単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#7

 ついに直接対峙したジゴラとレッドモンス。体格こそレッドモンスのほうが遥かにあったが、軍勢の多くを失い自身の拠点も落とされた今、それはもう驚異と言える程ではなかった。

 

『軍勢は壊滅、拠点も陥落………もうお前は終わりだ!さあ、降参するか?ええ!?』

 

 ジゴラが投降を薦めたのは、元人間が故の人道的な理由と、戦場におけるマナーから。

 しかし一番の理由は、レッドモンスというプライドを煮詰めたような奴に対して、情けをかけるという事が一番の侮辱になるというのが理由であった。

 その証拠に、レッドモンスは怒りで身体を震わせて………

 

 キキキキ………キキキキキキキ!!

 

 ………笑っていた。唸り声が笑っているように聞こえるとか、そんなものでは断じてない。ジゴラの感じたエコロケーションも念も、レッドモンスが笑っていると認識させた。

 

『………何がおかしい』

 

 ジゴラが問うてもレッドモンスはケタケタと笑っていた。とても自身が追い詰められているという自覚があるとは思えない。

 

『おかしいのは貴様らだ………自分が追い詰められたとも気づかずに』

 

 頭がおかしくなったとか、ヤケクソになったとかでは断じてない。ジゴラの第六感は告げていた"こいつにはまだ奥の手がある"と。

 

 ず、ば、しゃ、あ

 

 一瞬の出来事であった。レッドモンスの尻尾が無数に分裂し、その場にいた赤の軍勢(スカーレットレギオン)の怪獣達を貫いていた。

 

『ひ、ひぎぃ………!?』

『レッドモンス様………どうして………!?』

 

 その中にはゴロンバとゾゲランの姿もあった。主君の為に命を捨てる覚悟で戦い、同士討ちまでした自分達を躊躇なく貫き殺したレッドモンスは、困惑する二体の将軍、そして怪獣兵達に告げる。

 

『私を怒らせたお前らが悪いのだ、役立たずめ。最後ぐらい少しは私を怒らせないようにしろ』

 

 吐き捨てるかのように告げた直後、ゴロンバ、ゾゲラン、そして怪獣兵達はミイラのように痩せこけ、その命を吸い取られてゆく。

 

『クイーン!これは………!』

『こやつ、仲間の生命エネルギーを喰らうておる………なんとおぞましい………!』

 

 クイーンギドラもこの光景を前にすれば、流石に先程までの余裕さを保つ事はできなかった。

 ドクン、ドクン、ドクンと脈打つレッドモンスの尻尾が、赤の軍勢(スカーレットレギオン)の命を喰らい、その悪魔のような身体をボコボコグニュグニュと膨れ上がらせる。

 

『後悔させてやる、私のこの姿を見た事をな………!!』

 

 ………中で何かが蠢いている。

 そうジゴラの頭に過った直後。

 

 『ズビダラ・ガロガ!!』

 

 レッドモンスの起源の持つ言語だろうか?呪文のような言葉と共に、レッドモンスのボコボコと歪に膨らんだ身体は破裂。爆炎が周囲に広がった!

 

 ギャウウ!?

 キュロロッ………!?

 

 広がるエネルギーの奔流による圧から、踏ん張り、体勢を維持するジゴラとクイーンギドラ。

 何が起きたか理解できないジゴラであったが、爆煙の向こうからズシンと巨大な足が踏み出すのを見て理解した。

 あのレッドモンスは、この姿を隠すためのサナギや卵の殻に過ぎなかったのだと。

 

 ゴゴォオオオン!!

 

 地を震わせる咆哮と共に現れたのは、血のように赤い体表をした巨大な巨大な怪獣だった。

 悪魔のような3本の角に、翼のような背中の器官。どっしりと構えた姿は王道的な怪獣の姿であるが、その全高はジゴラの倍近くはある200m。

 ジゴラはおろか、クイーンギドラさえゆうに見下ろすその姿は、まさしく魔王。悪魔の軍団赤の軍勢(スカーレットレギオン)の頭領に相応しい、禍々しくそして威厳のある姿をしていた。

 

 ………ジゴラは知らなかったが、中国のモス寺院で発見された壁画に描かれた正体不明の魔獣「馬銜(バガン)」という存在によく似ていた。

 

『我が名は魔恐獣バガン!!この宇宙を統べる偉大なる王の名は、バガンなりィィ!!』

 

 レッドモンス改め「バガン」は天高く咆哮し、頭部の角から電流のような光線を挨拶代わりに四方八方へと放出する。文字通りの光線の雨あられに防戦一方のジゴラとクイーンギドラ。

 

『なんじゃと!?これは引力光線ではないか!?何故ヤツが………!』

 

 クイーンギドラが光線のクセから、それが自身も使う引力光線である事に気付いた。

 何故「一族」の特権であるこの技をバガンが使えるのか?そんな疑問が浮かんだが、クイーンギドラに深考する時間は与えられなかった。

 

 キュロォ!?

 

 バガンの引力光線がクイーンギドラに直撃。

 二発、三発と連続で受けた光線は防御フィールドの展開すら許さず、全身の発光が弱々しくなったクイーンギドラは、そのまま地面へと落下してゆく。

 

『クイーンをやったのか………!?てめえ!!』

 ギャアアアアン!!

 

 ジゴラ、激昂。尾を地面に叩きつけて飛び上がり、倍以上あるバガンに飛びかかる。

 肘打ち、裏拳、正拳、テールハンマー回し蹴り。肉体の全てを使った連撃を叩き込むジゴラ。しかしバガンはその全てを腕のみで軽く受け止める。

 

『私が誰か忘れたか!?赤の軍勢(スカーレットレギオン)の王、レッドモンス様だぞ!!』

 ゴゴォン!!

 ギャアアン!?

 

 そして拳の一撃で地面にはたき落とし、どごぉん!という衝撃がジゴラに襲いかかる。

 強烈な痛みで反応が遅れたジゴラに、バガンはその巨大な顎で噛み付く。そして草食恐竜をくわえ、今まさに喰らおうとするティラノサウルスがごとく、ジゴラを宙ぶらりんに持ち上げる。

 

『このバガンの姿を見た褒美だ、貴様は直接エネルギーを喰らうてやろう………!』

 

 バガンはジゴラの生命エネルギーを吸い取っていた。噛みついた部分から緑色のエネルギーの光がバガンに向けて流れてゆき、ジゴラの腕が力なくぶらりと垂れる。

 

『これは中々に美味だな!?今まで私を怒らせてきた報いとしては褒美をやらねばな!このバガンの血肉となる褒美をなぁ!!』

 

 嗤うバガン。命の火が今にも尽きようとしているジゴラ。意識が朦朧とし始めたらしく、目から光が消えて眠るように瞼が閉じてゆく。

 このまま、ジゴラの全ては終わってしまう。そう思われた、その時。

 

『………させぬぞ』

『ムッ?』

『させぬと言うたのじゃ。それは貴様のオヤツではない、(わらわ)の愛しの旦那様じゃ』

 

 ヨロヨロと立ち上がる影が一つ。それは青い美しい身体を傷だらけにした、クイーンギドラ。

 元の美貌が掠れたその姿を嘲笑うように、バガンはジゴラを銜えたままゲッゲッゲと嗤う。咥えたままなのは、クイーンギドラが攻撃を仕掛けてきた場合ジゴラを盾にしようと考えたからだ。

 

『どう足掻こうが今更!貴様一体に何ができる?』

『まあムリじゃろうな………(わらわ)だけでは』

 

 クイーンギドラに光が満ちたかと思うと、次の瞬間彼女の二つの口から放たれる白い引力光線。それはバガンの巨体………ではなく、なんとジゴラに直撃する。

 

『どこを狙っている!?貴様の愛しの旦那様に直撃だぞマヌケがァ!!』

 

 嘲笑うバガンであったが、異変はすぐに現れた。

 自身が口から摂取しているエネルギーの質が変わったのだ。それに、ジゴラに直撃しているハズの引力光線であるが、爆発は起きていない。それ所か、ジゴラの身体に吸い込まれ浸透していくように見えた。

 

 ………クイーンギドラが引力光線を当てているのは背中だ。

 これまでゴジラシリーズを履修していた諸君なら、これが何を意味するか解るだろう。

 

 ………ばちぃっ!!

 

 突如、ジゴラを咥えていたバガンの口でスパークが起きる。エネルギー吸収が許容量を超えたため、逆流が起きたのだ。

 たまらずジゴラを吐き出すように、バガンが顎を離した。ジゴラはそのまま落下し………。

 

 ………ずしんっ!!

 

 大地を踏みしめ、しっかりと降り立った。先程まで生命エネルギーを吸い取られ力なく項垂れていた怪獣は、逆に生命エネルギーに満ち溢れた姿で再び立ち上がった。

 ジゴラ復活。その燃える瞳は、状況を飲み込めないバガンを睨みつけていた。これから狩る獲物を捉えた猛禽のように。

 

 ………ギャアアン!!

 

 鋭い爪が狙いを定めたのは、眼前にあるバガンの足。ジゴラの放った手刀はバガンの足を貫き、その骨格ごとドグチュアッ!!と粉砕する。

 直立する巨大生物の弱点、それはその巨体を支える足だ。

 

 ゴゴォン!?!?

 

 紫の体液を撒き散らしながら足が砕け、バランスを崩したバガンは崩れるように転倒する。

 しかし、それを見逃すジゴラではない。倒れた所を更に掴みかかり、投げ飛ばす。

 

 ゴゴォン!?!?

 

 まずは一発。バガンの身体が地面に叩きつけられ、轟音と共に砕けた岩と砂塵が周囲に飛び散る。

 バガンが立ち上がろうとした所に、さらに追い打ちをかける。今度は尻尾を掴み、そのままもう一度投げ飛ばす。

 

 ゴゴォン!?!?

 

 再び地面に叩きつけられるバガン。ジゴラは休む間もなく、逆方向の脚に飛びかかり、踵落としのいちげきでどがちゅあと粉砕する。これでバガンはもう立ち上がれない。

 最後に再び尻尾を掴み、ハンマー投げのように回転し、身長体重共に倍以上あるバガンの巨体をブォンブォンと軽々振り回すジゴラ。

 そして空に向かい、全力で投げ飛ばす。バガンの200mの巨体が空中に舞い上がった。が、そこで終わりにするジゴラではない。

 

 背びれにエネルギーが充電される。が、いつもの放射火炎(ガンマブレス)ではない。

 より高純度・高圧縮・高出力化したエネルギーはガンマ線と炎がより圧縮化された光の束となり口から放出され、オレンジ色に変色した熱線砲(ガンマバースト)となりてバガンに直撃。そのまま、200mの巨体を上へ上へと押し上げてゆく。

 

 ………名実ともに、それはゴジラ族の代名詞たる放射熱線。

 死体人形のまがい物たるジゴラが、クイーンギドラの力を借りてではあるものの、怪獣王ゴジラの高みに届いた瞬間であった。

 

『バカな!?このバガンが………!?』

 

 支配地である惑星から押し出され、強さも自分以上の者に否定され、熱線により肉体を分解されながら宇宙空間へと飛ばされるバガンは、自身が敗者であるという事実を最後まで理解しようとしなかった。

 

『このバガンが!?………う、わあ、ああ!!』

 ゴゴォオオオン!!

 

 ど   お   ん

 

 

 ***

 

 

 惑星ヴォルトの衛星軌道にまで押し上げられたバガンは、内の傲慢さと欲深さがついに破裂したかのように、体内のエネルギーの暴走により巨大なエネルギー爆弾となりて爆発した。

 皮膚は燃え尽き、身体は弾け、昼間の地表からも確認できる邪念の大玉花火は赤の軍勢(スカーレットレギオン)の終局を彩る一枚絵となった。

 

『あれは………!』

 

 赤の軍勢(スカーレットレギオン)本国をようやく制圧し終えたジャンコングも、地上からそれを見た。

 市民も、密林の戦士団(ジャングルウォリアーズ)も見た。戦いの終わりを告げる炎の華を。

 そして、それを打ち上げた者は誰か。

 

『………ジゴラがやったんだ』

 

 遠く、結晶城(クリスタルキャッスル)から勝どきのように響く咆哮は、惑星ヴォルトの戦乱の時代の終わりを告げるかのようであったという。

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