単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#2

 今日もまた、闘技場には怪獣達が押しかける。

 赤の軍勢(スカーレットレギオン)の悪政により空腹という生物の根源のストレスを抱えた怪獣達は、その苛立ちを誤魔化すために、自分達とは関係ない消耗品達………

 ………例えば、敵陣営の捕虜であったり、他所から連れてこられた者であったりといった剣闘士怪獣達が殺し合う様を見て、その暴力を身体いっぱいに浴びて空腹を紛らわす。そんな状態にある。

 勿論、それは根本的な解決にはならないのだが。

 

『行けえええっ!!』

『ぶっ殺せえええっ!!』

『暴れろおおおっ!!』

 

 ギャオギャオという汚い声援の中、ジゴラは本日の対戦相手と相対する。

 ザン、と大地を踏みしめた相手に、ジゴラは牙を剥きグルルと威嚇する。今度の勝負は並ではない。何故なら、この怪獣コロシアムにおけるジゴラの好敵手とでも言うべき相手がそこにいるのだから。

 

『へへっ、あんたと戦うのも何度目だろーな?ジゴラ!』

 

 一見すると人間のようにも見えたが、その細マッチョな全身は金色の体毛に覆われ、尻からは長い尻尾が伸びている。

 しかし長い腕に掌のような足と、細部の形状は完全なヒトガタとは異なっており、それは樹上生活に特化した類人猿………体毛の色合いも相まってキンシコウを怪獣にしたような印象を受ける。

 服従バンドが頭部に巻かれている事も相まって、それこそ西遊記の孫悟空のよう。

 

『そりゃこっちの台詞だ「ジャン」』

『キキッ!オイラもそう思うよ!』

 

【挿絵表示】

 

 この、やんちゃ盛りな子供、日本の十代なジゴラとは対照的なアメリカのティーンエイジャーみのある巨大な猿の怪獣の名は「ジャンコング」、通称「ジャン」。

 今は既に絶滅した………「王」による粛清を受け皆殺しにされた巨大類人猿怪獣「グレイト・エイプ」の生き残り。正確には、過去ヴォルターク支配時に地球から誘拐(アブダクション)されてきたグレイトエイプ達を祖先に持つ内の一体。

 ………ちなみに「コング」とは、グレイトエイプ族の伝説に伝わる救世主の名前、らしい。

 そう、間接的ではあるもののジゴラと同じ地球出身の地球怪獣だ。

 そしてなんの因果か、同じ地球の由来な上に「王」の因子を持つジゴラとは、この闘技場で何度も戦っているのだが未だに決着が付かずにいる。

 

『さあグレイトジャンコング対ジゴラ!現在9戦0勝0負9引き分け!今日こそ決着がつくのか!?はたまた10度めの正直で今度こそ勝者が決まるのかーー!?』

 

 解説役のカエルのような怪獣「パロットフロッグ」が巧みな話術で観客を焚き付け、盛り上げる。

 

『さっさと決着つけろー!!』

『早く殺し合えー!!』

『殺せ殺せぇー!!』

『行けえええっ!!』

『ぶっ殺せえええっ!!』

『暴れろおおおっ!!』

 

 もはや応援と言っていいかも解らない、早く暴力を浴びせろという観客の声に、ジゴラもジャンも苦笑い。

 

『まったく、自分が戦わないからって好き勝手言って………まあいいや、さっさと始めようぜー?』

『だな、そうしよう』

『キキッ!』

 

 血気盛んな観客をいつまでも待たせておくのも怖いので、改めてジゴラとジャンは闘技場の中心で睨み合う。

 そして。

 

 ………グルガァアッ!!

 

 ジャンが発達した腕で地面を叩いて威嚇。

 

 ………ギャェエンッ!!

 

 ジゴラも尻尾で地面を叩いて応える。

 そして両者が睨み合いの末、互いに向けて突撃。戦いの火蓋は切って落とされた。

 ズシンズシンと大地を踏み鳴らして駆けるジゴラに対し、ゴリラのようなナックルウォークで勢いをつけて迫るジャン。

 そして両者が接近した次の瞬間。

 

 グルガァ!!

 ドゴォ!!

 

 大気を震わせる爆発力を持ったジャンの拳が、ジゴラの頭部目掛けて勢いよく叩き込まれる。

 一撃で高層ビルを吹き飛ばす破壊力に満ちた拳であるが、ジゴラは咄嗟に足に力を入れ、地面に踏みとどまる。重心を深くする事で拳の衝撃を耐え抜いたのだ。

 

 ギャエエエン!!

 バゴォ!!

 

 お返しに今度はジゴラが腕を振るい、ジャンに向けてビンタのように腕を叩きつけんとする。お返しとばかりに狙うは頭部。

 回避は困難だと考えたジャンは咄嗟に腕を交差(クロス)して受け止めようとするが。

 

 グルォ………?!

 

 ジゴラの一撃が叩き込まれた瞬間、ずどんという衝撃がジャンを襲った。

 ジャンは体勢を崩し、地面に叩きつけられた。ヴォルタークの街の残骸であろうコンクリートが、噴火するように待った。

 

 ………ここで、ジゴラとジャンの体格の違いについて話しておこう。

 ジャンはグレイト・エイプ族に共通して見られる逆三角体型のマッチョ体型なのに対し、ジゴラはその基本がゴジラ族の死体である事からも三角形体型の………あんまりな言い方をすると「デブ」とさえ言える体型である。

 そして、ここに強さの「違い」がある。

 ジゴラの体型は重心が下にくる安定感のあるものであり、純粋なパワーによる押し合いではジゴラの方が有利になる。某格闘漫画のセリフを引用するなら「逆三角形は三角形には勝てないのだよ♡」という事であるッ!

 

 

 ***

 

 

 闘技場において特に人気のある二体の怪獣の激突は、怪獣達を湧きに湧かせている。そんなスタジアムの上部にて、愚かな怪獣(しみん)達を嘲笑いほくそ笑む、二体の怪獣を除けば。

 

『彼等が命をかけて、我々の支配のための礎になってくれている………クフフフ、なんとも愉悦じゃあないですか』

 

 人型のクラゲを思わせる、赤い単眼をした水色の怪獣「ゾゲラン」。

 ネチネチした陰湿で狡猾な性格。

 

『………そうだな』

 

 二足歩行になったマンモスの骨格のような怪獣「ゴロンバ」。

 物静かな態度の真面目な性格。

 この両者はこの赤の軍勢(スカーレットレギオン)の幹部であり、レッドモンスの親衛隊のような立場の強力な怪獣だ。

 

 そして幹部権限で食物を独占しているため、この場にいる怪獣達のように空腹による苛立ちを闘争で誤魔化す必要もない。彼らがここにいるのは、闘技が問題なく行われているかの見回りのためだ。

 

『どうしましたか?ゴロンバさん、気が乗りませんか?まあ我々は愚かな下級怪獣と違って腹は満たせてますが………』

『………ゾゲラン、奴等について何か気付かないか?』

『彼等………ああ、ジャンコングとジゴラですか』

 

 見れば、ジゴラとジャンの戦いはより激化し、互いに技の応酬を繰り広げている。

 体格による不利を感じさせぬジャンの立ち回りと、持ち前のタフさで戦いを続けるジゴラ。一進一退の攻防に観客は興奮し、沸き立つ。

 そんなよくある闘技場の日常光景しかゾゲランには見えなかった。が、現場で戦う怪獣であるゴロンバは違った。

 

『よく見ろ………あいつら、互いの服従バンドを攻撃している』

『へ?』

 

 拳闘士怪獣に巻かれる、逃走や反乱を防ぐ目的で付けられる服従バンド。ジゴラは首に、ジャンは頭に。

 レッドモンスに背くような真似をすれば激痛が走り、かといって自分で外そうとすれば即死性の毒が血液に流れる仕組みになっている。

 ………そう自分で外そうとすれば(・・・・・・・・・・)

 

『いかん!この試合は中止だッ!』

 

 ゴロンバが叫んだが、時すでに遅し。

 ジゴラの爪とジャンの拳が、クロスカウンターのように互いを交差して命中した。

 爪は頭に、拳は首に。

 

 ばきぃいっ

 

 二本の服従バンドにヒビが入ったかと思うと、それは途端に全体に広がり、やがて砕け散った。

 

 ………これは、ジゴラとジャンが同じ地球の出身であり、意思疎通(エコロケーション)において暗号化されたやり取りがやりやすかった事が理由。

 怪獣剣闘士としての生活と赤の軍勢(スカーレットレギオン)の今後に限界を感じていた両者は意気投合し、互いの服従バンドを戦いの最中に破壊するという脱出計画を立て、何度も繰り返される戦いの中、少しずつ互いの服従バンドにダメージを入れていった。

 その結果、両社は互いを縛る骨の鎖を破壊し、自由を手にした。

 

 ガエエン!!

 

 ジゴラが観客席に向けてガンマブレスを吐きつけ、客席の怪獣たちはギャオギャオと逃げ惑う。

 よくも今まで見世物にしてくれたなというお返しもあるが、脱出の為に道を作るのが目的。ジゴラとジャンは、観客が逃げた事で生じた隙間から闘技場を出て、外へと逃げてゆく。

 

『まずい!剣闘士が逃げた!捕らえろぉッ!!』

 

 部下の怪獣達に指令を飛ばすゴロンバだが、ここで更なる事件が彼等を襲う。

 

『ゴロンバ様!我が軍は現在敵性勢力から攻撃を受けています!』

『攻撃だとォ?!』

 

 赤の軍勢(スカーレットレギオン)の領地に向けて、投石機(スリングショット)を使い、遠距離から次々と岩が飛ばしている怪獣たちが………ジャンの同族であるグレイト・エイプ達がいた。

 他の怪獣と違い、人間のように「道具を使う」事が特徴であるグレイト・エイプ達だからこそ出来た芸当であり、次々と岩が飛んでくる光景はさながら飽和攻撃のよう。

 強大な勢力が故に、最近他所から攻め込まれる事が無かった赤の軍勢(スカーレットレギオン)がガタガタになる事に時間はいらなかった。

 

『被害はどうなっている!?』

『指揮系統がメチャクチャで、逃げた剣闘士を追う所か、厳密な被害状況も………』

 ………ゲェンッ!!

 

 クソが!と吐き捨てるように、ゴロンバは長い牙を闘技場の壁に叩きつける。

 八つ当たりをした事でどうにもならない事など、頭では解っていたが。

 

 

 ***

 

 

 流星群がごとく降り注ぐ岩を飛ばしているのが、がジャン所属する派閥であり、既に壊滅したと思われた「密林の戦士団(ジャングルウォリアーズ)」の残党だと知らされたジゴラは、ジャンが脱出に合わせてこのような援護を用意してくれた事と、囚われの身である仲間と敵に察知されずにやり取りできるグレイト・エイプのネットワークに感謝しつつも、自分に当たらないように岩を避けながら駆けてゆく。

 

『これからオイラはレジスタンスの仲間達と合流する!お前はどうする?』

『俺は………』

 

 折角のジャンからのお誘いであったが、ジゴラは少し考えた。

 ジゴラは、彼らグレイト・エイプが「王」による粛清で滅びた事は知らなかった。が、身体を流れるゴジラ細胞の中にある記憶が危険信号を発している事には気付いた。

 

『………いや、俺は結晶城(クリスタルキャッスル)に行く』

『えっ?』

『集まっているよりは別々に逃げた方がいい!』

『なるほどなぁ!』

 

 ジゴラとジャンがそう言葉を交わした瞬間、より巨大な岩が飛んできた。

 二体はそれを左右に避け、地面に岩がずどごぉん!!と落ちた事で、煙幕のように砂塵が舞う。

 それを合図に、二体はそれぞれの逃走経路へと走る。

 

 グルガァァァーーーーッ!!

『生きてたらまた会おうぜ!ジゴラ!!』

 

 ガエェェーーーーーンッ!!

『ジャンコング!お前も死ぬなよ!!』

 

 こうして二体の怪獣剣闘士は砂塵の彼方へと消えた。

 方や仲間の元へ、此方新天地へ。

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