恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
京都の観光地から少し離れた場所に、俺達が予約した温泉宿はある。前世の京都ではなくなってしまった神社仏閣、東西南北の門は朱雀門、玄武門、青龍門、白虎門などとして残っており、麒麟門はないが、麒麟館というものが存在している。その麒麟館は本店から支店まで色んな場所に存在しているのだが、今回の麒麟館は薔薇苑家の縄張りというか、管轄している北側にある麒麟館にお邪魔しているわけだ。
ちなみにこの麒麟館────というか、五家が管理する建物には戦士のための修練場が存在しており、時折行われる戦士達の模擬戦を一般客が観戦することもできる。
「少し見ないうちにさらに強くなったな、巡!!」
「ハッハァ! 治水先輩も化け物染みてきてますねぇ!!」
そんな修練場でスパーリングをしているのはもちろんこの俺……! 気狂いと名高い模歩巡と、何かさらに筋肉質になった気がする三野治水先輩だ。お互い自分の得物を使っているわけではないが、木製の武器を使って戦闘スタイルは再現している。
今回のレギュレーションはスキル無し、特殊なアイテムを用いてステータスを封印状態にして自分の技術だけで戦うスパーリング。この特殊なアイテムというのは国家資格がないとお目にかかれない薬品で、主に犯罪を犯した戦士のステータスを封印して拘束することに使われる。あとは今やっているスパーリングみたいな超特殊条件での戦いとかでも使われるが、こちらはステータスに寄りかかった戦いをしないようにするための、技を磨く訓練。一応、俺がその資格を持っているし、ローズ先輩も持っている。あと羽津さん。あの人国家資格何個持ってるんだろうか。俺も資格取ろうかしら?
にしても治水先輩、本当に化け物染みてきたな……これワンチャン治水先輩ルートボス単騎撃破行けるんじゃねえか? 悪路王? あいつはまだ無理だな。三野家の家宝であると同時に初代並みの実力がある当主にしか使えない呪物として封印されてる魔剣【紫陽花】を持ってこなくては。でもワンチャン紫陽花なしでも行けそうな気がする。現在の治水先輩、大剣の他に投擲用の円盤盾、投擲用のランス、投擲用トマホーク、遠距離攻撃用の大弓、LMG二丁と筋力に物を言わせた超脳筋要塞みたいな装備になっているのだ。誉れがある。恐らく初代三野が見たら満足気に頷くレベル*1。
今スパーリングしている時もずっと厄介だなぁって思いながらやっているしな! マジでヤバイ治水先輩の縄大剣。鎖鎌とか分銅鎖みたいな遠心力で威力を増しているし、下手に懐へ入ると紙やすりみたいになってる縄が体を削ぐか、体を縄で絡め取られる。武器で受けようにも、受けていいのは大剣の部分だけ。縄は多分武器を没収されるのが見える。マジで厄介になったなぁ。
「ところでなんでこんなスタイルに!?」
「家の武術書を読み直してな! 五家の武術は表裏に分かれているが、表では激流を用いた剛の剣を、裏では柔らかな流れを用いた複数本の剣を使った柔の剣を学ぶ」
ああ、ソードビットね。実際、遥斗がよく使ってるソードビットは、無属性と水属性を育てると各属性も解放されるものだ。恐らく三野家が生み出したものだからなのだろう。
「守破離というやつだ。型を学び、書を読み直した先で、不意に思った。どうして分ける必要があるのかと」
「そこに気付くとは……やはり天才か」
あっぶえ!? 今顔削れるところだったわ!?
「ふっ、お前程じゃない。そうして至ったのは、剛と柔の術理を用いたこの型だった」
本来であれば水属性の魔法で縄を作って振り回すのだが、と片手でブンブン縄をぶん回しながら、片手にはガントレット代わりのボクシンググローブを装備した治水先輩が笑う。
「俺はまだ未熟でな。まだ実体がある縄や鎖を使わなければいけない」
「うーん、向上心の塊。うちの鍛冶師三人に相談してみては?」
「ああ。それもいいが、三野家お抱えの鍛冶師達にも相談している。あまりいい顔はされないがな」
「まぁ、両刃剣専門の家がいきなり鎖とか作ってくれって言われてもあれかぁ……」
「いや、俺のスタイルがどんどん変な方向に行っているからだろう。あと、銃は作れるかと聞いたのも悪かったな……」
まぁ、銃は邪道ってイメージがあるのが討魔の世界。弓強いからね、仕方ないね。でも銃は番える必要がないから強いよ。パリピイケメンボーイズが使ってるアムリタ結晶製の銀弾じゃないと怪魔に有効打与えられない場合が多いけど。通常の実弾で殺せるのは多分餓鬼とかゴブリンとかじゃねぇかな……ロケラン使えばオークとか幽鬼とかもいけるか? まぁ、どちらにせよコスパが悪いのは確かだ。
「銃ならやっぱパリピイケメンボーイズが強いっすよ。相談してみたらどうすか?」
「ああ、そうしよう。……それにしても、上手く凌ぐな」
「いやあ、上位互換みてぇなバケモンと戦ったもんで……あいつは鉄球ぶん投げてくるけど」
しかも棘が生えてる鉄球。近付いたら拳と炎、もしくは足と氷。お前らはあれか? バルログか何かなのか?
「? 俺が参考にできそうな者であれば、是非とも対面してみたいが……」
「あー……いや、まぁ、いけるか? 治水先輩って留骸倒せますっけ?」
「ああ。……もしや、その者は怪魔か?」
「そうっすね……ただ、怪魔だけど仏門というか……」
よく分からない、ゲリュオンとクリュサオルみたいな存在である。強すぎて記録から抹消されたあの二体の羅刹……久しぶりに会いに行くか。酒持っていく約束もしてるし。仏門なのに酒はいいのかって? あいつら怪魔にルールは無用だろ。
「そうか。機会があれば、是非手合わせ願いたいところだな。……ところで、巡」
「なんすか?」
「お前、槍も使えるんだな」
「超変則型ですけどね」
右手に槍、左手にパリィ用の小盾。俺の今の装備はこんな感じだ。鉈が使いやすくていつも使っているが、他の武器もちゃんと使えるようにしている。刀剣? あれは無理。本当ならパリィ用兼致命攻撃用の短剣を持ちたいのだが、いい感じのやつがなかったので盾を使っている。本当ならこの盾をぶん投げたい。盾をぶん投げたくなる気持ちはきっとアメリカの尻が分かってくれるだろう。
「しかし、なぜ片手なんだ? 両手で使った方が踏ん張りが利くだろう」
「ああ、それはまぁ……折れた武器であっても使える技が多いから、ですかね?」
「折れる……そうか、刹那無心流の槍術は棍やトンファーのような技もあるのだったな」
刹那無心流もとい、羅刹流は様々な武器の使い手が作り上げた、いわゆる『初代と呼ばれる存在がいない流派』である。
禍津日様の神域でお会いした羅刹流の関係者達曰く……
1.「俺はこういう風に剣を使ってるけど、お前は?」という質問が発生。
2.「私は剣を使いませんから分かりません。でも槍だとこうします。あなたは?」と質問が発生。
3.「僕は斧使いなので槍は分からないけど、こうします。あなたは?」と質問が発生。
4.上記が何度も繰り返され、「意外と共通項が多いし、ちょっと色々組み合わせてみようぜ」となって羅刹流が誕生した。
とのこと。色んな武器を使う戦士が寄ってたかってあーでもない、こーでもないと試行錯誤して誕生したものなので、初代と呼ぶべき存在がいないとのこと。時代の流れで羅刹という言葉が聞えが悪いということで、刹那無心流という名前になっていっただけで、根本は羅刹流と変わらない。戦舞? 知らん。多分大嶽丸に近しい人間が作った対大嶽丸戦の手札の一つだろう。それが踊れても大嶽丸の属性に対応できなければ死ぬんだけどな! 作ったやつ出てこい、小一時間ほど問い詰めて素材にしてやる。
「あとは俺の戦闘スタイルの問題ですね。どうしても片手は空けときたくて」
「なるほどな。……さて、そろそろ風呂に行くか。食事もじきに出来上がる」
「ですね。付き合ってもらってありがとうございました」
「いや、こちらとしてもいいスパーリングができた。大学の学生や教授も悪くないが、やはりこうして気兼ねなくやり合える人間は少ない」
そう言って武器を置き場に掛け直す治水先輩の表情は柔らかい。初対面の頃と比べると、マジで表情の硬さが減ったよなあ。治水先輩の方針に賛同してくれる人や、感情論とかではなくちゃんとした理由で反対意見を出してくれる人とかを中心にして、膿出しを徹底した結果、気を張り続ける必要が無くなったってのが大きいのだろう。
「そういえば巡、お前が管理している土地だが……何か不審者の目撃情報などはあるか?」
「全然ですね。前にも言いましたけど、あの一帯がある種の汚染エリアですから」
「そうか……」
「てか、なんでいきなりそんなことを?」
確かに五家の人達も含めて、あの土地を管理することになってはいるが、ほとんどは俺が管轄ということになっているのだ。手伝いに来てくれたりするから、気になったのだろうけど、今聞くような話でもないと思う。
「ああ……少し、気になる話を耳にしてな。なんでも、戦士と同等の力が手に入るなどと謳い、何か特殊な薬を売り捌いている集団がいるそうだ」
「そりゃまた……」
正直なことを言えば、うーむ、始まったか……と思わざるを得ない。討魔2では怪魔との戦いの他にも、非正規の方法でステータスを解放した連中や、その手段を売り捌いている人間との戦いが起こる。力を得て調子に乗っているゴロツキだったり、戦士に対して不信感を持っている自警団的な連中だったりと様々いるが、とりあえずそいつら全員と対人戦となるのは確か。
しかも撃退したとて、「もっと力を……!」って感じで強化してまた挑んできたりする。その後? バグみたいな裏技を繰り返し続ければそのうち怪魔とも人間とも言えない化け物に成り果てるので、そうなったら殺してやるのが慈悲。素材? 全く使えないので戦うメリットがない。ないのだが、向こうから挑みに来るからね、仕方ないね。ちなみにこの裏技みたいな理論と薬品を作ったのは果心居士。あいつ本当に余計なことしかしねぇな。売り捌いている連中も連中だが、本当に果心居士は余計なことしかしやがらねぇ。
「尻尾切りをされたが、連中の末端の血中から、瘴気汚染の痕跡が見つかってな。無いとは思うが、お前が管理している土地に入った可能性を考慮しての質問だ」
「うーん……多分ないと思うんですよね……そもそも、あそこには千方さん含めた忍者も巡回してくれてますし……禍津日様の結界もありますから」
「分かっている。ただ、お前の方でも気に留めておいてほしい」
「了解です」
「頼んだ。……………………………………………………さて、巡。現実逃避はそろそろ終わりにしようか」
「それ今言います?」
汗をタオルで拭きつつ、温泉に向かう中、治水先輩が重苦しい声を発する。本当に今言いますかね、それ。
「誘った俺も俺だが……それに応じるお前も同罪だろう」
「はっはっはっは、スパーリングはいつでも大歓迎っすから」
バチッ、と俺と治水先輩の頬を黒い閃光が掠めた。うーん、高威力な光属性の気配。というか黒い雷って、光属性使いなら誰でも使えたりするんだろうか? 本当にあの子元気にしてるかな。戦いが嫌とか言ってたし、百鬼夜行があんまり発生しにくい落ち着いた場所とかで普通の人生を過ごしてるといいんだけど。……あ、これがウォルターの気持ちか。再手術をして普通の人生をってやつか……
「巡」
「はい」
「温泉まで走るぞ」
「あーっす」
もう振り向くのも怖いわ。大学生になってからあまり時間が経ってないというのに、どこか大人っぽさがさらに強くなったせいで、美人レベルが馬鹿みたいに高まった翡翠先輩の怒ってる顔とか見たくねえや。麗良で理解しているが、美人は怒ってる顔が滅茶苦茶怖いのだ。
「巡君、止まりなさい」
「うおおおっ! 希望誕生!!」
「10戦してボコボコにしてきたこと忘れてないわよ」
ペッ、甘ちゃんが! こちとらザンギ専だけどザンギくらいアレックスも得意なんだよ! JPの精度上げて出直してきてください。……アレックスの技を再現するのアリかもしれないな。ザンギの技も案外通用したし。
「ところで治水先輩、風呂上りの牛乳はフレーバー派で?」
「昔はバナナが好きだったが……今はチョコレートが好みだな。ところでその雷の首輪は痛くないのか?」
「あ、大丈夫っす。今の俺、雷効かないんで」
バチッ、と俺の髪から静電気が発生する。右目から頬、首、心臓部分まで伸びた呪いの刻印はインドラ様の呪いである。光属性のダメージは完全無効どころか次に使う光属性のスキルにダメージ分を加算、その代償として闇属性へのカット率低下と闇属性のスキル倍率-1.5倍されるがメリットが強すぎるんだよなぁ。
「というか風呂上がったら普通に部屋行きますよ? 皆で飯食べたりもしますけど」
「でしょうね。でも私は今君に構ってもらいたいの。ダメ?」
「あらやだ可愛い。でも風呂行かせてください」
翡翠先輩も本気で捕まえるつもりはないのだろう。本気で捕まえるなら、初手で落雷を落として俺達を気絶させてしまえばいい。それをしないということは、これは単なるお遊びということだ。そしてお遊び相手にでも本気で挑むのが俺という人間。治水先輩と共に全力疾走で温泉の入口にスライディング入場をかます。
「ゴール!」
「動的なクールダウンもできたな」
「よし、とっとと汗流して飯食いに行きましょう!」
なんか入口付近のベンチに座って待ってる気配がするけどそれはそれ。最後の最後まで雷飛んできたけど、設備は壊れてないし、俺達はノーダメージなのでこの勝負は俺達の勝利ということでいいのではなかろうか。
「……前も思ったが、傷が多いな」
「? ああ、死に戻りしても治らないんですよね、戦士になる前の傷って」
脱衣所で俺の体を見た治水先輩が呟いたことに反応する。戦士になる前に付いた傷痕は、死に戻りをしようが無くならない。戦士になる前から修行しまくって生傷が絶えなかったし、痕になってる傷もある。切り傷がメインで、何かが刺さったような傷だったり、何か重いものがぶつかった時の打撲痕みたいなものもある。前も後ろも上から下まで傷があるというのは、戦士の家系でも不思議に見えるようだ。
「そういう治水先輩は傷少ないですね」
「痕になる前に魔法や回復薬などで治療を施すからな」
『主ら刹那無心流がおかしいんだ。戦士になる前から生傷が絶えない修行など、碌なことにならんぞ』
「こうして成長してるんでヨシ! 祢瑠姉さんも傷多かったけど綺麗だったしな!」
「…………記憶、戻ったのか?」
一応治水先輩も、俺が小さい頃に何が起こったのかを知っている人間だ。というか俺が話した。別に隠すことでもないし。そもそも俺が忘れてるし、なんも気にしてないしな。どデカい慰霊碑も作ってもらったし。
「いやぁ、それが全く。ただ、なーんとなく、すっごい幸せだった時の思い出だけは断片的に」
間違えてゴミに捨ててしまったパズルのピースのせいで完成しない、穴だらけのジグソーパズルのように断片的に記憶がフラッシュバックすることがある。羽津さん含めた医者曰く、良い兆候ではある……らしい。本当か?
「そうか。……無理だけはするなよ」
「大丈夫ですって」
なんだか湿っぽくなってしまったが、それは多分温泉から放たれる蒸気のせいだろう。
備え付けられている瑞騎印のリンス不要シャンプーとボディソープで汚れを落としてから、涼やかな香りを放つ温泉に体を浸ければ、もうそこは極楽である。
「「あ゛ー……」」
疲れが全て抜け落ちていく感じが堪らないぜ……
「ところで巡、京都校では上手くやれているか?」
「まぁ、そこそこってところですかね。てか聞いてくださいよ! 錬金釜置いてある場所、不良生徒の溜まり場になってたんすよ!」
「ふむ……確か京都校は錬金術が選択科目に無いのだったな。人目が付きにくいというのは、そういった人間が集まりやすい環境を生みやすい」
『しかし剛毅な人間もいたものだ。焚福茶釜の縄張りでそのようなことをするとは』
いや、ただの馬鹿だと思うんですけど。普通しないでしょ、学校の中で罰当たりなことなんて。