恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
夏休み前の6月30日に行われたテストを終えて、俺達『茶菓子同好会』は禍津日様がいるであろうダンジョンの入口に立っている。いやはや、ここまで来るのも大変だった……我らが魔法バーサーカー兼お茶の作法指導担当兼素敵なご友人である千茶君に授業のノート取りをお願いしたところまでは良かった。しかし、虎視眈々と決闘の申し込みを狙っている虎成さんから逃げることや、何かよく分からないけど話しかけてきそうなそうでもないような三野先輩とか、神獣クラスではないが守護獣クラスから加護を貰っているクラスメイト達が何しに行くのかとか質問攻めしてきて面倒だった。詳しくは先生にでも聞いてどうぞ。
まぁ、そんなことは置いておいてだ。超高難易度DLCダンジョンとして登場した『
「うーむ、そこにあると認識してみれば分かるが、凄まじい気配よな」
「師匠でもそう感じますか」
「おうよ。こちらが迷宮を認知したことを向こうは気付いておるな。見られておる」
踏み込む前から見られていることに気付く師匠も師匠だと思います。……さて、これから始まる地獄のデスマーチ、その参加者はいつものメンバーである。禍津日様の加護が欲しい俺、分霊でワンチャンある大耀さん、もう弓とか使わなくても雷を放ってくるようになった瑞騎先輩、現時点で使える回復スキルの熟練度がMAX手前に至っているローズ先輩、世界のバグである師匠だ。
ここに来るまでに鍛錬と息抜きは怠っていないので、コンディションは最高と言っても過言ではないだろう。というかそうなるように調整してきた。そうじゃないと万夫不当の英雄達にぶち殺される。死ぬ気で鍛え、死ぬ気で息抜きして、死ぬ気でマラソンしてきた。あとはその成果を発揮するだけだ。何回死ぬことになるかな。
「…………」
「? 大耀さん、どうかした?」
「いや……ちょっと手の震えが」
? ああ、そういえば大耀さんは普通の戦士よりも色々と感知範囲が広くて深いんだっけか。そんな感知範囲で禍津日様のいるダンジョンの中にいるヤベー連中の気配を感じ取っちゃったもんだから震えてるわけだ。よく見たら瑞騎先輩とローズ先輩も若干震えてる。俺と師匠? 師匠はバグだし、俺は予め霊薬がぶ飲みしてるから……震えたとしたら武者震いだから……
「では震えが止まらない大耀さんに震えを止めるいい方法を教えよう」
「霊薬じゃないよね?」
「霊薬初心者にデメリット付きのやつがぶ飲みさせるわけないじゃない」
俺を何だと思ってるんだ。前世は飲食店就職予定の専門学校卒業生、今世は空気読みできるけどしない一般気狂いだぞ。
「笑え」
「え?」
「虚勢を張って、笑え。キレたゲリュオンとクリュサオルを前にしても武器を構えた大耀さんは強い」
いや、本当に。当時霊薬がぶ飲みしてハイになっていたからこそ、あいつらが放つ剥き出しの殺意を跳ね除けることができた俺と違って、大耀さんは霊薬とか何にも使ってない状態で、戦いを邪魔されてブチギレていたゲリュオンとクリュサオルを前にして自分の得物を構えた。あのカルトがいなかったら、ゲリュオンとクリュサオルは喜んで大耀さんにも挑んでいただろうと確信できる。曲がりなりにもあいつらは武神、戦神、騎士神と謳われる存在。己よりも強大な相手を前にしても屈することなく挑もうとする戦士に対して、最大の敬意を示す。その敬意が本気の一撃とかストーカーだからふざけんなよってなるんだが。
「自分は強いと胸を張って笑っとけば大体何とかなる」
「それでもダメなら?」
「そりゃお前、霊薬がぶ飲みよ」
俺がセールスマンスマイルで大量の霊薬を取り出すと、大耀さんだけではなく、瑞騎先輩とローズ先輩も思わずといった感じで噴き出した。
「ははっ……がぶ飲みさせないってさっき言ってたじゃないか」
「それでもダメならって言ったのはそっちやろがい」
「それはそうだけどさ」
「もう、震えてた私達が馬鹿みたいね」
「スイちゃん、この凄まじい気配に震えるのは普通のことなのよ? あたしたち、まだまともなのよ」
そんな言い方無いでしょうがローズ先輩。そんな言い方されたら、俺と師匠は何だって言うんですか! ……師匠はバグだから間違いではないけど。でも俺は気が狂ってるだけでまだダブルピースorダブルサムズアップ疫病ばら撒きパンデミックみたいなことしてないじゃないですか。まだ世界を焼き溶かそうとかしてないじゃないですか。
「でも霊薬飲んでおくのは大事ですよ、実際」
「いきなり真面目な顔しないでくれる? 笑っちゃうから」
「ひっでぇ。真面目な話してるんですけど」
格下が格上に挑むには何をすればいいのか。全部使う。五感も、アイテムも、持ってる武器も防具も、持ちうる全てを以って格上を殺すのだ。倒すではなく、殺すだ。必ずぶっ殺す。サーチアンドデストロイ、見敵必殺である。そのために全てを使うという気概を以って格上に挑む。死が訪れる刹那の一瞬まで勝利を諦めないことこそが刹那無心流。奇計も詭計も切り札も盤面整理も全部やって勝ちを掴むのだ。
「禍津日様の加護を貰えるかどうかとか、そういうのはまず置いておいて、過去の英雄と刃を交えることができるその幸運を喜んでいきましょう」
「呵々ッ! 左様。何、一番槍は巡だ。こやつの戦を見て、奮い立たせるといい。震えは武者震いに変わっておるだろうよ」
「っていう感じなんで。勇気を与えるとかできませんけど、見ててくださいよ。俺の誉れ高い戦」
今日という日のために様々な準備をしてきた。超新星の準備もしてきたし、装備の強化も行った。毒薬、爆弾、携帯罠────大量の小賢しい、それでいて誉れ高い道具の数々を用意した。禍津日様と過去の英雄達に見せてやりますとも……これが今の戦士、その誉れ高い戦であるって。
俺が武器や防具の霊子化を解き、戦闘準備を済ませると、他の三人────師匠は着流しに刀とでかい番傘が戦闘形態だ────も装備を顕現させる。禍津日様の住んでいるダンジョンに飛び込む準備は整ったと言っていいだろう。
「んじゃ────行きますか!」
俺が天照大御神様から渡されたアムリタ結晶を掲げると、空間に歪みが生じて、今まで見えていなかった鳥居と社が姿を現す。その社目指して鳥居をくぐった俺達は────
「……えッ!?」
「ほう」
「これは……!?」
「鳥居と社がない……!? いえ、そもそもここは……」
『禍津日神め……自身の領域だからと言って無法にも程があるぞ』
『まぁ、そういう神ではありますが、線引きはキッチリしてますから……意外にも』
『…………京都、ね。しかも、これは────江戸の末期かしら』
禍津日様が住んでいる『穢呼浄禍の大祭壇』の特徴は怪魔が存在しないということもそうだが、俺達が今、体験しているこの光景も特徴の一つだ。ゲームで例えるなら、ステージ的な感じ。このステージを禍津日様が過去の英雄の記憶から汲み取って一から作っていると聞いて当時はマインクラフターかよって笑った。そして、ステージによってどんな敵が現れるのかが分かる。
「…………初っ端からあんたらが相手なんて、俺は幸運過ぎんだろ」
ゲリュオンとクリュサオルとはまた違った、肌が痛い程にビリビリと伝わってくる闘志と殺意を感じ取り、思わず笑みを浮かべて、気配の方向を見る。
江戸の末期の京都────幕末の時代に活躍した代表的な英雄など、彼らしかいない。年齢や身分による制限はなく、ただ尽忠報国の志がある者であれば誰でも入隊できたとされる、戊辰戦争などの大規模な百鬼夜行が多発したあの時代を戦い抜いた戦士達。
武士の死に装束の色、浅葱の色に染め上げた羽織を着用して、こちらに歩いてくる50人以上の戦士達。一番後ろに見えるのは、赤地に金色の字で『誠』と刻まれた旗。先頭に立っている強面イケメンから柔和そうなイケメンまで、色んなベクトルのイケメン達がいるが、全員が全員、俺達を見て────というか俺を見て、か? とにかく、こちらを見て目を爛々と輝かせながら凄まじい闘気と殺気を放っている。これが、新選組。
「────新選組副長、土方歳三」
俺達と彼らの間の距離が大体7メートル程度の距離まで縮まった頃、新選組の中から一人、強面イケメンの偉丈夫が前に出た。彼はもう刀を抜き放っており────新選組の隊士全員に加護を与えていたという鹿の角が生えている狼の神獣、『真神』が彼の背から現れた。
「討魔学園二年、模歩巡」
たったこれだけの会話。それだけでどういうわけか、今俺を敵として見てくれている鬼の副長と謳われた彼とちょっとだけ心を通わせることができた気がした。ここから先は、力と技で語れと言われた気がする。だから。
「ル゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!」
今持っているブースト系のスキルを全て発動。エンチャントも、自己強化も全部発動させて、文字通り鬼のような闘気を漲らせる土方歳三に鉈を叩き込みにかかる。様子見とかは全く考えない、一撃で仕留めるという意志を込めた攻撃。そんな攻撃を、彼は。
「……重い、いい一撃だ。だが────まだ足りねえッ!!」
両手で構えた刀に見たこともないような、紅蓮の炎を纏わせて受け止めてみせただけではなく、弾いて俺を斬ろうとしてくる。
「舐めんじゃねぇッッ!!」
重厚な鉈と炎刃の鉈に纏わせていた血の刃の形を流血量を増やすことで変え、奇怪な形をした巨大なパリィングダガーのような形状に。土方歳三の刀をひっかけて逸らす。勘で両方の形状を変えて正解だったな……俺の筋力じゃ、この人の一撃を片腕で凌ぐなんて無理だった。両腕を使って、エンチャントと強化スキルと霊薬を全ツッパしてこれかよ……!! ああ────これが新選組副長土方歳三!!
「クヒッ……!!」
「……笑ったな?」
「ハハハッ!! 笑うさ!! 笑いたくなるさ!!」
打ち合いながら────というよりも俺が全身全霊で攻撃しまくることで凌ぐ形だ────スキルを一気に全ツッパしたのと霊薬の効果が相乗効果を引き起こしてハイになり始めている俺は、土方歳三に、彼らの戦法とは違って一人一人で戦ってくれている新選組に向けて叫ぶ。
「俺が憧れた新選組が!! 一瞬気を抜いただけで一息に殺されるくらい強い!! こんな……こんなに嬉しいことがあるかよッ!!」
道具も全部使う。出し惜しみなんてしてられるか。そんなことしたら一番槍を譲ってくれた師匠に殺されるわ。後ろでさっさと戦わせろみたいな感じで鯉口チャキチャキしてる気配がガンガンするわ。
* * *
どれだけ相手が格上だろうが関係ない。
殺す。
てめぇを殺して俺が勝つ。
文句あるかこの野郎。
文句があるなら死ね。
そんな気迫が伝わってくる攻撃の数々。スキルやエンチャント、霊薬などだけではなく、爆弾に火縄銃に仕込み短剣────様々な武器や道具を駆使して殺そうとしてくる少年、模歩巡を相手取る新選組副長、土方歳三は年甲斐もなく────死んでるのだから年甲斐もクソも無いが────心躍らせていた。
真神の力を付与した刀の一撃を振ろうとした瞬間に飛んでくる短剣、石ころ、毒爆弾。それを躱した瞬間展開される煙幕と、その中をワイヤーショットで変則的な動きを見せながら火縄銃で魔法や銃弾を撃ちながら突っ込んでくる。牽制と思いきや狙ってくるのは眼球や喉、踵や股間など、確実に殺すための箇所。そしてそれに気を取られたら放たれる、膝と頭を狙う二振りの鉈による必殺の攻撃。時折飛び出る体術や柔術などの小技搦め手も含め、全力で殺しに来ている巡に、鬼の副長は、後ろに控えている隊士達は心を躍らせていた。
こんな、素晴らしい戦いを見せる少年が、自分達に憧れてくれていたこと。憧れを向けるだけではなく、殺意剥き出しの戦いを、禍津日によって見せられたあの戦い方を自分達相手でもしてくれていること。そして何より────目の前にいる少年や、後ろで少年の戦いを見て心を奮い立たせている老人と少年少女達という未来が今、自分達の前に立っている。
戦士として、新選組として、一人の人間として……彼ら彼女らという未来のために走ったことは、間違いではなかった。
それが彼らにとって何より嬉しかった。何だかんだで死んだ新選組にまだ力を貸している真神もまた、楽しそうに唸り声を上げる。だからこそ。
「全力で、お前を斬るぞ。模歩巡ッッ!!」
「斬ってみろよ、新選組ィッッ!!」
刀と二振りの鉈がぶつかり合う。もはや小細工など不要と言わんばかりの、お互い防御を捨てたと言わんばかりの攻撃。
先程まで聞こえていた音が変わったことに気付いたのは、誰が最初だっただろうか。
刀と鉈がぶつかり、火花を散らす。互いの得物がぶつかり合う度に、戦いを見る者達の戦意や闘志が高まっていく。打ち合いを続ける二人の雄もまた、昂ぶりを隠すことなく、悪鬼羅刹のような笑みを浮かべて切り結ぶ。この戦いを迷宮の奥で見守っている禍津日や、新選組に最初の枠を奪われて不貞腐れていた東国無双の侍や越後の軍神、甲斐の虎や天下の飛将軍、源氏と平家、抜山蓋世の剛将、不死の兵隊の王など────古今東西の英雄達が酒を片手に戦いを観戦していた。
「あーあ、土方さんってばあんなにはしゃいじゃって……」
「そういう斎藤さんだって刀に手が伸びてるじゃないですか」
「それ、沖田隊長が言うことですか?」
そしてそれは今対峙している新選組も例に漏れない。酒があればこの戦いを肴に飲んでいる可能性があった。死んでも様々な英雄や穢れを纏った怪魔と戦ったりしてはいるが、現代の食事や酒とかにも興味を示して楽しんでいる節があるエンジョイ勢しかこの『穢呼浄禍の大祭壇』にはいない。
さて、そんな楽しい宴の第一幕がそろそろ幕引きとなるお時間がやってきた。打ち合いを制した土方歳三が真神の力を宿した刀で巡の体を下から一気に切り裂いたのだ。土方歳三は、この一撃で終わりだと思わない。思えない。この男が、例の自爆技を使ってこないわけがない。だって、致命傷を通り越して死体確定のはずなのに、その目が全く死んでいないのだ。
────ゆえに、返す刀で首を刎ねる。自爆のための起爆装置を起動する前に、綺麗に首の皮一枚繋がった状態で巡の首が刎ねられたことで、巡の死に戻りが始まる。体が灰のように朽ちていき、巡の体が頭からどんどん消えていく。体が朽ち果て、溜め込んでいたアムリタをその場に残して消えた巡を見送り、一言。
「死に戻るまで立って鉈を振り上げたままとはな。刹那の一瞬まで勝ちを諦めず、逃げ傷なしか────見事なもんだ、模歩巡」
禍津日神住まう神域迷宮『穢呼浄禍の大祭壇』、第一戦、新選組副長土方歳三VS我らが気狂い模歩巡、勝者土方歳三、決まり手『返し一刀による斬首』。
この後師匠含めて『茶菓子同好会』全員殺された。
なお土方歳三倒しても次は近藤さんとかが待ってるバグ。何なんだあの隊。