単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#5

 前へ後ろへと腰を打ち付ける度に、青い肉壺を貫かれた女王は蛇のように身体をくねらせ、求めるかのようにキロキロと甘い声で鳴いた。

 訪問者もまた、女王の大きな身体に甘えるようにしがみつき、喰らうのように腰を振り、猛るモノを何度も彼女の中へと突き刺し、やがて女王の中に白濁を吐き出した。

 欲しい、繋がりたい、一つになりたい。そんな感情に支配された訪問者は、もはや自身が女王に………本来なら単にカッコいいという感情しか向かないハズのドラゴンに似た生き物に性欲を向け、恋人(ツガイ)の雌を孕ませようと何度も身体を重ねている事など、何も気にならなくなっていた。

 

 そんな夜を繰り返し、結晶城(クリスタルキャッスル)に来てから、数度目の朝を訪問者………ジゴラは迎えた。

 この寝床、惑星ヴォルトに自生する植物を弄って作ったらしい、かつてヴォルタークの富裕層がペットにしていた怪獣を寝かせるのに作ったらしい巨大ベッドから起きる時、ジゴラは長年感じていなかった安心感とぬくもりの中で目覚め、在りし日のように背を伸ばして起きる。

 

『お目覚めかの、旦那様♡』

 

 キュロロロ♡と鈴のような頭上で甘い声が響き、寝起きのジゴラをクイーンギドラの二つの顔が覗き込む。

 ………こうして何度も身体を重ねようと、ジゴラはほぼ一方的に快楽を叩き込まれている。まるで成人向け漫画で年上の女性に一方的に気持ちよくしてもらうチェリーボーイのように。

 

『お………はよう』

『のう、旦那様?』

『………何です?』

『ソナタ、元人間じゃな?』

 

 いつものように体内の細胞を調整し、膨らんだ乳房を元に戻すクイーンギドラを前にしても、事実が故にジゴラは何も返さなかった。

 

『………いつから知ってた?』

『二回目の夜からじゃ。読心術は優れたギドラ族のお家芸での、キロロ♡』

 

 知られた所で今更、という事もあった。

 この星の怪獣達が地球の巨神(taitan)達のように心底知的生命体(にんげん)を嫌悪し、殺したがっていたなら話は別だが、ここには憎む所か人間という存在を知らない者すらいる程だ。

 

『………辛かったのう、旦那様』

 

 するり。ジゴラの身体を柔らかな翼が抱きしめるように包み、クイーンギドラの2つの頭が頬ずるように顔を挟む。

 

(わらわ)はどこにも行かぬ』

 

 クイーンギドラは、その大きな体でジゴラを包むように抱きしめていた。本来彼女の一族に抱擁という概念はない。ジゴラを抱く内に、その脳裏から快楽を通じて読み取った。だから、こうしている。

 

(わらわ)はここにおる』

 

 人肌とは程遠い感覚であり、そもジゴラも人間だった頃には童貞のまま死んだ。女の肌など知らないため比較はできない。

 

『何があっても、(わらわ)はソナタの味方じゃ。好きなだけ頼って甘えてくりゃれ』

『………そう言ってくれると嬉しい』

 

 しかしジゴラには、自身を包むクイーンギドラの鱗は、どんな女の乳房よりも柔らかく、温かく、それでいて安心できる最高のゆりかごと言えた。

 赤子が母親に甘えるように彼女の胸元に顔を埋めて聞こえる、その内を流れるエネルギーの音は、まるで川のせせらぎのようにジゴラの耳と心を癒やした。

 

『愛しとるよ………旦那様』

『………俺も、好き』

 

 その感情が恋である事も、ジゴラは知っていた。

 竜そのものであるハズのクイーンギドラであるが、ジゴラの目にはこの世のどんな女性よりも可憐で美しく、それでいて愛おしく思えた。

 ………身体を重ねたというのもあるだろうが、ジゴラの持つ怪獣の肉体に意識が引っ張られ、同化している。ようは人間だった頃の残影がなくなりつつある証拠である。

 

 ………キュルルッ!?

 ………ガルルッ!!

 

 してそれは、性的趣向だけでなく生物としての側面にも現れた。

 クイーンギドラも気づいた。いわゆる虫の知らせ。

 ………遠くに感じる敵意、それが迫っていると怪獣の本能が告げていた。

 

 

 ***

 

 

 結晶城(クリスタルキャッスル)の組織としての頑強さは、勿論クイーンギドラの規格外の強さもあるだろう。

 が、一番の理由は組織を形成するクリスタラック達の兵士としての練度の高さだろう。クイーンギドラの劣化版とは言えある程度の重力操作能力と飛び道具の引力光線。そして四肢から繰り出される格闘能力の高さは、別の映画に例えるなら理力を操る戦士(ジェダイ)の部隊とも言える勇猛さだ。

 

『クケケケケ!!弱い!弱いでしかしぃ!!』

 

 そんなクリスタラック達を持ってしても、赤の軍勢(スカーレットレギオン)から差し向けられた二体の怪獣は恐ろしく強く、結晶の都市を囲む防衛戦を突破されようとしていた。

 

『やっぱ一方的な殺しは楽しいのう!お前もそう思うやろ!』

 

 その「ナーイギガ」という怪獣は、アメコミに出てくる緑色のミュータントという言葉が相応しかった。

 頭のない人体のような緑の身体に、腹部分に裂けた口が嘲笑うように走り、腕にはテリジノサウルスのような長い爪が光る。

 数体のクリスタラックを切り裂いたであろう爪は返り血で赤く染まっており、裂けた口からはゲラゲラという冒涜的な笑いが撒き散らされていた。

 

『我、ただ任務遂行するもの、なり』

『へっ、なんやつまらんのう!』

 

 対する「アミルドジ」は戦いを楽しむナーイギガと違い、粛々と身体のレーザー砲を使い機械のようにクリスタラック達を作業感覚で焼き払っていった。

 そう、アミルドジは機械の怪獣だ。モアイ像を思わせる人面のような巨大な顔に四脚獣の身体をつけたような姿の、全身が機械のロボット怪獣。故にその攻撃手段は、脳とセンサーと武器庫を兼ねた巨大な顔面に内蔵したレーザー砲とミサイルという移動砲台スタイル。

 

 この二体、ゾゲランやゴロンバと並んで赤の軍勢(スカーレットレギオン)の中核を成す幹部怪獣であり、共に数え切れない敵兵を葬った将。

 迎撃するクリスタラックを次々と倒していく姿は、今までは適当に兵を送っていたレッドモンスが、ついに本気で結晶城(クリスタルキャッスル)を陥落させにきたという事が伺い知れた。

 

『カァ〜ッ!このコンペイトウもどき共の相手も飽きたで!もうちょう骨のある相手はおらんかのう!ケケケ!』

 

 足元に倒れるクリスタラックの一体を踏みにじりながら、ナーイギガは腹の口から冒涜的に嗤う。それすら、まるで子供が退屈を紛らわすためにサッカーボールを蹴飛ばすようで、必死に戦い倒れたクリスタラックへの敬意など一欠片もない。

 ………して、運命の女神はそんな尊厳を踏みにじるナーイギガのお願いに応えてやる事にした。じゃあ骨のある相手をぶつけてやると。

 

『ケケケ………ケェ!?』

 

 ボウッと、突如噴射された緑色の炎が、その圧力によりナーイギガを吹き飛ばし、踏みつけられていたクリスタラックを助け出した。

 既に大ダメージを受けていたクリスタラックは立ち上がれなかったが、地面に突っ伏した自身の頭蓋骨越しに聞いた。ズシン、ズシンとこちらに近づいてくる援軍の足音を。

 

 ギャエエェーーーーン!!

 

 いつも闘技場に入場する際、彼は咆哮で周囲を沸かせるのが「癖」だった。それをしてやるのは、赤の軍勢(スカーレットレギオン)であるナーイギガとアミルドジに教えてやるためだ。

 "俺が来てやったぞ"と。

 

『顔を合わせるのは初めてだったな、クソッタレ共!』

 

 ジゴラ出現。結晶の大地を揺らし、地球生の最強怪獣は再び戦場に舞い戻った。今度は生き抜くためでも、見せ物としてでもなく、縄張りを守るべく立ち上がった一体の戦士として。

 

『ケケケ!貴様がジゴラかァ!!』

『我、目標を殲滅する、なり』

 

 ビリビリと大気を震わす咆哮からその実力を読み取った二体であるが、ナーイギガは恐れる所か爪をシャラシャラと喜ぶようにこすり合わせ、アミルドジはその電子頭脳でジゴラの身体能力をピピピと読み取っている。

 ………そも、彼らの使命は結晶城(クリスタルキャッスル)の陥落。当然、そちら側についたジゴラと戦う事など想定済み。

 

『愚かモンがァ!!偉大なるレッドモンス様に日々の生活を保障してもらったくせに裏切るとは!!ジゴラ!お前は薄情者の蛆虫やァ!!』

 キィカァーッ!!キキキキ!!

『一方的に拉致して剣闘士にしたくせにほざくな!!俺は最初からお前らの味方になったつもりはない!!』

 グルルルッ!!ギャエエッ!!ガァ!!

 

 ジゴラとナーイギガによる超音波(エコロケーション)による罵倒の応酬。ナーイギガはジゴラを怒らせようと煽るが、ジゴラは乗らない。

 

『ならここで始末したるわ!!死ねぇジゴラ!!』

『来い、外道が!!』

 

 ナーイギガが、それまで数多の敵を斬り殺してきた爪を構え、身軽な身体で飛びかかるかのようにジゴラに向けて走る。

 ジゴラも迎撃すべく進撃し、ズシンズシンと大地が揺れる。

 互いに互いを殺そうと駆ける両者の距離は地響きと共に徐々に縮まる。1000、900、800、700、600m ………やがて二体は、相撲のようにがっぷり四つ

 

 どごぉ

 ピギィ!!

 

 する事はなかった。細い四肢を持つナーイギガはいわばライト級ボクサーであり、どっしひした体型のジゴラとは当たり前であるが体格とパワーに歴然の差があった。

 そんなジゴラの全力のタックルを受けたナーイギガはピンボールのように飛び、背後にあった結晶の建造物に激突した。

 

 ………再度言うが、「逆三角形は三角形には勝てないのだよ♡」という事であるッ。

 

『わ、わああ!なんや!なんやくんな!』

『煽ってきたのはテメエだろ!逃げんな卑怯者!』

 

  その場のノリで相手のノリに乗ったナーイギガが無謀な押し相撲対決に無様な敗北を晒した時も、アミルドジは冷静に計算と分析を続けた。

 ジゴラの一挙一動と闘技場でのジゴラの戦闘データを組み合わせ、分析し、予想する。それで、ジゴラが次にどう動くか?この攻撃を受けた際にどんな行動に出るか?のおおまかな予想がついた。

 

『我、計算する、なり』

 

 ………アミルドジは、サイバトロンと呼ばれる機械文明の星が、防衛のために建造したロボット怪獣兵器の一体。

 当然ながら最高水準の電子頭脳を搭載しており、怪獣の動きを予想して攻撃するなど造作もない。

 ガシャンガシャンと巨大な頭部に仕込んだミサイルランチャーやレーザー砲台が顔を出し、逃げ回るナーイギガを追うジゴラへと向けられる。

 

『我、攻撃する、な………』

 

 後は攻撃命令を出すだけとなったその時、アミルドジの計算機に異常が起きた。ノイズと共にキラキラした光が頭上から降り注いでいた。

 ………そこでアミルドジの電子頭脳は、この結晶都市を作り上げた主が機械に悪影響を与える電磁波を発している事を思い出したが、気付いた時には頭上から二首の青龍・クイーンギドラが舞い降りて来ていた。

 

 キィィーーーロロロロッ!!

 

 ぐしゃあ。クイーンギドラの鋭い爪がアミルドジの頭に食い込んだ。装甲を貫かれ、内部機関が破壊される中パニックを起こしたかのようにアミルドジはガガガガピピピピと狂ったような電子音を発し続ける。

 

『ほれ、ジゴラ!!』

『オッケー、クイーン!!』

 

 一方ナーイギガを捕まえたジゴラ。両者は捕らえた敵を、其々に向かってぶんっ!!と投げつけた。

 アミルドジとナーイギガは勢いよく投げ飛ばされ空中で激突!

 

 キキィ!!

 ガガガピピ!!

 

 ………不運というか、自業自得な話。

 確かにナーイギガは多大な戦果を挙げた将軍である。しかしその実は、アミルドジの砲撃から生き残り、弱った敵をいたぶり殺しただけというのが実態。

 常にアミルドジと組んで行動していたナーイギガにとって、その場のノリで相棒と距離を取り、実力を勘違いして格上であるジゴラに向かっていった時点で運は尽きていたのだ。

 

 両者に向け、ジゴラのガンマブレスとクイーンギドラの引力光線が炸裂。

 どぉっと轟音を立てて二体の将軍は爆発四散した。多くの命を遊び感覚で散らしてきた赤の軍勢(スカーレットレギオン)の将の最期は、愚行の果ての自滅であった。

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