恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
風呂上がりの牛乳を楽しみつつ、翡翠先輩から「彼女を放って男と仲良くしてるのどうかと思うけれど」とチクチク言われた今日この頃。言い訳させてもらうが、そもそも俺は前世は彼女いない歴=年齢、バイト漬けorインターン漬けorゲーム漬けの人間だ。恋愛などコマ投げしてしまうくらいは普通にやる。遥斗と麗良が俺のことを夢男、夢女製造機とかいう不名誉なあだ名を前世から付けていたけれど、お前ら狙いの男女共しかいなかったぞ。むしろお前らが夢女製造機だろうが。
「失礼いたします。こちら、春の山を味わう前菜盛り合わせでございます。春の山で取れる幸をふんだんに使ったお料理となっております」
「…………」
うーむ、しかし、そんなチクチクされたことすらどうでも良くなってしまうくらい、目の前に並べられた料理は素晴らしい。最初に運ばれてきたのは竹で作られた小さな籠。蓋を開けると鮮やかな緑の山菜、丁寧に煮締められたキノコ、ホロホロになるまで甘辛く煮込まれた川魚が入っている。これが前菜らしいが、これだけでご飯が何杯もなくなりそうな一品だ。山菜とか野草、結構好きなんだよなぁ、俺。
蕨、タラの芽、ウド、コゴミ、ミズ、芹……って、おやこれはタンポポ。こしあぶらの天ぷらもあって滅茶苦茶豪華な前菜となっている。そして塩焼きではなく、オイカワの甘辛煮は骨まで楽しむ一品に仕上げられているようだ。上に乗ってるのは山椒の若葉? 白髪ねぎももはや絹の繊維一本のような仕上がり……ここで料理を作っている方は相当な修行を積まれていらっしゃると見たね。
「────いただきます」
手を合わせて一礼。小さくても、ちゃんとはっきりと言葉にする。日本人として当たり前の作法を終えた後、箸を持つ。この箸、胡桃の木から削り出して作ってるのかな? 瑞騎家の傘下の宿だからなのか、やむを得ない事情で引退した戦士や、戦士を裏で支える人達の前線を退いた後の就職先にもなっているそうだから、錫杖作ったりしてる職人さんがここに来て、食器とかを作っているのかもしれない。
そんなことを頭の片隅で考えつつ、まずは柚子の皮が添えられた山菜の白和えを一口。あ、やばい滅茶苦茶美味しい。なんだこれ。山菜の食べ方って選択肢として和え物はあるが、それは酢味噌や胡麻、かつお節と醤油などで和えるものがイメージされやすい。一応白和えという選択肢も存在してはいるものの……この白和え、驚くくらい主役の山菜を際立たせている。なんだぁ……? 多分白味噌は入ってるだろ? あとは蜂蜜と……あ、胡麻油? いや違う。えごま油だこれ。あとは……多分醤油がちょろっと入ってる。うわぁ、初っ端から超感動。初めてのインターン先だったホテルのシェフが、「まずはうちの料理を一つ食ってみろ」って言って目の前で調理して出してくれた料理を口にした時と同じくらいの感動が脳天を直撃している……!!
一品目からこんなに素晴らしい料理が「私主役じゃないです」みたいな顔でお出しされるとは思いもしなかった。伊勢のお宿の料理も戦いに赴く戦士のための料理って感じで凄く美味しかったが、ここの料理は戦いから帰ってきた戦士が心の傷を癒すような、そんな料理。油断してると手が止まらずおかわりを頼みたくなってしまうくらいのクオリティだ。
タンポポの葉と刻まれたウド、一口大に分けられた蕨のサラダも最高だ。どうして醤油をかけただけのシンプルなサラダがここまで美味しくなる……? 邪魔しない程度にかけられた胡麻油のせい?
「巡君? 凄く静かだけど……大丈夫?」
「……あ、ごめんなさい。滅茶苦茶美味しかったので色々と集中してました」
「意外でもないけど、真摯よね、メグちゃんって」
また一段とお洒落になったローズ先輩がそう言って笑う。女物と男物のハイブリッドファッションって感じで、滅茶苦茶お洒落だし、少し長くなった髪を赤い髪留め紐で纏めている髪型含めて全身から気品を感じる。大学生活楽しんでそうで何より。
「下手な貴族達よりも作法もしっかりしてますよね。日頃からやっていないと身に付かないものですよ」
「いい食事は食べ方からって言うじゃん?」
例えば町での食べ歩きなら、コロッケやメンチカツなどをもう作法とか気にせずにかぶりつくのが作法みたいなものであるように、場所によって食べ方なんかを考えて実践するとまた違った食事の楽しみが生まれてくる。
「五家の人間から見ても、お前の食事との向き合い方は見事だと思うが」
「俺は別段綺麗な食べ方してるわけじゃないですけどね」
「あー……メグパイセン、多分先輩方が言いたいのは、あれっすわ」
「作法の他にも料理全体への向き合い方が凄く真摯だって言ってるんじゃねぇすかね?」
「あ、それ俺も思った。メグパイセンって装備ともめっちゃ真摯に向き合うし、飯の時もそんな感じするんすよね」
んなこと言って、お前らも食べ方綺麗じゃねぇか。パリピなところで忘れがちだが、この三人もちゃんとした鍛冶貴族の人間だ。加護無しってことで陰で馬鹿な連中からとやかく言われていたりもするかもしれないが、こいつらの作品を一つでも使ってみれば、黙るしかないくらいの実力を持っている。京都校の鍛冶師も悪くはないが、やはり俺の装備は全てパリピイケメンボーイズに任せるのが一番だ。っと、そうだ。鍛冶と言えば。
「前から気になってたんだけど、光銘君の家って鍛冶師か何かなのか? 一本だたらって鍛冶神だよな?」
「ん? ああー……そうと言えばそうだけど、そうじゃねぇと言えばそうじゃないっていう感じだな」
「はっきりしねぇな?」
家の事情とか色々あるんだろうが、どっちつかずな答えが来るとは思わなかった。俺が首をかしげていると、光銘君の隣に座っていた暮奈さんが口を開いた。
「光銘君は妖刀が打てるんだよ。打たないけどね」
「へー、妖刀! …………………………ん? 妖刀って打てるもんだっけ?」
あれって武器の進化で至るものの一つであって、最初からそうなるってわけでもないだろ? 村正お爺ちゃんが打った武器は例外だけど。確かあれはあの人の技量とスキル、愛用している道具が妖刀みたいなものに至った結果、打つ武器が全て妖刀と化すってだけのはずだ。あの人以外だと、海外のドワーフとかは打てたりするらしいが……あれはルーンとかで疑似的に魔剣擬きにしてるだけだからな……
「ううん……なんて言うんだろう? 彼の妖刀は……数回使ったら折れる消耗品みたいなもの……?」
「妖刀って名は付いてるけど、一生使えるような武器は打てねえんだよ、俺」
光銘君曰く、武器を触媒とした魔法を放つ武器が作れるらしい。威力は折り紙つきではあるが、その威力の代償として、数回振るえば跡形もなく崩れてしまうのだとか。魔法を込めたスクロールとかあるし、その類が作れるのだろう。
「ふーん。……え、やば。キノコうま……」
おかしい、このキノコだっていつも食べているようなシメジやエノキなどの、どこにでもあるような、比較的安価なキノコのはず……ただ焼いただけでこんなに美味しいものになるなんて、本当にプロの技だ。
『自分から聞いておいて切り替え早すぎやしないかい?』
「言っちゃ悪いけど、数回使って壊れるような大砲はいらないんですよ」
もちろん武器は壊れてしまうことがある。だが、その前に修理してやったり、こまめに手入れしてやることで壊れないように、もしくは壊れるまでの時間を先延ばしにできる。だが、光銘君が打てるという妖刀は、それができない。そこそこ威力が高い魔法を数発撃ったら壊れて二度と使えないような武器なんて、酒吞童子クラスと戦う場合産廃もいいところだ。だったら威力が低くても無限に撃てる豆鉄砲の方が強い。
「もっと無いのかよ、こう……一本だたらの加護持ってんのにー、とか」
「ない。正直妖刀打てるよりも殴り合いが強いって方に魅力を感じる」
「お、おう……何か調子狂うな……そっちの三人組も全然何も言わないし。鍛冶師……なんだよな?」
「妖刀打てんのはリスペクトっすけど、やっかむ必要性感じねぇ的な?」
「やっかみしてる暇あるなら、とりまやりたいことやりたい的な?」
「そもそもネガキャンよりも年中ポジティブキャンペーン中の方がテン上げっしょ」
「「「ですよね~!」」」
うーん、このポジティブパリピイケメンボーイズ共。どんな時でもブレねえそのメンタルに俺は勲章を与えたいよ。
「ははは、いいねえ。いつだって前向きってのは好感が持てるよ!」
「うーん、美味しい……ご飯が欲しくなる……」
「これが前菜という衝撃的な事実……!」
「甘辛煮のはずなのに濃く感じないですね。お腹が空いてくる料理です」
「そんでもってこっちはマイペースだねぇ」
お、遥斗と麗良は辰巻さんと仲良くなってるようだ。それは何より……なんだが……なんか、辰巻さんと麗良の距離がほんの少しだけ近いような気がしないでもない。……まぁ、気のせいだろ。麗良は近付かれるのが嫌ならはっきりと拒絶するし、拒絶してないなら気のせいだ。
……ふむ。にしても、あれだな。暮奈さんは自分が遥斗と麗良にチラチラと視線を向けていることに気付いているのだろうか? 原作を考えると、長女として気を張っていることが多いせいか、気を張らずに接してもいい相手に心を開いている……のだろうが、友情ルートに至るにはちょっと視線が熱っぽい。ふぅむ……遥斗と麗良はやはり今世も罪深いカップルになりそうで兄貴としてはちょっと心配だぜ。
『いや、人のこと言えねぇだろお前』
「文句があるならスト6で100先しましょ。俺アレックス」
『いや、ここでゲームやるのは流石にTPO的にあれだろ』
「そもそも俺はもう三人だけで充分超えた充分だっての」
彼女三人とかいうとんでもない状態ではあるけれど、充分すぎるくらいに色々貰っている。これ以上を望んだらただの強欲になってしまう。あ、素材はください。仙骨マラソンまだまだ終わってないんで。素材は命よりも重いんだ。
……ああ、そうこうしているうちに前菜の料理が無くなってしまう。せめて最後の一口までしっかりと味わって、次の料理を待とう。前世で学校とお店側に何度も頭を下げて色んな所でインターンさせてもらったけど、受け入れてくれたお店のシェフやバイト先の老夫婦が異口同音に言っていた言葉をもう一度噛み締める。
「料理はお腹を満たすためだけではなく、心も満たせるものであれ……」
俺がパンを焼いたり、誰かに料理を振舞う前に必ず考える言葉である。その言葉通り、この温泉宿の料理は間違いなくお腹も心も満たしてくれる最高の料理であると言えるだろう。
「はー……次何が来るんだよめっちゃ期待するわ…………ん? なんじゃ明日夢さんも琥珀さんも、なんか納得したような顔しよって」
「ああ、いや……うん、いい言葉だなって」
「料理はお腹を満たすだけでなく、心も満たすものであれ。お前が作るパンも間違いなくその言葉通りだ」
どうやら前世で教えてもらった心構えが無意識のうちに口に出てしまっていたらしい。最近そういうの多いなぁ。遥斗と麗良に再会してから気が緩んでいるのかもしれない。あとで気つけの素材マラソンだな。
「お世辞でも褒め言葉ありがとう。って、お茶も美味しいな……」
「ふふ、私もここのお茶好きなのよね。ほんのちょっとだけ昆布とかつお節の出汁が入ってるの」
「あ、だから遠くから吹き抜けてくるんですね……こんな黄金律な比率全然分からん……!」
「ね。黒曜と一緒に家で再現しようと小さい頃に試してみたけど、全然できなかったわ」
「料理人は一種の職人って言葉に実感が持てた思い出があるねぇ」
本当に次に来る料理も滅茶苦茶楽しみである。夜の部屋割りが翡翠先輩と俺という環境が滅茶苦茶心臓に悪いけど、料理は本当に楽しみだ。
千磁光銘
実は妖刀(消耗品)が打てる。威力はそこそこ。中級以上上級未満。なお本人は「こんな力いらねぇんだけど」という感じ。そんなの使うより銃を持てとは気狂い共の言葉。一本だたらが加護を与えている理由は「その才能よりも己の身一つでどこまで行けるのかと歩く漢が気に入ったから」。それでいいのか鍛冶神。