人外擬きが異世界から来るらしい   作:全智一皆

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序箱 人外擬き

 

■  ■

 悪石(あくいし)凶悪(まがあき)はその『名は体を表す』と言わんばかりに凶暴性たっぷりな名前に反して、しかし争いを厭う実に普通(ノーマル)な性格である事から箱庭学園ではそれなりに名が知れている訳だけれど、しかしだからと言って彼に危険性というものが欠片も無いのかと問われると、そればっかりは素直には頷けない。

 箱庭学園健全版フラスコ計画の協力者にして派遣会社ならぬ派遣介入者。

 『不可逆の破壊者』獅子目(ししめ)言彦(いいひこ)のゴム鉄砲によってその体の上下を泣き別れさせられた人外、安心院なじみによって遣わされたとされる『人外擬き』。それが悪石凶悪という男である。

 吸血鬼擬きならぬ人外擬き。彼女に血を吸われた訳でもなければ眷属になった訳でもないし、かと言って彼女―――ひいては《悪平等(かのじょ)》の《端末》という訳でもない。

 悪石凶悪は悪石凶悪以外の何者でもなく、それ以上でも以下でもない。『人外擬き』なんて異名(アーバンネーム)が付けられてはいるものの、しかし彼は確かに『人外』であり、不知火半纏もそれは確かだと認識している。

 だが、如何せん彼は『人外』と言うにはあまりにも物足りない。『人外』らしい要素でこれといっためぼしいものが無く、傍から見てみればどちらかと言えば『人外』と言うよりも『異常(アブノーマル)』くらいのものだ。

 『人外』でありながら『人外』が持つ異様な何かを発さず、漏らさず、持たず、ただただそのままに生きている。特徴が無い事こそが特徴とも言える程に。

 『人外』と言うよりは『人間』らしくて、しかし『人外』としての力を確かに持っている―――そんな、説明するのも解説するのも心底面倒くさい設定(うんめい)を抱え込んでいる。取り敢えずはそう結論付けられているのが現状だ。

 

 まぁ、閑話休題(それはどうでもいい)

 

 ともかく、悪石凶悪は箱庭学園に在籍している『人外擬き』であるという事だけを理解してくれれば、先の物語には大した影響はない。どうせいつかは深堀されるのだ、ここでまとめて語る必要など皆無だろう。

 という訳で、ここからは天の視点をその悪石凶悪の方へと移していこう。

 

「………………………………なぁにこれぇ」

 

 口を開いて最初に零れたのは、そんな間の抜けた声だった。

 目の前に広がるのは青空。広大で果てしない青と白。もう見慣れたと言うか見飽きた景色である事に間違いはないのだが、問題なのはそこではなく、それを見ている()()()()()だった。

 空だったのだ。紛れもなく、というかどうしようもない空の上だったのだ。

 それはもう遥か高い空の上。自由落下の法則に従って現在(いま)も尚、加速しながら空から落ちていきながら下を見ても地面が見えてこない辺り、かなりの位置に居るらしい。

 あまりにも突拍子が無さ過ぎていっそ冷静になっている悪石は、飛行石が無かったらシータもこんな感じだったんだろうなー。なんて馬鹿げた事を考えていた。

 

「高度3000mをパラシュート無しでダイビングとか金の掛かった自殺が過ぎるだろ! マジで何これ!? なんでこんな事になってんの?」

 

 ついさっきまで普通に廊下を歩いていた筈なのに、瞬きをしてみれば空の上に放り出されるなんて非現実的にも程がある。

 突然変異ならぬ突然転移と言うやつだ。これが流行りの異世界転生ですか、なんて無理やり納豆しようとしてもこれは流石に無理がある。

 トラックに跳ね飛ばされたから、とか通り魔に刺されたから、とかそんな理由ならまだ納得出来た。無論その程度で死ぬくらいなら人外擬きなんて呼ばれはしない訳で、つまり悪石は死なない訳なのだが、それでも突拍子もない出来事には驚いたりはする。

 彼の感性は至って普通(ノーマル)なのだ。異常(アブノーマル)でも過負荷(マイナス)でもなく。

 テンパる事こそ無かったものの、それでも彼は十二分に愕然としていた。

 

「ん? なんだこれ、手紙?」

 

 本来なら物理法則に従って真っ直ぐに落ちる筈もない紙類が、まるで真空状態になっているかの様にストンと悪石の顔面を覆った。

 

『人外らしくない人外 悪石凶悪へ。

やぁ凶悪ちゃん、僕だよ。なんてね? 残念ながらこの手紙を認めたのは君が大好きな球磨川くんじゃなくてこの僕、《悪平等(ノットイコール)》の平等なだけの人外こと安心院(あんしんいん)さんだぜ』

「やっぱアンタかよっ!?」

 

 綺麗な字―――字が綺麗に書けるスキル「巧みな筆下ろし」ペンシルロケット―――で認められた手紙に吠える悪石。こちらとしても予想通りな相手だった。

 平等なだけの人外、安心院なじみ。通称安心院(あんしんいん)さん。擬きでありながら確かな『人外』である彼と同じく『人外』であり最初の『人外』だ。

 

『人外擬きである君の事だ、いきなり空の上に放り出されて普通(ノーマル)の如くに驚いていると思うけれど、安心したまえ。これは僕が仕組んだ事だ、安心院だけにね?』

「やかましいわ」

『と、君は言っている事だろう』

「手紙の癖して先読みしてんじゃねぇよ!?」

物語(ほんぺん)が終わってからというもの、僕としたことが何かと退屈になってしまってね。たまに球磨川くんの所に遊びに行ったり、めだかちゃんと遊んだりはしているんだけれど、それでも退屈は退屈だ』

「めっちゃ復活ライフ満喫しとる……」

 

 獅子目言彦に輪ゴムで体を両断されたとは思えない程に人生を謳歌してるじゃねぇか。こっちはアンタに勝手に入学させられて仕事させられてるっつーのに。悪石は堂々と悪態をついた。

 悪石と彼女の付き合いはそれなりだ。それなりとは言っても人間の時間感覚での話ではなく人外同士の感覚なので、少なくとも数百年くらいの付き合いがあるということにはなるのだけれど。

 親しき仲にも礼儀ありという言葉があるものの、人外にそれが通用するかと言うとそんな事はない。彼女にしてみれば自分以外は等しくカスであり、それは人外擬きの悪石とて例外ではない。

 まぁ、他の奴等に比べてみれば―――黒神めだかや人吉善吉は除くとして―――かなり自分に近くはあるなとは思っているものの、それでも所詮は擬きの域を出る事はない程度だ。

 そんな間柄なのもあって、二人の絡みはかなり友達のそれに近い。正確に言えば不思議系美少女に振り回される男子みたいなアレだ。

 

『なので、君の視点を通して異世界物語を眺めることにしてみたぜ。仕事詰めな君のために僕が用意したプレゼントだ、存分に満喫してくれよ?』

「プレゼントの意味をしっかり理解してから言えよ。いや書けよ。ふざけんなクソッタレ」

『ちなみにこの手紙はこの文を読んだ1秒後に爆発するものと』

「うぉらァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」

 

 姿勢安定のスキル「引我立」ポジションキャストどんな場所でも歩けるスキル「四方八歩」ウォークキング慣性操作のスキル「貫凸」パーフェクトレイト

 

 叩き付けるようにぶん投げた。何の躊躇もなく、悪石凶悪は自分の命を脅かしかねない凶器(レター)を地面へと。

 好き勝手に人を玩具にする挙句に手紙を爆発物にするとか流石は人外。やる事が派手だ。伊達に出来ない事探しをしていただけはある。

 手に性的趣向を持つ某平和好きな殺人鬼よろしくの爆弾化には、さしもの悪石も冷や汗をぶわっと出さざるを得なかった。

 咄嗟の判断とは言えスキルを三つ同時に使ったのは、些か焦り過ぎな気がしないでもないが、そもそも身動きも満足に取れない空の上だ。これくらいは大した事でもないだろう。

 

「ほんっとにヤな奴だなアイツ! 俺より断然凶悪だろ! 何が安心だバカバカしい! つーかいつまで続くんだよこれ!? さっさと地面見えろよどんだけ高いんだよッ!」

 

 とは言うものの、別にそこまで長い時間が経っている訳でもない。時間にしてみれば僅か3分という、カップラーメンが食べ頃になるくらいの時間しか経っていない。

 そもそも、今の彼は姿勢安定のスキル「引我立(ポジションキャスト)」、どんな場所でも歩けるスキル「四方八歩(ウォークキング)」、慣性操作のスキル「貫凸(パーフェクトレイト)」のお陰で落下などしていない訳なのだ。

 超高速で落下していないのだから、そう簡単に地面が見えてくる訳もない。ひとえに彼の馬鹿さ加減の賜物というか、何とも滑稽な絵面である。

 

「なんだろう、今すごくバカにされた様な気がす

 

「あ――――――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

「えぇ……」

 

 話を遮られたと思ったら、さっきまでの自分と同じくらいの速度で男×1と女×2が落ちてきては通り過ぎていった。

 なんだ今の。幻覚かな? と現実逃避しようとするも、そういえば俺もあんなだったと我に帰って肩をすくめる。訳が分からないことには慣れていたつもりだったが、意外にもそうでもなかったらしい。

 さてさて、どうしたものか。人外擬きとは言われるものの、或いは人外擬きなんて名誉なのか不名誉なのか曖昧な異名で言われているからこそ、人の心が無いのかと問われると首を横に振らざるを得ない。

 手紙の人外みたいに直感的に『あ、お前主人公やな?』とか『お前物語の鍵になりそうだよなw』とかが分かる訳でもなく、仮に分かったとしても、うら若き少年少女が地面とキスして全身ぐちゃぐちゃバキバキの見るも無残な肉塊になるのを見るのは、人外擬きと言われる彼でも流石に良心の呵責というものを感じてしまう。

 正直このまま落下しても何ら問題はない気がするが、とは言え見捨てていいものかは悩ましい限りだ。

 うーんと悩み続けて……

 

「ふーむ……」

 

 悩んで。

 

「むむむ……」

 

 悩んで悩んで。

 

「ううん……」

 

 悩んで悩んで悩んで。

 

「しゃあねぇや、助けますか」

 

 そう結論は出されたものの。

 しかしまぁ、あまりにもそれは遅過ぎた。

 どぼーん、と。確実に3人が湖に落ちたであろう分かりやすい音が、悪石の耳にしっかりと届いたのだった。

 

「……やっべー」

 

 ダラダラと冷や汗を顔いっぱいに垂れ流して急降下。

 助けようとしておいてなんだが、正直に言えば肉塊なんざ見たくない悪石凶悪である。

 だが、見捨てたのは自分だ。

 助けなかったのも自分だ(助けようとはした)。

 となれば、流石にその死体を弔う程度はしてやらなければいけないのでは? そうでもしないと、名も顔も知らない少年少女に末代まで祟らられてしまいそうな気がしたのだ。

 草原に降り立って、目を細めながら嫌という感情を剥き出しにして湖の方を見てみると―――

 

 金髪にヘッドフォンを付けた不良みたいな少年。

 如何にも令嬢といった格好の少女。

 三毛猫を抱えた不思議系の雰囲気たっぷりの少女。

 

 少年少女は見るも惨い肉塊になっている事もなければ、その湖を血と肉片で覆い尽くす様なグロテスクな状態になっている事もなく、平然とそこに立っていた。

 

「え、なんで生きて」

「テメェ悩むのが長ぇんだよクソッタレぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 金髪の不良が怒号と共に蹴りを抜いた。型もクソもない、まさしく喧嘩でこそ使われる様な普通のキック。

 そんななんでもない蹴りが―――空気が爆ぜた様な衝撃を生み出して、さらに悪石凶悪の顔面に直撃した。

 

 出オチってほんとにサイテー。

 それが、悪石凶悪が言い残した―――顔面が完全に吹き飛んだので言い残す口なんて残っていない訳だが―――言葉だった。




という訳で、皆ごきげんよう。平等なだけの人外、皆の安心院さんだぜ。
この後書きでは、7932兆1354億4152万3222個の異常性と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷、合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持つ他ならぬこの僕が、悪石のスキルを解説するよ。

じゃ、今回登場したスキルはこの三つだ。

・姿勢安定のスキル「引我立」ポジションキャスト
文字通り、或いは読んで字のごとく、姿勢を安定させるスキルだ。この姿勢っていうのは肉体的な意味は勿論だけど、精神的な意味での『姿勢』にも適用される。使い用によっては異常を過負荷にも、過負荷を異常にも出来るという、かなり強力なスキルだね。
名前の元ネタは因果律。これは簡単だったかな?

・どんな場所でも歩けるスキル「四方八歩」ウォークキング
地面も空も水の上も雲の上も剣の山も、果ては人の心の中だって歩く事が出来るスキルだ。僕の『俯罪証明』の上位劣化版ってところかな? これはこれでかなり便利だよね。
元ネタは四方八方・ウォークとウォーキングの掛け合わせだね。

・慣性操作のスキル「貫凸」パーフェクトレイト
実質アクセラレータみたいなスキルだね。自分と他者の慣性を自在に操作する事が出来るスキルで、真っ当な『異常』だ。これがあるだけで大抵の戦闘は有利に事を進められると言っても過言じゃない。なんせ物理法則の一つを歪められるんだからね。まぁ、僕たちの世界観的にはそこまで驚異でも脅威でもないかな?
元ネタはネットスラングの完凸・パーフォレイト+パーフェクトの掛け合わせだ。貫いて凸る、なんてどこかアダルティックな(後書きはここで途切れている)
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