単行本・大怪獣時代は人間に厳しい時代です   作:アイアイホイホイおさるさん

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#6

 バトラの「母親」の幼虫期は30m前後の、怪獣基準では比較的小さなサイズである。バトラはというと5倍の90mサイズの巨体を持ち、「王」とは体格では劣るものの十分取っ組み合いができる、まごうことなき怪獣である。

 対するアムルックはバトラより頭一つ大きい100mサイズで、己の「植物をマインドコントロールする」という能力で手に入れた木や草で形作られた身体と、それらを操る本体である頭から伸びた無数の神経の触手により構成されている。

 

『やはり………魔女でしたか』

『あん?魔女?』

『カカカカカ!有名ですよアナタ、醜い容姿のために女王になれなかった"醜い魔女"………そうですねえ"追放された漆黒姫はやっぱり出来損ないの魔女でした〜世の中そんなに甘くない〜"とでも言いましょうか、カカカカカ!』

 

 えらく饒舌なアムルックが何を言っているか分からなかったが、とりあえずバトラは馬鹿にされているという事は解った。

 しかし、これまで味わってきた………アムルックの言っている通り外見と攻撃性が為に「女王」の座を得られず、種族の異端児面汚しとして同じ巨神(taitan)からも侮蔑されるという分だり蹴ったりな怪獣生(じんせい)を振り返れば、こんなものは子守唄に等しい。

 

『アンタが何を言っているかわかんねーけどさ………一ついいかい?』

『なんです?』

 

 何より興味から聞きたいことがあった。アムルックの性悪ぶりは前々から知っていて、この程度で目くじらは立てていられないと、とりあえずバトラは尋ねる。

 

『………リーアの里をこんなこの世の終わりのような家庭菜園にした理由だよ。こんな事をしてアンタに得があるとは思えない』

 

 アムルックがこのリーアの里にて、里が因習村になるよう裏から手を引いていた事だ。

 少なくともこんな事をして、巨神(taitan)であるアムルックには何のメリットもないハズであるが………

 

『カカカカカ!決まってるじゃないですか!楽しいからですよ!』

『楽しい………?これが?』

『人間が不幸になる姿ほど見ていて楽しいものはない!下手に賢いからほどよく苦しんでくれるし、私はそれを草木を通していつでも、どこでも見る事ができる!生の映画を観ているような最高のエンターテイメントですよ!カカカカ!カカカカカカ!』

 

 ………訂正、メリットはあった。

 前提として、多くの巨神(taitan)というものは読者諸君筆頭の怪獣映画中毒がほざくように、人間など虫ケラ程度にしか思っていない。

 しかし我々人間は………特に幼子に顕著であるが、故意にその虫の足を引きちぎったり、他の動物に食べさせたり、言い方は悪いが理由もなく殺して楽しむ事がある。

 

『アナタが来なければもう少しした後に野菜の供給を止める予定もありましたよ!そうしたら人間どもはどうなるか?カカカカカ!想像しただけで笑いが止まりませんねぇ!カカカカカカ!』

 

 アムルックは"それ"なのだ。

 ましてや、人間という知的生命体が相手だ。対象のリアクションも、それで得られる脳内麻薬も人が虫を殺すそれとは大きく違う。ハマるのも当然だ。

 ………もし、これを読んでいる君がネットの汚い所に詳しいなら、「鬼威惨」と言えば分かりやすいだろうか。

 

『カカカカ………カァ!?』

 キィルケケェッ!?

 

 突如、アムルックの顔面に雷撃のような光線が飛び、吹き飛ぶ。

 語りを遮るようにバトラが放ったのだ。「うるさい」と。

 

『イジメと殺しが趣味のブタ野郎が!酔いしれてんじゃないよ!!』

 ギュゴォォン!!

 

 バトラの血のような目が発光し、雷撃のような光線………水晶のようになった眼球内でエネルギーを乱反射させて放つ「プリズム光線」が放たれる。

 紫の雷のごときそれは、木や草でできたアムルックに対して容赦なく降り注ぎ、爆発し、周囲の森ごと破壊する。

 彼女な「バトルモスラ」と呼ばれる所以である苛烈な攻撃性は、アムルックに反撃を許さない。

 

『この………お忘れですか!私は植物を操れるんですよ!!』

 

 だが次のプリズム光線が放たれた瞬間、アムルックは自身の前の木々を急成長させ、大樹の壁を作り出してプリズム光線を受け止める。

 ………野焼きをした方なら解ると思うが、某携帯獣のように草なら何でも炎で燃えるワケではなく、水分を含んだ生きた植物は燃えにくい。それを密集させれば、光線に対する防壁にもなるのだ。

 

 キィルケケェッ!!

 

 そして植物を操る力の真骨頂はこれだけではない。バトラの周囲から木が鞭のように伸び、何重にも重なった触手となって向かってくる。

 

『里に足を踏み入れた時点であなたは負けてたんですよォ!!この地そのものがこのタイタヌス・アムルックの手足であり目と鼻と口!!さあ、大人しく昆虫標本になりなさい!!カカカカカカカーーッ!!』

 

 地面から伸びた触手がバトラを拘束せんと迫る。

 四方八方を囲まれ逃げ場なし。地下に逃げれば根を使って拘束する。

 動きを奪ったあとは目を潰し角を折って無力化し、その後ジワジワとなぶり殺しにして森の肥やしにでもしてやる。

 それがアムルックの考えたバトラ攻略法………と言うよりかは、他怪獣を狩る方法だった。

 

 ………しかしこのアムルックという怪獣は、脳内シュミレーションは欠かさないが怪獣バトルの実戦に出たことのない、某ロボットアニメ的に言う方の童貞であった。

 故に対戦相手となったバトラの情報も、醜さと性格で「女王」の資格を剥奪されたズベ公程度にしか思ってなかった。

 

 ………キィ?

 

 確かに、触手はバトラを捕らえたハズだった。

 だが一瞬光ったと思うと、そこにバトラの姿は無く、あるのは空振りになり絡まった触手だけ。

 

『消えた?まさか、バカな………』

 

 バトラはどこに消えた?と周囲を見渡すアムルック。

 ………もし、ここで植物を通して索敵していれば、この後の展開も変わっていたかも知れない。

 

 バトラは幼虫のため地を這うしかできないと思っていたアムルックの頭上に、影が落ちた。

 まさか?と思いアムルックが見上げると、そこには。

 

『な、んですと!?』

 

 元より玉のような黄色い目をかっ開き、アムルックは眼前の光景に驚愕する。

 そこに居たのは、鱗翅目の成虫………特にアゲハチョウに似たシルエットをした、高層ビル跡の間を舞う一体の怪獣。

 しかしその翅の模様は毒々しい、黒を基調に赤い稲妻模様。

 翼以外は黒く刺々しい甲殻に覆われ、脚には鋭い爪が生え、腹部の先にはハサミムシのようなハサミが生える。

 そして先程より短くはなったものの、頭には三股の黄色い角と、血のように赤い目に横開きの鋭い顎。

 

『う、羽化したというのですか!?この一瞬で!?』

 

 先程までのバトラがイモムシ、つまり幼虫とするなら、このバトラはまさに成虫。

 巨大な翼で空を舞う、恐るべき死の蝶である。

 

『自慢の草も空までは届かないようだねェ!?』

 ギュゴォォン!!

 

 上空バトラの目から、下方のアムルック放たれるプリズム光線。

 収縮され高威力化したプリズム光線は真っ直ぐな光柱となり、アムルックに次々と直撃する。

 

 キィルケケェッ!!

 

 呆気にとられていた、そして空中の敵の対策は考えていなかったアムルックはプリズム光線の直撃を浴び、木々で作られた身体から爆発と共に白煙が上がる。

 アムルックの身体が燃えているのだ。悲鳴と共にパチパチと音が鳴り、身体を構成していた木々が少しずつ、少しずつ焼け落ちる。

 

 ギュゴォォン!!

 

 そして最後のダメ押しと言わんばかりに、バトラは脚部が焼けて動けなくなったアムルックの真上に舞い上がり、回転しながら急降下する。

 そして、翼から赤黒い光線を雨霰と降らす。バトラの持つ光線技の一つ、プリズム光線のエネルギーを翼全体からクラスター爆弾のように降らすバトラの必殺武器「ブラッドアロー」である!

 

 キィーカァァーーッ!!キィルケケェッ!!

 

 もはやアムルックに逃げ場はなかった。身体を構成する木材の多くが乾いていたというのもあるのだろう。全身を焼く赤い光はアムルックの身体をたちまち炎上させ、黒煙と炎が100mの巨体を包む。

 その姿はさしずめドルイド教のウィッカーマンか。炎に包まれた木の巨人は、力なく倒れ、焼け落ちた………

 

 ………キィルケケェッ!!

 

 ………と思いきや、崩れる木材の中から頭と触手だけになったアムルックがスルスルッと逃げ出した。

 この、ひどく痩せた青いタコのような姿こそ、アムルックの本体。れっきとした地球の怪獣ではあるが、脳と神経の触手だけの姿はさながらエイリアンである。

 

『バカな、バカなぁ!このワタシが負けた?あんな魔女に?!おのれっ!ここは撤退だ!次の村を見つけてそこでまた遊ぼう。これはそのための戦略的撤退!』

 

 ひとまず退散だ。と、急いでこの場を離れようとしたアムルックであるが、その時頭上に影が落ちた。

 

 ………ギュガ

 

 バトラだった。逃がすと思うか?と赤い目が言っていた。

 そしてまた光ったかと思うと、アムルックの上にバトラの巨体が降ってきた。

 ………幼虫の姿で。

 

 キィカァァーーッ!?

 

 どごん!!

 バトラ幼虫の巨体が、アムルックの貧弱なボディの上にのしかかった。木の身体を失ったアムルックには、もはやこのバトラの3万tの巨体から逃げ出す術はない。

 

『せ、成虫から幼虫に!?どうなってるんですかァ!?』

『驚いたかい?あーしは女王(オフクロ)や妹と違って、成虫だの幼虫だのは戦いを有利に進めるためのお色直し(タイプチェンジ)でしかないのさ。なんてったって"破壊しか能のないバトルモスラ"だからねぇ?』

『ヒィィィ!!』

 

 当初の煽りを皮肉るように返しながら、鋭いツメでアムルックの身体を踏みにじるバトラ。

 もはやアムルックの命はバトラに握られており、それまで人間を弄んでいたアムルックが今度はバトラから踏みにじられる事になった。

 

『ま、待て!待ってください!そ、そうだ!取引!取引しましょう!このアムルックは、アナタの軍門に下ります!巨神(taitan)のルールでは勝ったやつに従うとあるじゃありませんか!そうだ、あなた蝶ですよね?なら私の能力で美味しい蜜を出す花を作りましょう!どうですか?いいでしょう?』

 

 アムルックが最後の望みをかけて、己が巨神(taitan)界を渡り歩いてきた武器である話術を駆使しバトラを説得しようとする。

 本体が脳と神経という事もあり、アムルックは口先だけは上手かった。

 

『あなたならアルファタイタンも夢じゃない!いずれあのゴジラだって倒して………』

 ギュガ

 ドグチュアアッ!!

 

 が、話術で乗り切るにはアムルックは調子に乗りすぎた。

 容赦なくバトラの巨体で踏み潰され、脳漿を撒き散らす物言わぬ肉塊となり果てたアムルック。

 人間を虫ケラ呼ばわりし、好き勝手弄んだ怪獣の末路としては十分すぎるものだろう。

 

『………悪いね、あーしは花の蜜よりも酒が好きなんだ。あと肉』

 

 打ち捨てられた木の身体が、黒い煙を上げていた。

 




誰とは言わないけど性格悪いやつってクカカカカ!って笑うイメージある
いやほんと誰とは言わないけど
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