単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です 作:アイアイホイホイおさるさん
『………タダで入れてやるワケにはいくまい?』
クイーンギドラが直立し、翼を広げる。
改めて鳥類の翼が掌から進化したと思わせる骨組みのような指の翼に、クイーンギドラの能力により結晶の羽毛が生成され、その姿をより巨大に見せた。
ジゴラは知らないが、これはクイーンギドラの「一族」が使う威嚇の構え。であると同時に、これから貴様と戦うぞという意思表示。
『やっぱりそうかい………!』
知識はなくとも、ジゴラは本能で感じた。
これは、いわば入試試験。兵士として雇ってもらう以上は主である自分を実力で納得させてみせろ、というクイーンギドラの挑戦状。
人間ならそうはいかないが、戦って実力で我を通す事は怪獣としては当然の交渉手段。
ギャエエェーーーーン!!
上等だ!と、ジゴラは咆哮で答えた。
睨み合う相手はメスであるものの、その体格差は二倍近く。おまけに飛行能力まである。
それでもジゴラは臆さない。闘技場で培った負けん気が、ジゴラに戦えと叫んでいた。
キィィーーーロロロロッ!!
そんな様を前に狂喜するかのように、クイーンギドラがジゴラに向かい突撃する。
翼を羽ばたかせる事で身体を前に推進させ、牙の並んだ顎を大きく開けて、ジゴラへと突撃。
対するジゴラも突進し、両者の巨体がドゴォ!!とぶつかり合い、衝撃が周囲の結晶を揺らし、鳴らす。
ギャエエッ!!
キロロロロ!!
ジゴラはクイーンギドラの頭を掴み、地面に叩きつける。
しかし首はもう一つ。ジゴラの後頭部に逆に噛みつき、そのまま振り回し、投げ飛ばした。
吹っ飛ばされたジゴラはその先にあった結晶に激突。ガシャアン!!と音を立てて砕け、崩れた結晶がジゴラに降り注いだ。
ギャエエッ!!
なめるな!とジゴラは咆哮で罵倒し、結晶を払い除けて立ち上がる。
そして背鰭に発光が走り、体内の原子力がガンマブレスとなりクイーンギドラ向けて吹き付けられた。
勢いよく放射された緑色の火炎は、クイーンギドラが後ろに後ずさる程の勢いを持ってはいたが、その体表を焼くまでは至らない。
………だけならよかった。
ギャッ………!?
苦しむ素振りを見せないクイーンギドラを前に、ジゴラはまさかと思った。だが気がついた時には遅かった。
クイーンギドラの首から腹にかけて、その蛇腹のようになった結晶を含んだ体表が妖しく発光していた。それがガンマブレスのエネルギーを吸っている現象だと気付き、ジゴラは咄嗟に火炎の放射を止めた。
『………ごちそうさま♡』
キィロロロッ………!
しかし十分なエネルギーを与えてしまった事は、不敵に嗤うクイーンギドラの表情を見れば察しはついた。
結晶の羽毛が眩く輝く。瞬間、クイーンギドラを起点に発生した力場は、その7万tの巨体を空中に舞い上げた。
………重力操作能力。
彼女の「一族」が共通して持つそれであるが、クイーンギドラは一族の中でも特にそれを得意としていた。
ジゴラも後に知ったのだが、この一面を覆う結晶はクイーンギドラの持つ重力操作能力を活性化させる力場を形成する役割も果たしている。
この
キィィーーーロロロロッ!!
ギャアアアン!?
上空からジゴラ向けて、クイーンギドラの二つの口から絡み合うの白とピンクの螺旋を巻く雷のような光線が放たれる。
それはジゴラの身体に着弾する度に大爆発を起こし、今まで経験した事のない痛みと衝撃がバリバリバリィ!とジゴラを襲った。
………その「引力光線」と呼ばれる武器もまた、彼女の「一族」の全員が共通して持つ武器の一つ。
その原理は、電気エネルギーを重力により収縮させて放つ高圧電流光線であり「一族」の代表でもある"金ぴか"も使っている物と同じ。
通常なら雷を吐き出したかのような黄色い光線なのだが、クイーンギドラの体内にある結晶成分が反応した結果、白とピンクの光が混ざり合う………
ギャアッ!ギャアアン!!
当然ながらジゴラに飛行能力は無く、空から攻撃されたのでは手も足も出ない。
しかしジゴラもこのまま一方的に嬲られるのは"しゃく"である。
………ギャアアンッ!!
咆哮で啖呵を切る。なめるなと。
そしてジゴラは、尻尾を大きく真上に振り上げ、勢いよく地面に叩きつける。と同時に、足の骨と関節と筋肉を、上に力を向けんと躍動させた。
ジゴラが飛んだ。足のパワーと尻尾を使ったテコの原理により、80m3万tの巨体を宙に舞い上げたのだ。
………確かにゴジラ族は空を飛べない。だが有り余るパワーをもって「すごく高くジャンプする」事はできるのだ。
ジゴラは、すごく高くジャンプして飛びかかった。目標は当然空中のクイーンギドラ。
ギャアッ!!
自身の目と鼻の先にはクイーンギドラ。今さら回避できるとは思えない。
捕まえたぞ。ジゴラはそう確信した。
………しかし、元はゴジラの死体人形に人間が宿ったのがジゴラ。そして怪獣モノの人間というのはどうしようもなく愚かである。
だからジゴラも、空中戦においては
キロ♡
『つかまえた♡』
ギャン!?
『嘘ォ!?』
空中で飛びかかったジゴラを、クイーンギドラの両足がグワシィッと捕まえた。例えるなら、空中に放り投げられた餌を捕まえた猛禽がごとき絵面。
飛行能力を持たないジゴラは、こうなっては勿論どうしようもない。まな板の上の鯉とはまさにこの事。
………ばさっ
クイーンギドラがさらに高く舞い上がった。高所から落とすつもりか。
そう思ったジゴラは、体に力を入れて防御態勢を取った。だから気付かなかった。ジゴラを掴んだままのクイーンギドラは、そのまま自らの居城たる結晶塔へと帰っていった事に。
***
結晶の冷たく硬い地面に叩きつけられるかと思っていたジゴラを迎えたのは、ぽふんというクッションかベットに落とされたかのような柔らかな感覚。
グル?
あれ?と目を開くと、そこには結晶で作られた夢のようなキラキラした部屋と、その一角にて自身の身体を包む、綿を敷き詰めて絹で覆ったような見事な「ベッド」。
『ようこそ、
そして自身を押し倒す形で上に跨り、2つの顔を目と鼻の先にまで近づけ、真っ赤な瞳を細めて嗤うクイーンギドラの蠱惑的な表情。
ドキリ、という感触が脳と心臓と下腹部に走ったのを感じたジゴラは、この感情が何かという疑問から目を背けて、とりあえずの事を尋ねる。
『それで、その………採用試験の事については?』
『むぅ?』
『兵士として雇ってくれるなら、まずはその実力を確かめたかったのでは………』
当初きょとんとしていたクイーンギドラだが、少しの間を置いて「ああ、そういう事ね」と言うように再び口元を吊り上がらせた。
まるで、子供の可愛いイタズラを余裕でいなしてみせる年上のお姉さんのような態度で。
『………別にあれは採用試験ではないぞ?』
『はい?』
『というか、ソナタを我が軍に引き入れるのは既に決定事項じゃ。ソナタがここを目指していると知った時からな♪』
『はいィ!?』
ならなんで戦ったんだよ!?と、何発も受けた引力光線の痛みを覚えているジゴラは突っ込みたかった。実際かなり痛かった。
そんなジゴラを前にしても、クイーンギドラはあらあらうふふ、キロキロピロピロと笑う余裕を見せた。
『
『コロシアムの戦績じゃ信用ならない、と?』
『バカモノ、
何を言っているんだ何が言いたいんだ。ジゴラの頭にはいくつも疑問符が浮かんだが、ふと下腹部に感じた柔らかな肉が触れる感触が疑問符の答えを連れてきた。
『………ここまでされて意味も解らぬほど、ソナタも馬鹿ではなかろう?』
理性と危機感の手綱を手放したジゴラに、再び甘い感覚が襲いかかってきた。
元は人間であったハズのジゴラであるが、もう眼前で二つの頭と四つの目で視線を絡ませてくるクイーンギドラを、魅力的な女性だと脳が認識し始めていた。
『………本来、
『単体でも生態系が成立するでの♡』
『じゃが、できない訳ではない♡』
『それに"気持ちいい事"には興味がある♡』
覆いかぶさったままのクイーンギドラは、しゅるしゅるとジゴラの両耳に二つの口を向け、囁くようなエコロケーションを交互に飛ばしてきた。
『じゃが、やはり交わるには
『そこで、ソナタを見つけたのじゃ♡』
『………逞しくて♡』
『………強くて♡』
『………小さくて♡』
『………頑張り屋で♡』
『………かぁわいい♡』
エコロケーションが一言飛び、チロチロと舌を動かす音が響く度に、ジゴラの全身に甘い衝撃が電流のように走り、思考がドロドロに溶けそうな感覚に陥る。
未知の感情と悦びに混乱するジゴラは、もう何をどうすればいいか分からなかった。誘われているのは分かるが、どうすればいいかが分からないのだ。
『………そうじゃ、ほうれ♡』
何かを思いついたクイーンギドラの胸が………首と翼を構成するために筋肉が集まり、膨らんでいる以上の要素が無かった胸元の肉が蠢いたかと思うと………
ぶるるんっっ♡♡
と異変が現れた。クイーンギドラの胸が膨らんだかと思うと、それは瓜のように垂れて西瓜のように熟れた2つの柔らかく青白い肉の塊………つまる所の人間の乳房、それも爆乳と言っても差し支えないようなそれへと変貌し、ジゴラの胸板に押し付けられてスライムか水風船のように変形する。
『驚いたかの?
その、実りに実り熟れに熟れた果実から目の離せないジゴラは、下腹部から
………余談だがワニをはじめとする爬虫類の生殖器は普段は体内に隠れている。というか爬虫類に限らずそちらの方が多数派であり、人間のような露出組は少数派である。
『キロロロ♡ソナタも準備万端のようじゃの♡それじゃあ………祝祭をあげようぞ♡
やがて、その結晶の羽毛が包むように全てを覆い隠すと同時に、捕食器官のように口を開けた青い割れ目が、肉色の物を飲み込んだ。
***
………その日も、
その怪獣は先立たれた
『何をバカな事を言う?我々は戦争をしているのだぞ、なら組織のために貢献するのは当然だろう』
『しっ、しかし………!』
『黙れ愚か者め、そんなに腹が減ったなら………』
親怪獣は、レッドモンスが配下の怪獣に運ばせてきた皿の中身を見て絶望した。
そこには、上記の話にあった彼の子供がいた。ただし、焼き殺されプスプスと煙を上げた焼死体の状態で。
『自分の子供を食べればいいではないか』
キィ………キシャアアアア!!!!
親怪獣は激昂した。もはや眼前にいるのは群れの長でもなんでもなく、大事なわが子を殺した暴君だからだ。
空腹も体格差も実力差も関係ない。とにかく目の前の外道を八つ裂きにしてやらねば気がすまなかった………が、その願いが果たされる事はなかった。
ずどばしゃあ!!
親怪獣は切り裂かれた。レッドモンスの尻尾が飛び、真っ二つになった親怪獣「だったもの」が一面に散らばった。
『まったく、どいつもこいつも何故合理的な判断ができん。戦争をしている兵隊に兵糧が必要なのも、緊急時に親子がどうとか言っていられないのも当然だろう』
レッドモンスは呆れたかのように、手元にある肉を………自身に意見したので粛清した怪獣の肉を口に運び、バリバリと食す。
………レッドモンスは、権力を振りかざすためにこのような圧政を敷いているのではない。そこには自己顕示欲も無ければ暴力欲もない。
レッドモンスにとっては、戦争となれば民が飢えるほど食糧を兵隊に回す事も、お腹が空いたなら親族を食えばいいと結論が出せる思考も、普通の事なのだ。
単なる邪悪という単語すら生温い、自覚なき悪。という言葉がレッドモンスを表す上で最も適した表現と言えた。
『レッドモンス様、報告致します』
『ふむ?』
『我が軍から逃走した剣闘士の居場所がわかりました』
『ほう?場所は?』
ゾゲランの報告がジゴラの話であると察したレッドモンスは、その虚穴のような目でゾゲランをジロリと見つめる。
『………
それを聞いた途端、レッドモンスは貪っていた怪獣の足を握り潰した。グルルルッという唸り声が、髑髏のような頭の奥から聞こえてくる。
言うまでもなく、レッドモンスは怒っていた。
いつまでもしつこく自身の物にならない
『既に"ナーイギガ"と"アミルドジ"が向かっています』
『全軍をまとめろ、我々も向かう!』
逆に言うと、気に入らない相手を一度に叩き潰すチャンス。
ならレッドモンスのやる事は一つである。