身体の下部は餓鬼か栄養失調のように膨れ上がり、そこから四本の虫か蟹のような脚が伸びていた。
そして先程部下の怪獣を粛清した長い尻尾を合わせて、真っ赤な人面のサソリのように見える巨大な怪獣。
『少しは我を怒らせないように努力をしろ、無能が』
その怪獣がどこで産まれて、何処から来たのか、知る者は誰もいない。
ただ「レッドモンス」という名前のみが知られている、この異形の悪魔のようなこの怪獣こそが、今現在のこの惑星ヴォルトの実質的な支配者と言えた。
***
惑星ヴォルトの支配者が星人から怪獣に成り代わってから、実に二千年が過ぎていた。
最初の内は弱肉強食の怪獣無法惑星だったが、時が経つに連れてより強力な怪獣………地球の言葉で言う所の「アルファタイタン」と呼ばれるようなより強力な怪獣がリーダーとなった、いくつかの派閥が生まれた。
派閥は争い合い、潰し合い、生まれては消えを繰り返した。それこそ、彼等が虫ケラと呼び蔑んだ人間の歴史のように………
『そして今、惑星ヴォルトの全域を支配しているのが、怪獣悪魔レッドモンス率いる勢力「
そして、"地球環境を愛する素晴らしい方々"により地球を追放されたジゴラが、休眠状態で宇宙を彷徨った果てに不時したのがこの惑星ヴォルト、赤の軍勢の勢力圏内だった。
そこでジゴラは首にレッドモンスの細胞から作られたという骨のベルト「服従バンド」をつけられ、同じように拘束させられた怪獣と殺し合う様を見せ物にさせる所謂「怪獣剣闘士」をやらされる事になった。
支配下の怪獣達の娯楽となり反乱の意思を抑える、いわゆる「パンとサーカス」のサーカスの役割を与えられたのだ。
『ほれ、飯だ』
『はあ?!これだけかよ!?』
そんなジゴラだが、待遇はいいとは言えなかった。
試合が無い時はヴォルタークの軍が使っていたであろう機動兵器の格納庫を改造した、牢獄か動物園の檻のような「待機室」に押し込められ、担当の怪獣がたまに持ってくるよく解らない肉と野草の残飯のような食事を与えられる。
それが剣闘士怪獣の、どれだけ勝とうが変わらない扱いである。
彼らはスポーツマンや競走馬のような育てて鍛えるものではなく、単なる消耗品の見世物に過ぎないのである。
『こんなんで次も戦えるか!』
『黙れ!余所者のくせに!』
『チッ………!』
逃げ出そうにも、剣闘士怪獣が主人に逆らえば服従バンドから耐え難い痛みが流れる仕組みになっている。勿論自分で引き剥がす事もできない。なんとも良くできた支配システムである。
『こっちだってまともに食えてないんだ!食えるだけ有り難いと思え!』
その、怒鳴り散らして去っていった半魚人のような怪獣も、よく見ればアバラが浮き出て頬がこけている。まともに飯にありつけないというのは嘘ではなさそうだ。
加えて、ジゴラが闘技場で見た観客達もどこか不健康そうだった。ジゴラの主観であるが、
『ああくそ………不味い』
そして食べられるだけ有り難いのだと自分に言い聞かせながら、ジゴラは既に賞味期限が過ぎ去ったらしい不味い肉を必死に押し込めた。
………控室の小さな窓から見える夜空には、一ヶ月前とは違う大きさの月が浮かんで見えた。
そこでジゴラは、この星の事について今までの生活の中で気付いた事をまとめる。
『………結論から言うと、この
加えてたまに来る軍勢の重役らしき偉そうな怪獣が健康的で、雌の怪獣を侍らせているという成金ぶりを見ていると、歴史の授業で知り趣味で詳しく調べたりもした「神聖ローマ帝国」を思い出してしまう。
地球の歴史にちょくちょく現れた「長持ちしないタイプの国家」である事は見るに明らか。早々に瓦解してくれればいいが、ジゴラとしては自分に与えられる食事を考えるとそれより早く自身の限界が来るなとも思えた。
………だからこそ、対策はしていた。
『………次あたり、"あいつ"と試合があれば、その時は………』
ジゴラは空腹に襲われぬ内に眠りにつく事にした。
その首に首輪のように巻かれた服従バンドには………自分で外そうとすれば激痛が走る仕組みになっているそれには、つくハズのない傷がいくつもついていた。