恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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まぁ、禍津日様のダンジョンはどっちかって言うと奈落獄なんですけどね。


呪われた気狂い血晶

「だぁっはっ!? がー……負けたかあ……!」

 

 穢呼浄禍の大祭壇、初日の死に戻りがこれで記念すべき30回目に突入した。いやぁ、勝てねぇ勝てねぇ。土方歳三、斎藤一、近藤勇、沖田総司、山南敬助、永倉新八、芹沢鴨、伊東甲子太郎、服部武雄────こうして名前を挙げてみるととんでもないやつらしかいねぇな新選組。

 

 こっちの歴史だと、裏切りや内輪揉めでメンバーは死んでおらず、大体が百鬼夜行による度重なる死に戻りによっての落命や、隊士を一人でも多く生き残らせるために殿を務めての落命、病気による落命ばかりだ。百鬼夜行の死に戻りは回数制。しかも百鬼夜行中の死に戻りを行う度にステータスにデバフがかかっていき、ある一定回数まで死に戻りをすると少しずつ何かが抜け落ちていく。

 

 何か、というのは俺もゲームで設定資料として登場した程度なのでよく知らないが、王道なのは記憶だろうなと当たりを付けている。いやはや恐ろしいことだ。今のところ、俺はそれくらいの死に戻りを経験していないが、大規模な百鬼夜行ではそうなる覚悟をしておかないといけないだろう。

 

 記憶が抜け落ちるというのは、どんな気分なのだろうか。漠然と凄く恐ろしいことだと思う。俺が前世のことを忘れてしまうかもしれない。それはきっと恐ろしいことだ。前世の友人達のことを忘れて、この世界で生きていくことになるかもしれない。……そう考えると恐ろしいことだが、それよりも大耀さんやローズ先輩や瑞騎先輩が俺のことを忘れてしまうかもしれない方が怖い。ゲームで推してたということもあるが、やっぱり長い付き合いだからこそだ。大耀さんはまだ二ヵ月ちょっとだけど。……二ヵ月ちょっとなのに濃すぎないか大耀さんの歩み。信じられるか? 討魔第一作品のストーリーって一年間の話なんだぜ……一年間で世界が滅ぶ可能性があるとかやっぱり世界がおかしいのではなかろうか。

 

「膝治療は通用しないと見ていいな、これ……師匠も40人くらいの数の暴力で斬られてるし」

 

 今のところ、ローテーションで相手が変わっている。二度目の挑戦では沖田総司が俺の相手で、もう瞬く間に斬られた。というか俺の技使ってたよな沖田総司。やはり天才か。んで三度目は一般隊士30人。3人ほど切り捨てたところで数の暴力によって殺された。どうなってんだあの人達。しかも死に戻りが向こうにも実装されているのか、俺が戻ってきた頃には数が元に戻っていたし。マジで強いわあの集団。流石は壬生狼。ここを突破したら次は誰が来るのか怖すぎて笑えてくる。誰が来てもおかしくないのがこのダンジョン。超高難易度DLCと謳われただけあって超高難易度。ちゃんと状態異常は全員効くので状態異常系が一人いると滅茶苦茶安定するが、いなくても頑張ればソロクリア可能な塩梅なんて美しいの。

 

「てかお供えっていつやればいいんだ」

 

「今やりゃあいいじゃねぇか」

 

「なるほど。ではこちら、葛粉アイスです」

 

「お、いいねぇ。暑い日にゃこういう冷たいやつがいいってもんだ。葛粉ってこたぁ、溶けないアイスってやつだな?」

 

「まだまだジメジメしてますしねぇ。さっぱり系が欲しくなるってものです」

 

「梅雨明け宣言もされてねぇ。熱中症に注意ってやつだわな。ほれ、お前も食え」

 

 おお、さすがゲームでも気さくな神様だった禍津日様だ。まさかお供え物を分け合うことになるとは思わなかったが────おん? 

 

「…………禍津日神様?」

 

「おう。初めましてだな、模歩巡。(あゆむ)の子孫、歓迎するぜ」

 

 ニィ、と笑みを浮かべるのは落ち武者にも見える鎧を着た神様。黒と白の髪を靡かせ、紫と黄金の瞳を持つ神様であり、加護を貰えたらいいなぁと思っている神様が、死に戻りのリスポーン地点になっている社の屋根に座っていた。…………あれ? 禍津日様って確か、女主人公だと男の姿で、男主人公だと女の姿だったような気がするんだけど……大耀さんは女の子だよな? てことは禍津日様は男のはず……なんだが、鎧を着ていない上半身、着物の隙間から見えるのは、サラシが緩く巻かれた控えめだが確かにある胸。……なぜ女性??? いや、神様に理屈を求めてはいけない。そしてこの世界にも理屈を求めてはならない。そういうものだと納得しておけ。

 

「天照のやつから話は聞いてるが、お前、あれなんだって? 俺の加護欲しいんだって?」

 

 天照大御神様は禍津日様のいる場所にも簡単に行き来することができるようだ。実際、あんな何考えているか分からない少女みたいな姿をしているが、滅茶苦茶強いのだ。指パッチン一つで土地一つを焦土に変えることができるくらいには。なお制約が色々あってそういうことができないらしい。制約ってのも何なのか俺は知らんのよな。

 

「あー……まぁ、貰えたらいいなってくらいですけどね」

 

「俺としては全然いいんだがな。お前みたいなやつの戦いを間近で見れる機会なんざ中々無いからよ」

 

「そんなあっさりと」

 

「神は気まぐれなもんでね。俺含めて日ノ本の神は仕事はするがそれ以外は結構適当だったり自由だ」

 

 バシバシと俺の背中を叩きながら笑う禍津日様は、お供えしたアイスが気に入ったようで一息に食べきり────頭がキーンと痛む現象に「っかぁ~これこれ!」と楽しそうにしていらっしゃる。DLCを入れた状態でゲームを始めると、街の紹介ムービーの中にごく稀にそれらしき影が映っていたことから、神気を抑えて人間社会へ定期的に遊びに出ているのではと考察勢から言われていた神様だ、面構えが違う。

 

「まぁ、天照から聞いてると思うが、お前の器は大きさも形も曖昧だ。自覚はあるか?」

 

「全く」

 

「そか。まぁ、そういうのが分かる奴の方が少ねぇしな。俺達レベルにならねぇと普通は分からん」

 

 でもたまにそういうのも分かる人間が現れる時があるから面白い。そう言って笑う禍津日様の手には二本目の葛粉アイスが。

 

「原因は────まぁ、てめぇを雁字搦めにしてやがる呪いのせいだろうな」

 

 呪い。呪いと言ったか、この神様。

 

「俺、呪われた記憶ないんですけど」

 

「呪いなんてそんなもんだ。かけられた側は気付かずに蝕まれる。神の中にはそういうプロもいるくらいだしな」

 

 呪いのプロ……ああ……うん、日本三大怨霊の皆様とかね。疱瘡神とかも呪い系のプロな神様に組み込んでいいのだろうか? 状態異常系を呪いと解釈するなら、あの神もまた呪いのプロと言っても過言ではないだろう。

 

「人間誰しも器ってのがあるんだが……その器が無くなると、普通は生きた屍になるんだ」

 

「へぇ。ということは、俺は今生きた屍ってことで?」

 

「いんや、生きた屍ってのは植物人間みたいなもんさ。てめぇを呪ってるやつが、どういうわけか呪いで器もどきを形成してやがる。だからお前はこうして動けるし喋ってる」

 

「ハァ?」

 

 呪ってるのは、俺を殺したいからじゃないのかよ普通。というか俺、呪われてるなんて気付かずに今まで生きてきたぞ? 苦しんだ記憶もなければ、日常生活で不幸なことが起きたこともない。むしろラッキーなことが起きたりしてたくらいだ。瑞騎先輩とかローズ先輩に会えたことも、師匠に会えたことも間違いなく幸運だ。

 

「器を抜き取り、それを体や魂が知覚する前に呪いで器もどきを形成。大した腕前だが、やったのは人間じゃねぇな」

 

「人外の知り合いなんてゲリュオンとクリュサオルしかいないんですけど。あいつら呪い使わないし」

 

 あの暗殺剣とやらがその類の可能性はあるが。

 

「お前、呼ばれてんだよ」

 

「誰に」

 

「この呪いをかけたやつに」

 

「何故」

 

「本人────いや、本神に聞けよ」

 

「神ィ!?」

 

 生まれてこの方神様に呪われるようなことした記憶ないんですけど? 神様……呼ばれてる……呪い……呼ぶ、どうやって呼んでいるのか……………………あ、まさか。

 

「山か?」

 

「ここまでヒントを出せば分かるか」

 

「山の中に神様がいて、俺を呼んでたってことでよろしいんですかね?」

 

 なぜ俺を呼んでいて、俺の器を呪いで模して────曖昧な時点で模せてはいないが────俺をこうして生かしているのかは分からないが、山の中にいらっしゃるらしい神は俺をご所望らしい。何で? どうして俺をご所望なの? まさかとは思うが、うちの家系、全員知らないだけで神様に何かやらかしたことある? とりあえず神殺し行っとく? 死にゲーにおいて、神を殺すのは様式美みたいなところあるからね。討魔でも神様殺せるし。……まぁ、そいつ、再生能力がえげつないのと耐性が無駄に高いだけの自称神ってだけでただのクソ雑魚なんだが。

 

 運営とプレイヤーの楽しい玩具その2である。定期的にイベントクエストとして強化個体が出てくるくらいには玩具。運営からは「強化された彼に、強くなった自分を見せつけてやりましょう!」という旨でお出しされていた。

 

「再生するならそれ以上のDPSで叩き潰せばいいじゃない」

「まずはお前のその耐性をぶち殺す!」

「君が死ぬまで殴るのを止めない」

「とりまスキル検証」

「新しいビルド組んだんだよねぇ。付き合ってよ」

 

 ……とまぁ、プレイヤーからも愛されたクソ雑魚である。しかも報酬が素材各種の他に某地底人大興奮のアイテムドロップ、攻略対象キャラに渡すと好感度が上昇しやすくするアイテムなど────中々周回していても手に入らないアイテムがドロップするという、まぁまぁ美味しいクエストでもあって。

 

「殺したかっただけで死んでほしくはなかった」

「断末魔が長い」

「早く死ね、もっと長生きして♡」

「大義(実際そう)のための犠牲となれ」

「出るのが悪い! 出るのが悪い!」

「(イベント終わるの)イヤッ! イヤッ!」

「簡単ッッッ!! 簡単ッッ!!!」

「(断末魔なんて長いやつ)言わないでしょそんな事ッ!」

「在庫追加急いで」

 

 などなどコメントが寄せられた。しかも体力をちょっと減らしただけでも報酬が貰えるのでプレイヤー達からの寵愛を一身に受けた敵キャラでもあるかもしれない。クソ雑魚だけど。なお俺もその周回に参加していた側の人間である。どれだけそいつを殺したかを運営がイベント後にライブ配信していたのだが、運営が「いやぁ愛されてますねぇ。それはそれとして、瑞騎翡翠のASMR発売決定です。昇天、ご期待ください」と笑って爆弾を落としていたのを覚えている。信じられるか? この世界を支配しようとしてたやつなんだぜ……なお人類滅亡ルートでも普通に主人公に抹殺されている模様。

 

 まぁ、そんな愛すべき周回対象はさておき。山の中かぁ……ひいひいひい爺ちゃんの仕事場だったところで聞えたから、そっち方面か……禍津日様のダンジョン攻略で過去の英雄と戦いたいし、呪いも解除したい……どうするべきか…………そう考えた瞬間、もう俺の答えは決まっているのだ。

 

「今から山に行って呪いやがったやつをぶっ殺して、ダンジョン攻略に戻る。……完璧なプランだな!」

 

「ハハハッ! マジで言ってやがるよこいつ! やっぱりいいなぁ、お前!」

 

「というわけで禍津日様、皆に伝言オナシャス」

 

「神様を伝書鳩扱いかよ。不敬って言われてもおかしくねぇぞ? まぁ、やるけどよ」

 

 やってくれる辺り、やはり禍津日様はノリがいい神様だ。

 

「しかし……そうだなぁ……うん。よし、これでも持ってけ!」

 

「へ? あっづ!?」

 

 右目が焼けたかと錯覚するほどの痛みが突然やってきた。いきなり何しやがるこの神。ノリがいい神様ではあるが、荒神様であることには変わらねぇわこの神。少しずつ痛みが引いてきた頃、唐突に何かをしてニヤニヤ笑っている禍津日様を睨む。

 

「何するんですか、禍津日様」

 

「ヒヒッ、悪ぃ悪ぃ。でも、悪くないもんだぜ? ほれ、鏡」

 

「鏡って……俺の顔に何、が……」

 

 禍津日様が見せてきた手鏡に顔を近付けると、俺の顔が写る。いつもと変わらない顔ではあるが、右目や右目から首にかけて────いや、右腕に至るまでに不気味な、それでいてどこか神秘的なものを感じる刺青のようなものが刻まれていた。

 

「ま、呪いが解けるまでの期間限定ではあるがな。お試しで使ってみろよ」

 

「使って、って……まさかこれ!」

 

「加護じゃねぇぞ。呪いだ。お前を雁字搦めにしてる呪いにちょいと相乗りさせた呪い。まぁ、俺の加護自体呪いみてえなもんではあるんだがな?」

 

 加護ではないが期間限定で人魔一戴解放!? お試しクエストってこと!? そんなの討魔にはなかったけどそれはそれで興奮を隠せない。まさか加護を貰っていないのに使えるとは思わないじゃないか。

 

「使い方は……ま、その刻印が勝手に教えてくれんだろうさ。てなわけで、励めよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「呪われたってのにお礼って、やっぱ面白ぇなぁお前」

 

 待ってろ山の中にいる神様! 今からてめぇの素材を奪いに行くからな!! 

 

 




禍津日様
「こいつ面白ぇ~。渉の子孫なだけあるわぁ」

山の神
「おいでおいで。こっちにおいで」
「来てくれた来てくれた。あの子がやっと来てくれた」
「約束守ってくれた」
「やっとあえるやっとあえる」
「はやくおいで。はやくおいで」

気狂い
「素材寄こせ」

気狂いのご先祖
「神ィ?とりあえずお供えしとこ。……アイスキャンディーしかねぇ!!」
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