単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です 作:アイアイホイホイおさるさん
戦いの時代は終わった。
惑星ヴォルト最大の陣営である
やがて各陣営は争うのではなく互いに協力し、支配ではなく連合による共和による統治。怪獣民主主義時代が幕を開けたのだ。
そして、邪悪な支配者を倒した怪獣ジゴラは………。
『………本当にやならきゃだめ?』
『ダメに決まっとるじゃろ』
この日のために用意してもらったマントを身に纏ったジゴラは、これからの式典に乗り気ではない所をクイーンギドラから喝を入れられていた。
『ソナタ、一応はこの星の国王なのじゃからビシッとせんと示しがつかんじゃろう』
『国王って言っても象徴じゃないか。実際の最高権力者は
………あの戦いの後、レッドモンスを打倒し怪獣達を邪悪な支配者から救ったジゴラは当然ながら祭り上げられ、統一された惑星ヴォルトの怪獣達の初代国王に就任した。
と言ってもあくまで「惑星統一の象徴としての国王であり、政治に関与できるような権力はほとんど無い」という、日本人には馴染み深いスタイルの王様であるが。
そして今、終戦と惑星統一国家樹立から一年を記念した式典にて、ジゴラは国王として演説を行う事になった。
『後の他の代表との話は
『うーん………』
とはいえ人間だった頃もただの一般市民であったジゴラに、象徴とはいえこれから一国ならぬ一星の王様と言われても乗り気になれないのもまた事実。
故に、これから大事な式典だというのに乗り気になれないジゴラを前にしたクイーンギドラは、翼を口の前に持ってきて、口を開けて舌をチロチロさせて一言。
『今日の式典頑張ったら"これ"じゃぞ♡』
『………よし、やろう!』
我ながら単純だと思いつつも二重の意味で奮い立つジゴラ。
そんなジゴラを「ういやつういやつ♡」と微笑ましそうにキロキロ笑って見守るクイーンギドラ。
意を決したジゴラは慣れないマントを羽織り、演説会場である
『王様!』
『王様ー!』
『万歳!王様万歳!!』
出迎えたのは、この日のために広場に集まった怪獣達。
若い怪獣がいた、虫のような怪獣がいた、歳を取った怪獣がいた、爬虫類のような怪獣がいた、鼻の長い怪獣がいた。多種多様な怪獣達が、ジゴラの姿に歓声を上げていた。
自分が彼らを守り抜いた。自分がこの平和を作った。そう考えるとジゴラは誇らしさと温かい感情で心が満たされて行った。
喜びを噛み締め、ジゴラは演説台に向けて一歩を踏み出した………
………その時だった。ジゴラを乗せてこの星に不時着した恒星間航行ロケット・パンナトルテのブラックホールエンジンが再始動し、暴走したのは。
***
………その「黄金龍」は、自身のテレパシーが無事遠方の惑星に届き自分の思った通りになったと、南極の氷の下で感じ取った。
最終決戦で力を使い果たし休眠している最中ではあるが、「黄金龍」は星の彼方から邪念を………人間の持つ様々な欲望に起因する情動の波感じ、僅かに覚醒した。
そも、遠くの星で怪獣の力を駆使した人間がいる事を
微睡みの中で「黄金龍」は見ていた。ヤツが、借り物のゴジラの力を使い暴れまわる様も、欲望のままに力を楽しむ様も。
そいつからすれば与えられた力を好きに使っているだけだろうが、「黄金龍」からすれば、矮小な人間が不相応な力を手に入れて調子に乗っているようにしか見えなかった。
故に天罰を下す事にした。
その「死体人形」が乗ってきた巨大宇宙船。旧ソ連が開発した、人工ブラックホールを動力とする恒星間航行船・パンナトルテ。地表に不時着したまま放置されていたそれを、一種のサイコキネシスで地球から遠隔操作したのだ。元より宇宙を住処とする種族が故にこういう事は慣れているし、その為の「ウラワザ」も知っている。
時空間の歪み、恒星のフレア、または廃棄された他文明の人工衛星など、サイコキネシスの中継地点に使えるものを経由すれば………この通り。
細かい動作をさせる必要はないのだ。ただ、再起動させるだけ。元より壊れた機械が故に制御は利かず、誰も触らないため止めるものなどおらず、後は………。
………やがて、新しいブラックホールが宇宙の彼方に生まれた事を「黄金龍」は感じ取った。奴がどうなったかなど考える必要もなかった。自分のような宇宙慣れした怪獣ならまだしも、地球しか知らないであろうあの「死体人形」がブラックホールに飲み込まれてどうなるかなど。
使命は果たしたと確信し、「
この地球に再び邪念に満ちた文明が蔓延った時に、裁きを下すために。
***
………ある所に、一人の少年がいた。
日本の片隅にある町で生まれたその少年は、おおよそどこにでもいるような平凡な少年だった。
人並みの善意と、人並みの欲望と、人並みの夢を持って青春を謳歌する、学園ラブコメなら主役を張れそうな善良な少年だった。
しかし、この物語は怪獣映画だった。
少年は原発を破壊すべく上陸した「王」により、家族、友人、幼馴染もろとも叩き潰された。
大いなる
あれから、どれだけの時間が流れただろう。
少年は「王」を殺すために作られた死体人形に乗り移り「ジゴラ」となった。
そして自分を殺そうとする怪獣達と戦い疲れ果て、「王」の信奉者達の罠にハメられて地球外へと追放された。
追放先の惑星ヴォルトに降りたジゴラに待っていたのは、やはり戦いだった。
だが戦いの中でジゴラは友と出会い、そして愛するものとも出会った。クイーンギドラ。彼女と一緒にいる間は、苦悩も何もかも忘れる事が出来た。
そして惑星を支配していた巨悪を打ちのめし、新たな王として迎え入れられた。これから、ジゴラは安心と安らぎの中、クイーンギドラと共に生きていく。
………はずだった。
光も音も魂すらも飲み込む重力の渦の中、ジゴラは粉微塵になって砕け、バラバラになった。
惑星ヴォルトに発生したブラックホールの中へと、思い出も、何もかもが消えていった。
「ああ、やっぱりこうなるのか」
ジゴラという怪獣の肉体を得ても、少年はどこまでも人間だった。
ブラックホールという重力により時空すら歪む力場に砕かれながら、空間と時間に溶けてゆく魂に色々な情報が流れてきた。
「ふざけるな」
だから少年は知っていた。
誰がこんな事をしたのかも。
「ふざけるな」
何故、世界はそのような選択をしたのかも。
それは少年が愚かにも怪獣の力を手にし、振るった人間だったから。
未分不相応の借り物の力を振るう愚者は決してヒーローになれず、手痛いしっぺ返しを必ず食らう。世界はそのように出来ていた。
だからこうなった。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな」
無論、納得できるはずがない。納得できるわけがない。
どこまでも、いつまでも、
それを「
それを「お前たちヒトカスは大いなる怪獣に踏み潰されるだけのムシケラだ」と言われて納得できる者など、頭がおかしい上に人でなしの怪獣オタクだけだ。
「ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるなぁぁ!!!」
そんな一部の狂信者しか納得しないような理屈で人生を踏み潰されて、怒りを覚えるなというのが無理な話だ。
「何が怪獣だ!何が
不平、不満、憎悪、怒り、憎しみ、義憤。ありとあらゆる怒りが噴火のように噴出していく。
それは、怪獣に全てを奪われ続けた少年個人の怒りではない。そこには、幼馴染も、親も、友人も、防衛軍の兵隊達も、惑星ヴォルトの怪獣達もいた。そこにあったのは、画面の派手な演出の向こうで失われてゆく生命の嘆き。
「それが世界の意思だってんなら俺は全てを否定してやる!!奴らに可愛がられる怪獣も、それに尻尾を振る人間も、全員殺してやる!!大自然の代弁者を気取った被爆クリーチャー共に自分達が踏み潰してきた側の痛みを叩きつけてやる!!ゴジラもモスラもラドンもキングギドラもトーホーもレジェンダリーもマイケルドハティも!!どいつもこいつも!!
やがて、それは異変となってこの世界に帰ってきた。
惑星ヴォルトを飲み込んだブラックホールが、逆方向へと回転を始める。時空が歪み、空間は捻じれ、重力の坩堝に飛び散ったハズの全てが再収縮し、宇宙で最も重力のある天体を内側から反重力が破壊してゆく。
宇宙の
それは。
………ピシッ
………バキッ
バ リ ィ イ ン
空間が"割れた"。
一度"こちら"の
割れた向こうから帰ってきた「それ」はジゴラに似ている気がした。しかし、再生の際にクイーンギドラの因子を取り込んだ結果、体表は青黒く変化し、胸から腹にかけては血をまき散らしたかのように赤い。
両肩からは重力を操る結晶が伸び、同じ結晶で出来たゴジラのそれに似た形状の背鰭が背中を覆っていた。
そして皮肉にも、頭には王冠のような黄色いツノが生えていた。王国を失った今、ただの飾りにしかならない王冠が。
『………ああ、わかっている』
愛した
クイーンギドラは何も返さなかった。だが、そこにいるという事は解った。「かつてジゴラだったもの」には、それだけで十分だった。
『さあ始めるぞ"みんな"、
世界を壊すべく再臨したまがいものの怪獣王は、その内に流れる膨大な宇宙エネルギーを感じて嗤った。
これなら殺れると。幸せを奪っていったこの世界のすべてを破壊できると。
ビギャアアアアッ!!
狙いである地球の座標を睨みつけたその怪獣の、泣き叫ぶかのような甲高い咆哮が漆黒の宇宙空間に響き渡る。
破壊神が降臨し、彼のプロローグと人造巨獣・ジゴラの物語は終わりを告げた。
後に「スペースゴジラ」と呼ばれる恐るべき怪獣が、産声を挙げた瞬間である。