恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
上級ジョブ【
大アルカナは22枚、小アルカナは56枚。大アルカナのカードは、そのカードに対応した存在が顕現して一定時間召喚獣のように暴れ回る正位置、もしくは一定時間超特殊能力持ちの武器*1となってプレイヤー自身が暴れ回る逆位置を、召喚した存在から課せられる条件をクリアして使う特殊なカード。一度引いたカードはデッキに戻り、シャッフルして使うせいで連続使用は不可能。引いたとしてもリキャストタイムが終わっていない場合は不発となって引き直しとなる。ちなみに条件が達成できなかった場合、一定時間ステータスが大幅に減少する。
対する小アルカナもまた、条件を満たすことで効果を発揮するものではあるが────こちらは引いたカードによってステータスが変化するというもの。例えばワンドのカードを引いた場合は魔法に関係したステータスが伸びる。ソードであれば物理攻撃力に関係したステータスが伸びる。カップであれば体力や持久力が伸びる。コインであれば神秘とドロップ率が伸びる。なんともシンプルかつ強力な効果だ。さらに、1~10、ペイジ、ナイト、クイーン、キングといった数字の数によって伸び率が上がっていく。もちろん、伸び率が上がれば上がる程、条件達成までの項目も増えていく。簡単に言えば、ブラッドレイジである。条件を達成できなかったとしても、ステータスが落ちることはなく、カードがリキャストタイムに入るだけ。こちらも引いたカードは効果時間終了後にデッキに戻り、シャッフルされる。
討魔2においては大アルカナのみを使った召喚獣ビルド、小アルカナを使ったステータス爆盛りビルド、両方を使った両刀ギャンブルビルドが使われていた。最も使われていたのは、ローリスクハイリターンな小アルカナのみのステータス爆盛りビルド。召喚獣及び両刀ギャンブルは普通に使い勝手が悪いのである。
さて、我らが気狂いが現在使っている大アルカナ15【
「牛頭鬼!」
「おおー、さっすが陰陽師。怪魔っぽいけど式神か、それ!」
「怪魔っぽいは余計だ!! 行け!!」
さて、長々と語ったが、現在の気狂いはまさに悪鬼羅刹の類である。血が出るなら、毒になるなら確実に回復するし、自分が出血しても毒になっても回復するというバグみたいな挙動を起こした化け物。真正面から勝利する確率が高いのは、人間であれば最近自分の大剣の柄に頑丈な縄を結んで鎖鎌のようにぶん回すというとんでもない戦法を編み出した三野治水か、気狂いのビルドを知ってるもう二人の気狂いだろうか。怪魔なども含めていいのなら、本気を出した酒吞童子、八束爬戯、蝦夷之蜈蚣姫、黒焔羅刹、白澪羅刹、悪路王、大嶽丸、天眼夜叉、両面宿儺などのネームドや、テスカトリポカ、禍津日、天照大御神、素戔嗚、建御雷、加具土命などの神々であれば指先一つとは言わないが普通に勝てる。そもそもの話、この状態になっている気狂いを真正面から相手すること自体がメガトン級のガバである。こんなガバを見せると、大いなるガバルドンがニッコリ笑う。
「ブルルルッ! 主の命令だ! 悪く思うなよ坊主!!」
頑丈な甲冑で身を包んだ偉丈夫の雄牛が叫ぶ。その巨体で突進する、その剛腕で殴り飛ばす……それだけで下手な怪魔や戦士では歯が立たないだろう。それもそのはず。この牛頭鬼という式神、地獄の門番をしている牛頭鬼と馬頭鬼の血筋である。蘆屋家を含めた陰陽師達の式神は、基本的に地獄で獄卒を務めている者達、もしくはその血筋や関係者だ。もちろん簡易式神として紙人形の式神も存在する。
「お、喋れるのかお前。でも火を出さない時点でオックスファイアの下位互換なんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」
「ブルルルッ!! 俺様の突進を喰らってその減らず口がいつまで続くか見物だな!!」
「ステーキにしてやるよ、黒毛和種が」
そう言ってグジュグジュと音を立てて蠢く赤黒い肉塊のような大鉈で、迫りくる牛頭鬼の突進を迎え撃たんとする巡は、姿勢を獣のように低くしつつ大鉈を肩に背負うように構える。巡の戦いを邪魔しないように、蘆屋の若旦那────
「────さぁて、どんなもんだよ、お前は」
「ふふ……楽しそう」
新しい武器を手に入れて目を輝かせる巡の姿。口元は三日月のようにパックリと割れた邪悪な笑みが浮かんでいるが、麗良や遥斗にとっては前世から全く変わっていない笑い方。本当に楽しいと思った時に見せてくれる、ただひたすらに自分の全力を叩きつけにくる時の表情だ。周囲の人間は不気味だとか、気遣いとか滅茶苦茶できるのに笑顔が致命的なレベルで下手くそだとかなんとか言っていたが、それはお前達の普通を巡に押し付けているだけだろうがと何度だって言いたい。前世の両親も同意していたし、巡のバイト先の老夫婦も頷いていた。
巡が麗良と遥斗の好きな所発表ドラゴンと化す準備がいつでも整っているように、麗良と遥斗もいつだって巡の大大大好きな100の所発表ドラゴンと化す準備ができている。深淵を覗く時、深淵もまたそちらを覗いている。むしろ深淵と深淵が肩を組んで覗いているやつを沼に叩き落す。こいつら愛が重い。でも天秤は傾いていないのでそこまで重くない。
そんな脳筋美少女に見守られながら、巡は迫りくる牛頭鬼に鋭い超低位置からの切り上げを叩き込んだ。
(あ? 浅い……わけねぇか。太刀筋がブレたな。使い手次第で化けるってか? いい武器だ)
手首どころか腕の可動域全てを使った蛇の一噛みのような一撃は牛頭鬼に直撃はしたものの、重厚な鎧を砕く程度に収まってしまう。武器が悪かったのではなく、巡が大アルカナの武器がどんなものか見誤ったためである。使い方を知らなければ紙すら切れないが、使い方を理解していれば岩すら切り裂ける武具の類。巡はそう判断した。
「ヌゥッ、なんとも強烈な────だが、二度はないぞ!!」
「だろう、なっ!!」
再びの激突。牛頭鬼の剛腕を大鉈の腹を使って受け流し、懐に潜り込む。狙うのは鎧に包まれた胴ではなく、思い切り振り抜いた結果伸びあがった右腕の関節部。
「ルゥアアッ!!」
「グオオオッ!!?」
気合一声と共に上段から一気に振り下ろす袈裟斬りを牛頭鬼の関節部に叩き込めば、堪らずと言うように牛頭鬼が大きく怯む。重厚な鎧と、まるでダンプカーのタイヤのように強靭な筋線維に包まれる肉体に守られているからこそ、深く斬られるという機会が少なかった牛頭鬼。その大きな怯みを見逃さないのがこの気狂いだ。
「刹那無心流、斧術────金剛割り」
再び上段に構え、両手で力いっぱいに大鉈を振り抜く。金剛すら割り砕かんという気概で振り下ろされた大鉈は、牛頭鬼の重厚な鎧を断ち切り、肉体に浅くない傷を付けることに成功する。
「オオオオオオオオオオオオオッッ!!」
だが、その程度で死なないのも牛頭鬼という式神。伊達に五家に匹敵する名家の式神をやっていない。迸る血と激痛をかなぐり捨てて巡を擂り潰そうと懐に手を伸ばすが、巡の流派は刹那無心流。勝利こそを至上とする流派の人間が、死んでいない者がいる中で油断などするわけもない。
「刹那無心流、剣術……!!」
振り抜いた大鉈が、先程放った上段の振り下ろしと同等か、それ以上の勢いのまま振り上げられた。
地面に触れて跳ね返ったわけではない。振り下ろした際に発生した運動エネルギーを別方向に動かすための停止もない。結界無しで暮奈の抜刀術のようなことをしている化け物みたいな挙動。100から0、0から100の静と動ではなく、100から101に派生するかのような、頭のおかしい動きによって放たれる技に牛頭鬼はかつて父祖から聞いた羅刹の如き戦士達を幻視する。津波のように押し寄せる怪魔を前にして、怯むどころか笑いながら挑み、怪魔の屍の山を築く怪物共の姿を。
「まさか、お前は、羅刹────」
「黎明」
朝日が昇る、一日の始まりを告げる光の名前を与えられた技が牛頭鬼の胴体を深々と、肉が裂け、臓腑が零れるどころか千切れ飛ばすかのように泣き別れにしてしまう。式神は基本的に、死ぬことはない。破壊されたとしても、アムリタと時間さえあれば自力で復活する。だが、復活に要する時間は間違いなく長い。
「……さて、次だな」
「舐めるなよ! 俺は蘆屋の跡継ぎだ! 式神がおらずとも────っ?」
体が思うように言うことが効かない。武器を構え、こちらへゆっくりと近付いてくる気狂いを前にして、憧満もまた、腰に佩いた刀を抜刀して迎え撃とうとしているのだが、足が動かない。それどころか、一歩、また一歩と近付いてくる巡に対して距離を取ろうとしている自分がいた。
得体のしれない武器や、得体の知れない存在がいるから? 否。断じて否。未知、イレギュラーは怪魔と戦う中で起こること。取り乱しはしたものの、切り替えたはず。己に加護を与えている前鬼・後鬼にも 咤激励を喰らって切り替えたはずなのだ。だというのに、体は巡という化け物から逃げようとしている。
「どうした? 震えているぞ?」
『しゃんとせんかい、憧満!!』
『今のテメェは挑戦者だっつうこと忘れんな!!』
大剣を持つ前鬼と大斧を持つ後鬼が叫ぶ。パックリと三日月のように笑う巡が迫る。ダンジョンの奥で相対する主か、それ以上の殺気を前にして、憧満は目の前にいる存在と自身の実力差を先程よりもはっきりと理解した。理解してしまった。
「死に戻りアリの戦いだ。死に物狂いで遊ぼうぜ?」
今の自分に、この化け物と戦う資格はないと。
「ぅ、おああああああああああああああああああっっ!!??」
「お、恐がりながらも向かって来れるのはいい教育されてるわ」
恐怖を振り払うための、喉が張り裂けんばかりの絶叫と共に巡に向けて刀を振り回す憧満。自分でもここまで必死になって武器を振るったことはない、そう思えるほどの全力全開の連撃だった。だが、そんなもの常に全力のスパーリングを要求してくる可愛い弟分と妹様で腐る程相手にしている巡には慣れたものである。
「ただ、スキル使いなよ。攻撃は悪くないのに、スキル噛ませないのはマイナスじゃんよ」
「な、っああっ……!!」
高速の連撃を禍々しい大鉈の背を使って完璧に弾き飛ばした巡。経津主神と共に陣取り合戦の行方を見定めている東京校の学園長すら唸る程に完璧なタイミングで差し込まれたパリィによって、憧満の体が大きく仰け反り、大きな隙を晒す。
「ぁっ……」
死んだ。憧満の脳裏を過ぎる、留年からようやく抜け出した羽津の言葉。「鉈を持ったやつを相手にするなら、どんな手段でもいいから、何が何でも殺せ」。ただの戯言だと思っていた。だが、違った。あれはそこまでしてようやく巡と戦うスタートラインに立てるという意味だったのだ。
スローモーションのようになった視界で、そんなことを考えながら、思わず目を閉じてしまう。死ぬ時でも目を開けろ、と教え込まれていたというのに、死に対して目を閉じて受け入れようとして────金属と金属が激しくぶつかる音で思わず目を開けた。
「遅かったじゃんか」
尻もちをついてしまった自分を庇うように、三人の少女が立っていた。赤黒い禍々しい大鉈をそれぞれの武器を束ねて受け止めている。
「漁夫の利を狙うつもりだったんだけどね……!」
「予想以上に貴様らの消耗が少ないから飛び出さざるを得なかっただけだ……!」
「どんな重さしてるんですか、この鉈……! 三野先輩の大剣くらい重いのですが……!!」
三人対一人で、ようやく鍔迫り合いが成立する程の重量を持っているらしい大鉈をどうにか振り払った少女達は、口々に文句を言いながらも巡に攻撃を仕掛ける。だが、巧い。確実に1対1の戦いになるように立ち回っているせいで、連携が上手く決まらない。
「遥斗ー? 麗良ー? お前ら相手するかー?」
「何? 修羅場? 相変わらずモテモテじゃんかお前。取り逃してんのはどういうこったよぶっ飛ばすぞ」
「修羅場なら仲介しません。というか何取り逃がしてんですかぶっ飛ばしますよ」
血濡れの気狂い二匹が巡の問いかけに冗談と辛辣な言葉を投げかける。
「あ、マジだ。光銘君って結構足早いのな。あと暮奈さんと一緒に殿やってんのは……誰だ? まぁ、いいや、お前ら追っていいぞ」
「「てめぇが行けやダボが」」
「はっはっはっは!! そりゃそうだ!!」
「行かせると思ってるのかな!」
「それなりに? ゲリュオン、クリュサオル! 打って出るぞ!!」
明日夢の曲剣と棍棒の二刀流による猛撃を躱し、人魔戴冠を発動させた巡を迎え入れるように現れる黒い戦車。それを引くのは義眼の黒馬のクリュサオル。操るのは禍々しくもどこか神々しい黒騎士ゲリュオンだ。
「待ちくたびれぞ、我が主よ!! いざ駆けよクリュサオル!!」
「ブルルルッ!!」
「んじゃ留守番よろしくな」
「っ! 行かせはしな────」
「【タイタンフォール】ッ!!」
戦車が拠点から出ようとしていくのを妨害しようとしたところに、巨人の一撃が叩き込まれる。流石の琥珀であっても受け止めたのなら即死はせずとも、無視できないダメージを喰らうこと必至の一撃を放ったのは、血で黒いドレスを染め上げた麗良である。その隣には錫杖を肩に担いだ遥斗がニンマリと笑みを浮かべて立っている。
「巡を追うなら、俺達の拠点を攻略してもらおうかぁ?」
「まぁ、攻略しても追わせませんが」
『ごめんなさいね、宇迦。この子達、手加減とか全く考えない子達だから、頑張って』
あ、マジでこの二人は巡と同類なので、手加減とか様子見とか考えてたらこちらが殺される。
そんな確信を得た三人は、元々切り替えていたスイッチをさらに深く切り替えて戦闘態勢に入った。
次回で陣取り合戦は終わりです