恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
「……で、何で俺の部屋に集まることに?」
相も変わらず仙骨マラソンをしながら、公欠の届け出が受理されるまで過ごして大体数週間。6月も半ばといったところ。公欠届を出した先生曰く、7月の半分くらい公欠になって、公欠の期間が終わった頃には夏休みになりそうだからテストを6月30日に行うと言われた。普通に死ねる。ちなみに百鬼夜行は俺の前世の記憶が正しければお盆に発生する。ふざけてんのか?
まぁ、俺の勉強事情はさておき。今日は土曜日でオフタイム。俺は自室で課題を潰しつつ霊薬でも作ろうかと思っていたのだが────なぜか『茶菓子同好会』のメンバーが全員俺の部屋に集まっている。俺は余り物ということで寮の部屋が一人部屋で、結構スペースがあるので集まっても狭くはないが……
「あなた霊薬の調合を自室でするじゃない。よく分からないやつとか」
「だって学園の霊薬調合部屋借りると、作った霊薬を書かないといけないじゃないですか」
しかも虚偽の情報は許さないと目を光らせている白澤様の加護を貰っている先生によって管理されているので、こっそり作った霊薬とかがあるとすぐにバレるのだ。バレても別に問題は無いのだが、あの先生の小言長いし霊薬没収してきたりするので付き合ってられんのです。別にこっそり作った霊薬を没収することはいいんだけど、まだ習ってない範囲の霊薬とかも没収するのはどうかと思うんだが。没収した霊薬はどこに行ったのかって? 処分されてるよふざけんなよ素材返せや。お使いクエストで霊薬納品したらその霊薬より格下の霊薬が報酬だったのまだ忘れてねぇからな。なおゲームでは白澤の加護を分霊でゲットしたら自室での霊薬調合が解放されるので、ゲームの進行具合によっては案山子。悪い人ではないんだがなぁ……
「霊薬の調合、瑞騎先輩とローズ先輩に教えてもらったけど、模歩君のは見たことなかったなって思って、私が声かけたんだ」
「別に何か面白いことをやってるわけでもないんだけどなぁ……」
『効果がおかしいのだ。調合の割合が通常のものとは別物だろう、あれ』
回復系だけではなく、薬についても一家言あるらしい鳳凰が呆れたように呟いた。まぁ、その通りではあるんだが。
「まぁ、調合割合は全く違うのは正解。あーっと……狂刃の霊薬と勇追の霊薬が足りてねぇからこれ作るか……」
ゲームだと素材を用意して作成開始で出来上がるものだったが、現実はそうもいかない。必要な素材を用意して、霊薬のベースとなる触媒液と呼ばれるものに混ぜていくのだ。今回作るのは
「大耀さんは霊薬、使ったことあったっけ」
「回復系は何度か使ったよ。あとは……武器に塗るタイプのものかな」
「便利だよなぁ、エンチャント覚えると使わなくなるけどさ、精神力枯渇時とかに予備持ちは全然あり」
どの霊薬がどんな効果を持っているのかは、霊薬の名前を見るとある程度分かる。
例えばエンチャント系の霊薬の場合は塗布の『塗』とその属性を意味する文字が刻まれる。火属性であれば『
何かを回復するものであれば治癒の『癒』と何を治すものなのかを意味する文字が刻まれる。まぁ、霊薬ではないが傷薬なんかもあるので、傷が小さかったりするなら回復スキルや傷薬、傷が大きいのであれば霊薬、と使い分けが大事だったりする。
俺が今から作る霊薬はそれらとはちょっと違い、デメリットがある代わりに強力な効果を一時的に付与する霊薬だ。ゲームのような説明になってしまうが、狂刃の霊薬はHPの最大値が減る代わりに筋力と持久力を増幅させる代物で、勇追の霊薬は精神力の最大値が減る代わりに持久力が激増する霊薬だ。まぁ、何かを代償にして何かを増幅させるアイテムのようなものだわな。狂がつくものはHPが、勇がつくものは精神力が、乱がつくものは持久力が減る代わりに別のステータスが強化される。これを全部同じ量飲むと、デメリットを打ち消してメリットだけを享受できたりもする。なお中毒。中毒を起こすと霊薬の効果が全部なくなるだけではなく、HP、精神力、持久力がゴリゴリ減っていくし、防御力と状態異常耐性が激減する。しかもどんなリジェネ特化装備をしていようが、食い縛りなども発動することもなく死ぬので絶対にやってはいけない。
「霊薬3分クッキングのお時間です。本日作るのは狂刃の霊薬と勇追の霊薬。用意していただくのは狂刃の霊薬の場合は狂戦士の牙、幽鬼の仙骨、夜叉の眼球、浄化された穢れ草を5個ずつ」
『もうこの時点でレシピが違うのよね』
『そうですね。本来であれば別の素材を使うのですが……』
「勇追の霊薬の場合は
「もはや高級品よね、それ。いえ、普通に手に入るものではあるけれど」
「これらをすり鉢で擂り潰し、その後薬研にぶちこんでアムリタを込めながら触媒液を注いでいきます」
するとあら不思議。絶対に人が口にするものではないだろ、みたいな見た目と臭いだったものが強いミントの香りになってきたではありませんか。どういうこったよ。
「あとは頑丈な霊薬用の瓶に詰めれば────はい、俺特製狂刃の霊薬と勇追の霊薬の完成です」
「…………あの、ローズ先輩。私が知ってる霊薬調合より凄く簡単なんですけど」
「一応言っておくけど、これ原液レベルの代物よ? ここから色々薄めたりしなきゃだから、普通はもっと工程が増えるの」
ローズ先輩の言う通り、これは原液そのままの代物だ。だから効果が死に戻りしても残っているし、効果時間も長いし効果も高い。なお中毒を引き起こす可能性も普通のものよりも高い。それでも止められない止まらない止めるつもりもない。中毒一歩手前までキメればゲリュオンとクリュサオルの全力に正面から対峙しても生き残れるのは経験済み。しかも効果が切れてからダンジョンで死に戻れば体内に蓄積された毒素なんかも排出されて依存症にもならないって寸法よ。
「巡君って、百鬼夜行でこれらをいつもがぶ飲みしてるのよね」
「模歩君、大丈夫? 病院行かなくていいかい?」
「大丈夫、死に戻りで毒素もリセットしてる」
「怪魔もびっくりな死に戻り健康法よね」
もちろん死に戻りする前に手に入れたアムリタとかは、全部スキルと買い物にぶっぱすることで無駄なく死に戻り。無抵抗で怪魔に殴られまくることで耐性スキルも成長させることもできて一石二鳥。こんな馬鹿みたいなことをしている俺に一番付き合ってくれている鉈を含めた装備には、感謝してもしきれないくらいの恩がある。装備の声が聞けたのならきっと文句ばっかり言ってるだろう。折れず、曲がらず、壊れず、砕けずついてきてくれている装備に感謝。禍津日様のダンジョンをクリアした時に解放されるシステムで、お前らを文字通り魔改造してやるからな……
「ところで……なんだか香ばしいバターの香りがするのだけれど……」
「ああ、そういえばそろそろ焼き上がりか」
俺がそう言った直後にオーブンレンジが中に入っているものが焼き上がったことを伝える。耐熱手袋を装着してオーブンの中身を取り出す。入っていたのは────俺の朝食兼明日のおやつになる予定だった巨大クロワッサンである。時刻は朝9時。ちょっと遅いが朝食にはいい時間だろう。
「クロワッサン食べる人────は、全員か。予想通り」
間髪入れずに手を上げるじゃんか、三人共。あと神様と神獣。では────焼きたてを受け取るがいい。クロワッサンと昨日焼いて冷蔵庫に放り込んでいた目玉焼きと牛乳という簡単なものしかないが、こういうのでいいんだよこういうので。おにぎり、ウインナー、卵焼きor目玉焼きでも良し。焼いた鮭でも全然あり。
「あら見事な仕上がり♡」
「サクサクなのに中はふわふわしてる……お店のものと一緒に出されたら分からないかも」
「バターの香りが強いけど……そこまで脂っぽくないのね」
「ジャンクな感じも嫌いじゃないんですけどね? でも、うちのクロワッサンは何個も食べれる軽さが売りだと思うんですわ」
お陰様で実家のミニクロワッサンの詰め合わせはいつも売り切れ必至です毎度ありがとうございます。でも最近はあんことバターを挟んだあんバタークロワッサンとかカスクートが売れ筋らしい。あとはバタークッキーとか、フロランタンとか、加水率を馬鹿みたいに増やした食パンとか。
『本当に大昔と比べて豊かになったものだ』
『そうね。昔なんて、玄米ともち麦を炒って破裂させてから芋と一緒に炊いてたりしていた頃もあったのに』
絶対に腹持ち良くねぇだろそれ。腹に溜まる感じはあるけどすぐに腹が減ってくる感じのあれだろ。
「そういえばうちに保管されてる昔のレシピ本に、こんにゃくを炒めて味噌汁に入れるってものがあったわね」
「精進料理の一種ね。凍みこんにゃくを炒めて肉っぽくするっていう」
へぇ、そんな食べ方があるのなら今度やってみよう。……あれ? でもこんにゃくって確か油で炒めると化学反応を起こして凄い泡が出てくるって聞いたことがあるような……まぁ、食えるから文献にも残ってんだろ。いけるいける。
「ところで模歩君」
「うい」
「ちょっと前に虎成さんが凄い形相で君のこと探してたけど、何かしたのかい?」
「………………ナンニモシテナイヨ」
ホントウダヨ。キグルイウソツカナイ。ホウセイイズマイフレンド。メイケイオステイクザワールド。
「何かしたんだ……一応何をしたのか聞いてもいいかな?」
「いや、決闘決闘うるさかったからボルシチダイナマイトした」
「なんでボルシチダイナマイト!? 無傷な虎成さんも凄いけどなんでボルシチダイナマイト!?」
「エンフォルドの方がよかったか……」
「そうじゃないからね? 技が違うとかそういう意味で聞いたんじゃないよ?」
じゃあどういう意味で聞いてきたんだよという言葉はグッと飲み込んで────俺の言い訳を聞いてもらおう。
「あの人ちょっと気が動転してたみたいだからね、仕方ないね」
「メグちゃんが手を出した時点で不穏だったけど、何があったの?」
「決闘受けてくれるなら何でもする的なこと言われましてね。自分の体差し出そうとしてきたんで……思わずボルシチダイナマイト」
マジで気が動転してただろうし、あれで頭が冷えたのならよかったと思う今日この頃。……でも凄い形相って言ってたしなぁ……シベリアンの方がよかったか?
「もう受けてあげなよ……人目が付かない場所って条件付けてさ」
「人目が付かない場所での決闘なんて俺に何でもやってくださいって言ってるようなもんだぞ」
そもそも人目が付かない場所なんて学園以外だとダンジョンくらいだろう。ダンジョンを決闘の会場にしてみろ? 決闘始まる前に色々仕掛けるぞ? いいのか? 疑似的な毒沼落とし穴とか作るぞ? 霊薬ドバドバぶち込んで中毒を────あ、霊薬捻じ込んで中毒起こさせてタコ殴りとか意外とありか? でも怪魔って中毒になるのか? 毒が効くし、なるのか?
「それなら、貸しましょうか?」
新たな検証内容を思い付く中、瑞騎先輩がクロワッサンを食べ終えて指先をペロ、と舐めながら口を開いた。うーん、動き一つ一つに凄まじい色気。写真集とか出したら超売れそう。てか討魔のキャラは全員美少年美少女ばっかりだからな。下手なアイドルやモデルよりカッコよかったり可愛かったり、綺麗だったりするのがこの世界。うーん、眼福……なんて思えたら良かったな。頭の片隅にいつでもどこでも人類滅亡ルートの時の死に様。
討魔のキービジュアルやシーンイラストなどを担当した神絵師が「滅亡ルートのキャラ全員のイラストは文字通り命削りながらやりました」と言ってたのが納得できるレベルで肖像画。コメント欄には「今日はこれでいいや」とか「美しい……これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう」とか人の心がないコメントがたくさん。推しキャラの心中タペストリーとかいうとんでもないものを売りやがった運営の人の心の無さたるや。
…………まぁ俺も友人達も買ったんですけどね。心中タペストリーと恋人ルートタペストリー、親友ルートシーンタペストリーその他グッズ、結構買い込みました。一番多かったグッズ? まぁ、瑞騎先輩だよね。何を買ったっけ……タペストリーは全部買ったし、ASMRとドラマCDも買った。あとはイラスト集とかか。────なんてことはさておき。
「貸すっていうのは?」
「決闘の場所。もちろん巡君次第だけど、やるんだったら人払いとか色々済ませた場所を貸せるわよ」
瑞騎先輩の家は何か弱ってるって話だったけど、それでも名家でお金持ち。決闘に最適な土地なんかもお持ちになっているのだろう。決闘に最適な土地ってなんだよ。コロッセオか?
「まぁ、考えときます。禍津日様のとこ行ってからですけど」
「そ。……ところで巡君」
「はいさい」
「今度カラオケ行かない?」
「いいっすよ。つか今から行きましょ。朝からやってるんですよ、あのカラオケ屋」
しかも曲がたくさん入ってる。そしてプランが一日カラオケとかあるし、学割も効く。最高過ぎる。
巡はカラオケでいつもアイスクリームシンドロームとか境界線とかカーテンコールとか青のすみかとかを絶対に歌います。歌いやすいからだそうです。うちの姉の趣味です。歌いやすくねぇだろ馬鹿じゃねぇのか姉上。