恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
俺が計画の修正をどうしたものかと頭を悩ませていると、瑞騎先輩が口を開いた。
「天照大御神様、器が出来上がり切っていないというのは、一体?」
「ああ、麒麟の子。君の戦いもべりーぐっど。
「そ、それは光栄なんですけど……そうではなくて」
「人間誰しも加護を得ることはできる。けど、それは一人一つ。そこまではいい?」
何を考えているのかさっぱり分からない天照大御神様の言葉に、俺達は頷く。この辺りは麒麟や鳳凰から聞いているから、この場にいる誰もが知っていることだ。師匠も多分知っているだろう。
「けど、ちょっと違う。加護を何個も得ることはできる。問題は器の強度と容量、あと数」
「強度と、容量と……数?」
「そう。加護持ちから生まれた子供なら器の強度が高い。それか容量が多い。たまに数が二つだったりする。だから器が完成しきってない幼い頃に加護を与えられても爆散しない」
つまり普通なら爆散するってことですよね? 何だそのゴア表現。R18指定待った無しじゃないか。……ああいや、描写されてないだけでそういう実験してる連中がいるって話はゲーム本編のキャラストーリーでされてた気がしなくもない。ん? あれは人工的に守護獣を作り出す実験だったか? 止めておけばいいものを。
「でも、宇迦の子は別。君は例外中の例外。あと、べすとばうとな君も例外」
うーん、これがバレたら厄ネタになりかねないなぁ……特に名家の連中から何をされるか分からねぇ。大耀さんとか、女の子だから加護持ちの子供を産むためだけの孕み袋として利用しようとしてくるやつが出てくる可能性大。そんなことしてみろ、絶対にバッドエンドだわ。親類縁者鏖殺自害ルートだわ。
「宇迦の子は器の容量が尋常じゃない。ただ、べすとばうとな君は……なんて言うんだろう。器が全く決まってない状態。大きさも、形も、何もかもが分からない」
「これでも鍛えてる方なんすけど」
「うん。それは知ってる。肉体的にも、精神的にも、ちゃんと成長してる。けど、器だけは形になってない」
「んー……? でも加護を貰うこと自体はできるんですよね?」
「できる。けど、器の形や大きさが分からないなら、どれだけの量を注いでいいのか分からない」
加護を液体のようなものとして例える天照大御神様は、スポーツドリンクをコップに並々と注いでから俺を見る。
「私達は器を見て、どのくらい入れるかを決める。基本的には表面張力が発生するくらい」
「分霊の場合は?」
「それも同じ。宇迦の子はまた別だけど……器に表面張力発生まで注いでるから、それ以上入れると溢れて体が耐えられない」
それをしなければいいのでは、というのは言わない方がいいのだろう。しかし、そうか。加護を貰っている人たちが先代よりも弱いとか、歴代の誰よりも強いとか色々言われたりしていたのは、器の大きさとか強度がそれぞれ違うからなのか。もちろん加護の有無で強さが決まるなら師匠みたいな例外がいるわけがないので、一概には言えないのだろうが……
「その器を増やすことはできるのですか?」
「できる。基本的に、器は強化できるし、増やすこともできる」
「方法は……いえ、止めておきましょう」
「懸命な判断。流石鳳凰の子。火の扱いで
カグとアメノ……? あ、加具土命様と
しかし、器の強化と増加かぁ……共食いとか? 食べることで力を手に入れるやつがいた気がするし、人間が人間を食うことでそいつの器が手に入る的な……いや、さすがに無いか? しかし討魔だからなぁ……
「とにかく禍津日のところに行って、ゲリュとクリュのこと式神か眷族にしてきて。じゃないと────」
「じゃないと?」
「山の執行者が来る」
「「「山の執行者?」」」
────それはよろしくない……!! いや、戦えるならそれもまた一興だが、その人が来ると洒落にならねぇ! いや、そもそもあの人、人か? 人なのか? ヘラクレスみたいに人間から神様になったような人だった気がするぞ? とにかく師匠以上の化け物が来るとか洒落にならないので、さっさと調伏したらしいゲリュオンとクリュサオルを式神か眷族にしに行こう。……とはいえ。
「とりあえず伊勢参り済ませていいですか? 一生に一度は伊勢参りへって言うくらいですし」
「歓迎する。豊受のお餅、食べながら歩くといい。まだ涼しいけど、栄養補給と水分補給はしっかり」
「うす」
「こんなポンポン貰っていいようなものじゃない気がするんだけど……」
豊受のお餅、ということは豊受大御神様が作った餅なのだろう。ゲームだったら絶対凄まじい回復効果があるタイプのアイテムだろうな。……おっと、結構でかいな? イカ焼き食べてた天照大御神様はさっき餅を一個食べてた気がするが、次は大福に手を付けている。
「じゃ、ゲリュとクリュはこっちで預かっておくから、なるべく早くね」
天照大御神様が虚空から取り出した鏡をゲリュオンとクリュサオルに向けた瞬間、やつらが何の抵抗もできずに吸い込まれていった。…………まさかあの鏡、八咫鏡ってやつなのか? いや、雲外鏡? でも雲外鏡って妖怪だったような……どうなんだろうか……とにかく天照大御神様すげぇってことにしておこう。
「あ、言い忘れてた。べすとばうとな君……模歩巡」
「はい?」
「声を聞いたのなら、ちゃんと会いにいかなきゃダメだよ」
「???」
「それだけ。じゃ、私はちょっとお仕事行ってくるから。またね」
そう言って天照大御神様の姿は掻き消えてしまった。仕事……神様の仕事って何をしているんだろうか。死者のことをあれこれやってる神様とかは分かりやすいんだが……
「とりあえず今後の方針はホテルで決めるとして……」
「お伊勢参り、しちゃいましょっか♡せっかく来たんだもの。色々見て回りましょ?」
いざ伊勢参り。人生初の伊勢参りなのだ。色々見て回るのは決定事項である。
「あ、そうだ師匠。禍津日様のところに行くまでの間修行付けてもらえたりします?」
「おうよ。我が弟子のことだ、そう言うと思っておったわ。そこの三人もまとめて鍛えてやるわ」
「話が早くて助かるゥ!! ────っておいこらそこの三人、止まりなさい、神宮では走らずにー」
どこへ行くんだぁ……? 加護ありでも俺の方が足が速いのを忘れたか? まぁ、瑞騎先輩がマジで本気出したら勝てないけど、このくらいのお戯れ程度であれば競歩で追いかけても追いつけるわ。というか師匠が鍛えると決めた時点でもう逃げられないのに逃げるなんて、哀れよな。
「というわけで師匠、どっちが先にあの三人捕まえるか勝負しません?」
「呵々ッ、勝負と来たか。…………乗ったぁッ!」
「シャオラァッ! 今回は俺が勝つ!!」
「百年早いわ!!」
とりあえず一番すばしっこい瑞騎先輩から捕まえに行きますかねぇ。
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穢れを以って穢れを祓う。そのために作られた神工迷宮『
「ハハッ、いいねえ……ああいうやつを見てるのがいっちゃん楽しいまであるぜ。しかもあいつ、あいつの子孫ときた」
荒々しい、戦うためだけの鎧を着た一見すれば落ち武者にも見える神は、楽し気に嗤いながら酒を口にする。それを見た青年は、呆れたように溜め息を零した。
「飲み過ぎですよ、禍津日様」
「これが飲まずにいられるかっての。つか、お前らだってあいつと戦いてぇ戦いてぇってうるさかったじゃねえの」
「それとこれは別ですよ。酒の飲みすぎはよくありません。いくら神であっても」
「細かいこと気にすんな。ほれ、沖田。お前も飲め」
沖田、と神にそう呼ばれた青年は差し出された杯をやんわりと押し返すことで飲まないことを示す。酒を返された神────
「彼らが来るのであれば、酔いで刃を鈍らせるわけにはいきません。近藤さんと土方さんもやる気ですし。一番槍は絶対に自分だと言って聞きません」
「ハハハッ、そりゃあいい。源氏の連中も闘気を隠そうともしやがらねぇ。い~い戦いが見れそうだ」
「さらには天下の飛将軍と抜山蓋世の剛将、第六天魔王や越後の軍神に甲斐の虎もやる気ですし……まずは誰が戦うかで喧嘩が起きそうですが、それもまた一興……といったところですか」
「俺が戦うってのもいいが、過去の英雄と、当代の英雄がやりあうってのも悪くねぇ。俺も混ぜろと斉天大聖が言ってたが、あいつが来ると色々面倒でなぁ」
「今更な気がしないでもないですがね」
ごもっとも、とクツクツ笑いながら言う禍津日神は酒を飲み干し、紫と黄金の双眸を喜色一色に染め上げつつ、何度も見ている戦いをもう一度再生して視聴し始めた。見ているのは、とある少年の戦い。少年が戦士となって何か月後かに起こった、中規模百鬼夜行での出来事。わらわらと現れる怪魔を前に怯むでも、慄くでもなく。ただ殺す、殺して勝つ、何が何でもぶっ殺すと言わんばかりのギラついた目をして笑う少年の戦いだ。
『瑞騎先輩ィ!! 弾幕全く足りてねぇんだがぁッ!!?』
『無茶言ってくれるわ────ねッ!!』
『あとローズ先輩は俺じゃなくて瑞騎先輩に回復撒けやッ!!』
『参考程度に聞いておくわね!』
鉈を振り回し、怪魔の脳漿をぶちまけながら狂戦士のように暴れ続ける少年。それを追いかけるように続くのは、今でも付き合いのある二人の男女。怪魔の放つ矢を受けても怯むどころか近くいた怪魔を掴んで盾にしてから殺し、後ろから不意討ちを狙う怪魔には毒がたっぷり塗りたくられた脆い短剣を投げつけ、姿勢を崩した怪魔の顔面を踏み砕き、前へ、前へと突き進み、敵将の前に立った少年は、数度の撃ち合いを経て死に戻ることになるが────全く怯むことなくまた突撃。死体に湧いてくる虫のように集まってくる怪魔を毒や爆弾を用いて木端微塵にすることもあれば、スキルを用いて失血死を引き起こしたり、少女が放った雷を鉈に無理矢理纏わせて一気に怪魔を消し飛ばしたりと、大量の引き出しを用いて怪魔を殲滅していく彼の姿は周囲の人間の精神すらガリガリと削り続けながら突き進む。
『その戦い方を止めろ模歩巡!! お前の戦い方は、民を守る戦士の戦い方では────』
数度目の死に戻り。腕や脚が千切れようとも突き進むような戦い方を見かねた四象の神獣、白虎の加護を与えられた少女がもう一度最前線に飛び込もうとする少年を引き留めるが。
『あ゛ー? なぁに甘っちょろい言ってんですかねぇ、白虎のお嬢様はよぉ……これは戦いだぞ? 戦争やってんだぜ、俺達は』
『何を────』
『俺は加護なんざ持ってねぇ。便利なもんは持ってねぇ。だから全部使う。毒も、血も、呪いも、罠も。武器も拳も口も足も、何でも使って勝ちに行く』
白虎の加護を与えられた少女は見た。全てを使って勝ちの目を拾っていく狂気に満ちた双眸を。修羅、羅刹。そう呼ばれてもおかしくはない、人間の姿をしているだけの殺意の塊。邪魔する奴は全てぶち殺すと言わんばかりにギラついている瞳と、表情を間近で見た少女の心情はいかなるものだったか。
『民を守る、勇気を与える。すげぇことだ。誰にでもできることじゃねぇ。ならそれらはアンタらに任せる。俺はんなことできねぇから怪魔を殺す』
『殺して殺して殺しまくる。誰のためとか、そういうんじゃねぇ。俺がそうしたいからやる。素材とか経験値とか欲しいし』
『文句があるなら結果で示せ。俺より殺して間違いだって否定してみろ』
呆然とする少女を捨てて、少年は怪魔の群れに飛び込んでいく。誰かのため、などという言葉では飾らない、どこまでも自分自身のために戦うエゴの化身。弱き民を守るため、白虎の加護を与えられた戦士としての務めを果たすため、高尚な教えを叩き込まれた少女には理解ができない言葉の数々。この後、ゲリュオンとクリュサオルと戦うこととなり、文字通り全てを使い尽くして勝利した少年は白虎の少女との会話など一切合切記憶していないが、白虎の少女と白虎は一秒たりとも忘れていない。見ていた神々はその戦いも、会話も何もかもを見て、聞いて、録画していた。未だに禍津日神のように何度も再生して「これはもっとこうすれば効率よく殺せた」とか、「あー、この子に加護与えて間近で戦い見てぇ~! 推し活してぇ~!」などと話をしている。中々ぶっ飛んだ神々であった。
「ああー、楽しみだなぁ……! 早く来ねぇかなぁ……!!」
「ええ、楽しみです。本当に……聞けば新選組のふぁん、だとか。ふふ、少しこそばゆいですが、嬉しいものです。そういった方と刃を交えることができるのは」
討魔においては超高難易度DLCとして配信されたダンジョン────禍津日神の領域であり、管理する迷宮である『
山の執行者
人間から神様に至った人。ゲームでは条件を満たすと超低確率で出現するレアボス。死ぬほど強い。一撃でも当てると滅茶苦茶強い武器の素材をくれる。
白虎の少女
気狂いは全く覚えていないが、こんがり焼かれてる女の子。哀れなことに、気狂いの戦いを見て記憶を消せなかった。可哀想に…可哀想にねぇ…
気狂いの戦い方を否定するために鍛え、決闘を何度も申し込んでいるが悉く断られている哀れな女の子。可哀想に…可哀想にねぇ…