単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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 人気剣闘士怪獣二体の脱走という赤の軍勢(スカーレットレギオン)始まって以来の大失態は、闘技場のオーナーの粛清と軍の隊長クラスの怪獣を皆殺しにする事で「けじめ」がついた。

 と、その城の主は密かに相手側に飛ばしていた密偵から聞き、キロキロキロと鈴のような声で嘲笑った。

 

『相も変わらぬ暴君ぶりじゃの?あの赤ハゲ(レッドモンス)は』

 

 一面を覆う結晶の床と天井の「巣」に鎮座する巨大な姿は、まさに御伽噺に登場する財宝と姫君を独り占めにする邪悪な龍そのものに見えた。

 

『それで………彼奴の元から逃げたという剣闘士は?』

『はい、片方は反赤の軍勢(スカーレットレギオン)レジスタンスに合流し、もう片方は………』

『………どうした?何かまずい事でもあるのかの?』

 

 しかし一方でひどく美しくもあった。氷のごとき結晶の王座に鎮座する様は、さながらお伽噺に登場する美しき氷の女王のよう。

 

『それが………こちらに向かっているようです』

『なんと!それは(まこと)か?』

『はい、警戒中の兵がこちらに向かう姿を見たと』

 

 キロキロキロ、という笑い声が結晶の宮殿に木霊する。

 その姿はまるで、遠方から訪ねてくる客を楽しみにしている貴婦人のごとき優美さを感じさせる。

 

『それは楽しみじゃ………早く(わらわ)の元に来い、宇宙(そら)から来た怪獣よ♪』

 

 だがそれでも、そこにいるのは妖艶な美女ではなく、強大で恐ろしい宇宙大怪獣である。

 クリスタルの床に映る巨大な二枚の翼と二本の首という異形の姿が、それを嫌でも思い知らせた。

 

 

 ***

 

 

 その肉体(ゴジラ細胞)が告げたグレイト・エイプへの後ろめたさからジゴラが選んだのは、赤の軍勢(スカーレットレギオン)に反抗を続けている陣営の一つである「結晶城(クリスタルキャッスル)」との合流であった。

 陣営名であると同時に、彼らの拠点である土地名でもあるその場所は、一面が結晶に包まれた幻想的な世界であるという。

 

『この熱帯雨林の先にあるとはどうしても思えねーけどな』

 

 自身の背丈ほどある巨大な木をバキバキと払いながら、蒸し暑い密林を進むジゴラ。

 人間より遥かな丈夫な身体ではあるものの、顔にかかる木々と蒸し暑さは、ジゴラに苛立ちを感じさせる。ガンマブレスで焼き払おうとも思ったが、山火事になるリスクを考えると気が引けた。

 

『………冷静に考えたらでかい木だなこれ、樹海か?』

 

 ジゴラ自身正確に測った事こそないものの、自身がそれなりの巨躯を持った大怪獣であるという自覚はあった。

 ので冷静に考えると、そんな自分の顔にかかるような高さの樹木はとんでもない巨木という事になる。

 

『そのウチ、俺でも見上げるようなクソデカ樹木の星になったりするんだろうか………』

 

 ………おそらく、この惑星ヴォルトが人間種族(ヒューマノイド)の物から怪獣の星へと変わった結果、惑星の生態系が怪獣基準に作り変えられているのだろう。

 そんな事を思いながら、ジゴラはズシンズシンと樹海を踏みしめて目的地に向かう。

 

 この、ジゴラの向かう結晶城(クリスタルキャッスル)であるが、ジゴラは別にその場所の正確な場所は知らない。

 ただ、一面が結晶に覆われた地であるなら近くなれば遠目でも解るだろうという希望的観測のまま、あらかじめジャンから聞いた大まかな場所へと歩を進めているだけだ。

 

『………一向に見つからん。どうすんのこれ』

 

 そして案の定木しか見えてこない状況に、ジゴラは愚かな自分を皮肉りながら頭を抱えた。

 このまま目的地が見つからないなら、いっそここに隠れて生活するか?という考えが浮かんだその時である。ふと、視界の隅で何かが光った気がした。

 気の所為だと思ったがやはり気になってもう一度顔を上げると。

 

『お迎えにあがりました、怪獣剣闘士ジゴラ』

 ガエエェ!?

 

 顔があった。怪獣がいた。

 驚いたジゴラは素っ頓狂な咆哮を挙げたかと思うと、その場に尻もちをついて倒れるというあまりにも間抜けな様を晒す事になった。

 

『自己紹介が遅れました。私の名は「クリスタラック」。クイーン………結晶城(クリスタルキャッスル)が主の忠実なる下僕』

『………ご丁寧にどうも』

 

 この「クリスタラック」という背中を結晶で覆ったハリネズミのような、一目で結晶城(クリスタルキャッスル)の関係者とわかる怪獣の、無様な自分を無視して淡々と話を進めるある意味ではノリが悪く、ある意味では配慮のできる態度にジゴラは感謝した。

 

『我が主が貴方に会いたがっております。ついてきてほしい』

 

 そして、このジャングルに永住するルートが消えたという事にも。

 

 

 ***

 

 

 クリスタラックの道案内を受けて、ジゴラは密林の中をズンズン進んでいく。

 するとどうだろう。一体ではどこまで行っても森しか見えなかったのが、徐々に道がひらけてゆき、そして………

 

『マジ………かよ』

 

 やがて、ジゴラの視界から森が消えた。まるで森を切り開いてそこに街を作ったかのごとく、そこにいきなり別世界が現れた。

 

 地面から樹木がごとく青い結晶がいくつも突き出ていた。

 より大きな結晶が高層ビルのようにいくつも立ち並び、さながらどこぞのフローズンの姉の方が能力を暴走させて城所か街を作ってしまったような、そんな幻想的な光景が広がっていた。

 ただ違うのは、地面から突き出ているのが氷ではなく結晶であり、少しも寒くない………所か、春のようにほんのり心地よい暖かさを感じる。

 

 ここが、結晶城(クリスタルキャッスル)。さながら妖精の国のようだ。

 

『こちらへ』

『………どうも』

 

 そしてクリスタラックの案内を受けたジゴラがやってきたのは、そんな結晶世界の中心に聳える、地名と陣営名の両方の由来となった巨大なクリスマスツリーのような結晶の塔。

 ジゴラは昔人間だった頃配信サービスで見某ポケットなモンスターの劇場版にて現れた炎獅子が支配する塔を思い出していた。

 

 ………聞いた話によると、そもそもこの一面を覆う結晶世界自体、結晶城(クリスタルキャッスル)のリーダーである怪獣の持つ能力で作られた物だという。

 そしてクリスタラックのような配下の怪獣達の多くも、この結晶を由来とする生命であり、リーダー怪獣の分身とも言える。

 巨神(taitan)信奉者のクソさを味わった身として感情論的に納得したくなかったが、正に神のごとき怪獣と言えた。

 

 ………グル?

 

 そんな事を考えていたジゴラは、クリスタラックが自分から少し離れている事に気付く。

 そして思い出した、クリスタラックがここまで自分を案内すると言い出した理由は「主が自分に会いたがっているから」。つまり………

 

『ほう?そなたが噂に聞こえたジゴラかの?』

 

 そこに飛んできた超音波言語(エコロケーション)

 それまで聞いた攻撃反応の籠もった怒声とは違う、琴を弾いたかのような聞き心地のよい………ジゴラの人間だった時代の知識に当てはめると、某巨乳艦長やらネルフのお姉さんを彷彿させるような、女の声を想起させるエコロケーションが飛んできたのだから。

 

『慌てるでない、(わらわ)はここじゃ』

 

【挿絵表示】

 

 声が結晶塔から聞こえている事にジゴラが気付いた。

 見れば、キラキラ光る翼を広げてこちらにやってくる怪獣が一体。

 ふわり、と結晶の翼膜が消えると同時に舞うように舞い降りたそれは、端的に言うと結晶の膜を持った青いワイバーンのような姿をしていた。

 が、一つだけ生物の常識を無視した要素があった。身体から伸びた長い首が二本、その先に特徴的な三日月状のツノの生えた頭もそれぞれ二つあった事だ。

 

(わらわ)は"クイーンギドラ"、この結晶城(クリスタルキャッスル)のリーダー、と言えばいいのかの?言っておくが、キングギドラのヤツとは関係ないぞ?キロロロ!』

 

 冗談のように笑いながら答えた、まるで妖艶な女王様がごとき双頭竜「クイーンギドラ」。

 まずキングギドラという存在を知らないジゴラには彼女の冗談の意味が解らないというのもあったが、目の前でキロキロと笑うクイーンギドラから、ジゴラは目が離せなかった。

 

『………うん?どうした?(わらわ)の美しさを前に見とれたかの?うん?』

『あ、いや………』

 キロロロロ!

 

 図星であった。

 確かに体内の組織………おそらく結晶を生成する能力の由来であろう細胞によりキラキラ光る鱗も、結晶で作られた翼を広げた様をみても、クイーンギドラは純粋に美しい怪獣である。

 だが、それ以上に。

 

『(おかしい………相手は怪獣なのに………)』

 

 ジゴラが目が離せなかったのは、その妙にムッチリした腿や、引き締まったウエスト、その全てが曲線的で丸みを帯びた、しなやかかつ柔らかそうなクイーンギドラの肢体。

 ヘビクイワシを思わせる切れ長の目と時折ヘビのようにチロチロと出る舌は、まるで獲物を誘うようであり、ジゴラはそんなクイーンギドラから目が離せなかった。

 とどのつまり。

 

『(どう見ても………クイーンギドラが………色っぽい………?いやいやいや!相手は怪獣だぞ!?今の俺もだけど………)』

 

 ………下衆な言い方になるが、ジゴラはクイーンギドラに異性としての魅力を感じていた。

 もっと下品な言い方をすると、発情していたのである。

 幼少期に本屋で偶然見たグラビアの胸の谷間に感じた甘い衝動を思い出そうになった所で、ジゴラは必死にそんなハズはない!と自分に言い聞かせた。

 

 ジゴラ自身元であるがドノーマルの人間だった事から、ケモナーやズーフィリアのような異常性癖の気などあるハズがないと思いたかったのもある。

 が、一番の理由は自分がここに来た理由はクイーンギドラと(ツガイ)になる為ではないからだ。

 

『えと………俺、レッドモンスの所から逃げてきたんです。それで、よかったらあなたの所に置いてもらいたいんです。勿論、兵隊としての働きはします』

 

 そもそも、ジゴラの来訪の目的は亡命だ。このまま流浪の旅をしようものなら、赤の軍勢(スカーレットレギオン)の差し向けた刺客に狙われやすくなる。

 拮抗した勢力であるクイーンギドラの結晶城(クリスタルキャッスル)に身を置けば、少なくとも単独で戦うよりはずっと安全だと考えたのだ。

 

『ふむ………まあ、(わらわ)あの赤いの(レッドモンス)は好かぬ。あやつの元にいたソナタがこちらについたとあれば、あやつの吠え面が見られていいかも知れんのぅ?』

『じゃ、じゃあ………!』

『………じゃが』

 

 ギョロリ、とクイーンギドラの血のように赤い目がジゴラを見つめる。

 長い首から見下ろす様は、さながら鎌首をもたげて獲物を睨む蛇である。

 

『………タダで入れてやるワケにはいくまい?』

 

 先端が分かれた舌を、クイーンギドラがじゅるりと舐めずった。

 さながら、これからご馳走を頂くようである。ジゴラは、自分はまさに奴の目の前に置かれた戦いというなの御馳走なのだと思った。

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