単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#4

 ………かつて「王」による大粛清があった。

 

 何故「王」がそのような行動に出たかは分からない。だが兎にも角にも「王」はある日突然、一部を除いた他の怪獣を殺して回った。

 "おまえから邪念を感じる"とだけ言って。

 

『このままじゃ皆アイツに殺されるぞ!!』

 

 命からがら逃げ出した怪獣達は地下空洞の片隅に集まり、今後の自分達の身の振り方について話し合っていた。

 エコロケーションを使わず直接顔を合わせているのは、王に聞かれる可能性があるからだ。実際、ムートーの(ツガイ)がエコロケーションを傍受されて殺されている。

 そして、残念ながら彼ら怪獣には通信傍受を防いでくれる便利なアイテムはない。

 

『他の怪獣はおろか、自分の同胞まで手にかけている………』

『そのくせ一部の怪獣は殺さないんだ、なんでや?』

『俺たちが環境破壊してるからなんだとよ、ただ飯を食ってるだけで!』

『同じぐらい食ってるやつなんかいくらでもいるのに!』

 

 ただ王の粛清対象にも法則があった。一部の怪獣は殺さず見逃しているのだ。

 しかし、その基準も定義も不明だった。

 端から見れば気まぐれで殺し、気まぐれで生かしているようにしか見えなかった。

 

『地下に逃げた所で追いつかれるだろうな、どうしたら………』

『あ、あの………』

 

 そんな中、一頭の怪獣が申し訳なさそうに名乗り出た。

 

『人間になる、というのはどうでしょう』

『なんだと?』

 

 怪獣達も人間について知らないわけではない。

 たまに上陸すれば出てくる、現在地球の生態系の頂点に立っているちっぽけな生き物たち。

 王を含め、踏みつけて殺しても何も思わないムシケラという認識の者も多いが、そう思っていると大概痛い目を見る。そういう認識だ。

 

『人間になれば、群れの中に紛れて生きていけば王の目も晦ませられますよ』

『そうかも知れんが、そんなどうやって………』

 

 その怪獣の提案はたしかに効果的と言えたが、荒唐無稽である事もまた事実。

 そもそもこの二次創作(ものがたり)の原作はSFモンスター・パニックであり、そんな魔法の類のようなものはリアリティライン的に存在しない。

 ………ハズだった。

 

「その点に関してはご心配なく」

 

 地下に響く声を聞き、怪獣達は驚く。それは唸り声でもエコロケーションではなく、人間の声帯から発せられる日本語だったから。

 

『に、人間!?』

『なんで人間がここにいるんだ?!』

 

 その声の主も、日本人男性の見た目をした人間の男だった。

 ここは高圧の地下世界。生身の人間がおいそれと入れる場所ではなく、怪獣達の知る限りでは今の人間に地下世界に到達できる技術はないという認識。

 そう、こんな所に人間などいるハズはないのだ。

 

「落ち着いてください皆様、私はあなたの味方ですよ」

 

 その、やけに胡散臭い雰囲気の男。

 怪獣達の視線が自身に集中した事を確認すると、男は懐から何か刺々しい………針の付いたメリケンサックのような物を取り出し、そのトリガーを押す。

 

『おおっ!こ、これはっ………!?』

 

 するとどうだろう。シュパパパパァーン!と赤い光が広がったかと思うと、男はみるみるうちに変貌し、巨大化。

 気がつけばちっぽけな人間の男は、人型のコウモリを思わせるような異形の黒い巨人へと変貌していた。

 

『あ、あんた怪獣だったのか………』

『厳密には外星人なのですが、まあ広義の意味では怪獣と言ってもいいでしょう』

 

 背丈もこの場の怪獣達と目線を合わせられる位にはあり、目に見えて怪獣だと分かる外見である。

 バイザー状の瞳の感情は読めなかったが、あの胡散臭い表情を浮かべているであろう事は態度で分かった。

 

『私は「メフィラス」。私が先程使ったのは「ソウルライザー」と言い、いわば擬態システムです』

『それで人間の姿に………』

『ベースはベーターシステムと呼ばれる物で、本来は構成元素の改変と巨大化・縮小しか無いのですが、有志により改良・改造が進み、私の愛用品よりも小型化、並びに擬態用の義体(ばけのかわ)を使った人間態の獲得を………つまり、人間の姿と怪獣の姿を使い分ける事ができる、素敵ガジェットという訳です』

 

 その「メフィラス」を名乗る男が持ち込んだその「ソウルライザー」なるガジェットは、確かに彼等怪獣の目的である人間への擬態を可能にする夢のアイテムである。

 が、そのようなご都合主義な物が存在する事もそうだが、何よりそれを提供するというメフィラスの提案が、怪獣達にはどうにも信用できなかった。

 

『………何が望みだ?』

『望み、ですか………』

 

 怪獣の一体がメフィラスに尋ねる。かつて「王」と死闘を演じたというその怪獣は老いてはいたが、確かな威圧感を放ち、明言こそしないものの「下手な条件付きの援助ならお前を殺す」という圧を発していた。

 

『………私共は、今の地球の状況を快く思っていません。貴方方の言う「王」、つまりゴジラやキングギドラによって完全に人類が駆逐されてしまう結末だけは回避したいのです』

『………俺達の生存を望んでる奴等がいるってワケか?』

『更にいうと「ゴジラやキングギドラと戦える存在の生存を」ですね。私もですが、地球の自然のみならず、人類や文明という存在を愛おしく想う者もいるという事です』

 

 メフィラスの言葉を見るに、「王」達による圧政を良しとしないのは彼ら地球の怪獣だけではなさそうだ。

 どこまで信用していいかは解らないが、今の怪獣達の置かれた状況に後はなく、現状メフィラスやそのバックにいる者達と目的と利害が一致している以上は、手を組む以外の選択肢はなかった。

 

『悪い話ではないでしょう?私と一緒にこの地球(ほし)の為に働きませんか?』

『………わかった、手を組もう』

 

 反対する者はいなかった。この場の怪獣達との同盟が成立した事を確認し、メフィラスはその10本の指を広げた。

 

『"呉越同舟"………私の好きな言葉です』

 

 瞬間、ソウルライザーの眩い光が怪獣達を飲み込んだ。

 そして………。

 

 

 ***

 

 

 恐らく、何か催眠ガスのような物を吸わされたのだろう。ベラは内側から鳴るような頭痛と共に目を覚ました。

 気がつけばそこはテントの中でなく、地下都市………文明崩壊前にアメリカ政府主導で作られたらしい広大な地下施設跡で、眼前には浸水で出来たであろう地底湖が広がり、打ち込まれた丸太に拘束されたベラの周囲でリーアの里の女達が松明の光に照らされながら騒いでいる。

 

「………何だいこりゃ?奇祭か?」

 

 ベラの視線の先では、まるで文明未開の地の部族がごとく、女達が酒盛りをしながら訳の解らないジャーゴンを叫びながら喚いていた。

 更に見れば、ゲイバーで見るようなほとんど布面積のない服を着た少年達が踊る様を見て「素敵」「推せる」と言い出す者もいた。

 ベラの価値観と思考からすれば、それは「奇祭」としか表現できなかった。

 

「………ロジャーは?」

「ひぐっ………ひぐっ………」

「ああっ!!」

 

 一緒に寝ていたロジャーはどうしたのかと探すと、すぐ見つかった。

 ベラの隣で同じように縄を使って丸太で拘束されていた。

 踊り狂っている少年のような露出の高い服を着せられ、丸出しの肌には生傷や切り傷、打撲跡が痛々しく残っていた。

 

 自身が眠っている間何をされたか?そう思うとベラの内に怒りの炎が燃え上がった。が、ベラはそれを抑える。今の状況を分析した結果、ある推理に至ったから。

 ………この、リーアの里に生じる矛盾点。その答えが。

 

「皆さん、この者達は罪を犯しました」

 

 奇祭広がる地下街に聞こえたのは、マイクで響く女の声。

 見れば、里長が相変わらずの能面のような笑顔を浮かべながら、この場に集まったリーアの里の人々に呼びかけていた。

 

「この男、ロジャーは精通を迎えました。これは女性に性的まなざしを向けているから起きる事。そのような事は絶対に許されません」

「そうだそうだ!」

「気持ち悪い!」

「子を持つ母親として許せない!!」

「この女、ベラは私達の里に売女のような格好で来た挙句、未成年であるロジャーと性交渉に至りました。そのような事は絶対に許されません」

「そうだそうだ!」

「気持ち悪い!」

「子を持つ母親として許せない!!」

 

 ベラは怒りを通り越して呆れ返った。

 人間はこんな短期間で自身の言動と矛盾した事を言えるのか?と。

 突っ込む気も吐き捨てる気にもなれなかった。言っても無駄だと思ったからだ。

 

「ので、私は二人を大いなる巨神(taitan)への生贄に捧げる事にしました。私も、命を奪う事には抵抗はありますが、悪は許してはいけません。これは、その為に仕方ない行動なのです」

「うおおおーっ!!」

「殺せ!殺せ!殺せええーっ!!」

「死ねえええ!!」

 

 奇祭、ここに極まれり。

 暴力欲求と正義感が混ざり合い、聞くに堪えぬ罵詈雑言が飛び交うが、ベラは聞き逃さなかった。奴らの叫ぶ暴言の中、里長が発した「巨神(taitan)」という言葉を。

 ベラの疑念が確信に変わると同時に、「それ」は物的証拠として現れようとしていた。

 

 ………ズズズズ………

 

 最初、僅かに揺れただけに見えた地底湖の水面。それはやがて大きなうねりとなり、水面を引き裂いて巨大な顔がベラとロジャーの前へと上がってくる。

 

「ひっ………!」

「………ふぅん」

 

 金色の四つの眼が暗闇の中で爛々と輝き、涎を垂らした顎にはサーベルのような牙が松明の光を反射して光っている。

 青い悪魔のような顔と、木や草を青い触手で締め上げて作り上げた太い腕と三本足のゴリラのような身体を持つ、巨大な生物がそこにいた。

 ロジャーは恐れ、ベラは動じない。

 その、神話の世界から現れた悪魔のような異形の怪物・その名を。

 

「偉大なる巨神(taitan)・アムルック!!」

「タイタヌス・アムルック!!」

「タイタヌス・アムルック!!」

 キィーカァァーーッ!!キィルケケェッ!!

 

 "俺はアムルック様だ"と、自らの信徒とも言えるリーアの里の女達のコールに応えるかのように、ネイティブ・アメリカンの神話に登場するドラゴンの名を持つ怪獣「アムルック」が、豚を思わせる咆哮を挙げた。

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